波士敦謾録

岩倉使節団ヨリ百三十余年ヲ経テ

Eye-contactの作法

2005-07-23 01:15:58 | 米国事情
 大西洋の反対側に位置するためか,英国での連続爆破未遂事件の迸(とばっち)りを見事に受け,波士敦の主要地下鉄駅でも厳つい顔の警官が頻繁に見廻るようになってしまった.このような状況の下で,普通の日本人ならば,西原理恵子が描いた岸和田市のだんじり祭の場面にあった,「ええか,ここのおっちゃんは野生の動物と一緒やからな.目をあわせたらあかんで.ノドボトケ見ながら話しいや」(『できるかな』78頁) ではないが,明後日の方向を見て,警察官と目が合わないようにするに違いない.天皇陛下の天顔を庶民が平視することさえ不敬と見做されたような過去を持つ社会では,演説等は別として,eye-contactは原則的に避けるべきものと思われる.十余年の在米生活からあれこれ判断すると,eye-contactの作法は場所(国)や人種によって明らかに違い,日本の作法では予想外の結果を招きかねない.
 100%とは言えないが,米国では原則的にeye-contactは進んでやり,尚且つ微笑や挨拶(HiやHow're you dong?)を添える,という不文律があると思われる.此方の面接攻略本では,初対面の人間と会って握手をする際は相手と必ずeye-contactをとることが書かれているが,そのような際,相手にeye-contactを避けるような素振が窺われれば,相手にとって自分が余り会いたくない人間であることを悟らなくてはいけない.此方の大型電器店の出口では,個人の万引きや知り合いの店員との連係による万引きを防止するため,万引き自動警備装置だけでなく,係りの店員が買物を済ませた客の袋の中身と領収書を一々確認している処が多い.このような状況の場合,係りの店員とeye-contactを避けたり,目線が彼方此方動いて据わっていないというのは,何かやましい事をしている証拠と見做される可能性が高い.米国の若い女性については,eye-contactの際の微笑が,当人の気立て・育ちの良さの証拠とみなされ,相手に好感度を与えるという不文律があるようだ.問題なのは,男女共学など御法度というような社会から米国に来た男達の中には,米国娘の小さいときから仕込まれた条件反射的社交辞令微笑を当人に対する特別な感情の現れと誤解する初心な輩が居る事だ.また,儒教圏から米国に来たばかりの若い女性にもこのような不文律を理解していない者が多く,自国での教えと思われる,見知らぬ所に行ったら相手(特に若い男)に隙を見せないよう仏頂面(ぶっちょうづら)を保つ,という趣の反応を相手に示して,自分の好感度を態々落としている.一方,男対男の場合,歩道上で偶然に目が合った見知らぬ同士間でも,"What's up"とか"How're you doing?"等と声を掛け合うことが多いが,これも,日本人間の会釈はたまた「山」,「川」という合言葉と似たような役割を果たしている(米社会への新参者か,どうか)とも見做せる.
 万国共通のeye-contactの作法の一つは,酒・薬物等の影響で何か素振がおかしい相手とは絶対目を合わせない,というものだろうか.
© 2005 Ichinoi Yoshinori. All rights reserved. [Last Update:07/23/2005/ EST]