maidoの”やたけた”(ブログ版)

ジジイの身辺雑記。今日も生きてまっせ!

白姫伝説-11 結の巻

2006-09-26 06:30:30 | 支離滅裂-迷想迷夢-白姫伝説

<お断り>
例によらず、難儀な事に記事の内容は部分的に特定の団体や個人と関係あるんですねぇ。
というのは、元ネタとして踏まえているのは、大正十三年(1924年)実際にあった出来事なんですよ。
枝葉の部分には見ていたような虚構・フィクションもございますが、幹は実話でございます。

アレレ?と思い当たられる方があったら貴方の事かもしれません。
大正十三年(1924年)生まれなら今年(2006年)82歳。
主要な登場人物は当時既に成人していたから、存命ならば100歳を超えてるでしょうね。
まさかとは思いますが、記事内容について、ご本人から訂正削除のお申し入れがあった場合は、事の如何に関らず全面的に受諾、可及的速やかに実行します。
ただし、ご本人以外の親族・係累・通りすがり等のお方からの因縁・イチャモンにはお相手しかねますので、前以てお断りして置きます。
</お断り>


急な山道を押し合いへし合い頂上へ向かえば、小さな空き地の真中に硬直した佐太郎が。
「ワッ、えらいこっちゃ、佐太郎さまが!」
寄って集って胴かけ脚かけ、神輿や神輿や、ヨ~イサァジァと皆んなで担ぎ下ろした。

頂上から下ろしたは良いけれど、何処も彼処もビシャビシャ、其処を皆が右往左往と走り廻ったので泥々の泥濘。
地べたへ直に寝かせるのもなぁ、と水神さんの祠に突っ張らかった佐太郎を立てかけて、莚や竹で急場の屋根作り。
粗末ながらも屋根が出来た、佐太郎はと見ると、クニャッと硬直が解けて泥まみれになったところは、まるで山伏の酢味噌和え。

仮小屋の中に担ぎいれ、皆が口々に礼を言うても、意識はあるが目が虚ろで反応なし。
兎も角、金助の家まで運んだけれど、呼べど叫べど焦点の定まらん目を開いたままで、一言も言わず一向に変わり無い。
さぁ、これは困った、こんなでかい中年男は始末に困る、まさか保健所に引き取って貰うわけにもいかんやろうし。

言うて居る所へ、内も外も紫色に光ったかと思うたら、飛び切りの雷がバシッ!グワッシャン!
「へ?どうした、今のは何の音や、ここは何処?ありゃ金助なんでお前が居てるねん!」
イヤ良かった良かった、気がついたか、立役者の佐太郎が廃物になったんでは、折角の目出度さも画龍点睛を欠くというもの。

この後も断続的に雨が降り、さしもの旱魃も幕を閉じた。
米は全滅したが、カボチャは今からでもいけるやろう、麦には充分間に合う。
来年米が取れるまで、いざとなればカボチャとハッタイ粉でも命は繋げる。
盆にゃボーブラ食うて祭りにゃ太鼓♪やれ良かった良かったと、大喜び。

放りっぱなしの池の土手、用水路や樋、畦の手入れもせにゃならん。
田圃もひび割れをそのままにしてて、底でも抜けたら来年に差し支える
生き返ったように忙しく畑や田圃で働きながらも気になるのは佐太郎へのお礼。

そ~っと保治郎が聞いてみると、キョトンとした顔で何の事か判らん様子。
あれ以来どうした訳か、穏やかな表情になって、飯も普通の量で済むようになった。
どうやら落雷のショックで、大砲の弾で吹っ飛ばされた以前に戻ったらしい。

只一つ困ったのは、今度は戦争からこっち雷に打たれるまでのことが素っ飛んでしもた。
まぁ、世の中全てが上手い事は行かん。

一段楽した頃に、銀蔵親分が信じられんような多額のお礼を持ってやって来た。
聞けばさすがは興行師、この龍神話を覗きカラクリに仕立て上げ、そこいら中の秋祭りでやるそうな。
多額のお礼はその一手独占権とモデル料も含めての事やて。

さぁ、この金をどうするか?
そうや!あれだけ霊験あらたかな水神さんを、粗末な祠のままで放って置いたんでは申し訳ない。
龍神さんの祠を建て替えよう、それが良い、それが良いと、村に奉加帳を回したら一向に帰ってこん。

どうしたんやろ、誰ぞ罰当たりが焚き付けにでもしたんや無かろうな?と思っていると、一冊でまわした奉加帳が七冊に増えて帰って来た。
おまけにお金は袋に入りきれず、木箱に入れて二人掛りで担いできた。
あの大騒ぎに参加した連中が、それやったらウチの村もと萱野十ヶ村をグルッと廻ってたんやそうな。

