NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#151 レッド・ツェッぺリン「レッド・ツェッぺリンIII」(east west japan AMCY-4007)

2022-04-14 05:00:00 | Weblog

2003年5月4日(日)



#151 レッド・ツェッぺリン「レッド・ツェッぺリンIII」(east west japan AMCY-4007)

レッド・ツェッぺリンのサード・アルバム。70年リリース。

筆者が生まれて何枚目かに買ったアルバムだけに、いったい何十回、何百回聴いたか、測り知れない。

アナログ盤はとうに擦り切れ、今ではこうしてCDで聴いているのだが、この一枚に対する思いのたけを書き出したら、たぶん際限なく続くと思うので、今回は要点だけ。

「IMMIGRANT SONG(移民の歌)」は、ご存じZEPが日本でも大ブレイクするきっかけとなったシングル曲。

ギター・ソロが入っているわけでなし、単純なリフのみ、今聴いてみると曲の作りはおそろしくシンプルだが、それでもロバート・プラントのターザンを思わせる雄叫びは、ZEPというバンドの存在を日本中に知らしめるに十二分な威力を持っていた。

まさに「つかみはOK」的な一曲(笑)。

「FRIENDS(フレンズ)」はアコギとパーカッション、ストリングスを使った野心作。現代音楽的、あるいはエスニック音楽的な不協和音の続くアレンジが、従来のZEPのブルース・ロック路線とはかなり違う。

この流れは後年、ペイジ=プラントの「NO QUARTER」あたりで、ひとつのまとまりを見せることになる。

「CELEBRATION DAY(祭典の日)」は、筆者的にも結構オキニな一曲。

ハード・ロックなリフが続く前半から一転、サザン・ソウルの雰囲気が横溢するサビとなる。このあたり、実にカッコいい。いかにも、アトランティック・レーベルのアーティストっぽいね。

「SINCE I'VE BEEN LOVING YOU(貴方を愛しつづけて)」は前半(A面)のハイライトともいえる、マイナー調のブルーズィな名曲。

静かに始まり、いきなり、胸をかきむしるようなフレーズで盛り上がるギターの前奏。もう、このへんからリスナーのハートを鷲づかみだ。

プラントのヴォーカルも最高にいい。オーティス・レディング、ウィルスン・ピケットにもひけをとらない、ディープでソウルフルな歌いぶりに、ノック・アウトされまくり。

ペイジのギター・ソロ、アルペジオも、ベストな出来ばえ。ジョーンジーのオルガン、ボンゾのドラムもパーフェクト。

「OUT ON THE TILES(アウト・オン・ザ・タイルズ)」は当初、シングル「移民の歌」のB面だった曲。

体育館みたいな広い場所で録ったように聴こえる、奥行きのある音場が印象的な、ハード・ロック・ナンバー。ことにイカしているのが、ボンゾの叩き出す変則リズムだ。また、リフのカッコよさでは、ZEPの数ある曲の中でも、一、二を争うんじゃなかろうか。

後半へ行こう。アナログ盤のB面は俗に「アコースティック・サイド」などとよばれているが、確かにアコギ中心のアレンジになっている。

当時のファンの中には「B面はつまらないので、聴かない」というひとが結構いたようだが、どうだろうか。このアルバムを出した意義は、実はB面のような新しいサウンドへと踏み出したことだと思うんだがねえ。

確かに、ZEPに「ゴリゴリのハードロック・バンド」のイメージを求めてアルバムを買うファンが多かったのは事実だが、ZEPほど多様で豊かな音楽性をもっていたロック・バンドはそうない。

このアルバムこそは、「ハードロック・バンド」という括りを軽く飛び越えて、「ZEPミュージック」とでもいうべき独特のカテゴリを打立てた記念碑なのだと、筆者は思っている。

「天国への階段」も、「カシミール」も、このアルバムを土壌に花咲いた名曲なのだと思うよ。

さて、「GALLOWS POLE(ギャロウズ・ポウル)」はレッドベリーなどでおなじみのトラディショナル。シンプルなフレーズの繰り返しで構成されており、素朴ながらも躍動感に富んだ一曲。

アコギのみならず、バンジョーやマンドリンも加えたアレンジ。それが結構サマになっている。ペイジ、ジョーンジーの器用さがうかがえる。

「TANGERINE(タンジェリン)」はペイジの弾くペダル・スティール・ギターがいかにもカントリーな一曲。タイトルにぺイジのエスニック趣味がにじみ出ているように思う。

「THAT'S THE WAY(ザッツ・ザ・ウェイ)」もカントリー趣味があふれたナンバー。CSN&Yあたりの、ウェスト・コースト系バンドにも一脈通じるものがあるサウンド。ZEPがことにアメリカ人に人気のある所以だろう。

ZEPはそれまでは「メロディの美しさ」というものに、余り重きをおかず、シンプルなリフの繰り返しが生み出す「力強さ」を最重要視してたという気がするが、このアルバム以降、次第にメロディをメインにフィーチャーするようになっていく。「ザッツ~」はその典型例といえるだろう。

そしてその傾向は、次のアルバム、なかんずく「天国への階段」で結実することになる。

「BRON-Y AUR STOMP(スノウドニアの小屋)」は軽快なビートのブリティッシュ・トラッド風ナンバー。ペイジのギター・プレイに英国のグループ、ペンタングルあたりの影響を強く感じるね。

「HATS OFF TO (ROY) HARPER(ハッツ・オフ・トゥ・ロイ・ハーパー)」はタイトルが示すように、英国のユニークなシンガー、ロイ・ハーパーにトリビュートした作品。

この曲をはじめて聴いたとき、ヴォーカルやスライド・ギター・プレイのあまりもの「濃さ」に筆者は引いてしまった記憶がある。

それもそのはず、この曲はブッカ・ホワイトの「SHAKE 'EM ON DOWN」という古ーいブルースを下敷きにしたものなのである。

当時(13才くらい)、戦前のカントリー・ブルースなど一度も聴いたことのなかった筆者にとっては、ものすごく強烈な「体験」であった。まるで、ウィスキーを原液でいきなり飲まされたような感じだった(笑)。

ZEPがファーストやセカンド・アルバムで取上げていた黒人ブルースは、そうはいっても第二次大戦後の、しかも都市のそれが中心だったので、とても同じジャンルの音楽とはにわかに思えなかった。

そのうち、これもまたブルースの一形態だとわかってきたんだけどね。

そして、その(奇妙な)サウンドがようやく耳になじんだころには、すっかりブルースのとりことなってしまっていた、というわけだ。

そういう意味でも、この一枚は、新しい世界への水先案内人でもあったのだ。

…なんて、書き出したら、やっぱり長くなってしまった。

とにかく、ZEPがブルース・ロック、ハード・ロックのカテゴリを超越して、文字通り世界一のバンドとなった証明がこの一枚。

聴かずして、ロックは語れんぞよ。