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オバマ政権の教育改革とアメリカの学校図書館(教育長官とスクールライブラリアンの対話集会をめぐって)

2010年07月03日 | 学校図書館見聞録:アメリカ・カナダ編

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 64日の記事で紹介したように、アメリカ教育省は313日、初等中等教育の改革のための青写真(A Blueprint for Reform: The Reauthorization of ESEA)を発表し、それを実行するために2011年度の教育予算を抜本的に組み替えて43億ドルを捻出した。その一方で、2001年から続いてきた学校図書館によってリテラシーの向上を図る補助金(the Improving Literacy through School Library grant program) 1900万ドルを削減し、他の5つのリテラシープログラム(Striving Readers, Even Start, the National Writing Project, Reading Is Fundamental, Ready-to-Learn Television)と統合して、リテラシー育成のための基金として新たに45000万ドルを充てることにした。使途を学校図書館に特定した補助金がなくなり、リテラシー教育の予算枠を他の5つのプログラムと競い合うことになることにたいして、学校図書館関係者からは、懸念と反対の声が高まっているこの補助金は、主として貧困率の高い学校の図書館の充実に使われており、教育省の調査でも、この基金を受けたプログラムによって読解力などのテストの成績が向上していることが報告されているからだ(1)
 このような状況の下、628日、約2万人の参加者を集めてワシントンDCで開催されていたALAの年次総会において、教育長官アーン・ダンカン(Arne Duncan)とアメリカ・スクールライブラリアン協会(AASL)の新旧役員約75名による非公式な対話集会が約30分間にわたって行われた。米国教育AASL(アメリカスクールライブラリアン協会)のブログなどで見るかぎり(2)、対話は終始和やかな雰囲気で行われた様子がうかがえる。その席でダンカンは、冗談交じりに毎日学校図書館から蛇の本を借りて帰る自分の息子の例を引いて、子どもの情熱を掻き立てるスクールライブラリアンの仕事を評価したり、「健全かつ強力で活気のある図書館にライブラリアンがいることで、児童生徒は、よく学び、よく読み、テストの点も上がる」などと学校図書館プログラムにたいする肯定的な認識を示したうえで、オバマ政権が進める教育政策への理解と協力を求めた。リテラシー教育のための基金に関しては、州と学校区は、児童生徒のリテラシーを向上させるライブラリーサービスのためにこの基金に応募できるとした。これに対して、AASLの新しい会長ナンシー・エバーハート(Nancy Everhart)は、バスケットボールの選手だったダンカンに対してスポーツの例を引きながら「登録選手名簿に載っていなければ、試合にも出られないでしょう」と、改革の青写真や各種の補助金プログラムに学校図書館が明記されていないことへの懸念を表明したという。
 また、旧会長のカサンドラ・バーネット(Cassandra Barnett)は、学校図書館とスクールライブラリアンは、初等中等教育の改革のための青写真で明らかにされた5つの優先事項(3)の履行の先頭に立っていることを具体的に述べて、「スクールライブラリアンは、教師として、さまざまなリテラシー(multiple literacies)やテクノロジーのツール、倫理と責任をともなう情報の利用、自己評価の方略(4)などの指導を行う」ことによって、初等中等教育の改革に貢献できるとした。これに対してダンカンは、「皆さんの成功を後押したいが、ただ良さそうだというだけで資金を出すわけにはいかない」ので、州や学校区で予算配分のテーブルにつけるように、今後、教育省やALAと連絡を取りながら、模範的な図書館プログラムを具体的に示し、どこがうまくいって、子どもたちの生き方はどのように変わったか、総合的な教育をどのように行っているかを伝えていくように激励した。そして、財政難のおりから少ない財源で多くのことを行うために、まず教職員の雇用や給与の在り方を見直す教育関係雇用法案(education jobs bill)を議会通過させることへの協力を要請した。
 対話集会を終えてAASL関係者の論調は、ダンカンからスクールライブラリアンと学校図書館プログラムをサポートする発言を引き出せたことに満足しているようだ。だが、リテラシー教育の予算が、学校図書館に特定せず、他のリテラシー関連のプラグラムと統合されたことで、スクールライブラリアンは、自らの専門性を見直し、新しい時代に対応する教育実践を創出し、それを実証的に伝えてゆくという活動をますます活発に行わなくてはならないだろう。
 時代や社会情勢が求めるリテラシー教育のための学校図書館プログラムや専門職の在り方、財政危機下における教職員の雇用といった問題は、わが国でも、早急に対応策を検討しておくべきだろう。アメリカのような、実証的研究をベースに学校図書館担当職員の専門性の見直しと活動の指針あるいはスタンダードの策定は可能なのだろうか。わが国独自の取り組みは、どうあるべきなのだろうか。

注:
(1)
IMPROVING LITERACY THROUGH SCHOOL LIBRARIES (LSL) Abstracts – 2009 Funded Grant Applications by State
Second Evaluation of the Improving Literacy Through School Libraries Program

 (2) 参照したブログなど
US Department of Education Blog
AASL Blog

American Libraries Magazine

 (3) 青写真で設定された5つの優先事項(この5項目に関する優れたプログラムに対して補助金を交付する)
 1.大学教育と職業にたいする備えのできた生徒を育てる。2.すべての学校に優れた教師と指導者を配置する。3.すべての生徒に公平性と機会を与える。4.教育の水準を高め、優秀さに報いる。5.革新と継続的な改善を推進する。

(4)  ここに挙げられている4つの項目は、2007年に策定された新しい学校図書館基準21世紀の学習者の基準」の要となる部分である。

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