医療と適当に折り合いをつける内科医

医師国家試験浪人後の適当な医療を目指す内科医を追います

盆踊りは人間を人間たらしめるか

2007-08-21 20:20:43 | 日記
お盆休みを何とか頂いて、今年も行って参りました盆踊り。とある田舎町の本来なら縁もゆかりもないところなのですが。いろんなことを感じさせてくるあの土地へ今年も行ってきたのです。あの町は今年も去年と何の変わりもなくいつもの場所でした。あの緑のにおいと川のにおいの混じる風景。そして日が暮れてから朝まで気が狂ったかのように踊るあの熱気。もう表現しがたいほどのエネルギーがそこにはあります。わずか人口1万7000人の小さな土地で、これほどの活気が生まれうるという事実に愕然とします。今年はもう一箇所、そこからさらに北へ10数キロの場所にあるこれまた人口1万人ちょっとの小さな町の盆踊りでも踊ってきました。そして常に頭に浮かんでくるキーワードは「感覚の共有」という言葉だったのです。

 最初の町での素敵な光景のお話をしてもよいでしょうか。実は昨年も踊ってらっしゃったのですがおそらく20代で、すっすっとした伸びのいい動きをされるお姉さんで、粋のいい踊りをするなぁと思っていた方が今年もやはりよく目立って輪の中を泳いでらっしゃったのです。よく見るとその後ろからこれはおそらく10代半ばと思われる、まだあどけなさがかなり残っている少女がついてきていました。通常の輪踊りではゆっくりと進みながら踊るのですが、一部の上手な方はその内側の輪っかを数倍の速さで回ってゆきます。動きも大きくなり華やかになりますが、当然動きは雑になりがちで難しいのです。その2人の女性は内側の輪で踊っていたのですが、後ろからついてきていた少女はお姉さんについて行くのに必死でもちろん踊りはとてもうまいというわけにはいきません。ただ少女の、前を行くお姉さんを、踊りながら片時も離さず見つめる視線には強い光がありました。まるで少しも動きを逃してはいけないといわんばかりの、その人に吸い込まれてゆくような眼差し。前のお姉さんはお姉さんで後ろから来る少女には一向にお構いなしなのです。着いて来たいようにこさせているだけで、何か話しかけたりとかそういう雰囲気ではない。感じ取りたければ感じ取りなさいといった感じ。

そこの盆踊りは踊り自体は10種類程度あり、それぞれ振り付けは決まっているのです。ただ、上手い人にはいくつかの踊りのアレンジがあり、動きが大きく伸びのある上手さから、動き自体は小さく細かい動きで渋さを出すような上手さ、おどけたような動きの上手さなどそれぞれに上手さというものがあるのです。まるで流派があるような雰囲気すら漂います。おそらくその少女はそのお姉さんの踊り方にほれ込み、そこにとてつもない美を感じたに違いなく、それを我がものにしたいという強い気持ちがあったのでしょう。そうでなければ10時間も後ろから追っかけるわけがないのです。実際私もそのお姉さんはいい踊りをすると目を見張るものがありました。逆に私は別の40過ぎと思われる男性で渋い動きをする方の踊りにほれ込んでしまい、その人の近くで動きを盗みながら踊っていました。その時そこに「感覚の共有性」があることにふと気づいたのです。

先達の持っている粋だとか、かっこいいという感覚を見て下の人も同じようにいいと感じる。そしてそれを感覚で吸収して、自分で表現してゆく。そこにあるのはまさに感覚の共有です。人と人とをつなぐのはまさにこの感覚の共有であって、それ以外の何ものでもない。この感覚の共有が何にもまして大切なもので、人というのはこれを共有するために日常において数々の創意工夫がなされていると思われるのです。そして祭り、踊りはその最たるものだと思われます。アイスブレーキングも会社の団体旅行も出し物も本来はそのためにあるようなものです。ところが最近はこの感覚の共有が何故か難しくなっているようです。特に踊りの分野では。よさこいソーランがいけてないということを昔書いたのですが、今回その明確な理由がわかりました。あのお祭りには感覚の共有がないのです。一部の同団体内での共有は行われるものの、全体での共有は行われません。まさに自分たちだけが共有し、楽しければあとはどうだっていいのです。もちろん参加人数が多すぎることが共有できなくなった大きな理由だとは思うのですが、あのお祭りで共有できているのはもはや「場所」だけにすぎません。ただ与えられた会場にいろんな人が集まって適当に自分たちの好きな踊りを踊っているだけなのです。そんなお祭りには私はまったく興味がありませんし、コミュニティという意味での街づくりや町おこしにはなりえないと思います。そこにある成功はひとえに資本主義的、数値主義的なものでしかないのです。

話が長くなったので、次回、次の町でのエピソードを踏まえながらまた話を進めたいと思います。

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