KU Outdoor Life

アウトドアおやじの日常冒険生活

剱岳北方稜線全山縦走(後編)

2019年05月06日 | アルパイン(残雪期)
日程:2019年4月27日(土)-5月4日(土)前日発7泊8日
行程:嘉例沢森林公園-鋲ヶ岳-僧ヶ岳-サンナビキ山-毛勝三山-赤ハゲ・白ハゲ-池ノ平山-剱岳-早月尾根-馬場島
同行:ヒロイ(我が社の山岳部)
 
 
6日目(5/2)
 天候:のち
 行程:ブナグラ乗越-赤谷山-赤ハゲ手前
 
 事前の予報では今日からまた天気が好転するはずだが、なぜか未明からテントを叩く雨音で起こされる。
 いよいよ『八甲田山』のあのセリフが飛び出しそうな心境だが、いざとなればここブナグラ乗越あるいは少し先の赤谷尾根から馬場島へ下りられると思うと、もう運を天に任せるしかない。
 
 テント内は何もかも冷たく濡れ、ストーブをいくら炊いても多少の湯気が出るだけでまったく無意味。
 気が滅入り、一人だったらとっくに下りているだろう。
 ホワイトアウトは昨日よりひどく、隣のテントも動き出す気配は無く、そのうち山の歌を歌い出した。
 他にすることもないので相方もそれに呼応して歌で返したりして、時間の過ぎゆくままに待機する。

 そのうち雨音がしなくなったと思って外を見たらシンシンと雪。
 気温も次第に下がってきて、いよいよ進退が問われるタイミングとなってきた。
 そうしているうちに、また相方が人の声が聞こえると言い出す。
 
 こんな悪天にまさかブナグラ谷を登ってくるパーティーがいるのか。また、幻聴かと笑っていたら、確かに聞こえる。
 しばらく様子をうかがっていると何となく聞き覚えのある声。S会のメンバーだ。
 こんな悪天をついて猫又山から下りてくるなんて、何て強いんだ。

 残念ながら彼らはやはり燃料不足等でここブナグラ谷から馬場島へ下山するらしい。
 できればお世話になった彼らと一緒に剱の頂上に立ちたかった。
 テントから顔を出して彼らに御礼を言い、別れを告げた。
 
 さらに停滞を続けるが、そのうちふと外が明るくなった気配を感じる。
 テントの入口を開けると西の方からどんどん雲が切れ、それまで見えなかった周囲の稜線が姿を現わし、青空が顔を出してきた。
 
 行くしかない!既に昼近いが急いで出発準備をし、撤収開始。
 我々が撤収準備を始めると向こうも感づいたらしい。
 この天気ならまずフツーの山屋なら即出発しかありえないと思うが、挨拶に来た向こうのリーダーは「すみません。ウチら日和ってしまって。今日はここで停滞します。」と来た。

 これは慎重な判断なのか。それとも作戦なのか。いずれにしろ、あまりの男気の無さと他力本願の姿勢にこちらも言う言葉が見つからず、以後彼らの存在は無かったことにする。
 (実際、ウチらが動き出そうとした時、隣のテントから「あちら動くなら、またトレースしてもらえるっしょ。」みたいな発言を聞いている。)

 幸い天気は快方に進む。
 赤谷山の山頂では待望の剱がいよいよ目前に姿を現わす。ここまで来たらもはや撤退は無し!

 

 猫又山から先ではもしかしたら北方稜線短縮版パーティーのトレースが期待できるかと思ったが、昨日の雨と今朝の雪でまったく無い。
 相変わらず重い雪のラッセルで白萩山を越え、最低コルから少し登り返した所で幕とする。

 久し振りの陽射しで夕暮れまでの間は、大もの干し大会。
 シュラフやら靴下やらをそこら中の灌木の枝に引っ掛けて干しに掛かる。
 風も適度に吹いていたお陰で、テントシューズ以外はけっこう乾いたのが助かった。

 
7日目(5/3)
 天候:のちガス
 行程:赤ハゲ・白ハゲ-大窓-池ノ平山-小窓
 
 昨日の乾燥タイムで意気が上がったかに思われたが、朝から相方が足の不調を訴える。
 見たところカカトが少し赤く腫れてムクんでいるようにも見えるが、目に見える外傷は無く、ここは何とか頑張ってもらうしかない。
 
 本日はすぐに赤ハゲの急登。標高が上がってきて、これまでの蹴ればステップができる軟雪ではなく、所々カリカリに凍っている。
 何とかだましだまし付いてきてもらったが、ペースが上がらないので装備を再配分し、自分がテントとロープ2本を持つが、後半に来てこの加重はちょっと辛かった。
 しかし相方も口には出さないが、ここまでかなり重い二人分の食料を担ぎ上げてくれたのだから、ここは二人の頑張りどころだ。

 赤ハゲを過ぎ、白ハゲの切れたトラバースにかかる頃、後方を振り返るとO会の三人。
 その前に別の三人組が間に入り、こちらに向かってくる。
 何にしてもパーティーが増え、機動力が上がるのは大歓迎だ。

 

 この辺り、左側(東側)に発達した雪庇がヤバイ。
 白ハゲを越えた後の岩場は右から巻く。短い懸垂を交え、大窓へ下降。

 

 その後の池ノ平山への登り返しが長く急で、また苦行。
 後から追い付かれた関西K会の三人組が先に取り付いたが、微妙な岩と雪のコンタクトラインを直上していく。

 我々は事前にネットで他会の記録を研究したところ、実はここはブッシュ沿いの夏道が出ていたらそれを使う方が安全で効率的なことを知っていたので、それを使う。
 後続のO会も知っていたのかもしれないが、案の定、我々の後を付けてきた。

