恐怖日和 ~ホラー小説書いてます~

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掌中恐怖 第三十五話『小鳥が飛んだ日』

2019-06-12 11:55:46 | 掌中恐怖

小鳥が飛んだ日

 君と結婚したかったのに――
 ソファにもたれ、藍子がこちらを見ている。
 だが、その大きな瞳はもう僕を映していない。
 僕だけじゃなく、この世界を映さなくなってしまった。
 たったいま僕が首を絞めて殺したからだ。
 藍子の首は驚くほど細く小鳥をつかんでいるようで、乾いた小枝の折れる音がした。
 けんかしたわけじゃない。ただ、空しかった。
 やっと決心し思い切ってプロポーズしたのに、なぜか藍子ははぐらかした。その後、何度試みてもはっきりした返事がもらえない。 
 嫌なら嫌で断ってくれたら、こんなに空しく哀しい気持ちにならなかったかもしれない。
 いっそひどい女だったらよかったのに。
 我の強い自己中な女だったら、求婚を鼻で笑うような女だったら、僕はこんなに君を愛さなかっただろう。
 自分のものにできないのなら、いっそ殺してしまおうと思うほどに――
 飛びかかって首を絞めると藍子は何かの冗談だと思ったのか楽しそうに笑った。
 だが力を緩めない僕を見て、驚きと恐怖で顔を歪め一筋の涙を流した。
 ぱくぱく口を動かすばかりで、やがて藍子は息絶えた。
 自ら彼女を消しておきながら後悔が生まれる。
 ああ――たとえ罵りの言葉でもいい、もう一度声を聞きたい。
 ばかだ。僕は。
 結婚できなくてもよかったじゃないか。
 生きて存在しているだけで、それだけでよかったじゃないか。
 なんてことをしてしまったのだろう。
 でも、もう遅い。
 カタン。
 ドアポストに何か投函される音がした。郵便配達人の足音が遠ざかっていく。
 ふらふらと立ち上がって取り出し口をのぞくと封筒が入っていた。宛先に見慣れた藍子の文字があった。 
 わけがわからない。なんなんだ、こんなタイミングで。これはいったいなんなんだ。
 未来を予見した藍子が僕を責めるために送ってきたものなのか?
 もつれる指で開封した手紙に膝が崩れた。
 藍子は自分の誕生日にプロポーズして欲しかったのだ。
 鈍感な僕はそれに気づかなかった。
 藍子の誕生日――ああ今日だ。独りよがりの憎しみに大事な彼女の誕生日さえ忘れていた。
 業を煮やして手紙をしたためる藍子の可愛いふくれっ面が目に浮かぶ。
 だがもうそれを見ることは叶わない。
 僕はなんてことをしてしまったのだ――

          *

 あれからずっと藍子と一緒にいる。
 どんな姿になろうとも、僕らはもう夫婦なのだから――



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