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「槍・穂高」名峰誕生のミステリー 地質探偵ハラヤマ出動   原山智/著 山本明/著

2021年06月05日 08時57分47秒 | 読書・地理地震


北アルプスにはいくつかの地質ミステリーがある。たとえば梓川には失なわれた清流伝説があり、高熱の火砕流で四方を焼き尽くした槍・穂高も火山噴火の謎に包まれていた。そうした北アルプスの造山構造に、「地質探偵」原山教授が踏み込み、従来の学説をくつがえすような最新の成果が解き明かされる。探偵ものにはつきもののワトソン役は、長年の友人であるライターの山本明が担当し、地質探偵ハラヤマとともに謎の解明に当たる

第1部 地質探偵事件簿 「天空にそびえる巨大カルデラ伝説」を追う(厚さ一五〇〇メートルも堆積した謎の火山岩
「厄災の山」戦慄のプロフィール ほか)
第2部 地質探偵事件簿 北アルプス地質迷宮紀行(「デコレーションケーキ」のできるまで
大陸生まれの巨峰の誕生秘話)
地質探偵エッセイ 我が愛しの山、笠ヶ岳物語(火山もないのに湧く神秘
恐竜時代の岩石で造られた天下の秀峰 ほか)
第3部 地質探偵事件簿 名山たちの「出生の秘密」(雪倉岳・朝日岳白馬三山 ほか)

「もともとカルデラは平らな場所が陥没して生まれた。
たぶん標高は数百から1,000mくらいの場所」
穂高岳を生み出したカルデラは、今よりもかなり低い標高の平地に出現した。
現在の穂高がある場所は、かつて標高1,000m前後の低山地だった。
だがある日、そこで突然、小規模の火山活動が始まった。
いきなり大量の火山灰や軽石を噴出させ、それにともない地面がドドッと陥没していった。

この溶結凝灰岩の岩層は侵食を受けた現在も、最大で1,500mもの厚さとして残っている。
カルデラの穴の深さは3,000mだったという。
また、火山灰の噴出とカルデラの陥没はほぼ同時だった。
噴きながら落ち、落ちながら噴く。
それを地質学ではピストンシリンダー型陥没カルデラという。

層厚1,500m以上の溶結凝灰岩を詰め込んだカルデラは、北アルプス地域に起きた140万年前からの隆起活動で3,000mに持ち上げられた。つまり造山活動があとから押し上げた。それが侵食や風食、さらに6万年前と2万年前の2度にわたる氷河の氷食でバッサリ削られ、現在のカタチになったという。

笠ヶ岳の東面にも水平な縞状構造がある。
「そうだよ、カルデラ。穂高側に1,500mの厚みで、カルデラの断面をさらしている。
笠ヶ岳は6,500万年前の火山だから、槍・穂高火山よりもかなり古い。ちょうど恐竜が絶滅したころだね。この火山もスケールが大きかった。」

槍ヶ岳のあのピラミダルな姿はどうやって造られたのか。
「槍沢、天上沢、千丈沢、飛騨沢の氷河が、4方向から岩盤をガシャガシャ削っていった。それによって尖った部分が残って今の穂先になっている」
穂先を頂点に延びる東鎌尾根、西鎌尾根、北鎌尾根、そして大喰岳への延びる稜線は、氷河の削り残し。つまり逆にいえば、4つのアレートの交差点が穂先となっている。
氷河という名彫刻家が、技巧を駆使して造りあげた大自然の芸術だ。

槍ヶ岳を真南から望むと、槍の中心線が東に傾いている様子がわかる。
これは本来垂直だった冷却節理が、東に20度傾動した結果だ

北鎌尾根や南岳、中岳の稜線から南北方向で観察すると。槍ヶ岳は東側に倒れるようにそびえている。

「穂高の下にはマグマの層がある。
マグマは槍ヶ岳の下部にもつながっている。
で、マグマがあるってことは、岩盤(硬い地殻)がその分、薄いってことにもなる。」

「140万年前ほど前から始まった本格的な北アルプスの造山活動の過程で、東方向からガンガン沈み込みながら押している太平洋プレートの力が、薄い地殻の部分に集中して破断させ、その破断した断層を境に、地殻が西にずり上がるよう働いた。そんな力が槍・穂高の西側部分を20度も押し上げた。」
つまり東に倒れている、東に向かって傾いているといってきたが、正確にいえば、西のほうが持ち上がったということのようだ。しかし、そんな力が北アルプスに作用していたとは。

