「ギャラクシーでも一応天候の変化はあったわ」
「でもその変化ときたらものすごく在り来りで日常生活に影響も殆どなかった」
アルトにマクロス・ギャラクシーの天気について聞かれたシェリル。
ギャラクシーの事を振り返りながら語るシェリルの口調はどこか淋しげだった。
「とくに特徴的なのは“雨”だったわ」
そういってシェリルは窓に視線を向ける。雨が先程と相変わらず窓を濡らしていた。
「雨?」
アルトもつられて窓に視線をやる。
「ギャラクシーでは夜にしか雨が降らなかったの」
「夜だけ?」
「子供の頃は知らなかったけど経済活動への影響を少なくする為と雨そのものに環境維持の薬剤が含まれていて、人体への影響は少ないんだけれどなるべく影響を避ける為に人の活動が少ない夜間に雨を降らせていたのよ」
「なんだか凄まじいな」
「ええ、でも歌手になって外の世界を知るまではそれが当たり前だって思ってたわ」
そこまで言ってシェリルはふと何かを思い出し、アルトに視線を向ける。
それに気付いたアルトもシェリルに視線を合わせた。
「ねぇ、アルト。あなた私がなんで雨を嫌っているか不思議だって言ったわよね?」
そう言われてアルトは昨晩の事を思い出した。
雨でもショッピングに行くのに問題はないだろうというアルトに対してシェリルは頑なに外出を嫌がり、アルトはそれが不思議でならなかったのだ。
「あ、あれはちょっと俺が気にし過ぎただけで…」
シェリルに申し訳ないことをしたのではと少したじろぐアルトだったが、とうのシェリルはそんなアルトの反応が可愛かったのか、クスリと笑ってみせた。
「いいのよ。せっかくだからその理由も教えてあげましょうか?」
「えっ?」
驚くアルトを尻目にシェリルは話始めた。
「私ね子供の頃、施設のベッドの中で聞く雨音が凄く嫌だった」
「決まって真っ黒な空から雨粒が降り注いで、それが一晩中続いて。得体の知れない何かに心も身体も蝕まれる、そんな錯覚に陥ったわ。だから今でも雨は苦手なの」
「それであんなに雨の中の外出を嫌がったのか」
アルトの言葉にシェリルは黙ったまま頷く。その姿は先程と違いすっかり元気を無くしていた。
「ごめんなさい、自分で教えてあげるって言って話したのに色々昔の事を思い出して勝手に切なくなっちゃって」
「シェリルが謝る事なんかないさ」
そういってアルトは席を立つとシェリルの横に腰掛けなおす。
「俺の方こそシェリルに謝らないといけないさ。嫌な思い出話させてしまって」
その言葉にシェリルは今度は横に首を振った。
「確かに嫌な思い出だけど、どんなにギャラクシーが最低な場所でも、私の過去が嫌なものでもあそこは私の故郷だし、私が歩んできた道。アルトにはそれをきちんと知っておいて欲しかったから」
「そうか…」
アルトはそっとシェリルの体を引き寄せ、ギュッと抱きしめた。
「アルト?」
「もしかしてギャラクシーはもう駄目なんじゃないかって思ってないか?」
「えっ!?」
「誰もギャラクシーの話題に触れたがらないのも、シェリルがギャラクシーの事を話して落ち込んでしまうのも『ギャラクシーの生存はもう絶望だ』って思っているからじゃないか?」
アルトの言葉にシェリルは返す言葉がなかった。
シェリル自身、公の場ではギャラクシーの生存を信じていると発言していたが、内心ではギャラクシーの生存を絶望視していたのだ。
「“希望のない奇跡を待って、どうなるの?”ってシェリルは歌っているけど、こんな時ぐらい奇跡を待ってもいいんじゃないか?誰かそういう奴がいたっていいと思うぞ」
アルトが楽観論を語る筈がない。シェリルにはそう思えた。
自分を元気づけようという彼なりの配慮だということは薄々シェリルは感じていた。
しかしアルトの言葉が例えどんなに気休めにしか過ぎない言葉であってもシェリルには今そういってくれるアルトが嬉しくてたまらなかった。
「ありがとう、アルト」
そのまましばらくシェリルはアルトに抱きしめられたままでいた。
彼の温もりが優しく彼女を包み、雨は相変わらず窓を濡らしていた。
-そして-
「やった!これで私の三連勝ね」
持ち駒を手に満面の笑みのシェリル。
「なんで、ど素人相手に勝てないんだ!?」
ガックリと肩を落とすアルト。結局将棋でもシェリルにボロ負けするアルトでした。
おわり
あとがき:相変わらず余裕がない管理人です。週末にあれこれ出来たので多少は落ち着いた感じですが、月内下手をすれば来月初めぐらいまでドタバタしそうです。
アルト×シェリル小説の第二弾です。シェリルの過去話とか捏造しすぎな感じではあります。まだ自分自身、マクロスFの第八話を観ておりません。(それどころではなかったというのが実際です)
伝え聞く話だとものすごい展開だったそうですが、何とか九話放送前に観たいところなんですが実際どうなるかかなり微妙な感じです。