ことばと学びと学校図書館etc.をめぐる足立正治の気まぐれなブログ

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もっと、心の壁を超える直接的な対話の場を!

2010年01月12日 | 知のアフォーダンス

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 1月11日付朝日新聞(関西版)の「日本 前へ(9)」は、「哲学カフェ」など、異質な他者との議論や対話を通して心の壁を越えようとする試みが各地で展開されていることを紹介している。「人の意見を聞きながら自分の考えが明確になる」「意見は最初からあるわけではない。議論をしながらつくるもの」という。その点に着目して、大阪大学臨床哲学研究室の先生や院生が進めている哲学カフェ高校での哲学の授業に注目してきた。甲府のイタリアレストラン「ラ・ベッラ・ルーナ」の絵本サロン「おいしい月(左のブックマークを参照)で行われている、一冊の絵本をめぐって多様な参加者が語り合う「読書へのアニマシオン」も、そのような試みの一つといってよいだろう。

 市場原理主義とグローバル化が進むなか、さまざまな局面で格差が広がり、人々はますます分断されていくようだ。国家、民族、企業や職場、学校、専門職団体から趣味のグループにいたるまで、利害関係や価値観を共有できるグループ内では内向きのコミュニケーションやコミュニティ形成が進む一方で、価値観の異なる他者とは一線を画し、競争・敵対の相手とみて勝利や吸収統合をめざすか、「多様性」を認めるとして干渉や深い関わりを避けようとする。そんな社会だからこそ、共通の課題をめぐって異質な他者と議論し、つながりと協働を生み出す場が求められる。メディア環境の面からみても、電子的なコミュニケーション網が張り巡らされ、仮想の空間が拡大しつつある社会にあって、身体感覚をともなって直接的に触れ合い、アタマとカラダを使うトータルなコミュニケーションの場を確保しておくことが必要である。

 学校教育においても、学校図書館を、そういった「議論」「対話」「協働」の拠点として生かすことができるのではないか、そうしたい、と考えてきた。子どもたちが独りで読書をし、課題に取り組んでいても、書籍や資料を通して多様な人々との対話が行われている。だが、もっと直接的なコミュニケーションを通して、お互いの経験を分かち合い、その時、その場の生の考えや感情を交換し、自分の考えを練ることができる場であってもよいのではないか。ジョン・デューイが考えた学校の図書室の役割は、まさにそのようなものであった。(ジョン・デューイ著、市村尚久訳『学校と社会・子どものカリキュラム』講談社学術文庫、1998, p.146)

 学校図書館は、学年や教科を横断して生徒や教師が常に行き交うだけでなく、さまざまなイベントを企画し、地域の人たちや専門家などをゲストとして招くこともできる。そんな知のプラットホームとしての学校図書館(メディア・センター)を拠点として、地域社会とつながり、新たな出会いを通して心の壁を超えていくメディアの授業を行っている高校がある。先日、神奈川県立相武台高等学校が、女子美術大とのコラボレーションによる授業をまとめた冊子「人生模様」を送ってもらった。高校生が地域の人たちに「あなたの思い出の模様は何ですか?」という質問から始まるインタビューを行った記録と思い出の模様をまとめたものだが、生徒も地域の人たちも生き生きしていて、その出合いがいかに新鮮だったかがうかがわれる。調べ学習の評価をするなら、さしずめインタビューの手法やまとめ方とか、記述の正確さなどを指摘すべきところだろうが、そんなことはいったん棚上げにして、この作品が、とかく「元気がない」「消極的だ」といわれる若者ばかりでなくインタビューを受けた地域の人たちや読者にも活気を生み出している点を高く評価したい。さらに、この授業がインタビューの当事者と指導教師だけでなく、メディアセンターの司書も含めて、じつに多くの身近な個人や組織・団体が関わって行われていることにも注目したい。生徒は「わけもわからず無茶なことをやらされた」といい、先生は「すべて用意周到に段階を踏んで授業を行ったとしたら、私の意図する学びに結びつかない」「可愛い子には旅(=無茶)をさせなければならない」(p.110)という。教師と生徒の絶妙な関係がそこにある。こうして、生徒はかつて経験したことのない達成感と高揚感を味わったにちがいない。教師は、直接的には教えることのできない動機、やる気、活力、生きる力といったものを誘発するような場の提供や接し方を追求していくことが大切だろう。

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1 コメント

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ウエン王子ととら (佐藤 美智代)
2010-02-02 22:01:14
足立さんから、絵本サロンについて言及がありました。2月28日の絵本サロンは 中国の作家の絵本を扱います。

アニマシオンという言葉は使われるが、読後も
読む前となんらかわらない。それでは 活性化されてない。そんな批判に負けてない、参加するだけでも世界観が広がるサロンが ここずっと続いています。「多くの人種、考え方」を持つ人たちが日本語で読んで、母国語で意見を言うからでしょう。一冊の絵本を読んで 日本人は日本語で、外国人には通訳がつきます。
先月は、ネパールの研究生、韓国の留学生も堂々と「結婚」について意見を述べました。
今月は、「ウエン王子ととら」です。
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