槍ヶ岳の穂先は凝灰角礫岩という岩で造られていて、花崗岩や頁岩(けつがん)といった岩片を含んでいる。この岩は非常に硬い性質をもっている。釜トンネルも同じ岩質で、トンネルが難工事だったのも岩があまりに硬質だったから」

高天原山荘の脇にある崖の正体は、水晶岳北方稜線の山体崩壊によるものだった。

この山体崩壊現象は、1984年に長野県西部地震を引き金にして、御嶽山でも起きていた。
また七里岩ほか韮崎市周辺に丘状の地形が多いのも、八ヶ岳の古阿弥陀原岳(推定標高は3,400m超)が、山体崩壊を引き起こした結果。
八ヶ岳では平安時代前期に稲子岳が同じく山体崩壊し、そのときの土砂が川を堰き止めて松原湖が誕生した。

「薬師岳の中央部を水平方向に走る模様は、有名な手取層というんだ」
「恐竜の化石が出ることで知られる地層だよ。福井県ではこの地層帯で、化石の発掘が続けられている。それと同じ手取層がここにも露出している。」
手取層は浅い湖に堆積した泥や砂利が固まった水成岩で、年代的には1億3,000万から1億2,000万年前後の地層。

薬師岳、笠ヶ岳は大陸で生まれた山。
成立時期も近いし、成因もそっくり。
「年代でりえば薬師岳が6,500万年前、笠ヶ岳もほぼ同時期に生まれた。
ともにカルデラ火山だった。
それが日本列島の移動にともなって運ばれてきた」


カルデラ火山は槍・穂高だけではなかった。
大陸の縁の部分でプレートの沈み込みによって誕生した火山が薬師岳と笠ヶ岳。

笠ヶ岳も槍・穂高火山に負けず劣らずで、溶岩・火砕流の放出は、500平方キロに達する。
槍・穂高の1回目の噴出量、400平方キロよりも多く、6,500万年前の大陸時代には、かなりの問題児だったはず。
「笠ヶ岳は複式カルデラ火山で、少なくとも3回の大きな陥没があった」

爺ヶ岳でなく、鹿島槍ヶ岳さえも一連のカルデラ火山。
その後の隆起と、それにともなう侵食で、現在の後立山の山容からは、カルデラの痕跡さえうかがい知れない。
3つのピークをもつ爺ヶ岳。カルデラ火山によって造られた。
一番北に北峰、これは安山岩溶岩からできている。
暗緑色で、長石の結晶が含まれる比較的緻密な石だ。
真ん中の峰が三角点のある2669.8mのピークで、縦走路が西側斜面をスルーしているために、これが本峰だと気づかずに通過する登山者も多い。そして登山者でにぎわうのが南峰である。

地質探偵が立ち止まったのは、本峰と南峰の中間にあるコル。
「カルデラは上方に広がっていない」
“”誰も気づかなかった北アルプス隆起の真実“”が隠されている。
その岩盤の特徴は、誰の目にも明瞭な縦の縞が発達している点だ。
縞を作っているなかには、明らかに丸い礫を含んだ部分がある。
「ボクは河川だけでなく、カルデラ内に湖があったと考えている。細かい粒子がきれいな縞模様を作っている部分もあるから、それらは湖のような環境で堆積した可能性が高い」
「正確にいうと、傾きは約80度。信じられないような傾斜だね」

五竜岳はカルデラ火山である可能性が高い。
200万年前ほど前に、活発に活動した火山によって生まれた。
白岳を過ぎて五竜岳に着いた。
目の前には荒々しい岩肌をさらす五竜岳が聳えていた。
後立山連峰の中央にドッカと居座るその姿は、古武士を思わせる。
探偵ハラヤマは、北から見た山容がとりわけ好きだという。
岩稜をいくつも派生させたその姿は、決してスマートとはいえず、やや無骨なイメージさえ与えるが、そこがまたよいというのだ。

五竜岳は流紋岩質溶岩という火山岩でできていて、特徴となる山頂部の菱形岩壁も流紋岩で造られている。流紋岩質溶岩は火山岩のなかでも一番硬い。

そもそも鹿島槍の登山道自体が黒部川花崗岩の東の縁に沿って並走している。

でも、秀麗で鳴る鹿島槍がカルデラ火山の残滓だったとは!!

雪倉岳と朝日岳はの山体は蛇紋岩と古生代の地層(付加体)で造られ、稜線はその岩片で覆われる。蛇紋岩は2億3000万年前に、マントル上部の橄欖岩の断片を源として生みだされた。
両山が盛り上がったのは、270万年前からの北アルプス第一次隆起活動の時代で、他地域では旺盛だった140万年前からの第二次隆起の影響は、比較的少なかったと考えられている。






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