ポコアポコヤ

食べ物、お菓子、旅行、小説、漫画、映画、音楽など色々気軽にお話したいです(^○^)

小説「密やかな結晶」ネタバレ 小川洋子

2021-02-17 | 小説・漫画他

小川さんのファンで、殆どの本を読んで来ていたつもりでいたのに、本作はポッカリ抜けていたことを、先日のブッカー賞受賞候補作で話題になっていた時に気が付きました。
これって芥川賞受賞後、初の長編にトライした小説だったのですね。
去年の暮れ、リクエストして、やっと順番が回って来ました。

1994年と27年も前の作品ですが、いつもの小川さん節で最初からぐっと引き込まれ、結構重量のある小説でしたが、一気に一日で非常に面白く読ませてもらいました。

小川さんが非常に思い入れがあって、影響されている「アンネの日記」と共通する部分が多い内容でしたね。秘密警察「記憶狩り」に狙われ追われているのは、少数の記憶を失わない人達。

みんなが忘れて行くもの、エメラルド、鈴、切手、香水、きっぷ、ハーモニカ・・・そういう物を引き出しや、彫刻の中にこっそり隠していた今は亡き母は、記憶を持ち続ける危険因子だった。

主人公のわたしは、長年付き合いの続くフェリーに住むおじいさんと家族同様の良い関係を築いていて、おじいさんの協力を得て、編集者のR氏を自宅の隠れ部屋にかくまう様になる。


バラの花、写真、本、そして小説・・・と、段々物が消えて行く様子が切ない。
バラの花びらが川にびっしり流れて行く様子や、大量の本が焼かれた火の様子等、映像的に凄そうなシーンも。

本作は主人公が小説を書いていて、その小説の内容が、また独特で小川さんらしい。
タイプ教室に通っていた女性が先生だった教師に恋をし、いい関係になるも、タイプに声が吸収されて?声を失い会話はタイプでするようになる。
タイプライターが故障し、それを治してあげると彼に言われ、タイプライターが山積みされている時計台の最上階に通され、そこに閉じ込められてDV被害者になってしまう。

部屋に閉じ込められている時間が長く経つにつれて、その部屋に溶け込みすぎて、彼以外の人の会話・言葉が理解できなくなって行き、声も出せない事もあり、ここから出ることが怖くなってしまう。
その後、誰か(ヒールにプラスチックの滑り止めがついている)が登って来るのですが、その人に助けてアピールをすれば出て行けたのに、しないんですよね・・・。
彼からは「何故アピールしなかった?」と言われるのですが・・。

そして彼は、その階段を登って来た女性に気持ちや興味が行っている。
以前は、ヘンテコで謎の手作りの服を彼が持って来て、それに着がえさせられて好き勝手なことをされていましたが、手抜きでなんてことない服になって、そのうち食事もまともに出してもらえなくなって、弱って行く。
最後は、新しい女性(ヒールの)と2人で階段を登って来る足音を聞きながら、息絶えてしまったのかしら・・という処で終わっています。 
もしかして部屋に山積みにされているタイプライターは、そういった歴代の女性の残骸?なのでしょうか・・・。


小説が消えた後、主人公のわたしが就いた職業が偶然タイピストでした。普通の会社で働きつつ、R氏に小説をこっそり書くことを続けるように言われるも、なかなか難しいのでした。

10分の8あたりまでは最高に面白かったのですが・・・。最後の最後の展開が・・・。
トータル4つ★半

★以下ネタバレ★
物が消えるから、人間の左足が無くなり、右腕が・・・と、段々体も失われるって展開になってしまったのが、なんだか残念でした。 物の時点では、ナチス的国家?圧力が強制的にしている感があったけれど、体となるとSF的であり、誰もが管理出来ない謎な現象であるので・・・。
最後は全て消えて透明人間になってしまう主人公。みんながそうなった世の中だから、もう秘密警察に捕まることもない・・・。そして籠っていたR氏は自由に外に出る、という処で終わっています
以上

石原さとみさん主演で舞台になったり、amazonでハリウッド映画化されるとか、なんだかすごい事になっていて、でも小川さんのファンなので嬉しいです。

密やかな結晶 1994/1/1 小川洋子
内容(「BOOK」データベースより)
記憶狩りによって消滅が静かにすすむ島の生活。人は何をなくしたのかさえ思い出せない。何かをなくした小説ばかり書いているわたしも、言葉を、自分自身を確実に失っていった。有機物であることの人間の哀しみを澄んだまなざしで見つめ、現代の消滅、空無への願望を、美しく危険な情況の中で描く傑作長編。2019年度「全米図書賞」翻訳部門、2020年度「英国ブッカー国際賞」最終候補作。