 

 キツい池ノ平山の登り返しが済むと、さらにこの先、ルートが複雑になってくる。
 相方の不調もあり、ここは平均年齢高めだが元気なK会の皆さんにリードしてもらう。
 視界が利いてもけっこうルーファイが難しいが、K会は巧みにリードしていく。

 その後、懸垂を数回交えて小窓に到着。
 天気予報は良い方向に向っていたはずだが、昼過ぎからガスが湧き出し、視界はあまり良くない。
 本来はこの日、小窓王を越えて三ノ窓まで行きたかったが、とても届かず。
 3パーティーとも少し離れて小窓で幕とする。

 
 
8日目(5/4)
 天候:
 行程:小窓王-池ノ谷ガリー-剱岳-早月尾根-馬場島

 夜半、猛烈な足の冷たさで目が覚める。
 靴下もテントシューズも相変わらず濡れており、しかたなく裸足のままシュラフに入ったのだが、知らないうちに凍った靴の上に足を乗せて寝入ってしまったようだ。
 相方も同じような状況で、かなり厳しい一夜だった。

 天気はこれ以上ないほどの快晴だが、やはり剱に近づき標高が高くなったせいで気温は低く、テント内の靴はガチガチに凍って足が入らない。
 北方稜線全山縦走まであと少しだが、もはや登頂よりここから脱出したい気持ちの方が強くなっている。
 
 何とかガスストーブで炙って靴を履き、スタート。
 できれば今日中に下山したいが、普通に見積もっても10時間以上の行動だ。少なくとも早月小屋までは行かなければ。
 
 

 それでも相方の足はよく乾かしたら、昨日よりはまだ歩けるらしい。
 本日は小窓王の急な登りから始まる。
 歩き始めると相方はやはりペースが上がらず、途中からまた自分がロープ2本など受け持つ。
 
 
 
 進むにつれ、途中から別パーティーが合流してくる。
 小窓王から三ノ窓への下りはやはり急で、比較的軽装な他バーティーはWアックスのクライムダウンで可能な限り下りていったが、我々は安全を期して早めにロープで懸垂に掛かる。

 

 しかし、ここでトラブル。
 50m一回分下りた所で一旦切り、さらに下に落ちていったロープを引き上げようとしたところ水を吸ったロープが下の岩に凍って絡みつき回収できない。
 しかたなく一本のロープで相方をさらに下の安全地帯までロワーダウンさせ、自分はルートから外れて回収にかかる。
 何とか回収はできたものの今度はもう一方の古いロープが水を吸って凍ってしまい、完全な針金と化してしまった。
 うまく巻くこともできず邪魔物でしかないため、たいへん申し訳ないが途中の岩陰に残置し、もう一本の使えるロープだけを持ち帰る。
 (今夏、再び剱へ行くことになったら必ず回収します。どなたか再利用するなら構いませんが、おそらく14年使っているものなので悪しからず。)

 そうこうしているうちに遠くから声がしたと思ったら、正面の池ノ谷ガリーで滑落事故発生!
 ボブスレーのようなスピードで人が落ちていくのが見え、白いヘルメットを被っていたので一瞬相方かと思って心臓が凍り付く。
 その後、身体が反転し、紺色っぽいジャケットが見えた。
 我がチームカラーの赤で無いことを確信し、再び相方の名を呼ぶとやや間があって返事が返ってきた。
 向こうは向こうで私が墜ちたと思ったらしい。

 しかし、危ないところだった。
 もしロープスタックが無く、順当に進んでいれば我々も巻き込まれていた可能性は大である。
 周りのパーティーも思わぬ出来事に慎重に下り、ひとまず安全地帯の三ノ窓に集結。
 
 
 
 三人組の小窓尾根パーティーのドコモが県警と連絡を取れた。
 彼らはこの後チンネへ行くためこの日は三ノ窓ベース。申し訳ないが今後の警察との連絡を彼らに託し、ウチらを含めた残りのパーティーは行動を続行する。
 つい今しがた起きた事故で、相方は若干ビビリモードに入ってしまったか。
 それでも登らないわけにはいかない。池ノ谷ガリーは表面が一部氷化しているので、とにかく一歩一歩確実に蹴り込むよう指示する。
 
 そのうち陽が当たってくるにつれ、回りの雪が解け始めたか上部から疎らに落石が落ちてくる。
 足元ばかりでなく上部にも注意を払うよう相方を振り返った途端、いきなりドスンと右肘辺りに強い衝撃を受けた。
 やっちまったか!
 握り拳大のをモロに喰らったようだが、幸い手のひらは動く。どうやら骨は折れていないようだ。しかし、その後、袖の冷たさで出血していることがわかった。

 先行者のアイゼンの爪痕を追っていくと中上部でそのまま左手の日陰部分を通過していったことがわかる。
 そこは陽が当たらないため明らかに堅いブラックアイスとなっており、冷静に判断していればもっと右手の陽が当たっているルートを安全と見て取っていたことだろう。自分は努めて安全なルートを選んでいく。

 池ノ平乗越には滑落者の同伴者が他の登山者と共に待機していた。
 警察からもしばらくその場に残るように指示されたようだが、心中察するに余りある。
 とりあえず一人でも待機の体制は万全なようなので、気の毒だが有り合わせの行動食の残りを渡して、ウチら他パーティーはその場を後にする。(その後のニュースで事故者は池ノ谷ガリーを500m滑落し大怪我を負ったものの一命は取りとめた模様。助かって本当に良かった。)

