KU Outdoor Life

アウトドアおやじの日常冒険生活

「山女日記」

2017年11月21日 | 
「山女日記」湊かなえ・著 ☆☆☆
 
 
 
 先の九月、韓国へ行く際に成田空港の青山ブックセンターで横に並んでいた、さくら剛の「インドなんてもう絶対に行くかボケッ!!」と、どっちにするかさんざん迷った挙句、こちらを購入。
 山ガールと呼ぶには微妙な年齢の女性たちが様々な状況で山と関わるオムニバス形式の短編集。
 しかも、それぞれの登場人物が全体を通してどこかの山で絡んでいるというスタイルは、ブラビが出ていた映画「バベル」を思い出す。
 
 出てくる山女たちはウブな心を持ち合わせた年齢ではないので、山へ行って無心になるどころか下界のしがらみや現在進行形の悩みを引きずってばかりで、まぁ女性というのはこんなにも面倒臭い生き物なのかと(←失礼)、男なら一度は読んでおいていいかもしれない。w
 いくつかある物語で、自分が一番面白かったのは「槍ヶ岳」。実際にこんな話は無いのかもしれないが、いかにもあるある的で、こういった中高年登山者には間違ってもなりたくないし、関わりたくないなと思った。
 で、前半はなかなか面白かったが、後半になるとやや食傷気味。 
 「トンガリロ」は途中時間を空けて読んだので、物語の時系列が混乱してよく判らず。最後の「カラフェスに行こう」などは、まずフェスなどという概念におじさんは付いていけない。ぬぁにがフェスだ。
 ついでに言うと、解説を書いているKさんという人も山というとやたら出てきて自分はどうも好きになれない。(すみません。偏見です。)
 こういった山の世界を否定するわけじゃないけど、外岩やジムで打ち込んでいる岩ガールの方がやっぱ自分は好感が持てる。
 最後は偏見だらけの文句になってしまったが、工藤夕貴のTVドラマは見てみたい。たぶん突っ込みどころ満載だろうけど。

「咬ませ犬」「60歳からの手ぶら人生」

2017年11月20日 | 
最近読んだ本。

 
 
「咬ませ犬」後藤正治・著 ☆☆☆
 
 どんな世界にも陰日向がある。
 これは厳しい勝負のスポーツの世界で、陽に当たることなく、それでも一所懸命もがく男たちの物語(ノンフィクション)。
 ボクシング、野球、競馬、ラグビー、登山とジャンルは様々だが、やはり表題作となる一人のプロボクサーの話が良かった。
 後半の「ザイルの彼方」。名クライマー、近藤国彦氏と山本一夫氏の友情も素敵である。

「60歳からの手ぶら人生」弘兼憲史・著 ☆☆
 
 「島耕作」シリーズで人気の漫画家によるアラ還世代への人生指南書。
 けっこう売れているらしく、自分もそろそろそういう歳なので、興味をもって拝読する。
 「持ちものを捨てる」「友人を減らす」「お金に振り回されない」「家族から自立する」など、基本的には断捨離の姿勢で、これには共感した。
 ただ内容的には、なるほどと頷かせるものもあるが、例えば「友人を減らす」と言ってもまた違う別の付き合いを増やしたり、「余計な金は持たない」と言いながら貧乏ではできないライフスタイルを提案したりで、ちょっと矛盾も感じた。
 結局は漫画の「島耕作」と同じで、何事もそんなにうまく行くのかなぁと最後は少し冷めた目で読んでしまい、ま、時間はあるので、あとはそこそこのお金と健康があればと、当たり前の結論に落ち着く。
 これからは人生百年時代。たしかにフルタイムで働いている時代と引退後では、流れる時間のスピードも違うだろう。
 自分としては、最後はあらゆる「しがらみ」から解放されて、「世界のこんなところに日本人」的な感じでカナダの山あいとか南の島でひっそりと余生を過ごしたい。
 まぁ難しいだろうけど。

「単独行者」読了

2017年07月29日 | 

  谷甲州・著 ヤマケイ文庫 上下巻、本編だけで739ページ!

