NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#139 ジョー・ウィリアムズ「EVERY NIGHT」(VERVE 833 236-2)

2022-04-02 05:29:00 | Weblog

2003年2月9日(日)



ジョー・ウィリアムズ「EVERY NIGHT」(VERVE 833 236-2)

(1)SHAKE, RATTLE AND ROLL (2)EVERY NIGHT (3)A DOLLAR FOR A DIME (4)TOO MARVELOUS FOR WORDS (5)SOMETIMES I'M HAPPY (6)EVERYDAY (I HAVE THE BLUES)/ALL BLUES (7)SAME OL' STORY (8)JIMMY'S BLUES (9)I WANT A LITTLE GIRL (10)DON'T YOU KNOW I CARE (11)ROLL 'EM PETE

筆者の場合、いくらブルースやロックが三度のメシより好きだからといって、いつもそういうジャンルの歌ばかり聴いているわけではない。

他のジャンルでも、本当に歌のうまいシンガーなら、積極的に聴く。

逆にいくらブルースやロックでも、歌があまりいいと感じられないアーティストは、ノーサンキューだ。

ディスクを聴くことの出来る時間はしょせん有限だから、貴重な時間を有効活用するためにも、上質のものを厳選して聴く。

これが筆者のやりかただ。

そこで今日の一枚である。黒人ジャズ・シンガー、ジョー・ウィリアムズのライヴ盤。87年リリース。

これがなんともブルースな一枚なのだ。

もちろん、いわゆる「ブルース」のカテゴリーに入る曲は数えるほどしかないが、その「フィーリング」は凡百のブルースマンなど逆立ちしたってかなわない。とにかく抜群に歌がうまいのである。

ジョー・ウィリアムズについて簡単に紹介しておくと、1918年ジョージア州生まれ、カウント・ベイシー楽団のシンガーとして名を上げ、ソロとして独立してからもさまざまなミュージシャンと共演、数多くのアルバムを発表してきたが、99年、80才でこの世を去っている。

ナット・キング・コールやビッグ・ジョー・ターナーに影響を受けたという、中低音に特徴のあるなめらかな歌声で一世を風靡した。黒人ジャズ・シンガーとしては、成功した数少ないひとりといえよう。

このライヴは、カリフォルニアはハリウッドのジャズクラブ「ヴァイン・ストリート」にて収録されたもの。

ビシッと黒のタキシードで正装したウィリアムズが、ステージに上がってまず歌うのは、(1)。

オリジナルはブルースシンガー、ビッグ・ジョー・ターナー。ビル・へイリー&コメッツのカバーで知られるロックンロール・ナンバー(54年)だが、その大ヒットの翌年、カウント・ベイシー楽団もさっそく録音をしている。

もともとジャズとロックンロールに截然とした違いがあったわけではない。

成り立ちから見れば、ロックンロールはいわばジャズの亜種として生まれたようなものだ。だから、このナンバーがジャズ、ロックの両サイドで愛唱されたのも、実に自然なことなのだ。

ウィリアムズはなんとも楽しげに、軽やかにシャウトしてこの曲を歌う。そのリズム感、ドライヴ感は、ハンパなブルースマン、ロッカーを軽く凌駕するものだ。

続く(2)は、このアルバム・タイトルにもなっている、ウィリアムズ自身のオリジナル。

毎晩毎晩ショー・ビジネスに明け暮れる、彼自身の心境を投影させたかのような、ブルース・ナンバーだ。

これが実にいい。ときにはシャウト、ときにはソフトに包み込むような歌い方で、さらにはユーモラスな語りもまじえて、日常の苦しみと喜びを歌い上げる姿は、ブルースマン以上にブルース的だ。

(3)は一転して、いかにもジャズ・シンガーらしい、バラード・ナンバー。「もう一度ときめきをくれるのなら、君のためには何だってする」という内容の、この上なく甘いラヴ・ソング。