今の祠を一寸大きいのに変えて、木の鳥居を新調したらエエやろ。
お金が余れば小さなお神輿の一つでも、と軽うに考えてたのが、こうなると、それではすまん。
白島(ハクノシマ)の奴らは奉加帳で集めた金を懐に入れたんちゃうか?といわれるようでは村の面子に関る。
話しがえらい大層になって来た。

これは一つ専門家のご意見を聞こうと、佐太郎と金助、保治郎が醍醐寺三宝院へお尋ねに。
「ところで予算は如何程で?」
「実が浄財がこれこれ集まりまして、」
「どれどれ、そういう次第なら、」と本山大先達が現地調査に来る段取になった。

水神さんの祠の前でデカイ護摩を焚いて、何やら長々と唱えていたかと思うと、やにわに尾根を登りだした。
尾根の頂上へ上がると錫仗をトンと突いて「うん、此処が良かろう」
「此処が良かろう」てもう少し下の仕事がし良い所に・・・、と保治郎が言いかけると「紳恩を忘れたか!」とエライ剣幕。

別にあんたは水神さんの旦那や兄弟でも無かろうに、と思いながらも相手は玄人。
いざ建築という時には、遷座の儀式一切を取り仕切ってくれるというから、それは便利。
「水神さんではイカンこれからはこう呼ぶように」と墨痕淋漓とかかれた神名も授かって大感激。

お疲れ様でありがとうございました、と昼食が済むとやおら何やら書類を取り出した。
「それではこういう事で、」というから見てみると、色々項目が並んで、最期に合計見積り額。
驚く無かれ、浄財総額とピッタリ同じ、あっ、そういう事か!と気付いても後の祭り。

「よろしいですな。」とデカイ態度で念を押されて、位負けした三人は思わず「よろしくお願いします。」
翌日から早速材木が運ばれて、人夫がやってくる大工が乗り込む。
呆気にとられている内に、分解されて莚で包んだ石の鳥居や灯篭が荷馬車で乗って来る。

あれよあれよという間に水神さまは頂上に、集まったお金は大先達の懐に。
結局大騒ぎの後に残ったのは、白姫大明神に出世した水神さんのお社、水をたたえた三つの池。
何処にでもいそうな独り者の中年男になった佐太郎、というこれぞ竜頭蛇尾を絵に描いたようなお話。
いや、絵やなしに字に書いたお話か・・・。

大正十三年(1924年)大旱魃、白島(ハクノシマ)白姫大明神霊験記、依而如件(よって件のごとし)。
一同、立ちませ~い、やれやれ、終わりましたで、お疲れさん。


へ?後半が蛇足や!てですか、己(ミ)さんが龍になって天に登っただけに、足が生えてた言う事でご勘弁を。

参考:

白姫大明神-由緒書碑文

天理改現 水神白姫大明神
鎮守祭祀勧請事由

暦上大正十三年ハ古来希ニ見ル凶変事ヲ呼ビ 五月ヨリ全国的ニ大旱魃ニ襲ハレ早キ所ハ田植モ出来ヌ府縣モ随所ニ生ジ 国民一般モ飲料水ニモ事欠キ困難一方ナラザリキ 国中ニテ凡ユル雨乞行事ヲ執リタルモ 其ノ効果顕レズ万人困却ニ極ニ達シタ 当地方モ其ノ例ニ漏レズ憂慮シテ居ル折柄明石金助ノ従兄弟ニシテ香川縣大川郡神前村ノ多田佐太郎ト申ス者神霊術修行ノ為メ各地遍歴中神戸ヨリ八月十八日当地ニ来タリテ申スニハ雨乞祈願致シテ必ズ雨降ラストノ事ニテ右多田行人ト明石金助庄司保治郎ノ三名ニテ祈祷イタス事トナッタ 十八日夜ノ神ノ神籤ニハ 廿一日午后三時ヨリ八時間ノ雨ヲ降ラシ其ノ間毎日一時間自至二時間ノ少量ノ雨ハ降ラストノ事ニテ大イニ喜ビ十九日ニハ神前ニテ祈リタルガ其ノ時農民組合員全員同調致シ一心トナリ昼夜ノ別ナク一念込メテ拝ミタレバ神ノ申サル通リ廿一日午后三時ヨリ時刻違ワズ降雨トナリ午后十時マデ降リ続キタリ 民一般万民ノ喜ビハ一方ナラズ神ノ偉力妙法ノ歓喜ハ筆舌ヲ以テ尽シ難ク住民一同神ノ妙味ヲ有難ク感授シタ

水神ノ御社ハ山ノ中腹ニ龍神トシテ祭祀シテ居タガ 神妙光照ニ依リ
神名ヲ天理改現水神白姫大明神ト
改稱シ御社モ頂上ニ遷シタリ



(注)香川縣大川郡神前村(かんざきそん)は現在のさぬき市寒川町神前。

2006/09/26

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