南風北風―ぱいかじにすかじ―  by  松原敏夫

沖縄、島、シマ、海、ことば、声、感じ、思い、考え、幻、鳥。

詩誌「アブ」30号発行しました=倉橋健一・髙橋渉二・高橋秀明・野原誠喜・常盤坂もず・鈴木智之・山原みどり・松永朋哉・宮城信大朗・宮城正勝・新城兵一・仲本瑩・松原敏夫

2024-03-29 | 沖縄の詩状況

詩誌「アブ」30号発行しました。 (沖縄発の詩誌です。)

2024年3月

目次

■ 詩 Poem

松原敏夫  途上の風は帰結に向かう 2

倉橋健一  溶解変化 4

野原誠喜  港の倉庫にて 6

常盤坂もず  兵隊のおばけ 8

鈴木智之  夏に病む 10

松永朋哉  二重底の空 12

宮城信大朗  歌うわだち 14
山原みどり  盃・明け方の電線 16

(俳句)宮城正勝  海上の道 19

■追悼 Requiem
仲本瑩  追悼の試み・西銘郁和     22
新城兵一  生粋の言葉の錬金術師――田中眞人の死を悼む     28
松原敏夫  もうひとつの沖縄文学――樹乃タルオという存在     32

■ エッセイ・評論  Essay and Criticism

髙橋渉二 なぜ悪があるのか    38

高橋秀明 北川透『吉本隆明論』再論――『言語にとって美とはなにか』をめぐる所論の検討    40

松原敏夫 制度化された沖縄的なもの――沖縄という詩人、作家    60

■ 松原敏夫 スマフツ(宮古語)詩  無狂い 


年末回顧  沖縄詩壇 2023年

2024-01-27 | 沖縄の詩状況

 対話型人工知能(AI)の「チャットGPT」。「沖縄の詩人」を尋ねると、有名詩人として山之口貘、高良勉を紹介し、2人とも高村光太郎賞を受賞したと答えた。「おいおい」と笑った。貘は受賞したが、高良勉は違う。こんなフェイクはいただけない。知らない人が読むと信じそうで危ない。ネットで情報を得る時代。世界の知がカオス化し、フェイクがディープ化している。ネット情報に洗脳され、欺きや陰謀論を信じる素地は十分。疑うことの必要性は言うまでもない。ところが世の中、AIに頼る風潮。チャットGPTを仕事や教育に利用を、と言っている。安易過ぎる。そのチャットGPTに「沖縄」を題材に詩を頼むと、常識的なイメージを羅列した“機械詩”が出た。「沖縄の自然や文化、歴史や人々の特徴を紹介する内容」と自己解説。やはりAIに叙情なし。

 昨年に続き発刊された沖縄詩人アンソロジー『潮境3号』は、今年のトピック。48人。2号に比べて若い書き手が多い。編集した野原誠喜の「あとがき」で、ほとんどの書き手に依頼したが、多忙や病気などの理由で執筆できない人が多かったとある。病気や経済事情でやむを得ないとしても「多忙」だからは解せない。依頼から時間はあったはずだ。参加しない理由はほかにあるとしか思えない。詩作枯渇か非協力心か。やむを得ない。これも〈沖縄詩壇の現実〉と思うしかない。

 サブテーマ「実験・挑戦・冒険」に沿った作品を、という編集の企画は勇み足だったか。応答するような作品はあるが少数。しかし、若い人たちの多数参加で、新鮮なアンソロジーの印象。言語芸術の最たる詩だ。旧世代の感覚とは異なることばの収穫を喜びたい。今後彼らが持続して沖縄の詩を活性化、拡大し、深化してもらいたいものだ。

 エッセーが少なかった中で宮城信大朗の「エッセイ」は興味深い論考だった。「俺の言う通り書けば賞をもらえるぞ」と、沖縄で詩集を対象とする賞の選考委員に言われたとその権威性を明らかにしている。また「沖縄生まれだから『反戦詩』を書け」という声に対して、沖縄の若い書き手は「沖縄の現実」に目を背けているのではなく、自分なりに〈沖縄〉を書いているとし、「真剣に他者の作品に向き合っているか」と問うている。まったく同感である。

