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リーマン予想と素数の謎”2の5”〜素数の逆数和の発散とその度合い

2019年04月06日 13時24分32秒 | リーマンの謎

 前回”2の4”では、素数の第1の謎である”素数の逆数の和が無限大”である事を証明しました。そして、素数の個数の無限大が、ある程度”大きな無限大”である事も判りました。これだけでも怖ろしく凄い事なんですが。
 その上オイラーは、第2の謎である”素数の逆数和の発散の度合いがどれ程のものか”を簡単な漸化式で示しました。 


素数の発散と調和級数の発散の度合い

 結論から言えば、素数pの逆数和の発散の度合いは、Σ[p≤x]1/p~log(log∞)となります。
 事実オイラーは、”1/2+1/3+1/5+1/7+・・・=log(log∞)”と書き出しますが(1737)、後のガウスによっても指摘されてました(1792)。
 但し、”log(log∞)”という概念は現代数学にはなく、オイラーは”Σ[n<x]1/n~logx、x→∞”(ヨハン)と表されるのを単に”log∞”と解釈し、この二重対数という意味で”log(log∞)”と記しました。
 以下でも述べますが、素数の逆数の和の発散速度が極めて遅い事をオイラーが数学史上初めて、感覚的に表しました。
 しかし、これに数学の言葉で厳密な証明を与えたのは、誤差項を含んだメルテンスの第2定理”Σ[p≤x]1/p=log(logx)+a+O(1)、x→∞”が最初とされます(1874)。
 因みにFranz Mertens(1840-1927、イラスト左上)は、ポーランドの数学者で深リーマン予想の第一歩を与えたとされます。

 オイラーが示した素数pの逆数和の発散の度合いの漸化式”1/2+1/3+1/5+1/7+・・・=log(log∞)”ですが、ヨハン・ベルヌイ(1667-1748)が証明した調和級数の発散の漸化式”1+1/2+1/3•••=log∞"を使います。
 これは調和級数の発散が緩やか(log∞)である事と同時に、素数の逆数和”Σ1/p”の発散の速度が極めて遅い(log(log∞))事を示してます。
 先ず、調和級数の緩やかな発散”1+1/2+1/3•••=log∞"の証明ですが。現代微積分学の巨人と称されるヨハンは、”積分判定”を用います。ニコレ•オーレムの”比較判定法”と見比べると、とても興味深いですね。
 因みにオーレムの定理とは、1+1/2+(1/3+1/4)+(1/5+1/6+1/7+1/8)•••>
1+1/2+(1/4+1/4)+(1/8+1/8+1/8+1/8)+•••
=1+1/2+1/2+1/2+•••=∞と簡単なものでした。

 積分判定とは言っても、やり方はとても簡単です。まず調和級数(1+1/2+1/3•••)の各項に対応する面積を可算無限個の長方形の集まりと考え、n番目の項に対応する長方形を横幅1高さ1/nとすると、これらの長方形の面積の合計は調和級数の値に匹敵する。
 一方、曲線y=1/xのグラフで明らかな様に、1<x<nの部分の面積は広義積分∫[1,n]dx/xです。この面積は先程の長方形の総和により完全に覆われます。つまり、長方形の総和>広義積分ですね。
 故に、Σ[1,n]1/k>∫[1,n+1]dx/x=log(n+1)となり、ここでn→∞とすれば、1+1/2+1/3•••=log∞が導き出せます。