 ここからはあと少し。
 気持ちの良い雪稜が剱の頂上まで続いている。昨年夏にも歩いたが雪で岩場が埋まっている分、この時期の方が歩きやすいぐらいだ。
 相方は足が痛いのか動きがややスローになっているので、最後に発破をかけ何とか頑張ってもらう。
 
 
 
 
 
 そして頂上。ついに剱へ。北方稜線全山、完結!
 本当にたどり着けるのか冗談半分のような計画だったが、まさかここまで来てしまうとは。
 相方もよく頑張ったなぁ。
 すぐ後に続いた関西K会の面々としばし喜びを分かち合う。感動はひとしおだが、疲労と緊張のせいで涙は出ない。

 

 30分ほど頂上で至福と安堵の時間を過ごし、下山は早月尾根へ。
 
 途中、懸垂下降を2ピッチ。自分は緊張の糸、それともエネルギーが切れたのか下山の途中から猛烈に足が痛くなってくる。
 とにかく一歩踏み出すたびに両足が無数の針で刺されたように痛い。絶対おかしい。
 
 途中の早月尾根で靴下を脱いでみると濡れた靴下で足が白子のようにふやけ、指先から血が滲んでいた。
 当てにしていた早月小屋は閉まっており、ここでもう一夜テン泊する気力はもはやウチらには無い。
 相方には悪いが最後はロープを持ってもらう。ここでもう一泊するという関西K会に御礼を言い、試練の下山を続ける。

 
 
 知ってはいたが、早月尾根は疲れ切った身体に最後までダラダラと長く、実にしんどい。
 尾根の途中で相方がタクシー会社に電話を入れ、余裕をもって19時半に馬場島まで送迎に来てもらうよう手配する。
 しかし、途中でいよいよ夕闇に掴まり一瞬道を見失う。
 
 結局、約束の時間より1時間遅れて馬場島へヘッデン下山。タクシーの運転手さんには待たせて申し訳なかったが、実に気のいい人で助かった。
 既に時間も遅いので、そのまま電車は使わずタクシーで入山口の嘉例沢森林公園へ戻る。(約19,000円!)
 
 一週間放置され真っ暗な駐車場でポツンと我々を待つヒロイ号を見た時に、あぁようやく終わったと思った。
 
9日目(5/5)
 行程:富山-松本-横浜
 
 その後、24H営業している「スパ・アルプス」に寄ってまずは風呂。
 自分の足は両方とも足裏に水泡ができ2度の凍傷。落石を受けた右腕は出血は止まっていたがpatagoniaのシャツはかなりの血を吸っていた。
 相方はサングラスをしていたにも関わらず雪目になってしまったようで運転不能と、二人ともダメージはそれなりに大きい。
 
 下山したら富山ブラックと地元の寿司をハシゴする夢のプランもこの時刻では叶わず。
 コンビニメニューで我慢しつつ、岐阜・上宝村の道の駅で1時間仮眠を挟み、ボロボロになって帰ってきた。
 まさに試練と憧れ・・・というより北方稜線は試練だらけの山行だった。でもこの達成感は最高!(しばらく山は行かなくていいかも) 

コメント (4)

剱岳北方稜線全山縦走(前編)

2019年05月05日 | アルパイン(残雪期)
日程:2019年4月27日(土)-5月4日(土)前日発7泊8日
行程:嘉例沢森林公園-鋲ヶ岳-僧ヶ岳-サンナビキ山-毛勝三山-赤ハゲ・白ハゲ-池ノ平山-剱岳-早月尾根-馬場島
同行:ヒロイ(我が社の山岳部)

 遥かなる北方稜線
 
 さて今年のGWは平成から令和に代わり夢の10連休。
 海外へ行く手もあったが、山岳部の相方の希望で剱の北方稜線となった。
 
 一口に剱の北方稜線といっても人によってその捉え方は様々で、ネットで検索してよく出てくる夏の記録は大抵が池ノ平から剱岳を結ぶ区間で、これだと実際は北方稜線のごくごく一部。
 残雪期となると馬場島をベースに猫又山、ブナグラ乗越、あるいは赤谷山から剱岳を結ぶコースがよく登られている。
 
 しかし今回、相方が選んだのは全山縦走。
 それも一般的には宇奈月から僧ヶ岳経由だと思うが、さらにこだわってより末端に近い鋲ヶ岳からスタートする計画だ。
 初めのうちは話半分に聞いていたし、とにかくこんな長期縦走は学生の時以来だ。他の山岳会の記録は頼りになるが、いざ自分たちに当てはめるとイマイチ想像がつかない。
 準備は万端整えるとして、まぁいざとなったらいつでも撤退とあまり深く考えずに当日を迎えた。
 
0日目(4/26)
 天候:
 行程:神奈川-富山県黒部市
 
 二人とも有り余っている有休を取って前日から現地入り。ヒロイ号で中央高速-下道-北陸道と進むが、糸魚川手前で大雨となる。
 明日から山だというのに、何ともモチが下がる。
 黒部に入ったところで夕食。明日からの食事制限に備えカロリー摂取に励もうと、地元のラーメン屋「くろべぇ」へ。
 初めて「富山ブラック」なるラーメンを食べる。
 
 
 
 その後、スタート地点となる嘉例沢森林公園へ。
 深夜、ガスが立ち込める中、けっこう奥まで林道で入り、雪が出てくる手前の駐車スペースに到着。
 外は雨。明日の予報も芳しくなくが、とにかくどうすることもできず、そのまま車中泊とする。
 
