夕陽丘

時事問題とロースクールの日常など

◆立法動向 独禁法改正案成立

2005年04月21日 23時39分40秒 | 企業法務学習日記
 昨年10月15日に国会に提出されていた「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案」が,20日,参議院本会議において可決,成立した。4月27日に公布され,来年1月に施行される予定。要旨は以下の通り。

1 課徴金制度の見直し
2 課徴金減免制度の導入
3 犯則調査権限の導入等
4 審判手続等の見直し


1 課徴金制度の見直し
① 課徴金算定率の引き上げ
② 違反行為を早期に中止した場合,算定率を減軽
③ 違反行為を繰り返した場合,算定率を加増
④ 課徴金適用範囲の修正
⑤ 罰金との調整措置を導入(罰金相当額の半分を課徴金額から控除)

2 課徴金減免制度の導入
 違反事業者が自ら違反事実を申告等の法定要件を充足する場合,対象事業者中合計3社まで課徴金を減免。

3 犯則調査権限の導入等
① 刑事告発のために,犯則調査権限の導入
② 罰則規定の改正(中小企業等に不当な不利益を与える不公正な取引方法等の違反行為に対する確定排除措置命令違反罪に係る法人重科の導入,調査妨害等に対する罰則の引上げ・両罰規定)

4 審判手続等の見直し
① 勧告制度を廃止し,意見申述等の事前手続を設けた上で排除措置命令を行い,不服があれば審判を開始する手続に改正
② 審判官審判に関する規定の整備
③ 規則を定めるに当たっては,手続の適正の確保が図られるよう留意する旨の規定を創設

詳細は公取委のHPを参照

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◆裁判短信 操縦士の乗務時間延長訴訟で日航の敗訴判決が確定

2005年04月21日 23時24分37秒 | 企業法務学習日記
●新聞報道等によれば,4月20日,日本航空がパイロットらの乗務時間の上限を一方的に延長したのは違法だとして組合側が就業規則の無効確認を求めた訴訟について,日本航空は,控訴や上告を取り下げた。これにより,乗務時間延長と安全性の因果関係を指摘し,日本航空側が敗訴した判決が確定することになる。

●本件訴訟は,1993年に乗務時間の上限を2時間延長するなどした就業規則改定をめぐり,副操縦士らでつくる日航乗員組合の組合員が「乗員の疲労は安全性にかかわる」として提訴したもの。東京地裁と東京高裁で計3回,日航側敗訴の判決が出ていた。日本航空は今年3月に延長幅を1時間とする新たな就業規則を組合側に提案しており,4月15日付で改定した。


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◆中国ビジネスのリスクの増加

2005年04月21日 22時49分36秒 | 企業法務学習日記
 中国における反日騒動が収まらない。中国政府もようやく取り締まりや反日行動の問題点に対する啓蒙啓発に取り組み始めたが,どの程度の成果が出るのかは現時点では不透明だ。騒動は,デモだけでなくストライキを起こすまでになっている。すでに太陽誘電の現地工場でストライキがあったことが報じられているが,21日,ユニデンの現地工場で18日からストライキが行われ生産が完全に止まっていることが明らかになった。ストライキは,待遇改善等が実質的な目的であると考えられるが,反日を理由づけにできることが問題である。

 今回の騒動の原因は諸説いわれているが,やはり,いわゆる反日を内容とする愛国教育がもっとも大きな原因であることは否めない。そして,これが大きな原因であるが故に,今後も反日行動は事ある毎に繰り返されると想定すべきだと考える。韓国でもそうだが,反日の思想は,一般国民の精神的な深層に根付いている。普段は出てこなくとも,何かあれば,反日を理由づけないし正当化原理として様々な問題が起こってくる。

 従来,ビジネスにおける中国のリスクは,法治国家ではなく人治国家であること,言い換えれば,コネや賄賂,朝令暮改が日常茶飯事で安定した法システムの下での経済的合理性を追求できないことだとされてきた。つまり,中国リスク=法的リスクとされてきた。

 しかし,今回の騒動で明らかになったことは,ナショナリズムが大きなリスク要因になってきているということである。これは,従来からの法的リスクよりも遥かに影響力のあるものであり,また,定量的に判断できず,予測も困難である。また,私企業では解決できない内容を有するものでもある。

 中国のナショナリズムは,経済的発展と歩調をあわせるように大きくなっている。また,WEB利用者の増加がそれに拍車をかけている。そうだとすれば,ナショナリズムに起因するリスクは今後も増加すると考えるのが自然だろう。

 そこで問題なのは,日中の経済的な相互依存がこれからも続いていくことだ。そして,ナショナリズムを原因とする騒動が発生した場合,その影響は,中国にもあるが日本により大きく現れる。資源輸入国である本質を変えられない日本にとって,中国は石油を依存する中東に次いで影響の大きな国になりつつあるからだ。この構図が変わらない限り,ナショナリズムに起因するリスクは消えることはない。

 思うに,日本企業としては,今後,中国への依存を分散する取り組みが必要になってくるのではないか。例えば,ナショナリズムの点で日本との衝突のないインドや南米などとの取引を中国に対するリスクヘッジの意味でも重視していくべきではないだろうか。

 なかでも,インドは中国と同様,今後の成長が見込まれる国家である。人口や知的水準の点でも,市場としての価値は中国に劣らない。IT関連業務を中心として,アメリカ企業がインドにアウトソーシングしすぎることがアメリカの雇用を奪っているとの批判を生むほど,インド人のIT水準は高いといえる。投資や貿易の対象として申し分はないと思う。

