つぶれた保育園に住む主人公。家具等殆どの物が小さく作られている。
子供の頃、弟とカマキリを狭い箱に閉じ込めて、自分たちだけの昆虫を生み出そうとした。
奇形が完成するまで決して箱を開けてはいけないと命じたエピソードに重ねあわせる表現とかは、ちょっとグロテスクだけど小川さんらしさを感じて大好きでした。
バリトンさんという今は会話が歌う事でしか表現できなくなった男性とコンスタントに会っている。彼は入院中の恋人から届く、小さくて読むのが難しい文字の手紙を、わたしが代わりに読解してあげている。彼は指紋を取り込んだ手編みのセーターを愛用している。
ここでは、死んだ子供の小さな骨や髪の毛で出来た楽器を西風で揺らしてひそやかな演奏会を楽しんでいる。バリトンさんもだが、死んだ息子の歩いた場所以外は行かないと決めた従姉もその一人だ。
わたしは博物館で打ち捨てられていたガラスの小箱を運び入れて、そこに人々は定期的に訪れ、今は亡き子供の成長に合わせて色々なものを持って来たり手入れをするのでした。
どうやら子供は消え失せてしまったのか・・・
それとも一部の子供を亡くしてしまった人達が集う場所なのか・・・
小川さんは、一人息子がいらっしゃって、昔から愛息が若くして亡くなってしまう、、、みたいなお話が幾つかあったかと思うのですが、きっと子育て中に、亡くなったらどうしよう!という恐怖感がいつもあって、それを小説にすることで折り合いつけていたりしたのかな・・・って思っていました。
今回は少女も登場しましたが、たいがいの場合、息子なんですよね。
途中笑っちゃイカンのですが、あなたへの愛を証明するために自らに与える罰の数々
睫毛を全て抜く、口内洗浄液を入れたまま夜を明かすとか、妙な試練があっておかしかったです。
うーん、本作も小川節だったし、途中まで面白かったのですが、なんでだろうか、あまりハマれなかったです。音楽会っていうのがピンと来なかったのかなあ・・・。それぞれのパーツやエピソードは好きな物が一杯だったのだけれど。
★以下ネタバレ★
耳にぶら下げていた楽器が、つむじ風で巻き上げられてどこかに行ってしまいます。その日、同様に無くした人が大勢いて、その場所ではそれらを探すために地面にかがんでいる人たちを頻繁に見かけるようになってしまいました。
バリトンさんの彼女は亡くなってしまいましたし、最後の方はもう文字が読めなくなって、代わりにそれらしい手紙を創作して読んであげていました。
以上
装丁が素敵です。
グランヴィルという方の作品なんですね。
表紙は「彗星の大旅行」開けた最初のページには「天空のの逍遥」
グランヴィルは、1803年生まれのフランスの風刺画家。
1830年から政治風刺で有名になった雑誌『カリカチュール』に風刺画を描いていましたが、それでは飽き足らず、次第に、反権力志向の強い文学作品の挿絵に没頭していきます。
彼は、幼い子供を不幸なことに次々と亡くします。
三男を生んだ妻も、産後の肥立ちが悪くこの世を去り、その三男も死んでしまうのです。
度重なる不幸に、グランヴィルは精神を病んでいったといいます。
40代半ば1847年3月17日、ヴァンヴの精神病院でこの世を去りました。
小川さんのファンなので、また次回作も楽しみです!
小箱 – 2019/10/7 小川洋子
内容・あらすじ amazonより
私の住む家は元幼稚園で、何もかもが小ぶりにできている。
講堂、給食室、保健室、人々の気持ちを慰める“安寧のための筆記室"もある。
私は郷土史資料館の学芸員であったバリトンさんの恋人から来る小さな文字の手紙を解読している。従姉は息子を亡くしてから自分の人生を縮小した。
講堂にはガラスの小箱があり、亡くなった子どもたちの魂が成長している。
大人は自分の小さな子どもに会いに来て、冥福を祈るのだ。
“一人一人の音楽会"では密やかな音楽が奏でられる。
今日はいよいよあの子の結婚式で、元美容師さん、バリトンさん、クリーニング店の奥さん、虫歯屋さんが招待されている。
小川洋子さんの他の本の感想
「約束された移動」
「あとは切手を、一枚貼るだけ」
「口笛の上手な白雪姫」
「シュガータイム」
「不時着する流星たち」
「琥珀のまたたき」
「注文の多い注文書」
「いつも彼らはどこかに」
「ことり」「とにかく散歩いたしましょう」 感想
「最果てアーケード」「余白の愛」小川洋子
刺繍をする少女
人質の朗読会
妄想気分
原稿零枚日記」
「ホテル・アイリス」「まぶた」「やさしい訴え」
「カラーひよことコーヒー豆」
小川洋子の偏愛短篇箱
猫を抱いて象と泳ぐ
「偶然の祝福」「博士の本棚」感想
妊娠カレンダー、貴婦人Aの蘇生、寡黙な死骸 みだらな弔い
薬指の標本 5つ☆ +ブラフマンの埋葬
「おとぎ話の忘れ物」と、「凍りついた香り」、「海」
「ミーナの行進」「完璧な病室・冷めない紅茶」感想
内容紹介を読むと精一杯小川さんらしい作品のようですが、はまれませんでしたか。
本を読むには、やはりそれに適した時期(というか、読み手の精神状態)があるように思います。
私の場合、堀江敏幸さんの本で良く感じるのですが、小川さんでもそういう事はありそうな気がします。
Todo23さん、たくさん小川作品読まれていらっしゃるので、これの感想あるかな?って、ブログの方で検索してみていたのですよ。もし後に読まれる事があったら、感想とても楽しみです!
>本を読むには、やはりそれに適した時期(というか、読み手の精神状態)があるように思います。
ありますねぇ。同じ本でも、自分のその時の状態で全然違った感じになりますよね。