1日目(4/27)
 天候:のち
 行程:嘉例沢森林公園-鋲ヶ岳-烏帽子山手前
 
 朝起きても雨というかミゾレ。とても歩き出すような天気でなく、一旦町へ降りる。
 やることなく、しばらく道の駅や北方稜線末端の黒部峡谷鉄道「音沢」駅周辺を散策するが、とにかく寒い。
 こんな所で雨に打たれていたら山に登る前に風邪をひいてしまいそう。

 水族館でも行ってホタルイカ見物でもと完全に観光モードにシフトしそうな気配だったが、まずは腹ごしらえと「ガスト」に入ってモーニングセットを食べながら作戦会議&待機とする。
 雨は時折勢いを増し、今回予備日はそれなりに想定していたが、いきなり使ってしまうのも何だかなぁとモチは下がる一方。
 
 しかし、ようやく昼頃になって小降りになり、見ると西の海側から雲が切れ空が明るくなっている。
 よっしゃ、行くか!と重い腰を上げ、再び嘉例沢へ。
 
 山の方は雨が残っていたが、もう行くしかない。フル装備を背負っていよいよ長旅のスタートである。
 まずは森林公園のキャンプ場内から樹林帯の道を20分ほど登って鋲ヶ岳への分岐へ。
 最初のピーク鋲ヶ岳861mはここから一旦逆方向へ進んだ所にある。分岐にザックをデポし、空身で頂上へ向かう。
 
 
 
 頂上には小綺麗な東屋が建っていた。
 再び分岐まで戻り、いよいよ北方稜線へと踏み出す。
 この時期、またこの雨上がりのガスの中、歩いているのは我々だけで、トレースは皆無。
 小動物の足跡はあるが、それらに惑わされないよう進路を定める。
 
 
 
 間隔を置いて目印となる緑や紫のテープがあるが、昨日から降った雪で樹林帯の中の道はそれなりにルーファイと軽いラッセルを要する。
 時間を決め本日は行ける所までと、着いた所が烏帽子山手前の平坦地だった。
 

 
 ありがたいことに夕方には富山湾方面から夕陽が射して白い雪原をオレンジ色に染める。何とも幻想的なテン場となった。
 天気予報では明日、明後日は好天が望めそう。今朝の悪天を思うと、本日ここまで進めたのは上出来だ。
 
2日目(4/28)
 天候:
 行程:烏帽子山-僧ヶ岳-駒ヶ岳手前
 
 今回の計画は朝は3時起床の5時出発、夕方は16時半、遅くとも17時にはテン場着を基本として行動する。
 今日もまずは獣の足跡と並行しながら、自分たちのトレースを刻む。
 烏帽子山が近づき、樹林帯を抜け出すと、そろそろルート上には雪庇が出てくる。
 雪はそれほど深くないが若干モナカ雪ぽくて、けっこう足に来る。今回軽量化のために装備からワカンを省いたが、この判断は良かったのか悪かったのか。
 
 
 視界が開けてくると左手の宇奈月尾根の様子もわかるようになり、そのうち登山者の姿も発見する。
 早く合流したいと思うも、こちらはノートレースで遅々として進まない。
 本日は晴天で雪の照り返しも強く、重い雪も相まって相方は遅れ気味。自分も途中、何度か暑さで気が遠くなりかけた。
 
 
 
 それでもようやく宇奈月尾根のトレースに合流。
 先行者が踏み固めたトレースがこんなにも快適で体力を消耗しないものかと感動する。
 トレースを刻む先行の四人パーティーは我々のだいぶ先を進み、我々が最初に出会ったのはそれを利用して後続する単独のハイカーだった。
 
 その時の会話。 
 相手「僧ヶ岳ですか?」
 当方「いや、一応ツルギまで。行けるかわからないけど。」
 相手「剱までって・・・一泊二日とか?」
 当方「まさか!一週間ですよ。」
 
 同じ山を登る人間でもこれだから〇〇は!とちょっと呆れてしまった。以後、あまり関わっても話が通じないだろうなと距離を置く。(笑)
 
 僧ヶ岳だと思って着いたピークは実は「前僧ヶ岳」で、地図を見ても距離感がイマイチ掴めない。行程は長い。
 僧ヶ岳からは眼下に富山湾。剱岳山頂でもそうだが、この景色はまるで自分らの地元、丹沢の塔ノ岳から見る湘南の海とそれほど変わらないと言ったら言い過ぎか。
 
 
 
 ラッキーなことに先行の四人組はそのまま北方稜線に踏み出している。
 申し訳ないので、遅れ気味の相方を置いて自分は何とかラッセルを交替しようと追いかける。
 追い付いてみると、向こうは男女二人ずつのパーティーで、宇奈月から上がり、本日が二日目とのこと。
 ずっとここまでラッセル三昧だったらしいが、見たところラッセルはもっぱら男性二人が受け持っているよう。
 ここまでの御礼を言い、自分が先頭に出る。
 
 悪天により既に計画は遅れ気味。できれば今日中に駒ヶ岳を越えておきたい。
 しかし、てっきり自分の後に付いてくると思っていた四人組は途中で本日の行動を打ち切り。
 結局、遅れている相方を待って自分たちもしばらく進んで駒ヶ岳手前の狭いコルで幕とした。
 夕方、目指す毛勝三山方面がほんのり夕陽に染まる。明日も晴れてほしい。
 
 
 
