Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

阿修羅のごとく

2007-12-18 | 日本映画(あ行)
★★★★ 2003年/日本 監督/森田芳光

「女優陣の愛くるしさが全面に」


私は以前、スカパーでこのNHKのドラマ版を見たことがあるんです。テーマソングであるトルコ軍隊の行進曲も強烈でしたし、姉妹間のぎすぎすした感じや浮気された母の内なる苦悩が、実に乾いた演出で展開されていました。浮気を知りつつ、何にも言わずに糠床をまぜる母の背中が怖いのなんの。女の「業」を描くという点では、私はドラマの方に軍配をあげます。特に長女の加藤治子と三女のいしだあゆみなんか、どちらかというといじわるだったり苦悩したりする演技が似合うタイプの女優さんですもん。

ただ、四姉妹を魅力的に描くという点においては、映画版の方が上。四者四様の生き方をうまく見せていたと思います。もちろん、主役を張れそうな女優が大集合しているので、それぞれにスポットを当てるという事務所側のオファーはあったでしょう。大竹しのぶも黒木瞳も深津絵里も森田作品で主役をこなしているので、それぞれの登場シーンは主役とも言える存在感を出しています。だから、余計に深田恭子が浮いてしまったかな。

いずれにしても、森田監督の女優陣に対する愛が感じられますねえ。それが却ってタイトルの「阿修羅のごとく」の意味合いを遠ざけてしまったか。ちょっと阿修羅には見えません。ただね、この昭和54年という舞台設定を現代に持ってきて、女心の葛藤をストレートに描いたところで、今の観客がどれだけピンと来たか疑わしいところ。この作品のポイントは「女が内に秘めているもの」ということですから、あんまり秘めなくなった(笑)現代女性にそれを見せたところで、女のイヤな部分ばかりがクローズアップされたことでしょう。

そこで現代版では、コミカルな演出も含め四姉妹を非常に愛らしく描いている。その愛らしさが際だっているからこそ、内に秘めたるものの陰鬱さが伝わってくるという構造に変えた。大女優をズラリと並べた配役だからこそ、こうせざるを得なかったのかも知れませんが、結果的には多くの人に受け入れやすい作品になりました。ただ個人的には、森田作品はもっと突き抜けた作風の方が好みです。
それにしても、現在に至るまで森田監督は、撮る作品の守備範囲が広いなあと感心します。