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◆企業防衛 ニレコの新株予約権発行に対する差止認められる

2005年06月06日 19時50分46秒 | 企業法務学習日記
1 概要

 東京地方裁判所民事第8部(鹿子木康裁判長)は,6月1日,本年3月14日に発行が決議され手続が進められていた株式会社ニレコの新株予約権発行を差し止める決定を下した。

 今回の差止請求は,ニレコが本年17年3月14日の取締役会で決議した新株予約権発行について,ニレコの株主である投資ファンド会社ザ・エスエフピー・バリュー・リアライゼーション・マスター・ファンド・リミテッド(英領ケイマン諸島)が,同新株予約権発行は,①商法が定める機関権限の分配秩序違反,取締役の善管注意義務・忠実義務違反等の法令違反にあたるものであること,②著しく不公正な方法によるものであることを理由として,5月9日に差止の仮処分を求めていたもので,ニッポン放送新株予約権発行差止事件と同様,民事第8部で審理がなされていた。

 今回の地裁決定は,請求理由のうち①については認めなかったものの,②につき,事前の防衛策として不適当として差止を認めた。新聞報道等によれば,決定の特徴の1つは,防衛策を発動する際の取締役会の恣意的判断を排除する枠組について,経済産業省研究会の報告よりも厳しく設定することを要求している点であるという。
 
2 判旨

◆ 法令違反であるかについて

 裁判所は,本件新株予約権発行が法令に違反しているとの主張について,以下のような理由で排斥した。

 まず,商法が定める機関権限の分配秩序違反,及び,取締役の善管注意義務・忠実義務違反との主張については,法令違反にいう法令とは新株発行に際して会社が遵守すべき具体的規定をいうところ,機関権限の分配秩序は商法全体の趣旨から導出されるものであり,また,取締役の善管注意義務・忠実義務は新株発行に際して会社が遵守すべき具体的規定には含まれないと解すべき,として本件新株予約権発行は法令違反ではないとした。

 次に,株主平等原則違反 及び,株式の自由譲渡性を定める規定に違反するとの主張については,本件新株予約権は割当基準日における株主全員に持株数に応じて割り当てるもので株主平等原則に違反せず,また,本件新株予約権発行により株式譲渡制限がかかるわけではないので自由譲渡性を定める規定に違反するものではない,として法令違反ではないとした。 

 また,証券取引法106条の32に違反するとの主張については,同条の名宛人は証券取引所であるから予約権を発行する会社には適用されない,として法令違反には当たらないとした。

◆ 不公正発行といえるかについて

 裁判所は,本件新株予約権発行目的を「株式会社の経営支配権に現に争いが生じていない場面において,将来,敵対的買収によって経営支配権を争う株主が生じることを想定して,かかる事態が生じた際に新株予約権の行使を可能することにより当該株主比率を低下させることを主要な目的として発行されるもの」と認定した上で,事前防衛策として新株予約権発行が許容される要件について述べている。

 まず,商法上,取締役は株主総会により選任・解任される立場にあるところ,取締役が株主構成の変更を主要目的とする新株等発行を認めることは「商法が機関権限の分配を定めた法意に明らかに反する」として原則として禁止されている旨明らかにした。そして具体的に,有事の場合,原則として,株主構成の変更を主要目的とする新株等の発行は認められないが,相手がグリーンメーラーのような場合は緊急避難的措置として許される場合があるとした。しかし,平時において,事前の防衛策として株主構成の変更を主要目的とする新株等の発行を行うことは緊急避難的措置ともいえず,株主総会の意思によらず取締役会の判断で発行することは原則として許されないとした。そして,例外として発行が許される要件を次のように述べる。

「 したがって,本件のような事前の対抗策としての新株予約権の発行は,原則として株主総会の意思に基づいて行うべきであるが,株主総会は必ずしも機動的に開催可能な機関とは言い難く,次期株主総会までの間において,会社に回復し難い損害をもたらす敵対的買収者が出現する可能性を全く否定することはできないことから,事前の対抗策として相当な方法による限り,取締役会の決議により新株予約権の発行を行うことが許容される場合もあると考えられる。しかし,その場合であっても,少なくとも事前の対抗策としての新株予約権の発行に株主総会の意思が反映される仕組みが必要というべきであり,また,新株予約権の行使条件の成就の判断を取締役会に委ねることについては,現経営者による権限の濫用のおそれが必然的に随伴するから,取締役会の恣意的判断の防止策も必要である。
 そうであれば,取締役会の決議により事前の対抗策としての新株予約権の発行を行うためには,①新株予約権が株主総会の判断により消却が可能なものとなっているなど,事前の対抗策としての新株予約権の発行に株主総会の意思が反映される仕組みとなっていること,②新株予約権の行使条件の成就が,取締役会による緊急避難的措置が許容される場合,すなわち敵対的買収者が真摯に合理的な経営を目指すものではなく,敵対的買収者による支配権取得が会社に回復し難い損害をもたらす事情がある場合に限定されるとともに,条件成就の公正な判断が確保される(客観的な消却条件を設定するとか,独立性の高い社外者が消却の判断を行うなど)など,条件成就に関する取締役会の恣意的判断が防止される仕組みとなっていること(なお,敵対的買収者に対し事業計画の提案を求め,取締役会が当該買収者と協議するとともに,代替案を提示し,これらについて株主に判断させる目的で,合理的なルールが定められている場合において,敵対的買収者が当該ルールを遵守しないときは,敵対的買収者が真摯に合理的な経営を目指すものではないことを推認することができよう。),③新株予約権の発行が,買収とは無関係の株主に不測の損害を与えるものではないことなどの点から判断して,事前の対抗策として相当な方法によるものであることが必要というべきであり,こうした事情を会社側が疎明,立証した場合は,将来における敵対的買収者の持株比率を低下させることを主たる目的とする新株予約権であっても,その発行を差し止めることはできない。


東京地裁決定全文


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