3日目(4/29)
 天候:のち
 行程:駒ヶ岳-サンナビキ山-滝倉山下
 
 昨日の四人組は大阪のS会とのこと。本日は前後しながらルーファイ&ラッセルを続ける。
 左手は雪庇が続くようになり、やや右側の這松のブッシュ帯を掻き分けながら進むことたびたび。
 また、随所にクレバス・トラップが現れ、ハマったりしないよう注意して進む。
 
 
 
 相方は元気を取り戻したようだが、自分は昨日頑張り過ぎたのか本日はやや不調。昼頃にはシャリバテ気味になる。
 サンナビキ山は特にこれといった山頂があるわけでなく、滝倉山も含めたいくつかのピークの総称であるようだ。
 
 
 
 滝倉山への登りはけっこうな急傾斜。直登すると部分的に60度はあるだろうか。
 幸い雪面はそれほど固くなく、アイゼンで蹴り込めばそのまま突破できそうな気がしたが、安全を期してここで初めてロープを出す。
 ザックが大きく重いので、バランスを崩してひっくり返る可能性もある。
 
 
 自分がトップを切って50mで2ピッチ。後続の大阪S会もメンバーの女性を気遣ってロープを出したようだ。
 滝倉山のピークを過ぎ、少し下った稜線の末端で時間となったため本日の行動を打ち切り。
 後続のS会は我々より上、高台となった所をテン場としたようだ。
 
4日目(4/30)
 天候:のち
 行程:ウドノ頭-平杭乗越

 未明から雨。テントを叩く音で目が覚める。
 ラジオの天気予報で分かっていたことだが、ちょっと辛い。
 
 しばらくやみそうにないので出発を見合わせ、ウダウダとテント内で過ごす。寒い。
 既に春の湿雪で靴や靴下、手袋、テントシューズは濡れ始め、防水袋に入れゴアテックスのシュラフカバーに包んでいたはずのシュラフも濡れ始めている。
 テント内でガスストーブを空焚きするが、一度濡れてしまうとどうにも乾かない。
 軽量化のためトランプも持ってこなかったので、ベタだがシリトリなどして時間を潰す。
 テントの隙間から上部に陣取っているS会の様子をうかがうが、彼らもこの天気では動き出す気配は無い。
 天気予報では午後から曇りになるはずだが・・・。
 
 まんじりともせず午前中を過ごすが、そのうちテントの外が明るくなっているのに気付く。
 どうやら雨はひとまず上がったようだ。
 とにかくあと何日かかるかわからないので、少しでも先へ進んでおきたい。急いで撤収にかかると離れたS会もやはり動き出したようだ。
 
 我々から先に動き出し、後からS会も下りてくる。
 急な雪の斜面を谷底へ下り、次の登り返しが急だった。
 雪の付き方がデリケートで、雪面を崩さないよう慎重にルートを選んでリードする。
 
 
 
 その先でルートが不明瞭になり、間違った支尾根に入りかけたところで後続のS会が前に出る。
 相方はヤブが苦手なようで、やや苦戦。途中二か所ほど懸垂で下る箇所が出てくる。
 もちろん自分たちでセットするつもりだったが、S会のリーダーは「どうぞ、このまま使ってください。」と自分たちのロープを貸してくれたのでありがたく拝借。
 25m×2回の懸垂でコルに降り立ち、そこから再び登り返し。見るからに悪い傾斜の立ったブッシュのリッジ。
 ここはS会の若手が巧みにリード。前半の核心とも言えるピッチだった。
 そのまま登り詰めた所がウドノ頭。さらに進んで次のコルである平杭乗越まで下る。

 とにかく今日は午前中の雨で停滞かと思っていたので、こうして難所のウドノ頭だけでも越えられたのは大きい。大阪S会のお陰である。
 S会は平杭乗越、我々はそこから二段ほど上がった高台を本日のテン場とする。
 天気はどんより曇っているが、なかなか良いテン場だ。
 
 
 
 夕方、何気に外を見てみると、新たに三人組の後続パーティーを発見。
 ウドノ頭から下りてきて、S会の隣にテントを張った。
 これでまた明日からはラッセルとルーファイの負担が分けられるはずである。
 
5日目(5/1)
 天候:
 行程:平杭乗越-(天国の坂道)-毛勝三山-ブナグラ乗越
 
 朝起きると曇っているが、降っているわけでもない。
 出発準備をしていると、おそらく我々より30分早いスケジュールを組んでいるのだろう、下からS会が上がってきて我々を追い抜いていった。
 後続の三人組は撤収する気配がない。本日は停滞するつもりだろうか。
 
 相変わらず重い雪が続く。
 天候はどうにかもつかと思ったが、そのうち冷たい雨が降り始めた。視界も悪い。
 風が無いのが幸いだが、それでも憂鬱な天気である。
 
 本日はこの後、毛勝山への「天国の坂道」と呼ばれる一気登りが控えており、途中で行動打ち切りは考えられない。
 そのままS会の後に付くが、自分は低体温気味でもはや彼らの前に出て交替できる馬力は無かった。
 たいへん申し訳ないが、S会の後に付き無心で登り続ける。S会のリーダー男性は見た感じ自分より年上に見えるが本当に元気で強い。 
 
 延々と二時間あまりの登りが続く。S会のお陰で「天国の坂道」を突破。
 トレースを使わせていただいたのはもちろんだが、天気が悪く黙々と登るしかないこの状況が辛さを軽減したかもしれない。
 もし、これが強烈な照り返しの中での登りだったら、これまた苦行だ。
 
 ようやく毛勝山2,415mに到着。
 頂上の標識は雪の上に出ていた。
 そのままホワイトアウトの中を進んで釜谷山2,415m、猫又山2,378mと毛勝三山を越える。
 
 