 「単独行者(アラインゲンガー)-新・加藤文太郎伝」を読み終わる。
 
 これは日本の単独登山の先駆けともいえる加藤文太郎氏の生涯を綴った物語で、かつて雑誌「山と溪谷」に長期連載されていた作品である。
 Amazonのレビューでも「読み応えあり!」と高評価を得ていることから、大いに期待して読み始めたのだが・・・。

 まぁ、はっきり言って長い!
 そしてたいへん申し訳ないが、それほど面白くなかった!・・・というのが率直な感想である。
 (このへん個人差があるので悪しからず。)m(_ _)m
 
 強いて言うと全編を通して面白かったのは後半1/4程度。いよいよ冬の北鎌へ向かう辺りからである。
 もちろんストーリーとしてはそこへ至るまでの経緯、加藤文太郎という人間像を細かく描かないとならないのはわかるが、はっきり言って上巻などは「山での天気の変化」とか「微妙な感情の移り変わり」とかそういう場面がダラダラと続く。
 そして肝心の山行内容や結末は案外サラッと、時には一気に時間が飛んだりして「はぁ?」と思う箇所がいくつかあって、よほど途中で読むのを挫折しようかと思った。(まぁ、せっかく新品で買ったのでもったいなくて最後まで読みましたけどね。)
 
 加藤文太郎の最期は既に多くの本で知られているし、自分がせっかちなのかもしれないが、内容を端的に言うと「冗長」。
 クライマックスに向け、前半ちょっと引っ張り過ぎなんじゃないの?と感じた次第である。
 自分も低レベルながら単独登山はするので、「山への恐怖や葛藤」「人間関係の面倒くささ」「単独ならではの達成感」など共感できる部分はあったが、それにしてもである。
 
 新田次郎の「孤高の人」はたしかに読み物として面白く、同じ上下巻のボリュームでもグイグイと読み進んでいける。
 内容がまったく異なるが、漫画「孤高の人」も同様である。
 三作とも共通しているのは加藤文太郎を「ぶっきらぼうで、人間関係が苦手な不器用な男」として描いていることだが、この「単独行者」で描かれる加藤像が自分には一番わけがわからなかった。

 谷甲州の作品はこれまでにも「白き嶺の男」など読み、なかなか面白いと思ったのだが・・・。
 逆に久々に新田次郎の「孤高の人」を読み直したくなってしまった。(あくまで個人的感想なので、この本のファンの方は許してね。)

最近読んだ本

2017年03月20日 | 

 「最後の冒険家」石川直樹・著 ☆☆☆★

 熱気球で数々の世界的記録を持ちながら、最後に単独太平洋横断に挑戦して消息を絶った神田道夫のノンフィクション。
 著者はセブンサミッツ最年少記録(当時)を持つ石川直樹氏で、この作品で第6回開高健賞を獲っている。

 正直なところ、最初は熱気球による冒険と聞いて、それはあくまで「乗り物=道具」に頼ったものであって、登山とか潜水とか生身の身体を張ってする挑戦に較べて果たしてどうなのかなという疑念はあった。
 何となく気球というと、のんびり優雅に空に浮かんで後は風任せ、少なくとも体力的には楽なイメージを持っていた。
 しかしながら読んでみると、急激な高度順化やマイナス50度という気温、不眠不休での操縦、そして荒れた海や山中に不時着した時のことなど考えると、かなりリスキーで精神力、忍耐力、判断力が求められる冒険だということがわかった。

 著者は一度はこの太平洋横断行に参加し、そして時化の海に不時着しつつも九死に一生を得ているだけあって、その時の描写は何とも迫力があり、読み応えがあった。

最近読んだ本

2016年11月08日 | 
  

「リヤカーマン アンデスを越える」永瀬忠志・著 ☆☆
 唯一無二のリヤカーマン・永瀬氏の苦行冒険シリーズ。
 この夏、自分もエリアは違うがアンデスへ行ったので雰囲気を味わおうと読んでみる。
 うーん、しかし著者のやっている冒険旅はやっている中身は凄いと重々理解できるのだが、その記録があまりにも淡々としているため、正直、面白さとしてはあまり伝わってこない。
 そう、リヤカーを引くごとく、あまりにも淡々としているのだ。

「世にも奇妙なマラソン大会」高野秀行・著 ☆★
 表題作のサハラ・マラソン挑戦記の他、短編エッセイがいくつか。
 相変わらずマラソンに入るまでの前置きが長くて、どうもいけない。
 その他、ゲイのおっさんとの話は面白かったが夢落ちだったり、当人入国禁止のインドに入りたくてパスポートの苗字を変えたりなど。
 初期の作品は面白くて好きだったが、(誠に勝手ながら)自分の中ではピークを過ぎた感あり。

