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「シュガータイム 小川洋子 感想

2017-05-07 | 小説・漫画他

小川洋子ファンだというのに、この本を読んでいませんでした。面白かったです。4つ★ー4つ★半
本作は「妊娠カレンダー」(芥川賞受賞作)のほぼ同時期に発表された作品で、初の長編小説だったのですね。
初期の頃と現在の小川さんと、あの独特な雰囲気は変ってないなあ・・・と感慨深いものがありました。

過食症な主人公かおるの病的な食欲や食べ物対する過剰な意識は、「妊娠カレンダー」に少し通ずるものがあったかもです。
そして、身長が伸びない病気の弟の航平、ノンセクシャルな吉田さんという彼氏、こういった人が登場してくるのも、いかにも小川ワールドだなーと思いました。

ただ、この作品を書かれたのは、たぶん小川さんが大学を卒業して、まだ間もない頃だったこともあって、大学生の主人公とその友人の真由子の様子、大学の野球を見に行くシーン、真由子が帰省する時の駅での会話など、若さを感じる文章になっていました。

この真由子が、とても良い友達で、優しいんですよ。
異常な食欲について悩んでいることを相談すると、それに付き合って夜中3時まで食べまくってくれるし、吉田さんの事を相談して、事故に遭った時に、吉田さんのバイクの後ろに乗っていた32歳の女性が怪しい、とお家を追跡したり(この時代だからこそ教えてもらえたので、今なら教えてもらえないだろうなあー)、小川さんの小説には、ひとりぼっちの人が登場する事が多いせいか、良い友がいるという設定に、ほっと安心したり、微笑ましく感じました。

この小説の大家さんの家は宗教関係の人で、弟がその宗教の教会で修行する設定になっていましたが、小川さんの実家も、祖父や両親とも金光教の信者だったそうで、お家も教会の敷地内の離れにあったそうで、他の小川作品にも、こういった教会に暮らしている少女ってお話があったと記憶しています。弟のまばたきと、映画で見た少女のまばたき(フェリーニの「道」のジェルソミーナですよね)に心を奪われる主人公。

本作の中で印象に残ったフレーズは、「ユダヤ人の死体の脂で作った石けんのようなアイスクリーム」

★以下ネタバレ★
吉田さんがカウンセリングの一貫で出会った32才の女性と、「含まれあっている」という別れの手紙をよこすんですよ。
その関係性は、あたかも、かおると弟の様に特別なもののようで・・・。
それは、まあしょうがないとして、最後のデートで、かなり遠いところまで行ったのに、自分は急いで帰りたいからタクシーで行くと、方向音痴の彼女を一人残して去って行くってのは、どうよーー?って思いましたよ。
将来、孤独について考える時、この日の夕方、一人見知らぬ場所で残された時を思い出すだろう、って・・・可哀想過ぎるわーって思いました。ラストは、弟を食事に誘い、丁寧に色々な食事を作ってごちそうします。その夕食後、何か憑き物が堕ちたように、過剰な食欲熱が静かになったようでした。きっと治りそう・・・って予感を感じました。
そして、真由子と彼氏と弟と4人で、野球の試合に行くところで終わります。最初に見に行った時は1年生だったのに、今はもう4年生、最後の試合になるだろうこと、「わたしたちのシュガータイムにも終わりがあるっていうことね」と、締めくくっています。
以上

とても面白かったし、好きなお話でしたが、唯一、この本の題名である「シュガータイム」が、ピンと来ず、最後に「わたしたちのシュガ―タイムにも・・・」みたいなセリフが唐突にあるだけだった様な気がしちゃったかなー。

この小説って、雑誌のマリクレールに1990年3月から1年に渡って連載されていたのを単行本化したものだったらしく、そうかーあの時代のマリクレールにね・・・と、またまた、ノスタルジック?な気持ちになったのでした。

シュガータイム 1991/2初版 小川洋子

ちなみに、小川さんには息子が1人いて、その息子さんは、2012年の春に大学を卒業し、ファッション関係の会社に就職して家を出て行ったそうです。小川作品には、優しい息子が登場することがたまにあって、最近読んだ作品「不時着する流星たち」の中の「肉詰めピーマンとマットレス」で、息子が住む海外のとある町に母が訪ねて行ったら、息子が丁寧なガイド地図を用意してくれていた・・・ってのが、とっても好きでねー、あれは実話なんじゃないかな?って思いました。もしかしたら外国じゃなくて日本のどこかの町だったかもしれないな。



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「琥珀のまたたき」
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「最果てアーケード」「余白の愛」小川洋子
刺繍をする少女
人質の朗読会
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原稿零枚日記」
「ホテル・アイリス」「まぶた」「やさしい訴え」
「カラーひよことコーヒー豆」
小川洋子の偏愛短篇箱
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2 コメント

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Unknown (はまかぜ)
2017-05-09 17:55:02
真由子はとても良い友達でしたね
かおるに付き合って深夜3時まで色々な食べ物を食べていたのが凄いなと思いました。
吉田さんのバイクに乗っていた32歳の女性の件でも奮戦していて、友達のためにこれだけ親身になれるのは素晴らしいと思います。
そして吉田さん、遠くに出掛けた先でかおるを置いて一人で帰ってしまったのは酷かったですね

小川洋子さんの作品は久しぶりに読んだのですが面白い作品でした。
またいずれ他の作品も読んでみたいと思います
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はまかぜさん☆ (latifa)
2017-05-10 10:56:38
こんにちは、はまかぜさん
小川さんも、確か大学時代の寮生活などで、とても良い友人に恵まれて楽しい生活をされた・・・って、何かで読んだ記憶があって、その体験から来ているのかな?^^
最近の小川作品は、天涯孤独だったり、友人などいないような人が多いせいもあって、この本は、ちょっと珍しい感がありました。

是非、他の本も読んでくださいまし!
私の1番か2番に大好きな作家さんです。
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