素数の逆数の和の発散の度合い

 次に素数pの逆数和の発散の度合いの漸化式”1/2+1/3+1/5+1/7+・・・=log(log∞)”ですが、ヨハンの調和級数の発散の漸化式にs=1のオイラー積を繋げます。
 そこで、log∞=1+1/2+1/3•••=1/(1−1/2)×1/(1−1/3)×1/(1−1/5)ו••に、1/(1−x)<10ˣ、0<x≤1/2を当てはめると、log∞=1+1/2+1/3•••=1/(1−1/2)×1/(1−1/3)×1/(1−1/5)ו••<10^(1/2)×10^(1/3)×10^(1/5)ו••=10^(1/2+1/3+1/5+•••)、
 よって、この不等式の両辺の対数をとると、log(log∞)=log(1+1/2+1/3•••)<1/2+1/3+1/5+•••=Σₚ1/pと、オイラーが示した簡易の漸化式が導けます。
 因みに、1/(1−x)<10ˣ、0<x≤1/2ですが。eˣの級数展開”eˣ≥1+x,x>0"をe²ˣ≥1+2x,2x>0と変形します。0<x≤1/2の時、両辺に1−xを掛け、e²ˣ(1−x)=1+x(1-2x)≥1。再び両辺を1−xで割ると、e²ˣ≥1/(1−x)。10>e²(=7.389...)より、10ˣ≥1/(1−x)となりますね。
 厳密には、メルテンスの証明を紹介すべきですが。これがかなり複雑で、ランダウより得られた初等的証明(1909)とも思いましたが、これもまた私めの理解を超えるものでした(悲)。
 故に、”ヨハンの調和級数=オイラー積”を使い、直感的な漸化式の証明でごまかしましたが、ここら辺は大まかな流れを掴む事が重要だと思います。

 一方で、この素数pの逆数和は、二重対数による”超ゆっくり”とした発散ですが、現在計算されてる”素数の逆数和”の値は約4であり、今世紀中をもってしても10を超える事はないとされます。
 因みに、オイラーが発見したこの素数の逆数和の発散の度合い”1/2+1/3+1/5+1/7+・・・=log(log∞)”から、素数定理”π(x)~x/logx”を推測する事は可能?とする声もありますが、色んな諸説があります。
 先ず、素数の密度関数φ(x)とするとφ(x)~(素数の個数)/x。これは素数の密度が素数の割合と考えると理解し易いです。
 素数の個数~素数の密度関数の積分より、∫(0,x)φ(t)/t*dt~Σ[p≤x]1/p=log(logx)、x→∞とみなし、両辺をxで微分するとφ(x)/x~1/xlogxとなり、φ(x)~1/logxが導けます。
 しかし、1/pとφ(t)/tの関係がどうも私には無理っぽです(「オイラーとリーマンのゼータ関数」)。
 事実、オイラーが素数密度に関し考察した証拠はなく、オイラー積からは定式化されたΣ1/p=log(log∞)を証明するのは不可能とされる(「ゼータ関数とリーマン予想」p2)。
 つまり、オイラーが発見した漸化式から素数定理を導いたという説には、無理があるとの見方が多いですね。

オイラーとガウスの素数密度

 しかし以上の事は、連続する素数間の平均距離がlogxという事と、xが素数である確率(素数密度)が1/logxである事を示唆してます。
 故にφ(x)~π(x)/xから、オイラーは素数定理”π(x)~x/logx(x→∞)”を得たとの噂もありますが、上述した様に、オイラーが素数の密度について考察した証拠はなく、”1/2+1/3+1/5+1/7+・・・=log(log∞)”という素数の発散の度合いの漸化式が数学的に厳密に証明されたのは、前述した様にメルテンス(1874)でした。

 以下でも述べますが。ガウスも1792年頃に、”素数密度が平均して1/logxである”と述べたとされるが。ガウスはオイラーの式を扱っておらず、経験的観察からこれを類推していた。
 故に”ガウスの素数定理”では、十分大きな整数x(→∞)が素数である確率p(x)は、”p(x)~1/logxと近似できる”とある。
 このガウスの素数定理のより精密な表示には、π(x)~∫(2,x)dt/logt=Li(x)(対数積分)がある。つまり、対数積分のお陰でより精確にπ(x)の挙動を表せた
 事実、素数の個数と対数積分のグラフを比べると、その差はxが大きい程に無視できるとされる。

 その後、1798年に出版した「数論」の中でルジャンドルは、オイラーやガウスと同じく、”素数の密度が1/logxである”と主張し、その公式”1/(Alogx+B)”を証明しようと試みた。
 このルジャンドルの式は、1800年から1850年にかけてアーベルやディリクレ、チェビシェフらによっても研究された。
 そして、オイラーを超える最初の”意味のある結果”は、後に述べるチェビシェフによってもたらされる。
 その後、アダマール(仏)と独立した形で素数定理を証明した、ド•ラ•バレ•プーサン(ベルギー)は、より精密な結果である、誤差項付きの素数定理π(x)=Li(x)+O(xe^(−c√logx))を証明します(1896)。 


