夕陽丘

時事問題とロースクールの日常など

◆中国ビジネスのリスクヘッジ 勢力均衡論の視点から

2005年04月24日 23時13分41秒 | 企業法務学習日記
 数週間にわたって継続した中国各地における反日騒動も中国政府の強力な介入の結果ひとまず収束に向かいそうである。次のきっかけは五四運動の記念日である5月4日前後の週末ともいわれているが,中国政府の姿勢に変化がない限り,今回起こったような大規模なデモや暴動に近い破壊活動にまでは至らないのではないかと考えている。もっとも,在留邦人に対する嫌がらせのような個別の問題は当分継続すると考えるべきであるから,日系企業としては,日本を強調するような活動を控えざるを得ないだろう。

 多少皮肉なのは,当初中国政府が「デモは自主的」で「邦人保護等には万全をつくした」といっていたことが,政府の強力な介入によりデモを見事に封じ込めたことで,単なる言い訳に近いことが明確になってしまったことだろう。

 今回の騒動は,国際的にも大きな関心を集めた。概ね,日本政府の歴史問題に対する対応に問題はあるものの今回の問題そのものは中国政府の側に責任があるという論調が多いように思う。

 日経新聞で現在連載されている記事に「第四の極 中国 ■世界の視線」というのがある。第3回目である今日の記事は,エマニュエル・トッド氏のインタビューが内容だったのだが,トッド氏が日本がロシアとの協力関係を進めるべきとしていることに興味を引かれた。

 エマニュエル・トッド氏は,現在,フランス国立人口学研究所研究員を務めている著名な歴史学者で,とくに,著書「帝国以後」は日本でも大きな注目を集めたことは周知のことだ。

 そのトッド氏いわく「米国依存を強める小泉純一郎首相の選択は極めて危険だ。台湾有事の際にも中国は日本を米国と一体とみなしかねない。地政学的に日本が組むべき戦略パートナーは地域のもう一つの極,ロシアだ。中国の台頭は両国共通の脅威だからだ」「ロシアの国内メディアには『なぜ日本は中国,韓国と周囲に敵ばかりつくってロシアと結ばないのか』との論調もある。勢力均衡論から考えて,日本と核抑止力を持つロシアが関係を改善すれば,中国も対日関係の安定を望むだろう」(日経4月24日朝刊4面)

 勢力均衡論の本場であるヨーロッパの学者らしい思考だなという感慨を抱く発言だが,日本を取り巻く地政学的要因をみれば,その発言は理に適っていると思える。

 というのは,冷戦終結と中国の台頭という2つの要因が日本の地政学的位置づけを大きく変化させている現実があるからだ。トッド氏の「日本の悲劇は地政学的に不安定な米中という二極に挟まれ,安全保障では米国,経済では中国に依存していることだ」(前記日経紙面引用)という発言にあるように,安全保障面では日米安保を軸としている一方で経済的には日米の貿易量を日中の貿易量が凌駕するという現実があり,もはや米国一方に依存していればよい時代ではなくなってしまっている。かといって,日本の一部にある脱欧米入亜論のように中国に依存すればいいわけでもない。最低限どちらとも良好な関係を維持していかなくてはならないのが現実だ。

 ただ,台湾有事のような問題が起きた場合,双方との良好な関係維持は困難にならざるを得ない。米中対立の場合に日本が全くの中立を保つことなど米中両国が認めることはないと考えられるからだ。そして,それは結局,日本が米中二極以外の自立した勢力ではないことと,さらに,環太平洋圏においては,歴史的に勢力均衡論が存在していないことが問題となっていると考えられる。仮に,環太平洋圏で勢力均衡が機能し,かつ,日本が1つの勢力として自立的であるならば,米中が対立しても日本としては,日本の国益にとりメリットの大きな方につくか,あるいは,他の勢力と連携して第三の極として米中双方に影響力を行使すればいい。そうすることで,安全保障・経済の両面で米中との相互の関係を維持しうることになる。

 その場合,重要になるのは,やはりロシアということになるのだろう(東南アジア諸国との連携もありうるが,直接的には国境を隣接するロシアだろう)。

 ここまでくると,中国とのビジネス上のリスク云々ではなく,国家レベルでの中国リスクの話になってしまうが,今回の騒動で明らかになった中国国民の深層にある反日感情という問題を考えた場合,国家レベルでの勢力均衡論の採用が結果的には対中ビジネスリスクを低減する効果を有すると考えうる。まあ,いきなり勢力均衡論といっても,歴史的経験がないから簡単ではないだろうが,少なくとも,リスクヘッジの意味で環太平洋圏での多極化を推進することは考えるべきではないだろうか。その意味で,ロシアとの関係改善は重要になってくると考えられる。

 こう考えて見ると,トッド氏のいうことは,正しいのだろうなと思う。とはいえ,勢力均衡論が数百年の歴史を有するヨーロッパと異なる環太平洋圏では,その実現はやはり難しい気はするのだが。

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