 天気は悪いが、ここまで来るとエスケープの選択肢はグッと増え、気分的には安全圏だ。
 ここで先行のS会がストップ。何やら協議に入ったようで、どうやら剱に行くには燃料が足りないらしい。
 またこの濡れと寒気で女性メンバーも参っているようだ。
 我々もここまで濡れてしまっては残りの燃料が気がかりだが、とにかく先へ進むしかない。

 ホワイトアウトの中、S会の前に出て猫又山より先へ一歩踏み込む。
 その先はただっ広い斜面となり、視界が悪い今はかなりヤバイ。
 もはや地形図は意味を為さず、ここは相方の秘密兵器スマホのGPSアプリをフル活用する。
 
 進むにつれ広い尾根は再び急な複雑な痩せ尾根となり、このまま進んでいいのか判断に迷う。
 そのうち行手に大きな岩が現れ手詰まりとなるが、意外な所に夏道を発見!
 GPSと自分の山勘をフル活用して、どうにか最低コルに到着。

 着いた所が本日の目的地、ブナグラ乗越だった。
 整地もそこそこになるべく平らな所を選んで幕とする。
 
 身体は冷え切って、装備、ウェアもズブ濡れ。これ以上無理すると危険なところまで追い込まれてしまう感じだ。
 テント内がちっとも温まらないのにまんじりとしながら夕食の支度をしていると、そのうち外から人の声が聞こえたような気がした。
 最初に気付いたのは相方で、自分はまさかと思ったが、そのうちまた聞こえてくる。
 二人していよいよ幻聴か・・・と思ったらやがて声は確実となり、遅れてS会が下りてきたかと思ったら、何と昨日追い付いてきた東京のO会の面々だった。
 
 山には明確なルールは無いのかもしれないが、昨日までS会と我々のトレースとルーファイを頼りに付いてきたO会。
 本来なら追い付いた今朝の時点で自分たちがリードを買って出るべきでは?
 それを停滞と見せかけて、やはり後から付いてくるのはちょっとフェアではないと思った。
 一応挨拶してきたので応えたが、ここまで来たら一致団結「明日はラッセルお願いしますよ!」と釘を刺しておいた。
コメント

丹沢・表尾根ボッカトレ

2019年04月20日 | その他の山登り
日時:2019年4月20日(土) 日帰り
天候:
行程:大倉9:00-(三ノ塔尾根)-三ノ塔11:50-(表尾根)-塔ノ岳14:5015:30-(大倉尾根)-大倉17:30
同行:ヒロイ(我が社の山岳部)
 
 さて本日は来たるGWの大プロジェクトに向け、直前対策としてボッカトレ。今さらの感があるが、まぁやって損はないだろう。
 天気予報では好天とされていたが、電車が登山口の渋沢駅に近づく頃にはどんよりとした空模様で、今にも雨が降ってきそう。
 しかし、土曜日とあって相変わらず表丹沢は凄い登山者の数だ。
 
 丹沢、しかも沢登りでなくフツウの山登りで、ここ大倉に来るのも随分久し振りだ。
 もうかれこれ40年以上親しんできた地だが、変わったような変わらないような。何だか懐かしの母校を訪れたような気分。
 
 本日は来週からの本番に備え、一応ザックは20kgを想定して準備。自分はクライミングロープ2本に鉄アレイ5kgなどを加え調整した。
 大倉尾根は混んでいるだろうとあえて三ノ塔尾根を選択。
 大きな橋を渡って水無川の対岸へ。山岳スポーツセンターの前を通って登り始める。
 
 
 
 三ノ塔尾根は前回登った時はトレイルランナーの練習場と化していたが、本日は人もまばら。
 植林が進み、並行する林道が随分上まで延びているのにはビックリした。このまま進んだら稜線まで林道が延びてしまうのではないだろうか。
 相方は相変わらず元気で、私がザックに鉄アレイを忍ばせているのを知るや自らを反省し、その鉄アレイを寄越せと言う。ま、ほどほどにしておいた方がいいと思うけど。
 
 けっこうフウフウ言いながら三ノ塔に到着。
 昔は吹き抜けの東屋だったものが、今は立派な休憩小屋になっていてこれもビックリ。
 三ノ塔の東屋は中3の時、吹雪の一夜を過ごした我が山人生の原点となる場所であり、いずれ歳を取ったらまたこの地に帰ってくるんだろうと思うと感慨深い。


 
 
 一つ先の烏尾山まで進んで一本取る。
 相方はここで漬物石大の岩を5個ほど調達、ザックの中に詰める。推定25kgほどか。周りの登山者からは今どきボッカトレと珍しがられる。

 
 
 そのまま表尾根を進むが、本日は晴れのはずなのにけっこう風が強く、本気で寒い。
 丹沢という気楽さからかあまりペースを気にせずに歩いていたら、塔ノ岳への到着はけっこういい時間になってしまった。
 塔ノ岳の頂上はガスと冷たい風に吹かれ、とてものんびり休憩できそうにない。
 尊仏山荘の裏手に回り風を避け、そそくさとコーヒーを沸かし、カップ焼きそばの遅い昼食を摂る。


 
 
 下山は大倉尾根を一直線。
 昔は土が剥き出しで一旦大雨が降ると水の轍で随分歩きにくくなったものだが、今はかなり木段が整備され、またそれに合わせて植生も変わってしまったような気がする。
 普段はクライミングで腕や肩がダルいが、久々の山歩きで膝や腿に疲労感を感じる。
 