小川洋子さんの他の本の感想
「小箱」
「約束された移動」
「あとは切手を、一枚貼るだけ」
「口笛の上手な白雪姫」
「シュガータイム」
「不時着する流星たち」
「琥珀のまたたき」
「注文の多い注文書」
「いつも彼らはどこかに」
「ことり」「とにかく散歩いたしましょう」 感想
「最果てアーケード」「余白の愛」小川洋子
刺繍をする少女
人質の朗読会
妄想気分
原稿零枚日記」
「ホテル・アイリス」「まぶた」「やさしい訴え」
「カラーひよことコーヒー豆」
小川洋子の偏愛短篇箱
猫を抱いて象と泳ぐ
「偶然の祝福」「博士の本棚」感想
妊娠カレンダー、貴婦人Aの蘇生、寡黙な死骸 みだらな弔い
薬指の標本 5つ☆ +ブラフマンの埋葬
「おとぎ話の忘れ物」と、「凍りついた香り」、「海」
「ミーナの行進」「完璧な病室・冷めない紅茶」感想
コメント (6)    この記事についてブログを書く
« 感想「横浜をつくった男―易聖... | トップ | 「京ばあむ」「バッハマン」... »

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
忘却の彼方 (こに)
2021-02-18 14:23:33
内容をすっかり忘れていました。
ようやく英訳されていたのですね。海外にも小川洋子さんのファンがたくさんいらっしゃると思うと嬉しいです。

舞台はWOWOWで放送されたみたいですね。CSのWOWOWプラスでいつか放送されるかも、チェック続けます。
映画も楽しみですね~。
返信する
こにさん☆ (latifa)
2021-02-19 18:08:56
こにさん、こんにちは!
小川さんの本って、確かヨーロッパで、結構翻訳されているみたいだけれど、いずれにせよ、注目されるのは嬉しいですよね!

そうなのかー、WOWWOWで放映されたのね?

そうそう、15年位前かな、「薬指の標本」もフランスだったかな、映画化されたのを見ました(主役がオルガ・キュリレンコ)
返信する
密やかな結晶 (存在する音楽)
2021-02-23 19:36:29
latifaさん こんばんは。

ずっと以前に読んでいました。
latifaさんは全部読まれてると思っていたので意外でした。
小川さんのアンネフランクを訪ねるのも読んだことがありますが、時期が重なってたんですね。現実とフィクションと過去が混ざったような感覚になったのを思い出しました。
石原さとみが舞台でやってたのも知らなかったですー
返信する
存在する音楽さん☆ (latifa)
2021-02-24 13:10:01
存在する音楽さん、こんにちは!
そうなんですよ、てっきり自分でも読んでいると思い込んでいました(正直、小川さんの小説の内容とタイトルと、ごっちゃになっているのもあって・・・)

存在する音楽さん、お読みになられていたんですねー!
何度か、小川さんの小説について、存在する音楽さんとお話したのは憶えているのですが、この本について、どういうお話をしたのか、記憶になくて・・・

(存在する音楽さんのブログでタイトルを検索かけたのですがヒットしなかったので、感想は書かれなかったのでしょうかね・・)

アンネフランクを訪ねる
これも未読なんです!読んでおかねば・・・。

存在する音楽さん、いいなあー!話題になる前に(まっさらな状態で)私も読んでおきたかったなあ・・・
返信する
感想 (存在する音楽)
2021-02-24 17:57:36
わかります。小川さんの小説はごっちゃになっちゃいますね

ブログで感想は書いてなかったかもしれません。

真っ新で読むと世界に浸ることができますよね。
返信する
存在する音楽さん☆ (latifa)
2021-02-25 15:20:07
存在する音楽さん、解って頂けて幸いです
昨日、こちらでお話をしてから、さっそく「アンネフランクを訪ねる」の本を図書館にリクエストしました。

一昨日「博士の愛した数式」がNHK BSで放映されていたのを14年ぶりに再見した処でした。
返信する

コメントを投稿

小説・漫画他」カテゴリの最新記事