maidoの”やたけた”(ブログ版)

ジジイの身辺雑記。今日も生きてまっせ!

白姫伝説-10 結へ向かって転進の巻

2006-09-25 06:26:58 | 支離滅裂-迷想迷夢-白姫伝説

<お断り>
例によらず、難儀な事に記事の内容は部分的に特定の団体や個人と関係あるんですねぇ。
というのは、元ネタとして踏まえているのは、大正十三年(1924年)実際にあった出来事なんですよ。
枝葉の部分には見ていたような虚構・フィクションもございますが、幹は実話でございます。

アレレ?と思い当たられる方があったら貴方の事かもしれません。
大正十三年(1924年)生まれなら今年(2006年)82歳。
主要な登場人物は当時既に成人していたから、存命ならば100歳を超えてるでしょうね。
まさかとは思いますが、記事内容について、ご本人から訂正削除のお申し入れがあった場合は、事の如何に関らず全面的に受諾、可及的速やかに実行します。
ただし、ご本人以外の親族・係累・通りすがり等のお方からの因縁・イチャモンにはお相手しかねますので、前以てお断りして置きます。
</お断り>


成り行きで二十一日の三時に雨が降る事になったんはエエのやけれど、午前か午後がハッキリしてなかった。
午前三時には皓々と月が照って雨の気配もなかった。
皆さん少しは気落ちするかと思えば、ヨォシこれで雨は午後に決まりや良かった良かった、と実にエエ性格。

ソレッ、最後の念押し、声が小さい!もっと人数を集めて来いと、何時の間にやら銀蔵が仕切ってるやんか。
おまけにどうやら三交代で、非番の連中が銀蔵の小屋や屋台のお客になるように取り計らってる様子。
もう一踏ん張りや、と一際大きな声唱える真言が寝不足の頭に応えること。

佐太郎、保次郎、金助の三人は文字通り不眠不休、特に佐太郎は図体がデカイは山伏装束で目立つから居眠りもままならん。
ここらで、せめて煙草の一服でもせんと気が狂いそうやが、人目があるのでくわえ煙草で祈祷も出来ん。
早い事皆から見えん所へ行って一服着けようと、蚊除け蚋除けの火縄を振り回しながら、頂上めがけてまっしぐら。
急坂を駆けるようにして登って、さすがに息が切れた太郎は尾根の頂上でへたり込んだ。

呼吸の乱れが静まるのももどかしく、煙草を包みから一本抜き出して、吸い口の紙筒を二箇所90度ずらして潰してと。
火縄の火で吸付けて煙を胸一杯に思いっきり吸い込んだら、久し振りのタバコにクラッと眩暈が来て、う~幸せ。
夜中の三時は雨の気配も無く空しく過ぎた。

もう直ぐ午後三時、このまま逃げようかと思っても、笈・肩箱、山伏の商売道具一式は下の祠の傍に置いて来た。
今更この年では商売替え出来へんし、あれが無い事には動きが取れん。
そうかいうてあんな物を担いでウロウロしてたら、逃げ出そうとしてるのが丸判りやしなぁ。

まぁエエわ、這いつくばって謝ったら、命までとは言わんやろ。
下へ降りたら又暫くはタバコが吸えんどころか、これが末期の煙草になるかも知れん、もう一本吸うてから下りよう。

麓から聞こえる、
オ~ン サン ザン ザンサク ソワカァ
オ~ン サン ザン ザンサク ソワカァ
オ~ン サン ザン ザンサク ソワカァ
を聞きながら半ば自暴自棄。

地べたに大の字になって空へ登って行く煙草の煙をを見ていると、急に眠気に襲われて、あっという間に意識不明。
手から落ちたタバコが鈴懸けの上で燻って、焼け焦げの火の輪がジワジワと拡がるのにも全く気がつかず熟睡。
鈴懸けの素材は麻布、それが旱魃で乾ききってるから燻り放題。

「そろそろ三時も近いやろうがなぁ、ありゃ金助、佐太郎さんは何処へ行ったんや?」
「さいぜん最期の念押しに、秘法の祈祷を行なうとかいうて尾根を登っていきましたで。」
「どれそんならワシも様子を見に頂上へ行ってみよか。」

「いや、何やら秘密の祈祷で、人が見たら効果がなくなるから、誰一人来てはならん、というて行きましたわ。」
「ふ~ん、そうかいな。しかし一向に雨の気配も無いなぁ・・・。」
と保治郎が見上げた空に、ポチッと小さな陰りが。

ん?気のせいか、霞み目かと目をこすって見直すと、いくらか大きくなったような気が。
「金助、あそこに何か見えんか?」
「どこです?」

「あそこ尾根の上の方」
「空しか見えませんで」 「そうか、やっぱりワシの思い違いかいな・・・」
「いや、一寸待って、ひょっとしたらあれは雲とちゃいますか?うん雲でっせ保治郎さん、間違いなしに雲。」

「雲が出たからというて、必ず雨が降るわけでも無いしなぁ」
というて居ります内に、ほんのシミ程度やったのがたちまち育って立派な入道雲に。
その上、空全体に雲が急に広がって、何やら吹く風も湿気を帯びているような。
「おいおい、これはほんまに降るかも知れんぞ!」

さて、まさかと思っていたことが、どうやら現実の物らしいとなれば、急にはどうしたらよいのか思い付かん。
兎も角ここが正念場と、集まった者全員が声を揃えて、
オ~ン サン ザン ザンサク ソワカァ
オ~ン サン ザン ザンサク ソワカァ
オ~ン サン ザン ザンサク ソワカァ
と一心不乱にトランス状態。
そのとき一段と暗くなった空から稲妻がビカッ!

尾根の上で正体も無く眠りこけていた佐太郎も、この稲光ではっと目を醒ました。
ん?あっ、そうかちょっと休憩と思うたら、寝込んでしもたんやな。
しかし、何やら焦げてるような臭いが・・・、ワ~ッ、火事やぁ!

燻ってる鈴懸を、慌てふためいて脱いだかと思うと振り回した。
鈴懸けの上で燻っていた火が、燃焼の三条件の内で唯一不足していた酸素の供給を得て一瞬にして燃え上がった。
仰天した佐太郎が「ワォ~!」と叫んで、炎を上げる鈴懸けを地べたへ叩きつけて踏み消した。

麓でその叫び声を聞いた村の連中が尾根を見上げると、一筋の白煙が空を指して登って行く、と見る間にドンガラガッチャ~ン。
立ち上る白煙を迎えるかのように、尾根の頂上へ稲妻が走った。
その途端稲光で照らされた空から、大粒の雨がバラバラ、バラッ。

ワ~ッ、雨や雨や!とどよめきが湧き上がり、雨に力を得た声が、
オ~ン サン ザン ザンサク ソワカァ
オ~ン サン ザン ザンサク ソワカァ
オ~ン サン ザン ザンサク ソワカァ
あ、もう雨が降ってるんやからお祈りはせんでもエエのんか・・・。

「おい、見たか金助、白龍さまや、ほんまもんや、雨が降ったや無いか。そうや佐太郎さまをお迎えに行かにゃぁ!」
泣く者、笑う者、久し振りの雨に打たれて、このまま~ぁ、死んでしまいたい。
ん?

転がりすぎやがな。
このまんま転がらしてると、何時までも終われんようになる。
蝶々結びでも何でもエエから次で結びにさせて貰います。(その積りやけど、出来るかな・・・。)

2006/09/25

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