新聞の記事から治安維持法制定100年ということを知り、少し詳しく知りたいという気持ちから、新聞の書評で紹介されていた本を読み始めました。
制定後何回か改定があり、そのたびに厳しい内容になっていったことがわかり、更にはこの本では、当時の日本各地での治安維持法による取り締まりの実際が紹介され、教科書にはない内容や実態を知りました。また、当時植民地であった朝鮮半島や台湾での治安維持法の実際や、満州での実際の取り締まりなどはこれまで知らなかったことだけに驚きと新たな認識に心を動かされました。
治安維持法に関しては,私と同様に高校の日本史で知ったという方も多いのではないかと思いますが,読んでみると教科書には書かれていない実態が明らかになって来て,初めてその本質が認識できるような気がします.高校の教科書で当時は,今もそうかもしれませんが,山川出版の日本史の教科書が受験でも定番の参考書にもなるほど,多くの受験生が読み込んだ本だと思いますが,教科書であるが故に,右左の立場に偏ることなく書かれている点では,最初に読む歴史書としては最適かと思われます.もっとも,最初から偏った本で知識を得てしまうと歴史認識そのものが歪んでしまい,教養のない総理大臣が間違った歴史認識で国を導いてしまうことになりかねない.タカでもハトでもどちらであっても基本的な歴史認識や教養を持った為政者は,いつの時代でも必要です.
今年は戦後80年で戦争を語り継ごうという意識がマスコミ報道からも伺い知れます.太平洋戦争,朝鮮戦争,ベトナム戦争等々その後の戦争をこの時期に自分なりに見つめなおすことも大切かなと感じます.17度線,27度線,38度線という切り口からそれを見つめなおすことも有りかなと.
幸い,私の両親はまだ存命で,終戦当時17歳で青春がすべて戦争と戦後の混乱で生きた世代です.父の兄は昭和20年3月1日にニュウーギニアで戦死,母の兄は,昭和20年8月13日(あと2日)に沖縄で戦死.またその前には日露戦争,日清戦争でも私の親族は戦死しています.そんな実態のリアルな状況の伝承も難しくなってきている中で,我々にできることは正確な歴史認識ではないかと感じます.そういう状況で今の政治家の歴史認識がかなり杜撰であることも感じることが多くなってきました.今まで,半藤一利氏や保坂正康氏の著書などの紹介してきましたが,
実体験者としての半藤氏の記述や,保坂氏の詳細な聞き取りによるジャーナリストとしてのての記述には読みやすさとしての特徴がありました.また,予備校の講師が書かれた
は,大学受験という公平なフィルターを通してある点で,ある意味信頼がおける記述とともに,冷静な視点も感じられます.
今回は,上記以外に膨大な資料を基に,アカデミズムに軸足を置いて書かれた昭和史というべき
は,上巻の後半から下巻は戦争にかかわるアカデミズムを中心に新たな認識をもらった気持ちになりました.こんな感じで大学が戦争や政治に振り回されていたかを実例を見ながら,あたかもドラマを見る感じで読めます.上下で1500頁を超える大作ですが,どこからでも読み始められる本ではないでしょうか.あきれるくらいの当時の実態を垣間見れるという感想が読後に得られるとも言えます.
歴史書も読み返すたびに新たな発見があるのは,数学書と共通するものですが,積読状態の書斎の本を読むのも若い人にはない自分の楽しみかとも最近は思っています.