 『なぜ書くか、何を書くか―沖縄文学は何を表現してきたか』も今年の収穫。小説19人、詩12人、短歌・俳句8人が参加。それぞれの文学体験からテーマ呼応の思念が語られ、多様多彩論を味わった。以前、「沖縄文学は善人文学だ」とやゆしたことがあるがそれは、定型に呪縛されない想像力の文学を求める希望からだった。独特で、異色性のある作品を期待したい。

 今年は山之口貘生誕120年、没後60年。大詩人だからイベントがあるかと期待したが、琉球新報で「いま貘さんを語る」という鼎談(ていだん)(大城貞俊、佐藤モニカ、トーマ・ヒロコ)くらいだった。貘通説の反復が多く、新しい発言は見当たらなかった。これまで山之口貘について書かれていることを読めば大体分かることで、抽象への弱さや、反知性がはびこるご時世だから、読みやすい貘の詩が好まれるだろうが、そろそろ新しい読み方も必要だ。

 詩集。神谷毅『焰の大地』、伊良波盛男『卵生神話』、新垣汎子『汎汎』、ローゼル川田『今はむかし むかしは今』、野原誠喜『散歩する遊星』、田中直次『眼脈』、垣花千恵子『絵と詩とことば』。今年は去年より点数が少ない。とくに中堅、若手の詩集が目立たない。

 詩誌。『あすら』『アブ』『KANA』『霓』『全面詩歌句』『投壜通信』『万河』『あんやんばまん』『南溟』が号を重ねた。

 山之口貘賞にローゼル川田の「今はむかし むかしは今」が選ばれた。同賞は次回から2年ごとになるという。

 何度も「レクイエム」が心の中に流れる年でもあった。田中眞人、西銘郁和、岸本マチ子、新城貞夫、樹乃タルオ、河合民子。今思うと一瞬にして失った気がする。特に水難事故死した西銘とは親しく、会ってから3日後の突然の訃報だったので喪失感が今も続いている。   (詩誌「アブ」主宰)

                              沖縄タイムス 2023年12月掲載

 


アブ 29号 発行しました。

2023-05-25 | 沖縄の詩状況

詩 Poem

松原敏夫  カサブランカのレスラー 

倉橋健一  一寸先の話 

安里昌夫  燃焼への手掛かりを求めて 

新城兵一  言葉なんか… 

仲本瑩  遺伝子の旅のように 

下地ヒロユキ  脱色する寺の… 

鈴木智之  ほとり 

西銘いくわ  そんな一日 

西原裕美  猫 

(俳句)宮城正勝  識名坂 

■ 小説・掌編  Fiction and Short Story

山原みどり  島影 

樹乃タルオ  捨て小舟 

■ エッセイ・評論  Essay and Criticism

松原敏夫 書評(西銘郁和「平敷屋朝敏を聴く」・下地ヒロユキ「アンドロギュヌスの塔」) 

髙橋渉二 パウロの気になる手紙   

宮城正勝 空転する否定の文体―仲里効のトンデモ言説 

安里昌夫 「幼年期」のあれこれ(最終回) 

■ 松原敏夫 スマフツ(宮古語)詩  無狂い 17 


沖縄詩壇 年末回顧 2022年

2023-01-25 | 沖縄の詩状況

   6年ぶりに『沖縄詩人アンソロジー 潮境』第2号が発行された。風聞だが、沖縄の詩は注目されて、まま売れていると聞く。事実ならうれしいことだ。今号は作品だけでなく、沖縄詩壇への感想、意見、アンケートといった趣向が入っている。詩に対して何を思っているか、自覚的に詩に関わっているかの一端を読むことができる。掲載順が若い世代から年長者順になっているから、詩想の差異、詩的感覚、詩的言語の綾が読めるのもいい。沖縄詩の現在や傾向について、未知の親愛なる読者はどう読んでくれるだろうか。

『現代詩手帖』11月号「特集 琉球弧の詩人たち」は最大のトピックだ。沖縄の詩人が全国的に紹介され読まれる、という画期的な企画に随喜した。現代詩手帖側によると『潮境2号』を参考にして人選したらしい。川満信一、八重洋一郎、伊良波盛男、新城兵一、松原敏夫、高良勉、仲本瑩、市原千佳子、おおしろ健、宮城隆尋、トーマ・ヒロコ、西原裕美の作品と短文エッセイが載っている。展望として、高良勉が「二十一世紀の彼方へ」で復帰後50年間の沖縄詩壇を俯瞰、言及し、論考に藤井貞和、野沢啓、今福龍太が書いている。高良は70年代から現在まで清田政信を筆頭とした「詩と思想」「詩と批評」の時代から現在の詩まで詩史的に語ることで沖縄詩の現状を浮き上がらせた。