「ショーケン」

2016年09月15日 | 


 いつか読もうと思っていた本。近くの図書館でたまたま見つけて一気に読了。☆☆☆☆
 
 その人生は波乱万丈。
 テンプターズから始まり「太陽にほえろ!」「傷だらけの天使」「前略おふくろ様」「青春の蹉跌」など十代の一番多感な時期にリアルタイムで見てきたファンとしては、とても読み応えがあった。
 
 エピソードも満載で、例えば
・「傷だらけの天使」のアキラ役は最初、水谷豊ではなく火野正平が予定されていた。
・映画「ブラックレイン」も当初、高倉健の刑事役を勝新太郎、松田優作のギャング役をショーケン、そして殺されるマイケル・ダグラスの部下役をトム・クルーズがやる予定だった。
など、この本で初めて知って何とも興味深かった。
 
 また私生活では、数多くの結婚と離婚、そして麻薬使用による逮捕があったかと思えば、その後、四国八十八か所のお遍路に出たり、マザーテレサに感銘してインドに出かけたり。
 ただのアウトローではなく、繊細で真剣だからこそ衝突して失敗し、もがき続ける人生はまさに前出のドラマの主人公の不器用さそのもの。
 「かっこわるい男のかっこよさ」というのはショーケンが演技の中で目指していたものらしいが、まさにそれがショーケンの魅力だと思う。
 
 最近は、ずっと後になってビデオやネットで観た若い連中が「傷天、サイコー!」などと、のたまわったりしているが、あの頃の自分たちは「アニキ」に敬意を表してそんな言い方はしなかった。
 傷モノの天ぷらじゃないんだから、何でもかんでも略すなよ、まったく!

最近読んだ本

2016年07月07日 | 
   

「探検家の日々本本」 角幡唯介 ☆☆☆★
 角幡氏による書評集。といっても本人が語っているように、あまり本の内容には触れず、どちらかというとその本にまつわる自分の話といった感じで面白い。
 著者お薦めの本で自分が気になったのはとりあえず、J・クラカワーの「エヴェレストより高い山」と町田康の「告白」。
 こちらもいずれ読んでみたい。
 それにしても角幡氏は自分の活動だけでも計画→探検→その記録のまとめと忙しいのに、他人の本も数多く読んでいるのだから大変だと思う。(どこかの作家みたいに他人のノンフィクションを切り貼りして、文学賞やら映画化で儲けているのとはエライ違いだ。)
 「植村(直己)さんはちょっとイカれているんじゃないか?」という視点は同じ極北の地を冒険している著者ならでの感想で納得できた。
 いくつかの雑誌や自分のブログ?に書いたものを再掲しているので、内容的にちょっとダブッた部分があり、装丁のデザイン画が安っぽい漫画でやや残念な気がするが、まぁこれは編集者の責任だろう。
 
「百年前の山を旅する」 服部文祥 ☆☆★
 サバイバル登山、狩猟登山に続いて今回は百年前の質素なスタイルでの登山ということで、興味をそそられた。
 ところが、前半の奥多摩の尾根、奥秩父の沢、奥穂南稜までは当時の服装、不便なアプローチなどこなして面白かったが、中盤の白馬主稜になったら状況は一変。
 ふつうにスキーや12本爪アイゼンの最新装備を使って登り、先達に向かって心の中で「現代の山登りはこうするんですよ、○○さん。」などと言ったりする。
 はぁ?最初の意気込みはどうしちゃったんだ?
 どうやらあくまで百年前のスタイルで山に登るというのは読者の勝手な勘違いで、著者としては百年前の山に思いを馳せるだけでそれほどのこだわりは無かったよう。
 ここで本のタイトルにまんまと騙されたことに気づき、興味は半減。
 ラストの昔のガソリンストーブ(著者が言うところのブラス・ストーブ)についての一篇は、古い道具好きの自分にとっては面白かったが、全体的には「このタイトルに偽りあり」と中途半端な印象を受けてしまった。
 
