数学教師の書斎

自分が一番落ち着く時間、それは書斎の椅子に座って、机に向かう一時です。

数学は科学の女王・・・

2024-06-18 16:37:25 | 数学 教育

「数学は科学の女王であり、整数論は数学の女王である。女王はしばしばヘリ下って、天文学や他の自然科学に奉仕するが、最上席は常にこの女王のものである。」という、ガウスの言葉の引用から始まるこの本は、世界的に有名な数学史の著者で数学者でもあるE.T.BELLが1950年に書いた本です。数学史といってもいろいろな書き方がありますが、大きくは、数学者についての時系列な記述のものと、数学的な内容に関しての時系列な内容に、大きく2分されますが、この本はどちらかというと、後者になります。

 実は、同じ著者による、大戦前に書かれた
は、前者に分類されます。世界中で読まれているこの数学史の2冊は数学に携わる者としては、一度は目にした本であると思います。ここでは、主に前者について。
 まず読み始めて、思うことは日本語訳の滑らかさというか、その素晴らしさによって、だれにも読みやすく身近に感じられると思います。

 そして、まず読んでいただきたいのが、巻末の「解説」です。これを読んでから本文を読み始めるのも一つの方法かと感じます。Ⅰに関しては、東海大学教育開発研究所の中村儀作氏の解説です。氏は私より先輩の世代で、数学啓蒙に尽力され、数学教育に携わってきた私も、何度か目にした名前で、数学パズル等に関してなど、著書もたくさんある方です。一方、Ⅱの方の解説は、大東文化大の吉永良正氏で、京大の私の先輩にあたる方で、私世代の方です。特に、初めて吉永氏の著書を読んだ時の感動は今も思い出されます。その本が、
特に左の方は、1990年に書かれて、ちょうどその年に日本で3番目にフィールズ賞を京大の森重文教授が受賞されて、その感動の気持ちを込めて、数学のすばらしさをその熱意と数学への憧憬を込めて生き生きと描かれていて、読者も同じ感動を覚えるほどでした。そしてそんな思いを高校生にも伝えていきたいと再確認した本でもありました。このような本はその後はなかなかお目に書かれなくて、今でも高校生に薦めたい本です。
 さて、吉永氏の解説の中で、「亜流ではなく大家を学べ」というアーベルの教訓は、数学の専門研究だけでなく、啓蒙書や読書一般にも通じる心理と思うという言説はまさしく真であると思います。以下、その解説からの抜粋を記したい。
 数学は普遍的真理を探究するが、その探求は人間的営為であり、歴史性を持つ。つまりは、数学も時代の子である。その意味で本書は1930年代から冷戦時代にかけての、ひとことで言えば、「戦争の時代」の数学感や数学と社会との関わりが問わず語りのうちに語られており、深読みするなら生々しい現代史の証言として読むことは可能である。すなわち、冷戦時代に、数学と応用数学の在り方に直面して、本書はタイトル(数学は科学の女王にして奴隷・・・)からしてもこの問題に正面から向き合っている。それが時代の要請だったかもしれない。この点は数学をある程度学んだ人にしか実感できないかもしれませんが、そういう時代感覚が私自身の大学時代にも残っていて、吉永氏の解説には、私も同時代を生きた一人の数学徒としての同じ感覚がある。(続く)