 いつだったか,ニューズウィークのコラムで,日本は歴史的な問題をかかえる中国や韓国よりも極東ロシアとの関係を深めるべきだとの意見があった。ここでも,視点は,ナショナリズムに起因するリスクが回避できるということだろう。

 中国との相互依存を完全になくすることは,もとより不可能だ。とするなら,せめてリスクヘッジをするぐらいの対策は行うべきだと考える。もちろん,早急に。


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◆ケーススタディ 企業防衛 ベルシステム24事件

2005年04月21日 20時39分20秒 | 企業法務学習日記
① 2004年(平成16) 6月
 コールセンター業務最大手のベルシステム24は,大株主であったCSKから取締役の過半数を送り込みたい旨の提案を受ける。

② 7月20日
 ベルシステム24の取締役会は,日興コーディアル系投資会社NPIホールディングスを割当先とする1042億円の第三者割当増資を決議。これによりNPIに割当てられる株式は520万株(発行済株式の51.49%)。増資目的は,ソフトバンクグループとの包括業務提携を行うため,ソフトバンク系のBBコールの全株式を取得し子会社化するための資金調達等。また,基準日を本件増資の払込期日後に変更する。

③ 7月20日
 ベルシステム24の増資が実行されると,大株主であるCSKは,持株比率が39.2%から19%に半減し筆頭株主の地位を失い,反対にNPIホールディングスが51%を保有する筆頭株主になることになる。そこで,CSKは同日,東京地裁に対して,第三者割当による新株発行差止の仮処分を申立てた。

④ 7月30日
 東京地裁は,以下のように,発行目的は支配権維持とも思えるが,事案を総合すると,事業計画は合理的で支配権維持は主目的ではないとして仮処分を認めずCSKの申立てを却下する決定をする。CSKは東京高裁に即時抗告した。
 「本件新株発行の検討に先立ち,債務者代表者らが自らの支配権維持の目的を意図を有していたこと,本件業務提携に係る事業計画がこのような意図に起因したものであることは否定できないものの,本件業務提携に係る事業が約1,280億円の規模で実行されつつあり,本件新株発行によりそのうち約1,030億円が調達され,当該事業のために現実に投資される予定であること,事業計画には一応の合理性が認められ,債務者には相当の営業利益増が見込まれていることを考慮すると,少なくとも本件新株発行の決議時点において,本件新株発行が債務者の現経営陣の支配権維持を主要な目的とするものであったこと,すなわち,本件新株発行がそのような不当な目的を達成する手段として利用されたものであると一応認めることはできない」(金融・商事判例1201号4頁)

⑤ 8月4日
 東京高裁は,東京地裁決定を支持し,CSKの抗告棄却を決定。
 東京高裁も,「本件新株発行において,ベルシステム24代表者をはじめとするベルシステム24の現経営陣の一部が,CSKの持株比率を低下させて,自らの支配権を維持する意図を有していたとの疑いは容易に否定することができない」としつつ,事案を総合すれば,ベルシステム24には資金調達の必要があり,事業計画にも合理性が認められるとして,たとえ,支配権維持の目的があっても会社の発展等の正当な目的に優越するものではなく,著しく不公正な方法とはいえないとした。
 資金調達の必要性及び事業計画の合理性を認定した要点は以下の通り。
①事業計画は,ソフトバンクからの提案であった。
②ベル社とソフト社の交渉過程で,ベル社に有利な修正も行われていた。
③新株引受先のNPI社は,事業計画を詳細に分析し,経済的に合理性の認められる計画と判断した。
④公認会計士が,BBコール株式譲渡価格が妥当な価格と判断した。
⑤事業計画に対し,外部アナリストの評価にも肯定的なものがある。

 なお,ソフトバンクの孫社長が事業計画の合理性を法廷証言したことで,裁判所の心証形成がベル社側にかたむいたとの関係者の見方もある。

⑥ 8月5日
 CSKは,東京地裁への申立てを取り下げた。

⑦ 8月5日~6日
 CSKは,NPIホールディングスに保有するベルシステム24の全株式を譲渡した。



◆企業防衛 東証が全上場企業に過剰防衛の自粛を要請

2005年04月21日 20時27分22秒 | 企業法務学習日記
●4月21日,東京証券取引所は,全上場企業に対して,投資家保護の観点から敵対的買収への過剰な防衛策を自粛して投資家保護に留意するように要請したことを正式発表した。

●要請内容の要旨は,①導入目的,発動・解除・維持要件,発動の影響等防衛策導入に関する情報を株主・投資家に適時開示すること,②経営者の恣意的な判断で防衛策発動等がなされないよう防衛策発動要件等を明確にすること,③防衛策導入時の株主だけに予約権を付与しない等,防衛策が買収者以外に不測の損害を与えないようにすること,④株主の意思表示が機能する形の防衛策とすること,である。

●東京証券取引所は,5月に公表される見込みの経済産業省・法務省による企業価値防衛指針の内容や関係各方面の議論等を踏まえて,早ければ秋にも制度化する見込み。その場合,違反企業には上場廃止も検討する考えを示した。

●東京証券取引所の要請は,ライブドア騒動で盛り上がった防衛策導入の過熱をある程度冷却する効果を有する。また,内容も,主として買収者と防衛側の狭間で忘れられがちになる一般株主・投資家の保護を要請するものであり,妥当なものと考えられる。「一般投資家の意思表示が意味をなさない防衛策は上場企業の適格性を欠く(土本清幸東証上場部長)」というように,上場企業としての公正さが防衛策には必要となる。何が何でも買収されたくない企業は,上場の意味を再検討する必要がありそうだ。


東証の要請文原文

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