これを聴いてロマンチックな気分にならない女性は絶対いない、というくらいの極上のスウィートな歌声だ。

(4)もジャズィなバラード。ジョニー・マーサーの美しいメロディに、彼のヴェルヴェットを思わせる声質がぴったりとマッチしている。

バックの演奏も素晴らしく、ことにヘンリー・ジョンスンの正統派ジャズ・ギターが耳に心地いい。

(5)はウィリアムズの見事なスキャットが聴きものの、アップテンポのスウィンギーなナンバー。

バックも軽快にスウィング、ジョンスンのウェス・モンゴメリーばりのオクターヴ・プレイも聴ける。

バンマスのノーマン・シモンズのピアノ、ベースのボブ・バッジリーのソロもなかなか達者で、十分に楽しめる一曲だ。

続くは、この一枚の「目玉」といえるナンバー、(6)。

この「エヴリデイ・アイ・ハヴ・ザ・ブルース」はもちろん、メンフィス・スリム作の、名曲中の名曲と称されるブルース。

もともとは48年に「ノーバディ・ラヴス・ミー」というタイトルで世に出たのだが、その後、B・B・キングらのカヴァーにより、スタンダードとしての地位を獲得した。

で、このジョー・ウィリアムズもまた、同曲を50年代初頭には持ち歌としてヒットさせているのだ。

ご本家メンフィス・スリム、BBを東西両横綱とするなら、ウィリアムズは、いわば「大関」にも相当する存在なのである。

で、ここでは、ただその持ち歌を再演しただけではない。なんとバックにマイルス・デイヴィスのオリジナル「オール・ブルース」をモダンなスタイルで演奏させて、これに乗って「エヴリデイ~」を歌う、という凝りようなのだ。

これが意外にしっくりと合っていたりして、面白い。決して木に竹を接いだって感じではない。

やはり、ブルースとは、さまざまなサウンドに架け橋を渡す、強力無比の「共通語」なのだなと思った次第。

しかも、この曲、オリジナルの(2)と見事に「対」を成している。なんとも粋だねぇ~。

(7)は、同名異曲が多いタイトルだが、これはウィリアムズ独自の持ち歌。バーナード・アイグナーの作品。

軽快なテンポのフュージョン~AOR風ナンバーだ。彼本来のカラーから考えれば、かなり異色だが、持ち前のたくみなテクニックで、完璧に歌いこなしているのはさすが。

(8)は、40年代、カウント・ベイシー楽団にも在籍したことのある、ウィリアムズにとっては先輩格にあたるシンガー、ジミー・ラッシングのオリジナル。

タイトルもまさに「まんま」という感じのブルース。ラッシングもまた、ブルース感覚にあふれたジャズ・シンガーのひとりで、ブルースを歌ったアルバムを何枚も出しているほどだ。

先輩への尊敬をこめて歌うこのブルース・ナンバーは、ソフトな歌い方ながら、実にディープ。これぞ、本物の味わいだ。

(9)は30年代のスタンダード。ルイ・アームストロングの歌でおなじみだが、カウント・ベイシー楽団もレパートリーとしていて、これまたラッシングがヴォーカルを担当している。

スウィンギーにしてブルーズィ、まさにウィリアムズにうってつけの佳曲といえよう。もちろん、文句なしの出来ばえだ。

(10)はエリントン・ナンバー。シモンズのピアノ・プレイがこのうえなく美しい。そして、ハートフルなウィリアムズの歌唱も最高。

「私がどれだけあなたのことを思っているか、あなたは知らない」という思いを、最上質のヴェルヴェット・ヴォイスにのせて、切々と歌う。これでクラッとこない女性がいるだろうか?

さて、ラストは彼もリスペクトするビッグ・ジョー・ターナーのナンバー、(11)。

ターナーもまた、カウント・ベイシー楽団で30~40年代活躍したシンガーだ。その特徴ある早口ヴォーカルで、不動の人気を得ている。

超アップ・テンポの伴奏に負けじと、歌とスキャットで飛ばしまくるウィリアムズ。

先輩シンガーの名曲を心から楽しんでいるのが、ダイレクトに伝わってくる一曲だ。

以上、「ショーはかくあるべし」と言えそうな、究極のエンタテインメントなライヴ。

同じようにステージで歌う人間にとって、これ以上のお手本はないというぐらい、完全無欠のステージング。

とにかく、モノホンの風格に、圧倒されまっせ。

<独断評価>★★★★