「外道クライマー」 宮城公博 ☆☆☆☆
 今年読んだ中で一押しの一冊!(ヤマちゃん、貸してくれてありがとう!)
 これまで著者については、「那智の滝事件」で一世を風靡・・というか物議を醸した異端的沢屋という印象だったが、読んでみたら意外とまともな人で、とても好感を持てた。(失礼!)
 一ケ月半に亘るタイの密林の沢では、何度も相方に殺意(笑)を覚えながらも、空腹のあまり捕まえて食べようとする大蛇に対して「できればこのまま逃げてくれ」と憐みの情を抱くところなど、ああ、この人イイ人だなぁと思わせる。
 無理に笑いを作るわけでなく、思ったことを素直に書いてこれだけ笑わせてくれる山の本はそうそう無いだろう。
 続編に期待したいが、こういうのは映画と一緒で最初の一作目が一番面白いんだろうな。でも次回作お願いします!

最近読んだ本

2016年05月24日 | 

   

「しょっぱいドライブ」 大道 珠貴 ☆☆☆
 
表題作は地方の海辺の町に住む微妙な年頃の女性がさえないおじさんとデートする日常の日々を綴った物語。
 とにかく主人公の気持ちがコロコロ変わり、でもこういう女性は意外に多いのだろうなと妙に納得させられる。
 いつもまとわりついてウザったいけど離れない親友の話もありがちで、まぁ面白かった。
 芥川賞の選考基準がどういうものか知らないが、物語の大胆さ、発想の面白さよりも、むしろ何気ない風景や心理をいかに表現力豊かに描写するかというテクニックが重要なのだなと思う。
 
「ホームレス大学生」 田村 研一 ☆☆☆★
 
「ホームレス中学生」がベストセラーとなったお笑い芸人、麒麟・田村の実兄によるもう一つの物語。
 弟と違って妹弟を抱えた長兄としての苦労が窺えて、自分はこちらの方が面白かった。
 著者も元々お笑い芸人だったらしいが、もちろんあの獅子舞ネタのタムケンではない。


「一日(いちじつ)」 西村 賢太 ☆★
 「苦役列車」で芥川賞を獲った作家のエッセイ集。
 貧乏でエロ好きで退廃した生活ぶりだが、それでいて自分の心酔する作家には熱い義理を見せたりする。
 今の時代には珍しい昭和の頃の無頼漢のような作家だが、好きな落語の影響なのか書きっぷりに独特のクセがあり、それにちょっとついていけなかった。
 映画の「苦役列車」は面白そうだったので、そのうちレンタルで見てみたい。

最近読んだ本

2016年03月04日 | 

  

「たった一人の再挑戦」 加藤仁・著 ☆☆☆
 
 サブタイトルは「50代早期退職者の行動ファイル」。
 これまでの会社人生に見切りをつけ(あるいはリストラで見切りをつけられ)第二の人生を模索し転進した団塊世代の人たちを追ったルポ集。
 収入面はともかく心の平安を取り戻したなど成功談が多いが、その後のエピソードを読むと当初は上り調子だった第二の船出も時代の荒波や自身の健康、家族の事情などで必ずしも順風満帆とはならないようである。
 自分も当初は50代前半に早期退職、子育てがあらかた終わったらあれもやりたいこれもやりたいと考えていたが、やはり現実は難しい。
 最近、自分の周りでも早期退職どころかやたら定年前に亡くなってしまう者が多く、そう考えると自分の残りの人生もあと何年あるか。もしかしたら明日にでも事故に遭うかもなどと考えてしまう。
 それならそれで身体の動く今のうちにやりたいことをやってしまいたいと思うが、最近ではその身体もいうことをきかなくなり、もはやジリ貧といった感もある。
 猫のように自分の死に際をわかって家族を離れてどこか遠くで勝手に死ねたら一番いいのだが、なかなかそうもいかないだろうな。
 

「人生下り坂最高!」 火野正平・著 ☆☆☆
 
 元はNHK・BSの「にっぽん縦断、こころ旅」という番組で(ウチは衛星放送契約していないので、見たことないが・・・)その中で俳優・火野正平が視聴者からの手紙に書かれた原風景を自転車で旅して見て回るというもの。
 旅の先々での印象をそのまま朴訥と語っているだけのもので、活字も大きくあっという間に読めてしまうのだが、味があってまぁ良かった。
 
