今回で私の担当は最後となる。これまで3年間、混沌とした世の状況を感じつつ、詩の現在を求め、詩法、読み方を究めるように他人の作品に触手をのばして反射するものを出す、それが時評であると思ってやってきた。
孤独なランプの下で、いま書かれているものを読み、同時代を呼吸し、誰かの内奥から紡いだ言語表現=詩作品を批評という手段で交差したつもりだが、それは徒労に近くもあれば、おのれの詩想を奮わせることもあった。
詩は世界の片隅で書かれ、ある日、公開される。世界の〈現在の風景〉を言葉やイメージでとらえ深めた詩的言語あるいは存在や世界の事物、その見方(把握)を表現した詩的瞬間にであったとき私は期待した。見飽きた表現と異なる新鮮な詩的表現には快哉を叫んだりした。「これぞ詩的発見!」。刺激的な詩法に出会うと賛美を伝えたくなった。「さすがだ、ブラボー!」。
支配的に流布している言語の姿に絶望し苦悩しながら、じしんの言葉やイメージの詩句を孤独に紡ぐことにいのちを削っているのが詩人という存在だ。人が盗みたくなるような詩句。いかにそれを生成するか。誰も経験しなかった詩的表現を生み出す格闘こそ詩人の闘いである。既知の方法が染みついた作品のリフレインは詩法のマンネリズムでしかない。他と同系色で書いているなら、その作品はつまらない。詩が面白いのは未知の創造的な新しい世界をつかんだ言葉の発見に成功したときだ。……
などと未熟な詩学的観念を披露したが許されたい。自身でも実作で成功したとは思っていない。ただ文学(詩)するものは日本語であれ島言葉であれ修辞であれ不断に言語表現を問うことでしか詩の活性化を果たすことはできないと思いたい。
市原千佳子の『♂♀誕生死亡そして∞』は、詩集名にある、それへ向けて詩人の感受性と想像力から発した讃歌、愛、悲哀、寂寥、孤独をうたっている。この詩人は子のいる風景や生者、死者、自然の風景に宇宙の循環性が流れていることを詩境にもっている。
日常の風景からつかむ詩法がある。
「子の/その睫毛は兆しにぬれている/やがて棕櫚の葉のように成長して/無限の風とあやとりするだろう/緑の細いすきまが/風のこだまで震えるとき/瞬きという/全世界へのなんという/驚き!……略……子は泣きなさい/数億年のははたちとの別離の孤独を/一気に泣きなさい」(泣き口)
と、泣きじゃくるわが子から〈子〉を発見し、その存在から、母なる深いまなざしと驚きを比喩を使って、おおらかに謳い、子が単体ではなく、遙かなものを持っていることをも謳う。母胎が宇宙であること、生命の継承である子が悠久の時間的存在であることを喚起させる。生活情景から、時空をひろげた奥行きのある詩的情景へ転化するところにこの詩人の独特さがある。死生の豊かな情感がイメージを結び、現実のリアリティを詩的想像力で転換して異空間にかえてみせる詩語をこの詩人はもっているのだ。だから、母、産道、臍の緒、子、雨、草、木、老い、死、骨……といった語彙も、詩人にかかれば、現実の意味をこえた豊かなイメージ、大きな遙かなもの(地球、海、月、星、宇宙、無限)へ結びつくのである。
「おなかが/さいこうにまあるくなった/その日/わたしの子は/地球とおないどしになった/そして/うまれた」(わたしの子は)
「ボーンの郷は/生まれるときに掻き消され/死ぬときに立ち現れる。たましいが/四十六億歳の母のふところに還るので」(ボーンの郷)」
反面、みみずになりたい、目も手も足も標も要らない、と謳う「みみず」やラブホテルの性愛の罪を謳った「星の切符」にこの詩人の生きることの哀感、明るさと暗さの混淆した抒情の吐露をみる。
『非世界』29号。上原紀善の「情景」に眼をひかれた。
「グウゴロ グウゴロ/グロロンロン/ロンロロリン/ランラン リンリン/ランリラリン/ラルルの暗い情念」
言語音というか、オノマトペの連射に言語感覚がリズム化する。自動速記で音を産出しているといってもいい。上原紀善のオノマトペは無意味が意味をつつんでいく心地よさがある。非言語の心的な言語の音である。
香川浩彦の「詩・八人の画家へ」は世界の有名な絵画のなかに入り込んでフィクションなのに現実であるかのように仕向けて対話する。ゴーギャンの絵に向けて書く。
「私たちはただ 生きていさえすればいい/ただ それだけが私たちを聖らにする」
修辞だがなんとも味わい深い。
『EKE』46。宇田智子の「火事」は日常の現実をフィクション化して危うい生の無化を劇化していく面白さがある。
「本、燃えろ。ここに書かれた『私』はひとつも私じゃなくて、『君』ももちろん私じゃない。読むほどに悲しくなるから、灰になれ。」
砂川哲雄氏が個人誌『とぅもーる』を創刊した。八重山では文芸の雑誌は皆無という。期待したい。
※ 「沖縄タイムス」紙面で担当してきた「詩時評」は、これが最後となった。読んでくれた皆さんに感謝します。
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