ことばと学びと学校図書館etc.をめぐる足立正治の気まぐれなブログ

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21世紀の学びの基準

2007年11月07日 | 学校図書館見聞録:アメリカ・カナダ編

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 アメリカの新しい学校図書館基準21世紀の学びの基準」が1025日に開かれたアメリカ学校図書館員協会(AASL)の全国大会で発表された。1998年の「児童生徒の学びのための情報リテラシー基準」からほぼ10年を経て新しく改訂された新しい規準を一読した限りでは、これまでの基準と比べてそれほど目新しいものではなく、インパクトも感じられない。とはいえ、21世紀の学校図書館のあり方を方向付けるものとして提示された今回の基準は、よりいっそう探究的な学びに照準を合わせて、そのために必要な活動が細部にわたって体系的に整理されていて一覧しやすく、学校図書館の仕事を示すツールとして利用しやすくなったといえる。これまでの基準は、児童生徒が自ら学ぶために身につけるべきリテラシーを「情報リテラシー」「自立的な学び」「社会的責任」の3つの項目にまとめて、9つの基準とそれを達成するために必要とされる技能や態度など29の指標を列挙するものであった。新しい基準では、9項目の共通認識を確認したうえで学び手がめざすべき4つの目的を具体的に示し、それぞれの目的を実現するために身につけるべき「技能」「資質」「責任」「自己評価の方法」を合わせて83項目挙げている。4つの目的とは次の通りである。

1.疑問を持って調べ、批判的に考えて、知識を獲得する。

2.結論を導き出し、情報に基づいて意思決定を行ない、知識を新しい場面に適用して、新しい知識を生み出す。

3.知識を分かち合い、倫理的かつ生産的に民主主義社会に参加する。

4.一人の人間として魅力的に成長する。(すなわち、豊かな人間性を育む。)

 このうち最初の3つについては、これまでの基準における「情報リテラシー」「自立的な学び」「社会的責任」にほぼ対応すると考えていいだろう。しかし今回は4つ目に「豊かな人間性を育む」という目的を掲げて、それを実現するために必要な技能や態度などを具体的な行動として表すことを求めている点が注目される。そのほか新しい基準全般を通して特徴的なのは、疑問を持って調べる姿勢、学び合い、情報や自らの思考を批判的に吟味して思考を進めていくクリティカル・シンキングの技能、社会文化的文脈にたいする認識が重視されていることである。このことは資料・情報の提供や情報リテラシーの育成を授業改善や教育理念の実現と結びつける活動を学校図書館専門職にたいして求めているといえる。とりわけ自分の学びや思考のプロセスを社会文化的文脈に照らして振り返り、修正・コントロールしていくメタ認知能力を育成しようとする姿勢が貫かれていることは、民主主義社会で自立的に生きていくだけでなく、社会の活動に積極的に参加しながら新たな知を生み出すことをもって社会を変えていく、いわば社会変化の担い手を育てるという理念の表れと考えていいのではないだろうか。

 翻って私たちは、わが国の学校図書館は教育の理念をどのような形で示しうるのだろうか。その合意は、どのような方向性をもって、どのような方法で可能になるのだろうか。

 「21世紀の学びの基準」(AASL Standards for the 21st-Century Learner)アメリカ学校図書館員協会のホームページからPDF形式でダウンロードできる。今週末にも本文の試訳を供したいと考えているので、皆さんのご意見をいただければ幸いである。

http://www.ala.org/ala/aasl/aaslproftools/learningstandards/standards.cfm

http://www.ala.org/ala/aasl/aaslproftools/learningstandards/AASL_Learning_Standards_2007.pdf

 ちなみに新しい基準の前提として確認されている9項目の共通認識とは次のようなものである。

・読むことは世界に開かれた窓である。

・探究活動が学びの骨格である。

・情報の利用にあたって倫理的に行動することを教わらなければならない。

・テクノロジーを使いこなす技能は将来、職に就くためのかぎとなる。

・公平なアクセスは教育にとって重要な部分である。

・情報源やテクノロジーが変化したので、情報リテラシーの定義はいっそう複雑になっている。

・情報が拡大しつづけているので、すべての人が自分の力で学べるようになる思考の技能を身につけることが必要である。

・学びは社会的文脈の中で行なわれる。

・学ぶ技能を伸ばすために学校図書館は不可欠である。

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