 特に最後の方の読者からの手紙は何気ない内容なのだが、ちょっと泣ける。
 昔住んでた家の辺りとか子どもの頃遊んだ公園、学生の頃の思い出の場所などなど。
 別に遠い外国でもなく、その気になればいつでも行ける距離なのになぜか行かないし、行けないような場所。人それぞれのこころの風景が趣深い。

最近読んだ本(探検もの四冊)

2016年01月22日 | 

    

「地図のない場所で眠りたい」 
高野秀行、角幡唯介・共著 ☆☆
 早大探検部の先輩・後輩の間柄である探検作家の対談集。
 双方の作品ともそれぞれに好きなので、この二人の対談なら相当面白いだろうと期待して読んだが、意に反してそうでもなかった。
 対談よりもむしろ最後で、それぞれが相手について評するあとがきの方が面白く感じた。
 後半の方で「愛用の取材道具」が写真入りで紹介されていたが、高野氏の使うメモ帳、角幡氏の使うデジカメなど、自分が使っているのと同じで興味深かった。
 (デジカメに落下防止用のショックコードを付けるあたり、さすが角幡氏は山屋だなと納得。)

「辺境中毒!」 
高野秀行・著 ☆☆

 前半は著者のこれまでの探検行での実体験をエッセイとして書いたものだが、著者お気に入りのミャンマーの話が興味の無い者にはちょっと退屈。
 中盤は他のノンフィクション作家らとの対談で、特に女性作家との対談が面白かった。
 後半は「辺境読書」と称して探検、冒険もののノンフィクションに対する著者の書評で、こういった本を嗜好する者にとっては今後読みたい本を探す時に参考になる。

 「探検家、36歳の憂鬱」 
角幡唯介・著 ☆☆☆☆☆

 昨年、利尻で登山後の日程消化時に読もうと現地の本屋で買った「空白の五マイル」は久々に印象に残る一冊だったが、これはその著者の心象を綴ったもの。
 で、最高に面白い!もちろん個人の好みもあるだろうが、ここまで自分の思うことを感じたままに正直に書くノンフィクション作家はそうそういないだろうし、だからこそとても共感を持てた。
 まだ2016年が明けたばかりだが、早くも今年読んだ本の中で一番の面白かったと思えるし、自分の中でこの本を超えるお気に入りはしばらく出ないだろうと思った。

「雪男は向うからやって来た」 角幡唯介・著 ☆☆☆
 著者が雪男探索隊に加わり、観察をしたノンフィクション。
 実際には(やはり)雪男の決定的証拠は見つけられず、雪男発見のロマンを追い求める男たちの群像劇となっている。
 特にあの小野田少尉を発見し、その後、雪男探索で命を落とした鈴木紀夫氏の生き様が興味深い。
 角幡氏も言うように一般人には既に雪男のイメージが出来上がっていて、私の場合はネパールの寺院に保存されている頭皮から茶褐色のゴリラのイメージ、角幡氏の世代は白い毛に覆われた類人猿のイメージらしい。(ウルトラマンに出てきたウーみたいな感じか?)
 人それぞれイメージが異なるが、実際には人間より大きいとは限らず、むしろ、見つかった足跡からするともっと小型の類人猿の可能性もあるとのことで、ちょっとがっかりもしたが納得もいった。
 
 実は自分も1980年のヒマラヤ遠征の時に謎の足跡の写真を撮っている。
 場所はインド・ガンゴトリ山群の4,500~4,900mの間。周辺は一面雪と岩だらけで食料となるものは無く、登山期間中は周辺で他の動物を一切見かけなかったし、氷河を20kmも奥に入った所で登山隊は我々だけだった。
 当時は話のネタとして親しい友人だけに見せるに留めておいたが(角幡氏も言うように、そういう話をまともにすると周りから馬鹿にされるので)、たぶん押入れを捜せばその時のポジ・フィルムがあるはずなので、そのうちに誰かに検証してもらおう。

最近読んだ本

2015年12月24日 | 
 今月は珍しく風邪をひき、こじらせて三週間も長引いてしまった。 (忘年会や外岩等、行けずに皆さんゴメンナサイ。)  
 その合間に読んだ本。

    
 
「明日に向かって走れ」吉田拓郎・著 ☆

 若かりし30代の頃の拓郎氏のエッセイ。
 結婚生活の破綻やらマスコミへの怒りとかけっして順風満帆ではなかった当時の心象が窺える。
 ほぼ同時代に出たミュージシャンの本としては、矢沢永吉の「成り上がり」が最高に面白かっただけに私にはこの本の内容はいまいちで、今となっては彼の若さと不安定さしか印象に残らない。
 やはり拓郎は歌の方がいい。 
 
