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恐怖日和 ~ホラー小説書いてます~

見よう見まねでホラー小説書いてます。
たまにグロ等閲覧注意あり

掌中恐怖 第二十二話『カラス』

2019-04-19 12:44:45 | 掌中恐怖

カラス

 のどかな山々に囲まれた県道沿いに白い建物の工場がある。
 先日その工場前で初めて赤信号にかかった。
 今まで何の工場か気に留めたことがなく、信号で止められるまで門塀の小さな表札にも気づかなかったが、それを読んで食肉加工場だということが判明した。
 冷凍車が二台、門を出て走り去った。
 帰ってから妻に話すと、自分も知らなかったと驚き、お互い観察眼のなさを笑い合った。

 数日後、再び同じ信号で止められた。
 一度かかったら頻繁にあるもんだなと苦笑する。
 きょう門から出て来たのは板を張り巡らせてあおりを高くした軽トラックだった。同じ方向を先に走っていく。
 信号が変わって進むとすぐ軽トラの真後ろに追いついた。
 十数メートル先の交差点の信号が青から黄に変わる。ここは多叉路で異常に待ち時間が長い。
 舌打ちしながら車を止め、サイドギアまでかけて凝った首を回した。
 カラスが三羽、道路脇の電線にいるのが見えた。
 すいっと目の前の軽トラの荷台に下りてくる。
 板が邪魔で頭頂部しか見えないが、中にある何かをついばんでいるようだ。
「うわっ」
 飛び去った一羽が咥えているものを見て、この車は肉の廃棄部分を処理場に運んでいくトラックなのだと得心した。続いて二羽めが嬉しそうに羽ばたいていく。
 人にとって廃棄部分でもカラスにとっては新鮮なご馳走だ。
 三羽のカラスはこの軽トラを知っていて待っていたのだろうか。そうだとすればすごい。
 やっぱりかしこい鳥なんだなと感心し、これは妻に報告せねばと思った。
 残りの一羽はまだ荷台に残っていた。
 くちばしに咥えたものを放り投げながら物色している。
 おいおい、贅沢だなぁ。
 こんっ。
 カラスの投げたものがフロントガラスを叩いた。
 切断面がまだ新しい人の指だった。
 びちゃっと音を立て髪のついた皮膚も張り付く。
 軽トラが前進し、結局何も持てずカラスは飛び立った。
 信号は青だが発進することができない。
 何も知らない後続車が激しいクラクションを鳴らしていた。