 下山後は渋沢駅前のケンタッキーで来週からのプロジェクトの行程、装備など最終打ち合わせ。とりあえず食糧計画はお任せ。
 人事を尽くして、後は天命を待つのみ。 
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中ア・木曽駒ケ岳-宝剣岳

2019年04月13日 | その他の山登り
日時:2019年4月13日(土) 夜行日帰り
天候:
行程:千畳敷ロープウェイ駅9:10-中岳10:20~40-木曽駒ケ岳11:30~12:00-中岳-宝剣岳14:00~10-ロープウェイ駅15:30
同行:キタムラ(我が社の山岳部)
 
 本日は部の初級雪山勉強会。キタムラさんとは2月の八ヶ岳・阿弥陀岳北稜以来、二度目の雪山訪問となる。
 ついでに言うと、自分は木曽駒は実に29年振り。前回は正月明けに単独テント泊でやはり木曽駒と宝剣岳を登ったが、手元の温度計で夜半は-25度まで下がり、一晩中シュラフの中で震えていた辛い思い出がある。
 
 今回の計画は土曜に千畳敷から木曽駒を登り、途中の小屋脇にテント泊。翌日曜に初級バリエーションのサギダル尾根から宝剣岳を考えていたが、出発日が近づくにつれ天気予報が怪しくなり、計画縮小となってしまった。
 
 前夜のうちに車で現地入り。神奈川からおよそ3時間で伊那市の萱の台バスセンター着。
 着いた時は深夜で駐車場の車も数えるほどだったが、朝起きてみるとものすごい車と登山者の数!
 交通費は少々高くつくが、それさえ目をつぶれば最も手軽に3,000m近くの山を楽しめるとあって、ここ中央アルプスの千畳敷は相変わらずの人気だ。
 
 朝二便目の臨時バスに乗り、高低差日本一を誇るロープウェイで一気に標高2,600mの千畳敷カールまで。
 一応、装備・服装とも完璧な冬山仕様で来たが、噂に聞く地元山岳遭難対策団体の門前チェックは無し。シーズン限定なのだろうか。
 事前の情報では、一時期あまりにチェックが厳しくて団体と登山者が揉め、そのため客足が遠のいてしまったため、最近はそれほど口うるさなくなったとか。まぁなかなか難しい問題です。
 
 既に純白のカールは登山者による蟻の行列。空は快晴。というより、青を通り越して紺に近いヒマラヤンブルーだ。
 で、我々もさっそく出発・・・と思ったら、何と自分のケースに入れたはずのサングラスが無い!
 おかしい!一体どこへ忘れてきたんだ。いや、先週、上越の大源太へ行って車の中のザックはそのままにしていたはずなのだが。
 改めてザックの中を探したが、結局見つからず。よく覚えていないが、おそらく先週下山の際に藪か何かに引っ掛けて山の中で落としてしまったのだろう。
 せっかくここまで来たのにサングラス一つで引き返すこともできず、まぁ何とかなるかと甘い考えで出発。
 
 今シーズンは1~2月と雪が少な目だったものの、3~4月でけっこう降ったため、ここ千畳敷カールも残雪豊富で純白の世界。
 とりあえず重いグサグサ雪で、雪崩の心配は無さそうだ。

  
 
 一列に延びる蟻の行列に混じって、まずは中岳まで。
 春の強い陽光に早くも汗が流れる。
 
 しばらく登って後ろを振り向くと相方が付いてきていない。
 登ってくるのを待って聞いてみると、どうやら朝一にロープウェイで急に高度を上げたせいか身体が馴れていないらしい。
 年度始まりで仕事の疲れや寝不足などもあるかもしれない。


 
 
 深呼吸、そしてゆっくり歩くことに努めて登りを再開。ほどなくして中岳に到着。  
 木曽駒、宝剣岳、伊那前岳のジャンクションとなり、回りは360度の展望。南アルプスや北八ツ、木曽御岳も近くに見える。
 少し休んだら身体も落ち着いてきたようで、そのままタラタラした登りで木曽駒ケ岳に到着。
 天気も良いのですごい人の数だ。

 

 
 
 頂上で記念撮影などするが、こういう時、満足できる写真を撮るのは実はなかなか難しい。
 自分はなるべく三脚を使ってあまり他人に面倒を掛けないようにしているが、それでもカメラ設置の関係でどうしても人に頼んだ方が早い時がある。
 そういう時はなるべく失敗の無いよう、いかにも日頃写真を撮っていそうな方にお願いしたりする。

 で、たまたま近くに居合わせた何とも高価そうな一眼レフと大口径レンズを携えたヒゲのプロフェッショナル風オヤジを見つけてロックオン!
 「すみません、シャッターを・・・。」とお願いしたところ「はい、いいですよ!」とニコニコ顔で快諾し、撮ってもらった。
 自分のカメラがボロく、陽が眩しくてカメラのファインダーがよく確認できなかったせいもあるが、撮ってもらった写真がコレだ。
 
 ・・・・・・・・・・。(大きな溜息)

 こちらはフツーのスマホ女性に撮ってもらった写真

 結局、今はi-phoneを使いこなしているインスタ女子の方が、高価な一眼レフを持った見せかけのオヤジより「きれいな」写真を撮ってしまうのではないだろうか。
 気を取り直して往路を引き返し、宝剣岳へ。
 
 さて宝剣岳だが、木曽駒や伊那前岳と違って短いながらも雪の時期は一般登山者には推奨されていない。
 この日も少し登ったところでトレースは途絶えて、これだけ登山者が多くても本日は中岳側から誰も登っていないようだ。
 たしかに単独だとちょいとイヤらしい感じの雪稜で、ここは2ピッチほどロープを出す。すると反対側から来たパーティーと出くわし、そこが宝剣岳の頂上だった。


 
 
 この先、極楽平までミックス帯のアップダウンが続き、初級バリエーションとして少しは楽しめそうだ。
 相方も行きたそうだったが、残念ながら時間的にはギリギリ。
 帰りのロープウェイに間に合わないのはまずいので、本日のところは断念して往路を引き返すことにした。
 
 下りは宝剣岳の頂上から20mだけ大事をとって懸垂下降。
 後はグサグサ雪の千畳敷カールを歩いて降りる。
 体力的にも十分余裕があり、やや物足りない気もしたが、天気も良く気持ちよい雪山が楽しめたので結果良し!
 