「人間滅亡的人生案内」深沢七郎・著 ☆★
 70年代初めの頃の雑誌「話の特集」で連載された人生相談集。
 最初のうちは当時の若者世相がわかって面白かったが、読み進むにつれ結局あとがきで著者自身が言うように読者からの相談が「シラケ、退廃、ささやかな自己顕示」と画一的なものばかりで、それに対して深沢先生が皮肉たっぷりに回答する繰り返しで少々飽きてしまった。
 「楢山節考」は映画では見たが小説では読んでなく、また問題作となった「風流夢譚」など、この深沢七郎という人はなかなか面白そうなので今後、他の作品も読んでみたい。
 
「白き嶺の男」谷甲州・著 ☆☆☆★
 「加藤」という一風変わった山男を軸に繰り広げる本格的山岳小説。
 ちなみにこの「加藤」とは著者が勝手に想像してデフォルメした加藤文太郎とのことらしい。
 巻末ではあの「神々のナントカ」で過大評価を受けたY氏が解説しているが、少しでも山に登っている者なら谷先生の豊富な登山経験を基にした細かい山岳描写の方が納得が行くだろう。
 著者の描く加藤文太郎像はまだこの作品では完結せず、後の作品「単独行者」へと繋がっていくのでそれもいずれ読んでみたい。

最近読んだ本

2015年11月13日 | 

    

「ほんまにオレはアホやろか」水木しげる・著 ☆☆☆
 ゲゲゲの鬼太郎などでお馴染み、水木先生の半生記。
 勉強はできず、戦争では片腕を失い、漫画家になっても苦労が絶えない。でも、けっして腐らず飄々として生きているのが素晴らしい。
 
「アルピニズムと死」山野井泰史・著 ☆☆☆★
 タイトルからするともっと暗い内容を想像していたが、今までの登攀を淡々と振り返り、著者の性格からかあまり暗さは感じない。
 バフィン島のトール壁やヒマラヤのギャチュンカンの話も凄まじいが、それよりも若い頃に千葉の鋸山で落ちたり、伊豆の城ケ崎で他人の死を見取った話が印象深かった。
 あと「クライミング・ジャーナル」でのガメラ氏ともやりとりも面白い。あの雑誌、家の中を捜せばたぶん何冊か持っているはずなのだが・・・。
 
「カツラーの秘密」小林信也・著 ☆☆☆★
 スポーツ・ライターである著者が20代後半でハゲで行くかカツラで行くか「究極の選択」を強いられ、後者を選んだ悪戦奮闘記。
 大きな経済的負担、活動の制限とメンテナンスの煩わしさ、日々の心理的葛藤など、ここまでカツラーの実態を赤裸々に語った本は今までに無かっただろう。
 
他人からするとちょっと気にしすぎという気もするが、本人からするとまさに「不治の病」を宣告されたも同然というのもけっして大げさに感じない。カツラーの見分け方など、そこまで自虐的にバラさなくてもいいような気もしたが。
 
 自分も何とかごまかしてきたが、母方は完全にハゲの家系だし、若い頃からバイクや山でヘルメットを被ってきたせいか頭頂部がかなりヤバい。それでもこの本を読む限りカツラーの道はまず選ばないだろうなとたいへん参考になった。後半になってSV社という新たな救世主が現れるところが何とも悩ましいが。
 50も半ばを過ぎて、ようやく時代(年齢)が自分(見た目)に追いついてきた?のはある意味ありがたい。

最近読んだ本

2015年10月14日 | 

  「火花」又吉直樹・著 ☆☆☆☆

 ご存知2015年度芥川賞作品。
 途中で飽きることなく一気に読んだが、まぁ面白かった。
 読んでいて感じたのは小説というより、その1シーン1シーンが映像として浮かんできて、まぁこれは著者自身も無意識のうちに最初から映画化を目論んでいるのではと感じてしまった。
 面白かったが、やはりこれはお笑い芸人がここまで書いたという点で評価されたのであって(言わばデジタルの波に押されている文学出版界の人気回復のため?)、丸っきり無名の新人がまったく同じ内容の作品を書いたとしても、まさか芥川賞は取らなかったと思うが、いかがなものか。