掌中恐怖 第二十一話『おままごと』

2019-04-18 13:07:49 | 掌中恐怖

おままごと

「ララちゃん、だめでちゅよ~。おのこししちゃあ。せっかくおかあさんがつくったんでちゅからね~」
 三歳くらいの女の子が赤ちゃんのお人形を抱いておままごとをしていた。
 女の子はママの役をしているらしい。
 わたしは二階のベランダからその様子を見て微笑んだ。
 あの子はここ最近引っ越ししてきた四人家族の上の娘さんで、昼間はいつもマンション内の公園にいた。
 砂場で一人、おもちゃの食器にご飯やおかずに見立てた砂や雑草を入れておとなしくおままごとをして遊んでいる。
 お誕生日か何かでままごと人形をプレゼントしてもらったのかしら。お利口でいい子。パパもママもきっとこの子の将来が楽しみよね。
 女の子はさっきからおもちゃのスプーンで、水で溶いたどろどろの砂を人形の口元に一生懸命入れていた。
 だが、人形が食べるはずもなく、顔が泥にまみれ汚れている。
 あらあら、せっかく買ってもらったお人形なのに。
 あれぐらいの子は物を大切にするということがまだわからないのかしら。
 でもやっぱり子供は女の子がいいわね。あんなにかわいい遊びをするんですもの。わたしがママだったら本物のミルク飲み人形買ってあげて一緒におままごとしたいわ。
 結婚して三年経つけどわたしにはまだ赤ちゃんが授からなかった。少し焦りもあるが、気長に待とうと思っている。
 でも、あんなかわいい女の子を見るとやっぱり早く欲しい。
「もうっ、こぼしたりしてっ、ララちゃんはいけないこでちゅね」
 女の子は怒って人形をめちゃくちゃに振り始めた。
 あらあら、意外と乱暴な子なのね。
「いうこときかないこはこうでちゅよ」
 女の子は人形をびたんと地面に落とした。持ち上げては落とすを何度も何度も繰り返す。しまいには蹴ったり踏んだりし始めた。
 あまりのひどさに、まさかこの子自身が親からこんな乱暴を受けているのではと不安になってきた。
 いやそれよりも気になることが。
 人形がやけにリアルに見えるのだ。育児練習に使うような――
 ふつうそんな人形、小さな女の子に買い与えないよね?
 さらに砂にまみれた顔が血で濡れているようにも見え――
「いやあぁぁぁ。あんた何やってんのぉぉぉ」
 突然金切り声が聞こえ、女の子の母親が倒けつ転びつ走ってきた。砂場に倒れ込むように膝をつくと半ば砂に埋もれた人形を抱き上げ、慌てて顔についた砂をぬぐう。
 その時はっきりとわかった。人形は本物の赤ちゃんなのだ。
 女の子はぷんとふくれっ面をして、一体何が悪いのかという顔で母親を見上げていた。 

掌中恐怖 第二十話『中古物件』

2019-04-16 10:55:52 | 掌中恐怖

中古物件

 いわくつきの中古物件を手に入れ、住める程度にリフォームし引っ越した。
 不動産屋の担当者も工務店の大工たちや引っ越し業者も物好きなオレを笑っていたが気にしなかった。
 本物の心霊現象をビデオカメラに収めたいという夢がやっとかなうのだ。
 引っ越し早々、各部屋にカメラを仕掛けた。まだ昼間だからか何も映ってはいない。明るい日の下でも何らかの現象が起きるなら嬉しい限りだが、やはりそうはいかないだろう。
 夜は元凶といわれる部屋に布団を敷いて寝た。
 深夜二時まで胸を躍らせて起きていたが、昼間と同様、何事もなく、その後も「何かの気配に起こされた!」ということもなく朝までぐっすり眠った。
 がっかりしながらも引っ越し疲れで気付かなかっただけかもしれないとビデオをチェックしたが、布団を敷いた部屋はもとより各部屋のどれにも何も映っていなかった。
 ま、初日だからなと気持ちを切り替え、二日目も三日目もあきらめずにビデオカメラを回し続け、徹夜もしてみたが期待したことは何一つ起こらない。
 その後も何もなく、奇異の目で見ていたご近所とも挨拶を交わす仲になり、オレはただの普通の住人になっていた。
 クレームをつけてやろうと不動産屋に電話をかけた。
 呼び出し音が鳴っている最中、心霊現象がないと文句垂れるのは普通おかしいよなと思い直し、本来の価格より安く家を手に入れられたのだからこれはこれでいいじゃないかと、何も起きなかった事だけ報告することに決めた。
 だが電話に出た受付嬢は、オレを担当した社員はじめ大工や引っ越し業者など、この家に入った関係者全員が既に亡くなったことを伝え、オレが生きていることにひどく驚いていた。