短文エッセイで批評言語の重厚な視点をもつ新城兵一が、『潮境2号』を現代詩手帖の月評で須永紀子がとりあげ、「歴史に関わる複雑な感情を描いたものが多い」と評し、そういう傾向にない作品に「希望をみた」と書いていることに「詩的審級による思考停止がもたらす『選別』」と批判して、消費文化の先端をいく大都市に住む東京圏詩人の充足した都市感覚の言語基準で作品を選択する現代詩の傾向を喝破した。言語詩を純粋に追及する東京圏の詩人と言語詩を求めつつも沖縄の現実に呪縛される沖縄の詩人は位相が違うということだ。個人の言語感性で書くのは前提であるが、沖縄の詩人は、状況、歴史、風土を内部に取り込み咀嚼しながら、いかに自立した詩的言語に生成するかを自問しながらやっている。だがそれは個人の詩的行為に依拠するものだ。感性や苦悩は個人に宿るからだ。歴史や状況に対峙する個の姿勢を構築し、〈個に宿る何か〉をこそ根拠に詩を表出するのが正当である。歴史性、社会性、思想性を先行する詩想は滑稽である。そういう志向は個人の感受性で裁断していいことだ。状況や歴史の苦難や叫びの共同性への収斂よりも、それぞれの、ことばを拓く詩的創造の自由な精神を表現することがいいのだ。

野沢啓の「詩集でも出してなにか賞のひとつでもゲットしようとするようなさもしい根性は沖縄の詩人たちには無縁である。」と評価する言い方には同調できない。野沢の〈沖縄の詩人に寄り添う心〉はありがたいが、引き上げて型をはめる働きにもなっているからだ。詩集を出して、何かの賞やらに応募するのが沖縄の詩人でも多いのである。沖縄で山之口貘賞ができたとき、詩人たちが色めきだったし、貘賞狙いで詩集をだしているひともいる(いた)のである。どこでも「さもしい根性」を持っている人はいる。おれは一冠だ、あいつは二冠、三冠じゃないかと嘆く人をみてきた。清貧さに呪縛される必要はない。「さもしい」行為は個人の自由な欲求にかかわることである。

詩集。下地ヒロユキ『アンドロギュヌスの塔』、波平幸有『むる愛さ』、八重洋一郎『転変・全方位クライシス』、かわかみまさと『仏桑華の涙』、伊良波盛男『人類』、上原紀善『連音』、東木武市『蘇った遠い昔の僕』『ジャコの唄』、安里英子『月と太陽』、ローゼル川田『肝ぬ愛さ』、高柴三聞『ガジュマルの木から降ってきた』。……今年も年季の入った書き手の活発さが目立った。

詩誌。『あすら』『アブ』『霓』『全面詩歌句』『だるまおこぜ』『縄』『南溟』『滸』『万河』はそれぞれ号を重ねた。もうそろそろ詩集にまとめてもいい書き手がいっぱいいる。出してほしいものだ。

山之口貘賞に林慈の『浜紫苑』が決まった。         


詩誌「アブ」28号を発行しました = 松原敏夫 倉橋健一 田中眞人 西銘郁和 松永朋哉 宮城信大朗 鈴木智之 西原裕美 宮城正勝 山原みどり 樹乃タルオ 髙橋渉二 安里昌夫  

2022-11-18 | 沖縄の詩状況

詩誌「アブ」28号を発行しました。(2022年11月)

■ 詩 Poem

 松原敏夫  ばん、うわぁの言語牢泳ぎ 

 倉橋健一  優しい夕餉 

 田中眞人  その時間まで  

 西銘郁和  ワアヲオーの歌 

 松永朋哉  緑と青の檻 

 宮城信大朗  こころ・地獄 

 鈴木智之  不在 

 西原裕美  ニンゲンと猫 

(俳句)宮城正勝  車中泊 

■ 掌 編  Short Story

 山原みどり  異なもの 

 樹乃タルオ  ぼくはアタクー 

■ エッセイ・評論  Essay and Criticism

 髙橋渉二  キリスト教の女性蔑視 

 松原敏夫  沖縄ミネルバの肩から梟は呆れて飛び立った

 宮城正勝  水と油は水と油だ―比屋根薫を批判する 

 安里昌夫  「幼年期」のあれこれ(第2回) 

