http://gooday.nikkei.co.jp/atcl/column/15/050800004/080100035/?waad=k5j61Kzk
死亡リスクが最も低いのはBMIが20~22の人
喫煙者などを除き、健康な人のデータに絞って分析した結果
2016/8/17 大西淳子=医学ジャーナリスト
タバコを吸わず健康なら、「やせ気味」を過度に気にする必要はなさそう。(© Brian Kenney-123rf)
身長と体重から、太っているか、やせているかという肥満度を算出する体格指数(BMI:Body Mass Index)は、皆さんにもおなじみだと思います。このBMIは、どのくらいのレベルのときに死亡リスクが一番低くなるのでしょうか。
BMIと死亡の関係を調べた研究はこれまでいくつも行われてきましたが、結果にはばらつきがありました。しかし今回、そうした研究のデータを基に、ノルウェーの研究者たちが、これぞ決定版という分析結果を論文発表しました。結果に影響を及ぼすと予想されるさまざまな要因を丁寧に排除したところ、死亡リスクが最も低いのは、これまでより低いBMI(20~22)であることが示唆されたのです(BMIは18.5~25未満が普通体重とされる)。
喫煙や持病の有無はBMIに大きく影響する
BMIと死亡の関係を調べる際に重要なのは、BMIに影響を与える他の要因を排除することです。健康を害するなんらかの習慣を持つために、または、既に健康を害しているために、BMIが低くなったり高くなったりしている可能性があるからです。例えば喫煙は、死亡リスクを強力に高めます。同時に、喫煙者は非喫煙者に比べ体重が少ない傾向があります。また、慢性疾患などの患者では、体重が減少するにつれて死亡リスクが上昇します。正式に診断される前から、病気のせいで体重が減っている人もいます。
そこで今回、研究者たちは、(1)BMIを測定する時点で何らかの病気にかかっている患者を分析から除外する、(2)死亡に関する追跡を開始した時点から短期間のうちに死亡した人は分析から除外する、(3)追跡期間が短い研究と長い研究を分けて分析する、といった方法を用いれば、より正確にBMIと死亡の関係を知ることができる、と考えました。
医学文献のデータベースから、BMIと死亡の関係について報告していた研究を探したところ、230件の研究が条件を満たしました。対象人数は計3000万人を超え、追跡期間中に約375万人が死亡していました。これらを対象に、BMIが5上昇すると死亡リスクがどれくらい高くなるかを推定したところ、1.05倍になりました。横軸をBMI、縦軸は死亡リスクとしてグラフを書くと、U字型のカーブが現れました。最も死亡リスクが低いのはBMIが25の人で、それよりBMIが低い人も高い人も、死亡リスクは高くなっていました。
喫煙者や持病があった人を除外して分析すると…
次に、非喫煙者だけを分析していた研究を集めると、対象者は約1000万人で、うち約74万人が死亡していました。BMIが5上昇すると死亡リスクは1.18倍になり、横軸をBMI、縦軸を死亡リスクとしたグラフは、U字型ではなくJ字型になりました。死亡リスクが最も低かったのはBMIが23~24の人でした。
続いて、上記の非喫煙者の中から、がん、循環器疾患、糖尿病の患者や、少し前から体重減少を経験していた人を除き、健康な非喫煙者に限定して分析しました。この集団では、BMIが5上昇すると死亡リスクは1.21倍になり、グラフを書くとやはりJ字型で、死亡リスクが最も低かったのはBMIが22~23の人でした。
さらに、上記の健康な非喫煙者の中から、追跡開始から早い時期(6年後まで。BMI測定時に病気が隠れていて、その後に発症し死亡した患者を除くため)の死亡を除外して分析すると、BMIが5上昇するごとに死亡リスクは1.27倍になりました。グラフはJ字型でした。
最後に、死亡に関する追跡を20年以上行っていた研究のみを対象に分析すると、BMIが20~22の集団の死亡リスクが最も低いことが明らかになりました。また、それよりBMIが低い集団の死亡リスクも、おおよそ20~22の集団と同様でした。
総合すると、慢性疾患の患者から喫煙者まで全てを合わせて分析した場合には、死亡リスクが最も低いのはBMIが25の人でしたが、潜んでいる病気がない、健康な非喫煙者では、最も死亡リスクが低いBMIはより低い値(20~22)になることが示されました。どうやら、健康だけどやせている、という人が、長生きするために無理に太る必要はなさそうです。
論文は、2016年5月4日付で英国「BMJ(the British Medical Journal)」誌電子版に掲載されています。
大西淳子(おおにしじゅんこ)
医学ジャーナリスト