オイラー積と素数密度

 ここで素数定理を証明する事はとても無理っぽなので、オイラー積と素数密度の大まかな関係についてだけ述べます。
 そこで、前述したガウスの素数定理であるxが素数である確率p(x)を大まかに推測します。
 自然数の中で、ある数xが2の倍数である確率は、およそ1/2ですね。2で割り切れない確率もおよそ(1−1/2)。
 故に、2でも3でも割り切れない確率もおよそ(1−1/2)(1−1/3)です。
 ここで確率という言葉を使ったが、以下でも述べますが、これはあくまで有限時の概念だから、無限大の時は自明ではない。だから”およそ”という言葉を使うんですね。
 故に、無限大の時は、2でも3でも割り切れない割合は、(1−1/2)(1−1/3)に収束すると言えます。
 以上よりxが、2でも3でも5でも7でも11•••でも割り切れない確率、つまりxが素数である確率p(x)は、(1−1/2)(1−1/3)(1−1/5)•••に収束します。故に、p(x)=(1−1/2)(1−1/3)(1−1/5)(1−1/7)•••、x→∞と書けますね。
 ここで、両辺の逆数をとると、1/p(x)=1/(1−1/2)×1/(1−1/3)×1/(1−1/5)ו••、これは1/p(x)がs=1のオイラー積になってます。
 故に、log∞=1+1/2+1/3•••=1/(1−1/2)×1/(1−1/3)×1/(1−1/5)ו••=1/p(x)となり、p(x)~1/logx”とガウス少年が予想した様に近似出来ます。 


リーマンの素数定理

 対数積分を使った”リーマン予想Θ付き素数定理”についてですが、「素数とゼータ関数」の著者の小山信也氏に言わせれば、自明に近い素数定理ですかね。
 先ず、x以下の素数の数π(x)を対数積分Li(x)=∫(2,x)dt/logtと誤差項O(x^Θ*logx)の和で表します(コッホの定理、1901)。
 因みに、Θ=supRe(ρ)、ρは虚零点で、リーマン予想はΘ=1/2となります。
 この時、ψ(x)=x+O(x^Θ*(logx)²)と上のπ(x)=Li(x)+O(x^Θ*logx)の2つの式が成立しますが、オイラー積を∏(x)=π(x)+O(x^1/2)と置きます。
 これにマンゴルト関数ψ(x)とアーベル総和法を用い、一方でLi(x)を部分積分で展開し、∏(x)−Li(x)を計算し、2つ目の式を得ます。
 部分積分で展開したLi(x)のn=1の項がx/logxとなり、π(x)~x/logx~Li(x)(x→∞)の2通りのπ(x)の挙動表示を得る。
 因みに、ψ(x)はチェビシェフ関数とも呼ばれ、ψ(x)~xはπ(x)~Li(x)と同義で、マンゴルドがリーマンの明示公式を導き出すのに使います。
 素数定理の厳密な証明は、実際にはもっともっと複雑なので、ここでは省きます。

 ここで、x/logxはx以下の素数の個数だから、x以下の自然数のうち素数の割合が1/logxである事を直感的に示してる。つまり、大きさxくらいの数が素数である確率は、xが大きい程小さくなり、その割合が1/logxという数式で与えられるという事ですね。
 上述したリーマンの”精密な素数定理”ですが、x個の整数を一律に扱い、一定の確率1/logxを適用するんでなく、個々の数に最適な数式を適用した結果である。
 故に、1からxまでの整数の中で、大きい数ほど素数になり難く、小さい数ほど素数になり易いから、1とxの途中にあるtが素数である確率1/logtをx以下のtに渡らせて積分したものがLi(x)であり、これがより精確にπ(x)の挙動を表してる。
 つまり、リーマン予想の下で成り立つ”Θ付き素数定理”は、従来の素数定理よりもずっと精密で本質的であると、小山氏は熱く語る。
 事実、このリーマンの素数定理を拡張すると、”素数がどれだけ沢山あるか”と”ゼータの複素領域が何処まで広がるか”の2つの謎(問題)が同義である事が解るとも語っておられる。