   「旅々オートバイ」 素樹文生・著 ☆☆☆☆ 

 ちょっと自己陶酔的なところがあるが、著者の若かりし頃のバイクでの日本縦断の旅。
 その時点で持っているあらゆる物を投げ捨てて旅に出る若さが羨ましい。
 まだ妄想中の段階だが、大型免許取ってハーレーでアメリカを旅してみたいと思っている自分には、この本は危険な誘惑でもある。


最近読んだ本

2015年06月15日 | 

   

「だからこそ自分にフェアでなければならない」
 小林 紀晴・著 ☆★

 サブ・タイトルがプロ登山家・竹内洋岳のルール。日本人で(今のところ)唯一の八千m14座完登の竹内さんを取材したもの。
 書き手がクライマーを書いたものとしては、「初代・竹内洋岳に聞く」(塩野米松・著)や山野井泰史氏を描いた「ソロ」(丸山直樹・著)などがあるが、それにしてもこの本は面白くなかった。
 せっかく同行取材しても「こんなことを聞こうと思ったが、やめた。」という部分がけっこう多くて何とも中途半端なのだ。
 どうせ人のことを書くなら、もっとツッコめよ!とツッコミを入れたくなった。(まぁ図書館で借りて読んだヤツだからいいけどね。)

「四国八十八ヶ所感情巡礼」 車谷長吉・著 ☆☆☆
 車谷さんの本はこれまで読んだことはなかったが、以前新聞の特集で各界の著名人が好きな作家ベスト10の中にことごとく名を挙げていたので気になっていた。
 この本は小説ではなく四国八十八か所をお遍路で回った紀行文だが、なんとなく文壇の山下清といった独特の風情がある。
 山下清ならおにぎりだが(?)、この人の場合は「うこ」で、ほとんど2ページに一回は野グソをしたという話ばかり。
 脅迫神経症からの薬の副作用とのことだが、東大出の奥様が佇んでいるすぐ横で野グソしている姿はなかなかシュールである。
 徳島はゴミが多くて世界遺産になれないとか、バスや車で楽してお遍路している人は極楽へ行けないなどと述べているが、では遍路のいたる所で野グソ
はいいのかとなるとちょっとビミョーに感じた。

「ショージ君の青春記」 東海林さだお・著 ☆☆☆★
 私が生まれた頃に大学生だったショージ君だが、ここに描かれた時代に違和感は無い。物価の違いこそあれ、その本質はほとんど同じなので驚いた。
 ちょっと妄想過剰気味?のショージ君だが、自分も含めてフツーの学生生活を送ってきた者なら共感するところも多く何とも笑える。


最近読んだ本

2015年05月23日 | 

 相変わらず左ヒザが調子悪く、本日予定していた外岩も見送り。
 ちょっと頑張ると痛くて歩けなくなってしまうので、今週も家にひきこもり何冊か読み漁る。

  

「ひとりぼっちを笑うな」蛭子能収・著 ☆☆☆
 TVの人気者、エビス先生の自己中なライフスタイル。個の時代と言われるが、これが巷では静かに版を重ねているとか。
 読んでみると、たしかに共感できるところ多々あり。まぁそこまでしなくてもいいのでは?という点も多いが・・・。
 前半からスイスイ読めるが、終わってみるとただエビス先生の勝手な言いぐさを聞かされ、自分もできるだけ自分勝手でいいんだなと妙な納得と虚無感を抱いた。
 
「自転車通勤で行こう」疋田智・著 ☆☆☆☆
 東大出身でTBSのディレクターだけあって文章にキレがあって面白い。
 自分も自転車通勤をしている身なので、たいへん共感をもって読めた。自転車好きなら「あるある」とうなづくことも多いだろう。
 
「洞窟おじさん」加村一馬・著 ☆☆☆
 戦後サバイバルと言えばグァム島の横井庄一さんやルパング島の小野田さんが有名だが、こちらは同じ昭和の時代に足尾銅山をはじめ関東近県の山中や河原で43年間過ごしてきた人の実話。
 ほんまかいな?と思わせる内容もいくつかあるが、人間の強さを感じさせてくれる。
 ちなみに今度(BSだけど)リリー・フランキーさん主演でドラマ化されるらしい。うーん、見たいぞ!