波士敦謾録

岩倉使節団ヨリ百三十余年ヲ経テ

米国西部国有地の野生馬と日本の馬刺し

2005-06-27 07:11:58 | 雑感

 最近の太田述正氏のコラムで捕鯨の話題が扱われていて,其の中で,アングロサクソン対日本の動物観の対決が論じられている.捕鯨やイルカ,そして最近乱獲で揺れる鮨用の鮪など,食をめぐる日米文化対決には話題を欠かない状態が続いている.これ以外にも,多分日本では新聞等で話題になっていない食文化に関係した動物がある.馬である.軍備の一環としての馬産奨励が第二次大戦敗戦とともに終わり,また戦後の農作業の機械化により農耕用馬の飼育がほぼ消滅した.よって,国内の馬肉消費量を国産馬では賄えないため,日本は米国等から馬肉を輸入しているようだ.
 太田氏は「動物界についても、アングロサクソンが時々勝手に線引きを変えてしまう」と述べているが,ここ数年米国人が執心している鯨,イルカ以外のもう一つの事例がある.それは米本土西部の国有地に棲息するムスタング(野生馬)だ.1970年代まで当該野生馬は業者が比較的自由に捕獲・できていたが,その捕獲等の手段の荒っぽさが動物愛護者を刺激したようで,1971年にWild Free-Roaming Horse and Burro Actが成立し,連邦政府が個体数の管理をする形になった.年間の間引き枠から,民間から乗馬用としての引き取り希望者を募り,引き取り手のなかった分を動物保護区に回すというやり方である.ところが,今年3月に法改正(バーンズ修正)があり,間引き対象野生馬を直接商業向けに回すことも認められるようになった.これに対して,野生馬保護団体はあらゆる手段を講じて前述の法改正を無効にしようと連邦上院・下院に働きかけている(http://www.wildhorsepreservation.com/index.html).
 このような動きは,都会生活で各食材生産現場との繋がりを見失い,人間という存在が時には血なまぐさい食物連鎖の階層構造に立っているという現実に直面する機会を失った「先進国」社会に特有の感傷主義によるもので,別に米国に限ったものではないと言えるかも知れない.しかし,米国の主流報道機関の姿勢を見ていると(例えば,http://msnbc.msn.com/id/6769671/),馬肉を食する習慣を今でも持っている国は日本,フランス,ベルギー等,という名指し方で,太田氏の階層構造における第2階(日本は今でも2階に降級中?)の連中ばかりだ.馬肉を食べるなんて何と野蛮な連中,やはり第2階の連中だけのことはある,という姿勢を何と無く感じてしまうのは,第2階住人の歯軋りだろうか.因みに,米国の野生馬保護団体の中には,鯨に続けとばかりに,馬の禁止を世界的に進めようとしているものもある(例えば,http://www.ahdf.org/slaughter.html).

© 2005 Ichinoi Yoshinori. All rights reserved. [Last Update:6/25/2005/ EST]