最後に〜素数定理の歴史

 従来の”素数定理”は前述した様に、僅か15歳のカール•フリードリヒ•ガウス(1777-1855)が初めて予想(1791)したとされてますが、本当はアドリアン•マリ•ルジャンドル(1752-1833)が最初とする(1796年予想、1798年発表)説もあります。
 1798年に発表されたルジャンドルの論文を既にガウス少年が知ってたという事実は何処にもなく、ガウスが14歳の時に既に、この素数定理の仕組みを予想してた事は、1849年(72歳)にエンケに宛てた手紙で明らかになってる。
 しかし、このルジャンドルも、アーベルやリーマンの尊敬を受けた超偉大な数学者であった事をお忘れなくです。

 その後、ディリクレの算術級数の素数定理(1837)、チェビシェフの粗い素数定理(1848)やリーマンによる新たな解析的方法(素数公式=自明な素数定理)が発表されたが、完全な証明はプーサンとアダマールがそれぞれ独立に与えられた(1896)。
 当初与えられた証明はゼータ関数と複素関数論を用いる高度なものであったが。弱いリーマン予想とされる”ゼータ関数が Re(s)=1上に零点を持たない”というそれだけの事から素数定理を導きしたアダマールとプーサンの偉業はは驚異と絶賛に値する。

 以降、素数定理の証明の簡略化が進み、1930年代にはランダウを経て、ウィナー&池原のタウバー型定理を使った極めてシンプルな証明が得られます。さらに、1949年にセルバーグとエルデシュは、独立に初等的な証明(ゼータ関数および複素関数論を用いない)を与えた。
 以上、長々と見苦しくなりましたが、これからも”素数の謎”宜しくです。



4 コメント

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素数の謎の心臓部 (paulkuroneko )
2019-04-06 08:39:13
お久し振りです。いよいよ素数の謎の心臓部ですかね。転んだサンの本気度がひしひしと伝わってくる。

素数定理の歴史を紐解くとそのまま数学の歴史と重なります。この一見シンプルな素数定理にかかわった数学者を見れば、一目瞭然ですか。

特にプーサンとアダマールの貢献は驚異に値します。リーマン予想と素数定理を結び付けたんですから。この事実こそがリーマンの叶えられた夢だったのではないでしょうか。

転んだサン言ってられるように、素数の謎がゼータの謎に結び付くキッカケを作ったのが素数定理なんですかね。

ブログ読んでて久しぶりに興奮しました。





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paulさん (lemonwater2017)
2019-04-07 03:04:48
今さっき少し編集しました。どうしても曖昧な部分が多々あって、素数定理となるとpaulさんいうように、リーマンの謎の心臓部ですものね。

でも素数定理の歴史って何だか凄まじいです。このその2はオイラーの素数に関する定理であっさりと終えようと思ってたんですが、オイラーの素数定理に結びつくので、その5で書く予定の素数定理にまで踏み込んでしまいました。

でもここである程度、素数定理を砕いとかないと、リーマン予想とゼータと素数の関係の密な結び付きが曖昧になりますもんね。

タイトルを”リーマン予想と素数の謎”としたのは正解だったかな。一部”リーマンの謎”となってるので今から修正します。
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素数の逆数が何で? (HooRoo)
2019-04-08 05:24:45
素数の逆数が何で素数の個数になるの?

もしかして素数の逆数の和の発散の度合いが素数の密度の度合いに似てるって事かな?

ああますます判んないな。
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それが解れば (lemonwater2017)
2019-04-08 13:02:34
Hoo嬢は数学を専攻した方がいいね。センスあるよ、絶対。

でもよく気付いたね。私もそこだけが迷ったの。Σ1/p〜∫φ(t)dt/tの所ですね。つまり、φ(t)〜t/pという事かな。数が大きくなるほど素数が少なくなるもんね。

嗚呼、頭が混乱してきたな。
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