■ 松原敏夫  スマフツ(宮古語)詩  無狂い 

 


詩誌アブ 27号 発行しました。 2021年10月

2021-10-31 | 沖縄の詩状況

■ 詩 Poem

松原敏夫  開創期・イムとイン(海と犬)・海さわぎ・だれか   

倉橋健一  玄奘の馬   

野原誠喜  龍   

仲本瑩  川筋便り   

矢口哲男  迷走論 Ⅳ   

松永朋哉  竹富島のうた二題   

鈴木智之  深海   

西原裕美  雨音と道  

■ 短編小説  Short Story

山原みどり掌編集  魚・赤いブランコ・月に蠍を飼う・薄氷   

■ 追悼・宮城英定
新城兵一  宮城英定さんの死を悼む   

■ エッセイ・評論  Essay and Criticism

松原敏夫 日本現代詩の現在への感想録(宗近真一郎『詩は闘っている。誰もそれを知らない』・『現代詩手帖』2021年7月「夏の作品特集」)   

髙橋渉二 ルカの女嫌い   

宮城正勝  イノセンスは奇談を生む/吉田司著『ひめゆり忠臣蔵』・宗教集団を思想的に解読/芹沢俊介著『「イエスの方舟」論   

安里昌夫  「幼年期」のあれこれ    

■ 松原敏夫  スマフツ(宮古語)詩  無狂い


詩誌 アブ 第26号 発行しました from 沖縄

2021-05-31 | 沖縄の詩状況

詩誌 アブ 第26号 2021年4月1日 

 

■ 詩 Poem

松原敏夫  靴下を履いた屑鉄  2

田中眞人  星月夜  4

髙橋渉二  焼き尽くす絵画の記録  6

野原誠喜  てびち  8

新城兵一  老いてはからだに聴け! 10

松永朋哉  豊年祭(プィ) 12

宮城信大朗  さけ【行儀切】 14

下地ヒロユキ  卜全の呪文  16

鈴木智之  最後の冬  18

西原裕美  昼下がりの青空を  20

山原みどり  太古のいきものの骨ばかりの集落 22

(俳句)宮城正勝  天下太平  28

■ エッセイ・評論  Essay and Criticism

松原敏夫 比屋根薫『琉球的思考の花歌』についての断片的ノート 28

(書評)宮城正勝 「反復帰論」という錯誤 ― 比屋根薫『琉球的思考の花歌』を読む  40

■ 短編小説  Short Story

上地隆裕  朝薫幻視行 45

■ 松原敏夫  スマフツ(宮古語)詩  無狂い 14


(お知らせ) 清田政信についての公開シンポジウムが行われます。  in 沖縄県那覇市ジュンク堂書店

2019-09-04 | 沖縄の詩状況

評論集『渚に立つ』、雑誌「あんやんばまん」 発刊記念シンポジウム
                        ―詩人 清田政信について語り合う―

 

 かつて1960年代から80年代にかけて、詩や評論においてめざましい活躍をした詩人―清田政信は、いまでは伝説化された詩人として語られながら、その活躍の具体的な内容までは、それほど人々の間に知られているとは言えない現状にあります。

 しかし、この度(2018年8月)、出版社『共和国』から清田政信の評論集『渚に立つ』、今年の4月に出版社『小舟舎』から雑誌「あんやんばまん」(「清田政信研究会会誌」)が立て続けに発刊され、にわかに清田政信の活動の内容を再考する機運と機会が訪れてきています。そこで、これを機会に、いったい詩人―清田政信とは誰か、どんな貴重な仕事をなしつつある人物なのか、あらためて考え、彼との〈出会い〉のチャンスと〈場所〉を作るべく、詩の朗読と小さなシンポジウムを開催することにしました。皆さまのご来場をこころからお待ちしています。

 

                            記

 

 ◇とき    2019年9月14日(土)  午後3時~6時30分(質疑応答を含む)

 ◇ところ   ジュンク堂那覇店(地下1階 小ステージ)

 ◇参加費用 無料

 

[プログラム]

第Ⅰ部

  ○清田政信の詩の朗読  宮城信大朗(小文芸誌「霓」主宰)

