Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

夜顔

2010-03-19 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★★★ 2006年/フランス・ポルトガル 監督/マノエル・デ・オリヴェイラ

「ポケットに飴を見つけた」

ブニュエルの名作「昼顔」の後日談として、マノエル・デ・オリヴェイラが御年99歳で撮影したと言う、まさに爺さんによる爺さんの映画であります。妻の形見を捨てストイックな生き方を選んだ「扉をたたく人」のウォルターに比べたら、このユッソン、執着もりもりの好色爺です。さすが、おフランス。

かつて秘め事を共有した女との再会。会いたくない彼女を追いかけ回す。まあ、その浮き足だった様子と言ったら!まるで、ポケットに入れたまま忘れていた飴玉を見つけた子供のよう。こんなところにあったんだ。嬉々として口に入れる。しゃぶり尽くすのがもったいないから、また包みに入れてポケットに戻す。そして、時折手を差し込んでその存在を確認する。

もし、セヴリーヌをカトリーヌ・ドヌーブが演じていたら、この作品は全く様相を変えただでしょうね。おそらく、セブリーヌのその後にイマジネーションは膨らみ、男と女の駆け引きがクローズアップされたに違いないのです。でも、本作はあくまでもこの好色爺の胸の内を想像させることに終始しているのね。

したり顔で見知らぬバーテンダーに女の秘密を暴露する。それって、反則じゃない。爺さんのいやらしさ、しつこさが厳然として存在しているわけですが、そこを小粋に見せてしまうってのがオリヴェイラ監督の職人技。バーに入り浸るふたりの娼婦の存在が効いてますね。ようやく、セブリーヌをとっつかまえて約束を取り付けるシーンなんて、一体どこから撮影しているのでしょう?ってくらいのロングショットで、無音なの。ホント、この引いては寄せる、引いては寄せるという間がすばらしいのね。

私がセブリーヌでも、ワインを頭からひっかけてやるわ、こんなジジイ。立ち去るセブリーヌを見てほくそ笑むユッソン。今日の晩餐の思い出をまた飴玉代わりに取りだしてはしゃぶるのよね。セブリーヌは、パリを去るのかしら。そして、ユッソンは死ぬまでパリでセブリーヌの亡霊を探し続けるんでしょうね。

「昼顔」を見ていた方がいいのには違いないのだけれど、案外見ていなくても楽しめると思いますよ。老いぼれジジイがバーテンダー相手に昔話をして、昔の女と飯を食ったという、それだけの話なのに、老いた男の狡さ、醜さ、哀しさが見事に映し出せるんだってことにちょっと感動。


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