数学教師の書斎

自分が一番落ち着く時間、それは書斎の椅子に座って、机に向かう一時です。

私の履歴書

2022-06-30 09:47:16 | 読書
 朝刊の日経新聞の「私の履歴書」はいつも目を通すコーナーですが、執筆者は以前は私の父親と同じくらいの年代の人が多かったのですが、最近はどうも自分の年代に近い人の記事が多くなってきたように感じて、自らの歳を考えることになります。

 思い出すと、友人が私のために、昭和30年代?の数学者「岡潔」のものを図書館で調べて、コピーを送ってきてくれたこともあります。また、今まで読んで記憶に残っている印象的な人では、物理学者の米沢富美子さんや佐藤文隆さん、益川利英さんがあります。

 それまで知らなかった人で、このコーナーを読むことで、その著作を読むことになり親しみを覚える人も少なくありません。岡潔は高校時代に「春宵十話」などで知っていましたが、佐藤文隆さんは同じく高校時代に講談社のブルーバックスで読んで知っていた。米沢富美子さんは女性の物理学者として、その名を聞いていましたが、佐藤さんと同じく、湯川秀樹に憧れて京大を目指し、物理を専攻したそんな心意気に感動を覚えたものでした。偉大な科学者の生い立ちや学びの履歴を読むにつけて、勇気をもらえるのが好きです。益川さんにも同じような気持ちを抱いていました。今の受験生と違って、普通の公立中学、公立高校から大学受験をしていることなど、自分とも重なる中学高校時代にも共感を覚えるのでした。その意味では今の受験生は東大京大など私学の中高一貫校出身者が多く占める状況からは違和感があります。
 
 そんな日経の「私の履歴書」の中で、美術史研究家の「辻 惟雄」を初めて知りましたが、その書かれていく文章が素朴で読みやすく、気がつけば毎朝楽しみにしている自分がありました。その内容に関しては、実は
の本に書かれているのですが、その時は知らずに後で、この本も読むことになりました。「辻 惟雄」は若い時に書かれた
が有名で、この本で伊藤若冲が今のような人気が出たとも言われる本ですが。この本は私の高校時代に出版された本ですが、装丁も素晴らしく、装丁だけでも価値があると思われるほどですが、当時の値段は1000円です。この本を読み始めたのですが、この本の文庫版があり、それが
ですが、この文庫版では写真もカラーがあり、若干写真も多いので、こちらを読むことにしました。この本で紹介されている「曾我蕭白」が実は私の住んでいる三重の松阪と縁があり、市内の朝田町(あさだちょう)の朝田寺(ちょうでんじ)に収めれれている唐獅子図壁貼付
は有名で、昨年一般公開された際にも地元の利を活かして、しっかり観ることが出来ました。また市内の継松寺に収められている雪山童子図

も有名で、そんな名画が地元にあることも、この本を通して教えていただきました。

 辻さんは、アメリカのプリンストン大学時代に数学者の志村五郎とも交流があり、その記述も上記の「奇想の発見」にはありますが、日経の「私の履歴書」にはその記述はなかったようですが、短い記述にも志村五郎先生の人となりが伝わって来ます。確かに、数学者の志村五郎は古美術にも審美眼があり、蒐集されていたようです。志村五郎を知っている者からすると、思わず感心した箇所でもあり、こんなところでも数学者との関わりもあるのかと関心しました。 

 私自身を思い出すに、小学校の頃、流行っていた切手集めで、浮世絵に関心があり、高校でも江戸の文化史にも興味を覚えたこともあり、江戸時代の日本画の説明にも素直に聞けるように読めるのですが、この本を通して、自分の学校時代の思い出を掘り起こしてもらい、そこから新鮮なあの頃の感性を思い出すきっかけになったと思っています。そんな経験を本を通してもらえるのも一つの楽しみでもあります。最近は、高校から大学時代に書かれた本を渉猟しながら今の時代からの時代考証をその本を通して自分の一つの楽しみにしています。それも一つの読書の楽しみ方かなと最近は思っています。



大正デモクラシー

2022-06-02 18:25:09 | 日記
 アインシュタインが来日して、今年で100年になるというので、当時の模様を紹介した本を以前紹介しましたが、100年前といえば、1922年で大正11年のことです。1970年代を高校、大学で過ごした私の世代と違う世代の人では、その時代へのイメージや精神的な距離感も違うと思います。今の高校生大学生の50年前は私の高校大学時代に相当し、今の若者は私の高校大学時代をどう思うか。同じ時間軸では計れないものを感じてしまう自分ですが、どうでしょうか。

 私の高校大学時代から見た大正時代は、今から50年前の私の高校大学時代より、はるかかなたのように感じます。もちろん、大正時代は私はまだこの世に生を受けていないので、そう感じるかもしれませんが、文化的な格差や政治的な格差もその後の50年とは明らかに違うように感じます。

 失われた30年と言われて、今から30年前にバブルが弾けて、その後の低成長時代の日本のGDPも伸び悩み、アメリカはGDPも2倍になる状況で、防衛費1%とでも30年前の2倍になるが、日本は1%では30年前と変わらないので、2%にするという話も出ている。

 今回のロシアとウクライナの戦争ともいうべき状況に対して、高校大学生はどう感じるのか。50年前の我々の頃にはベトナム戦争があり、沖縄返還があり、赤軍派の事件もあり、それに遡って学生運動もあった。学生運動の収束点として赤軍派の事件や浅間山荘事件を捉えることには、当事者意識として違和感を覚えますが、今だから、そんな時代を振り返ってみることも大事かなと思います。

 アインシュタインが来日した時の日本は、まさに大正ロマンの時代とも言える中で、受験生時代に勉強した日本の近代史の知識を確認しながら、最近読んだのが、
です。文庫本といえども、500ページを越えるもので、読み応えのある本です。政治史に偏らず、文化史的視点も多くあり、大正ロマンを理解する上では助かる本です。元々は、1970年代に書かれた本でしたが、文庫本に変えての出版であるので、書かれた当時の時代は、私の高校大学時代であり、その当時の自分の目線も意識しながら読んで行きました。毎日少しずつ読み進めるうちに、この本を読むのが日課のようになり、気がつけば常に手元に置いているという状況でした。スペイン風邪が流行したのもこの時期で、日露戦争後から大正末期までの日本の歴史を振り返ると、今の日本と類似する状況を感じてしまうこともあります。歴史を学ぶ意義は、現状をどう認識して、未来をどう見据えるか、そんなことを意識しながら読むとまた面白さも感じられます。そう感じた、本でした。