   朗読詩:不在の女(「光と風との対話」所収)/内言語(「眠りの刑苦」所収)

 

第Ⅱ部

  ○シンポジウム

    司会  井上間従文(まゆも)

    登壇者 阿部小涼 川満信一 佐喜眞彩 下平尾直 新城兵一 松田潤

※  当日のシンポジウムの内容は、「あんやんばまん」第2号に掲載

 

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  清田政信研究会・会員一同(代表 新城兵一)

    E-mail takekazu43@yahoo.co.jp

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松原敏夫個人詩誌「アブ」第23号ー田中眞人、髙橋渉二、鈴木智之、下地ヒロユキ、西原裕美、伊良波盛男、新城兵一、高橋秀明、鈴木小すみれ、宮城正勝、山原みどり、上地隆裕、平良清志

2019-04-20 | 沖縄の詩状況

■ 詩 Poem

松原敏夫  ぼろぼろ Ⅱ    2

田中眞人  おんなたちは渚で呟く   4

髙橋渉二  嘲笑歌   6

鈴木智之  言葉と体    8

下地ヒロユキ  らしき仏   10

西原裕美  久茂地   12

伊良波盛男  向こうへ・波ノ音ガ聴コエル無人ノ里    14

新城兵一  「ふるさと」にて   16

高橋秀明  生死のあわい   18

鈴木小すみれ  己   20

宮城正勝  (俳句)昼酒   22

■ 短編小説 Short Story

山原みどり  山羊の脚    24

上地隆裕  魔弾の射手をめざす時    34

平良清志  (エッセイ風短編小説)素人作家若菜のスランプ    50

 

■ エッセイ・批評 Essay and Criticism

松原敏夫 缶詰ノート(文学と免疫力)・書評『渚に立つ』(清田政信)    62

■ 松原敏夫  ミャークフツ詩(宮古島方言詩) 無狂い XI 表紙ウラ


松原敏夫個人詩誌「アブ」第22号―瑶いろは、髙橋渉二、鈴木智之、西原裕美、田中眞人、宮城信大朗、宮城正勝、山原みどり、上地隆裕、吉村清

2019-04-19 | 沖縄の詩状況

■ 詩 Poem

松原敏夫  ぼろぼろ・短詩Ⅰ    2

瑶いろは  月の痕 ・いただきます    8

髙橋渉二  復 活   10

鈴木智之  四 月    12

西原裕美  しを待つヤギ   14

田中眞人  妻に―メア・クルパ   16

宮城信大朗  やまユリ   18

宮城正勝  (俳句)庭隅の渇き    19

■ 短編小説 Short Story

山原みどり  浅草のお稲荷さん・桃色の花 黄色    21

上地隆裕  ムジークフェラインの女    25

父の希望で西洋音楽の演奏家(ヴァイオリニスト)の道を歩む芙実枝は、オーストリア・ウィーンへ留学するが、師事する教授に沖縄にも伝統音楽があるのにそれを何故やらないんだと言われ、葛藤する。西洋音楽に人生をかける沖縄女性の物語。

■ エッセイ・評 論 Essay and Criticism

松原敏夫 缶詰ノート(私的近況雑録)     46

吉村清   伊良波盛男「ニルヤカナヤ王国」と玉代勢章氏の「沖縄文芸批評―小説の現在―<ニルヤカナヤ論>」感想     55

宮城正勝  「大衆の原像」をめぐって (1)   58

■ 松原敏夫  ミャークフツ詩(宮古島方言詩) 無狂い Ⅹ 表紙ウラ


松原敏夫個人詩誌「アブ」21号―市原千佳子、田中眞人、瑶いろは、下地ヒロユキ、髙橋渉二、鈴木智之、鈴木小すみれ、山原みどり、上地隆裕、岸辺 裕、宮城正勝

2019-04-18 | 沖縄の詩状況

■ 詩 Poem

松原敏夫  冬の砂浜にて・日々の屑    2

市原千佳子  らせん結び    6

田中眞人  悲歌カルテッド    8

瑶いろは  エアタイム    10

下地ヒロユキ  寺売り   12

髙橋渉二  汗   14

鈴木智之  明晰な死体だけが残されて    16

鈴木小すみれ  悪戯リップクリーム・SNS依存ちゃん    18

山原みどり   天狗と小鳥   20

■ 短編小説 Short Story

上地隆裕  バッハの微笑    22

山原みどり  アオサギ    41

■ エッセイ・評 論 Essay and Criticism

松原敏夫 缶詰ノート(パパイア窓での詩的哲学・伊良波盛男詩集『遺伝子の旅』
にふれて)     47

岸辺 裕    詩について     53

宮城正勝  芹沢俊介『親鸞で考える相模原殺傷事件』を読んで   57

 