大西淳子(おおにしじゅんこ) 筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
死亡リスクが最も低いのはBMIが20~22の人
喫煙者などを除き、健康な人のデータに絞って分析した結果
2016/8/17 大西淳子=医学ジャーナリスト
タバコを吸わず健康なら、「やせ気味」を過度に気にする必要はなさそう。(© Brian Kenney-123rf)
身長と体重から、太っているか、やせているかという肥満度を算出する体格指数(BMI:Body Mass Index)は、皆さんにもおなじみだと思います。このBMIは、どのくらいのレベルのときに死亡リスクが一番低くなるのでしょうか。
BMIと死亡の関係を調べた研究はこれまでいくつも行われてきましたが、結果にはばらつきがありました。しかし今回、そうした研究のデータを基に、ノルウェーの研究者たちが、これぞ決定版という分析結果を論文発表しました。結果に影響を及ぼすと予想されるさまざまな要因を丁寧に排除したところ、死亡リスクが最も低いのは、これまでより低いBMI(20~22)であることが示唆されたのです(BMIは18.5~25未満が普通体重とされる)。
喫煙や持病の有無はBMIに大きく影響する
BMIと死亡の関係を調べる際に重要なのは、BMIに影響を与える他の要因を排除することです。健康を害するなんらかの習慣を持つために、または、既に健康を害しているために、BMIが低くなったり高くなったりしている可能性があるからです。例えば喫煙は、死亡リスクを強力に高めます。同時に、喫煙者は非喫煙者に比べ体重が少ない傾向があります。また、慢性疾患などの患者では、体重が減少するにつれて死亡リスクが上昇します。正式に診断される前から、病気のせいで体重が減っている人もいます。
そこで今回、研究者たちは、(1)BMIを測定する時点で何らかの病気にかかっている患者を分析から除外する、(2)死亡に関する追跡を開始した時点から短期間のうちに死亡した人は分析から除外する、(3)追跡期間が短い研究と長い研究を分けて分析する、といった方法を用いれば、より正確にBMIと死亡の関係を知ることができる、と考えました。
医学文献のデータベースから、BMIと死亡の関係について報告していた研究を探したところ、230件の研究が条件を満たしました。対象人数は計3000万人を超え、追跡期間中に約375万人が死亡していました。これらを対象に、BMIが5上昇すると死亡リスクがどれくらい高くなるかを推定したところ、1.05倍になりました。横軸をBMI、縦軸は死亡リスクとしてグラフを書くと、U字型のカーブが現れました。最も死亡リスクが低いのはBMIが25の人で、それよりBMIが低い人も高い人も、死亡リスクは高くなっていました。
喫煙者や持病があった人を除外して分析すると…
次に、非喫煙者だけを分析していた研究を集めると、対象者は約1000万人で、うち約74万人が死亡していました。BMIが5上昇すると死亡リスクは1.18倍になり、横軸をBMI、縦軸を死亡リスクとしたグラフは、U字型ではなくJ字型になりました。死亡リスクが最も低かったのはBMIが23~24の人でした。
続いて、上記の非喫煙者の中から、がん、循環器疾患、糖尿病の患者や、少し前から体重減少を経験していた人を除き、健康な非喫煙者に限定して分析しました。この集団では、BMIが5上昇すると死亡リスクは1.21倍になり、グラフを書くとやはりJ字型で、死亡リスクが最も低かったのはBMIが22~23の人でした。
さらに、上記の健康な非喫煙者の中から、追跡開始から早い時期(6年後まで。BMI測定時に病気が隠れていて、その後に発症し死亡した患者を除くため)の死亡を除外して分析すると、BMIが5上昇するごとに死亡リスクは1.27倍になりました。グラフはJ字型でした。
最後に、死亡に関する追跡を20年以上行っていた研究のみを対象に分析すると、BMIが20~22の集団の死亡リスクが最も低いことが明らかになりました。また、それよりBMIが低い集団の死亡リスクも、おおよそ20~22の集団と同様でした。
総合すると、慢性疾患の患者から喫煙者まで全てを合わせて分析した場合には、死亡リスクが最も低いのはBMIが25の人でしたが、潜んでいる病気がない、健康な非喫煙者では、最も死亡リスクが低いBMIはより低い値(20~22)になることが示されました。どうやら、健康だけどやせている、という人が、長生きするために無理に太る必要はなさそうです。
論文は、2016年5月4日付で英国「BMJ(the British Medical Journal)」誌電子版に掲載されています。
大西淳子(おおにしじゅんこ)
医学ジャーナリスト
大西淳子(おおにしじゅんこ) 筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。