maidoの”やたけた”(ブログ版)

ジジイの身辺雑記。今日も生きてまっせ!

白姫伝説-06 承を今暫くの巻

2006-09-21 06:17:07 | 支離滅裂-迷想迷夢-白姫伝説

<お断り>
例によらず、難儀な事に記事の内容は部分的に特定の団体や個人と関係あるんですねぇ。
というのは、元ネタとして踏まえているのは、大正十三年(1924年)実際にあった出来事なんですよ。
枝葉の部分には見ていたような虚構・フィクションもございますが、幹は実話でございます。

アレレ?と思い当たられる方があったら貴方の事かもしれません。
大正十三年(1924年)生まれなら今年(2006年)82歳。
主要な登場人物は当時既に成人していたから、存命ならば100歳を超えてるでしょうね。
まさかとは思いますが、記事内容について、ご本人から訂正削除のお申し入れがあった場合は、事の如何に関らず全面的に受諾、可及的速やかに実行します。
ただし、ご本人以外の親族・係累・通りすがり等のお方からの因縁・イチャモンにはお相手しかねますので、前以てお断りして置きます。
</お断り>


五月山(サツキヤマ)の向こうに夕日が落ちるのを待つ間に、保治郎は金助から佐太郎の事を聞き出した。
戦争で死にかけた事、一時は霊能者として在所の大川郡では評判であった事、何時の間にか伯父さんの下で修験者になっていた事くらいで、詳しい事は金助も知らん。
しかし、それならまんざらド素人のインチキでも無さそう、と何とかして希望的に考えたい保治郎は一安心。

実はその安心は夢幻(ユメマボロシ)の蜃気楼、九割がたはド素人のインチキなんやけれど、そんな事は知らぬが仏。

これだけ何処も彼処も干上がっているというのに、一体どこにボウフラが湧く水溜りがあるというのか?
火縄の蚊燻しも物ともせず群がり寄る蚊を叩きながら、日暮れをジリジリする思いで待つ二人をようやく夕闇が包み始めた。
そろそろ良かろうと、暮れなずんだ池の傍を莚小屋に近ずくと、何やら異様な声が聞こえて来た。

うめき声とも雄叫びともつかぬ声がしているのは、紛れも無く小屋の中。
「金助、行者というのはああいう声を出して祈祷するもんかいな?」
「さ~。知りまへんで・・・、」
「お前も従兄弟やろうが、そのくらいは知っとけ!」

「従兄弟でも知らん事は山ほどおますわいな。そのかわりあんたの娘のオイドのホクロの数知ってまっせ。」
「ぬわにぃ!世帯持ちの癖にウチの娘にちょっかいを出すとは、トンでもない奴っちゃ、おのれ!」
「落ち着きなはれ、ウチの嬶が子守りの手伝いしてる時に、この子のオイドには北斗七星があるのやで、とオムツ替えしなに見せてもろたんやがな。」

「今は取り込み中からマァそうしといたろ。後日ゆっくり言い訳を聞かせて貰うよってな。」
「言い訳も何も、それが真実、真実一路。それより何や静かになりましたで。」
恐る恐るそ~っと莚の裾を持ち上げて見ると、暗い中に横たわった佐太郎と空になった笊の影が。

突然「ウ~~~!」と一際大きな声で喚かれて、おっかなびっくり覗いていた二人はビックリ仰天。
素っ飛んで逃げようとした保治郎と金助は、慌ててもつれ合うて余計に恐怖が増幅。
年に似合わんえらい勢いで、保治郎が金助を佐太郎の上へ突き飛ばした。
食い過ぎの腹の上へ勢い余った金助が倒れ掛かる。

「ウグェ~!」という佐太郎の叫び声に、後ろから蹴られたように保治郎は一目散。
おあつらえ向きに下り坂、そのまま坂なりにどんどん下って行けば、猪名川にはまって帰ってこれんようになる。
幸いそうはならず、薩摩池横の墓場まで走ったところで、様子を身に来た村の若い衆とぶつかって運良く止まれた。

さてこちらは莚小屋の中の佐太郎と金助。
「一体どうしたんや?大丈夫か?オイ、まさかあれだけの飯を全部食うて、食い過ぎてな事では無かろうな?」
「くぅ~たわぁ~、くわいでかい・・・、う~、ぐるじぃ~・・・」

「お前、若い時から大飯食いのウワバミ腹やとは聞いてたが、何ぼなんでもそない無茶したら死ぬるぞ!」
「心配するな、今まで重ねた死ぬほどの修行は伊達や無いわい。」
「オイオイいかにもちゃんと修行したような事をいうやないか、大食いも修行の内か?」
「そうや命懸けの立派な修行。食える時には食うとかんとんな。心配するな、しばらくこうして横になってたらそのうちにこなれて、生まれ変わったように元気になるよって。」

満月から三ッ日目の月が枚方丘陵から、雲ひとつない濃紺の夜空に顔を覗かせたのは21時過ぎ。
丁度この頃嫌がる若い衆を引っ張って、保治郎が月明かりの中を恐々戻ってきた。
「オイオイ、まさかとは思うがお前今の話を聞いたか?」
「へぇ、保治郎さん。所々は聞き取れんかったけど大体は。」

「ワシの耳には、若い時から死ぬほどの修行をしたとか、ウワバミの修行がどうとか、命懸けで生まれ変わった、というたように聞えたがなぁ。」
「へぇ、保治郎さん私にもそのように。」
「この文明の世にそんな事があるもんやろか?」
「へぇ、保治郎さんあるかも知れまへんなぁ。」

丁度その時「グェ~~~ェ、・・・」と食い過ぎの佐太郎がえずいたから堪ったもんやない。
魂消てウワ~ィと逃げ出した二人、闇雲に走り出したのはエエが、思いっきり鉢合わせ。
目の前に火花が散ったと思った瞬間、その場に倒れてしもた。
夢現(ユメウツツ)の中で佐太郎が蛇になったり、蛇が佐太郎になったり。

片や小屋の中では佐太郎と金助がヒソヒソ話。
「佐太郎どないするつもりや、ホンマに雨を降らせられるんかいな?」
「お前も判りきったことを聞くなよ。そんなこと出来るわけが無いやろ。出来たらこんなところでウロウロしてるもんか!」

「えらそうにいえる立場や無いやろ。ただ飯、それも一升飯の食い逃げやないか!」
「食い逃げとは人聞きの悪い。遠慮してオカズは塩だけで辛抱してるやろうが。」
「そやけど、保治郎さん、どうやらその気になってるで。」

「それは勝手というもんや。ワシに雨を降らす自信が一寸でもあったら、先に祈祷料を貰うわい。そうせんかったんは降らんのが判ってるだけに、後でお前が辛い目に逢わんようにと思うからこそ。感謝せぇよ。」
「すまんなぁ、えらい気ぃ使わして。」

「まぁ、ええがな従兄弟やねんから、このくらいは当たり前や。」
「ん?待てよ何でワシが礼を言わんならんのや?」
「そんな事かまわへんから気にするな。腹さえこなれたら、朝までにはそ~っと居らんようになるさかい。」

何とかして転がそうとしておるんですが、簡単には転び出しませんなぁ。
次回は無理やりにでも「転」にしますわ。
さてうまいこと転ぶやろか?


2006/09/21


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