松原敏夫個人詩誌「アブ」第21号を発行しました。

2018-02-05 | 沖縄の詩状況

久しぶりにブログ書きます。

松原敏夫個人詩誌「アブ」第21号を発行しました。

目次

■ 詩 Poem

松原敏夫  冬の砂浜にて・日々の屑    2

市原千佳子  らせん結び    6

田中眞人  悲歌カルテッド    8

瑶いろは  エアタイム    10

下地ヒロユキ  寺売り   12

髙橋渉二  汗   14

鈴木智之  明晰な死体だけが残されて    16

鈴木小すみれ  悪戯リップクリーム・SNS依存ちゃん    18

山原みどり   天狗と小鳥   20

■ 短編小説 Short Story

上地隆裕  バッハの微笑    22

山原みどり  アオサギ    41

■ エッセイ・評 論 Essay and Criticism

松原敏夫 缶詰ノート(パパイア窓での詩的哲学・伊良波盛男詩集『遺伝子の旅』
にふれて)     47

岸辺 裕    詩について     53

宮城正勝  芹沢俊介『親鸞で考える相模原殺傷事件』を読んで   57


沖縄詩2016年末回顧―平敷武蕉,潮境,越境広場,南溟,山川宗司,瑶いろは,波平幸有,鈴木小すみれ,中里友豪,下地ヒロユキ,島言葉詩

2017-02-17 | 沖縄の詩状況

 沖縄での開催が二度目となる「日本現代詩人会西日本ゼミナールin沖縄」が「現在(いま)沖縄で文学するということ」をテーマに県内外から160余名の参加を得て2月に開催された。平敷武蕉の「時代に向き合う文学」、八重洋一郎の実作者の立場から詩作心構え伝授の講演「詩の方法と詩の未来」があった。沖縄や世界の現在の状況に絡めた二人の話は真に迫った内容といえる。特に平敷が「現実と格闘しない詩はただの修辞的な詩にすぎない」と断言したのは彼の文学観からして当然でてくる挑発的な主張。ところが講演のあとの質疑がほとんど出なかったと市原千佳子がぼやいていた。(「琉球新報時評2016」、3月25日)。思うに、「沖縄で―」と内向きにしたからではないか。県外の参加者は、高江、辺野古で熱く流動する今の沖縄の状況から発言を回避したのか。沖縄の詩的思考から、「いまの日本の現代詩」全体に切り込んだテーマであれば反応はよかったのではないか。方法的には正論だし異論をあえていう必要がないとスルーしたのかもしれない。政治集会的になる危惧という声が聞こえたようだが、それぞれが自分の詩想と方法をもっているから、距離をおいて聞いていたにちがいない。状況詩は詩作の一部にすぎない。「現実と格闘する詩」も、「ただの修辞的な詩」もいいものはいいのだ。問題は素材をいかに文学言語、詩的言語で表現しているか、につきる。

 ゼミにあわせて『沖縄詩人アンソロジー 潮境』第1号が刊行された。沖縄の書き手を一堂に会したいい企画だった。55名参加。入るべき5、6名の作品がないのが気にはなったが、これで大体沖縄の書き手と質がわかった。それぞれのモチーフ、多様な内容の作品が並ぶ。詩法的観点からいえば、散文的行分け、書き殴り、随筆的、メッセージ先行的、知の披露、手法のリフレーン………等々の言葉が読めた。インスピレーションとポエジー精神から生まれる言語芸術としての詩作品。境涯、感性、感情からくるモチーフを詩的表現豊かにするには、やはり詩的技巧精神も必要だな、と感じた。比喩を創造する詩的想像力は言葉を美に変える。詩とはなんぞや? 持続を期待する。