掌中恐怖 第十九話『向かいの庭』

2019-04-14 13:45:24 | 掌中恐怖


向かいの庭

 新築マンションへの引っ越しに伴い、妻に禁煙を約束したものの、私は三日ですでに我慢の限界に来ていた。
 買い物に出かける妻の目を盗み、洗濯物がはためくベランダで煙草をくゆらせる。
 三階に吹く夕刻の秋風は心地よかった。
 深く吐き出した紫煙の向こうに透ける下界を眺める。
 道路を挟んだ向かいの一軒家が目に入った。
 長い間手入れしていないのか草がぼうぼうに生えた庭の片隅に、その家のご主人か、しゃがみ込んで草むしりしている人物がいた。
 何人もの焼け焦げた人たちが彼を取り囲み、うつむいてじっと見つめている。
 赤黒く爛れた皮膚に、燃え残ったぼろぼろの衣服、全身が真っ黒い煤で汚れ、こちらまで肉の焦げたにおいが漂ってきそうだった。
 明らかに生きている者たちではない。
 どんな表情で見つめているのだろう。うつむいた顔はこちらからは見えない。
 もし彼がアレらに気付いたらどうなるだろうかと興味を持ったが、まったく気付いていないようだ。
 霊感があり怖い思いをすることが多い自分からすれば、視えたり感じたりしない人がうらやましい。
 そう思いながら二本目の煙草に火をつけ長い煙を吐く。
 視線を戻すとご主人がこっちを見上げていた。
 あっ――
 赤く焼け爛れた顔をして、真っ黒な眼でじっと私を見つめている。
 ヤバい。彼も生きた者ではなかったか。
 慌ててうつむき視線を外したがもう遅い。
 手足の自由が利かなくなり、顔も上げられない。
 焼け爛れ、煤で汚れた何人もの足が自分を取り囲んでいる。
 咥えた煙草を消すことができず、火がじりじりと唇に近づいてくる。

「あなたっ、何やってんのっ! 洗濯物に臭いがつくでしょっ。ったく、何が禁煙してるよ、三日坊主も甚だしいわっ」
 いつ帰ってきたのか、ベランダに顔を出す妻のえらい剣幕で金縛りが解け、自分を取り囲む足も消えていた。
 慌てて携帯灰皿で煙草をもみ消し、向かいの庭を見下ろす。
 だがそこには家などなく、鬱蒼とした木々に囲まれた古い墓地があるだけだった。

掌中恐怖 第十八話『じいさんに聞いた話』

2019-04-13 12:35:57 | 掌中恐怖

じいさんに聞いた話

 若い頃じいさんは遊び人だったという。
 山一つ越えた町で遊んだ帰りの山道のこと。
 夜空は晴れ渡り満月が煌々と照っているので、深夜にもかかわらず辺りはぼんやりと明るかった。
 昔は地道で周囲に熊笹など生い茂っていたが、その笹薮が風もないのにがさがさと音を立てた。
 知らぬふりして先を急ぐと今度は青白く発光するものが藪の中をすうっと進んでくる。
 後ろからカンカンという鐘の音も聞こえ始めてきた。
 こんなところにそんな光も音もあるものか。自他ともに認める豪胆なじいさんは狐狸が自分を化かそうとしているに違いない、騙されてなるものかと鼻息も荒く歩を進めた。
 やがて鐘の音が聞こえなくなり、草むらの気配も消えた。
 家に到着すると眠っている家人の邪魔をせぬようそっと部屋に入り、風呂にも浸からずそのまま寝た。
 翌朝、家人に山道での出来事を話すと昨日は雨が降っていてどこにも出掛けなかったじゃないかと笑われた。
 そういえばそうだ、じゃすべて夢だったのかと自分で自分を笑ったが、朝風呂に入ろうと服を脱ぐと体中に歯形がついている。
 家にいながら狐狸に化かされたのかと考えるも、その歯形、どう見ても人のそれにしか見えない。家人の誰かが今でいうドッキリを仕掛けているのかと疑ってはみたが、その後、このことに触れる者は誰もなく、いまだにあれは何だったのかわからないと、当時小さかった俺を膝に乗せじいさんは語ってくれた。
 だが、俺の生まれる前から両親どちらのじいさんもすでに鬼籍に入っていたし、親類にも近所にも該当する人間はおらず、俺にその話をしてくれたのがいったい誰だったのか、今もってわからない。