 『越境広場』2号が沖縄詩特集「詩と思想」を掲載していた。11名が書いている。詩作品、評論があって内容充実の感。この雑誌、「来たるべき言葉のための巡航誌」と銘打っている。言い方がうまいなあ、と感心する。状況、現実、言葉を交叉させて「来たるべき言葉」を構築していこうとする姿勢があるのだ。沖縄的詩学を画策する私としては、これからの文学、思想の創造に向かうことを期待するが。

 同人誌『南溟』が創刊された。『非世界』を廃刊して再出発したようだ。平敷武蕉の「いい作品を書くことがすべてだ」と書いた「マニフェスト」がいい。評論「危機の時代・文学の現在」では先の講演内容をもとに「状況詩」「文学者の自己規制」をあげ、沖縄の詩歌の現在を批評している。

 詩集刊行は今年も活発。山川宗司『少年の日といくつかの夕日』、瑶いろは『詩集うたう星うたう』、波平幸有詩集『思いみぐい』、鈴木小すみれ『詩集恋はクスリ』、浦崎敏子『春のクルーズ船』、やまのはとしこ『尚円王は松金妻はカマル』、中里友豪『長いロスタイム』、下地ヒロユキ『読みづらい文字』。

 同人(個人)誌はコンスタントな刊行。『あすら』『アブ』『EKE』『KANA』『霓』『だるまおこぜ』『とぅもーる』『縄』『万河』『脈』は号を重ねた。EKEは50号記念。

 今年の山之口貘賞は山川宗司の『少年の―』。網谷厚子の『魂魄風』が小熊秀雄賞、白井明大の『生きようと生きるほうに』が丸山豊賞に選ばれた。また県内の大学生、高専学生を対象にした琉球大学びぶりお文学賞の作品集(詩、小説)が今年も発行された。

 沖縄詩のひとつの特徴でもある島言葉(方言)詩作品は、今年は少ないように感じた。実作者の立場からいえば、読まれてもいないなという印象。むろん現代詩そのものが読まれないし、島言葉詩は、さらに読まれない。共通言語でないため、「わからない」とまず来る。特に離島の島言葉で書くと、そうだ。本当は日本語(共通語)で書いた方が楽なのだが、島言葉を現代詩の領域にする愚かな戦略をもっている者としては、言語表現の孤独を矜恃として続けたい。
                                                        (詩誌「アブ」主宰)


沖縄詩・年末回顧2015 波平幸有、網谷厚子、宮城信大朗、高橋渉二、矢口哲男、高良勉、新城兵一

2016-02-14 | 沖縄の詩状況

沖縄の詩・年末回顧(2015年)

 

一篇の詩が何を素材にしようとかまわないが、 その素材の描き方に私は注目する。表現の面白さと同時に本質的なものに触れているようなポエジーを求める。担当した今年2月の沖縄タイムス「詩時評」でも「誰も経験しなかった詩的表現を生み出す格闘こそ詩人の闘い」「詩が面白いのは未知の創造的な新しい世界をつかんだ言葉の発見に成功したときだ。」と詩作への希望を述べたが、場所性と自己性と現在性への想像力が入るとなおいい。

今年も詩集発行は活発だった。印象に残ったものでは、まず波平幸有『小の情景』である。小(ぐゎあ)は沖縄独特の親和的表現。「ひと、ものすべてがぐゎあの中で成り立っている町」(町小)。「今日は思いきり泣くために来ましたと 若い娘は張り切っていた」(涙小)。ノスタルジアへの生のほろ苦さ、ウイットが絶妙だ。山之口貘賞に選ばれたのは納得する。この詩集は連作形式にみえる。連作は下地ヒロユキの「アンドロギュヌスの塔」シリーズ(宮古島文学)もある。作品のテーマに連続性を持たして素材を引き出し表出する書き方が詩的探求を面白くさせている。

網谷厚子『魂魄風』。事物、風景に分け入ってそこにみえる空間の綾を散文でとらえる。宮城信大朗『恋人』。性愛、感覚、イロニーの繊細なささやきを表出。高橋渉二『死海』。聖地訪問の光景を信仰の内的情景で語る。矢口哲男・石田尚志『李村(スモモムラ)』。意味を排した自在なイマージュ、言葉が拓くものと掴みかたがある。

ほかに飽浦敏『トゥバラーマを歌う』。白井明大『生きようと生きるほうへ』。浦崎敏子『フィンドホーンの雨』。千葉達人『全存在の組成祭詩集』。『びぶりお文学賞受賞作品集』は県内の大学生を対象にした詩・小説文学賞の作品集。

昨年逝去した詩人の本がでている。東風平恵典遺稿・追悼集『カザンミ』と石川為丸遺稿詩集『島惑い 私の』。読みながら改めて惜念を感じた。

高良勉の論集『言振り』。高良の広範な知識には感服する。日本語詩と琉球語詩という発想、展開がある。「相互批評が不在の場合は〈評価〉の権威化につながる危険性も指摘しておかなければならない」(沖縄戦後詩史論)。こういう言説は楽しい。

詩誌での作品発表も旺盛だった。辺野古を意識した作品が多く目についた。最近、ある人から、あなたの代表作は何ですか?と聞かれて困った。書き散らすばかりで、そんなふうに考えたことはなかったからだ。みんな代表作ですとかわしたが、詩作はいつでも代表作を書くように心してかかるべきかもしれない。

『あすら』は10年目で40号の大台。『脈』同様に勢いのある詩誌だ。年4回発行はすごい。サイクルは早いか適当か。ページ数も多い。これだけの詩誌であれば、特集を組んだ出し方もあるのではないか。新しい個人誌がでた。八重山在住の砂川哲雄の『とぅもーる』。『宮古島文学』とあわせて先島での文学活動が楽しみだ。

『あすら』39~42。『アブ』16~17。『EKE』47~48。『KANA』22。『非世界』29~30。『宮古島文学』11。『脈』83~86。『万河』13~14。『縄』29。『うらそえ文藝』20が詩アンソロジーを特集。『だるまおこぜ』11。『小文芸誌 霓』5。『とぅもーる』1~2。若い世代が結集する『1999』が今年も出ないのはさみしい。

詩論で目立ったのは新城兵一の「沖縄―現代詩の現在地点 その詩的言語に対する熾烈な自意識」(宮古島文学11)である。昨年出した松原や市原千佳子の詩集を丁寧に分析しながら評価と批判をしている。詩意識から繰り出した鋭い批評には迫力を感じる。方言詩を沖縄回帰として批判している。私が島言葉を使うのは芸術言語=詩語として生成する詩想からきている。このことについては別の機会で触れたい。

アンケートに「沖縄の詩人は各々、自らの詩論、詩法を持たなければならない。」(あすら40)と応えた八重洋一郎の文章や本土出身と地元沖縄の詩人の距離をあげ「本土生まれの詩人に、たとえ失敗しても、沖縄を描く可能性があるのか」と問う、中村不二夫「沖縄と不可能性の詩学」(うらそえ文藝)が印象に残った。

日本現代詩人会の西日本ゼミナールが来年2月に那覇で予定され、地元会員を中心に実行に向けて活動している。成功を祈るとともに沖縄からの詩的メッセージを強く発信することを願う。

                                                              (詩誌『アブ』主宰)


「倉橋健一の詩集をよむ」(朝日新聞)で紹介されました。『ゆがいなブザのパリヤー』

2015-10-29 | 沖縄の詩状況

倉橋健一さんが「起点」という作品をあげて、この詩集を紹介してくださったことに歓喜、プカラス(宮古方言=うれしい)だった。ひそかに尊敬している倉橋健一さんにである。プカラスのあまり知人にメールで知らせた。

この詩集への読みがありがたい。なるほどこういう読み方をされる一面があるのかと逆に教えられた感じがした。
島言葉(私の場合、みゃーくふつ=宮古語)での詩作へ理解してくれている。「歌謡」という見方を導入すると、言葉へのまた新たな見方がうまれる。言語表出が相対化される快楽もある。沖縄への理解が、本土的視点であることは、逆に、島人が気づかないところもあるので、言語理解の奥行きが深まってくる。そこがいい。
詩の発生、根源的なるものへ遡行する詩想がどんな形ででてくるのか。ときどきこういうことを考え考えしながら書いたりしている。そこが詩法が多面的になってなっていくのである。やむをえない。特に、無意識と修辞が結びついてでてくる言葉がある。言葉で、言葉を書く、というのが詩的冒険を許可してくれる。日本語も琉球=沖縄語(島言葉)も外国語も造語も詩的言語にしていくつもりでいる。詩の言葉でしか切り取れない時やものやところを書いていきたい。存在や時代を修辞で切り取って語ってもいいと思うところがある。

多謝。タンディガータンディ。