 下山後は麓の「こまくさの湯」で汗を流し、名物店「明治亭」のソースかつ丼で〆。

 
 
 だが、人生楽ありゃ苦もあるさで、その後が大変だった。
 帰りの運転中から目に異常を感じ、家に着く頃には涙ボロボロ。
 完全な雪目状態で、帰宅後は猛烈な痛みで目を開けることができず、翌夕方までほぼ失明状態だった。
 
 月曜に仕事を休んで医者に行ったところ何とか大事に至らなかったが、改めて雪山で目や皮膚を保護することの大切さを痛感。
 登るのは簡単でも、山をナメてはいけません。
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上越・大源太山 葡萄尾根-弥助尾根

2019年04月07日 | バリエーション・ルート
日時:2019年4月6日(土)~7日(日) 一泊二日
行動:単独

 さて、今回は他のメンバーと都合が合わず、久々に単独行。
 最初は南アの日向八丁尾根から甲斐駒などを考えていたが、事前の天気予報ではこの週末は天気は良くても標高の高い所では風速20m/s以上の強風が吹き荒れるとか。
 ちなみに自分が山へ行く時の目安として「風速17m/s以上からは台風」という概念があり、それならばと計画したのが(新潟側の)大源太山。
 標高1,600m弱ながら「上越のマッターホルン」などと呼ばれ、以前から行ってみたいと思っていた山だ。幸い天気も落ち着いていそう。
 
 大源太山の積雪期のルートとしては、弥助尾根、葡萄尾根、コブ岩尾根などがあるが、今回選んだのは葡萄尾根。
 ネットで記録を見るとコブ岩尾根が一番ハードなようだが、葡萄尾根もこの時期に単独で登っている人はそういないようで、パーティーによってはロープ必須などと書いてある。
 少々不安だが、ありきたりの所ではつまらないし、行ってみなけりゃわからない。とりあえず今回は偵察のつもり、ダメ元で行ってみることにした。

一日目 
 天候:
 行程:旭原9:00-葡萄尾根-大栗ノ頭14:30-コルの天場15:10

 土曜の朝、横浜の自宅を車で出発。
 一人なのでなるべく高速代を安くしようと、圏央道でなく第三京浜~環八経由で関越道に入るが、やはり少し渋滞に掴まる。
 今冬の初めはどこの山も雪が少なく一時はどうなることかと思ったが、谷川岳方面はけっこう真っ白でまだまだ雪山が楽しめる。

 湯沢ICで降り、登山口の旭原へ。
 ネットのレポでも確認していたが、この時期、ちょうど大源太山の登山口の所まで道路が除雪され、そこで通行止めとなっている。
 散歩していた地元の人に聞いたら、ここなら道路脇に駐車してOKとのこと。
 四方山話をしながら支度をして、山へ入る。


 少し進むと、今は雪で閉鎖されているゴルフ場に出る。
 誰もいない真っ白なゴルフ場の中を、正面に大源太山を見ながら一人突っ切っていく。
 適当な所から左手の葡萄尾根へ上がる。
 初めての場所だが、今日は絶好の天気で間違えようがない。
 
 樹林帯の尾根をタラタラと登っていく。
 数日前も雪が降ったようだが、小動物以外のトレースは一切無し。
 せいぜいスネ辺りの積雪だが、この時期の雪は重く、晴天ということもあり、あっという間に汗ダクになる。

 途中、ジャンクションピークで一息。振り返るとゴルフ場の施設が小さく見え、けっこう登ってきたのがわかる。
 ここから尾根は直角に左へ曲がり、下り気味にきれいな雪尾根が続いた後、主稜線に突き上げている。
 地形的には昨年登った仙ノ倉山北尾根と似たイメージだ。
 ラッセルというほどではないが、それでも一人でトレースを刻んでいくのはしんどく、20歩歩いては息を整えるという辛抱我慢の登りが続く。


 

 ようやく主稜線に合流。
 少し進んで大栗の頭(1,458m)に立つ。
 ここから大源太方面へはストンと一気に高度を落とす。

 ペースが良ければ天気がいい今日中に頂上を越えて弥助尾根の途中で幕とも都合の良い考えでいたが、さすがにそれは甘かった。
 この下りでは部分的に後ろ向きになるような急な傾斜に加え、雪庇や隠れたクレバスがいたる所にあり、慎重に歩を進める。


 

 最低コルに着いてホッと一息。
 上から見た通りそこは平坦で最高のテン場だった。まだ15時で少し早いが、この先、大源太の頂上までが今回の核心部であり、今日はここまでとする。
 ほとんど整地することなく、アライの「RIZE1」を設営。結局、今日はアイゼンは履かずにここまで来れた。
 
 斜陽に輝く大源太山はコルから見上げると二つの岩峰が丁度鬼の角のように聳えて、なかなか威圧的だ。はたして自分一人で行けるのか。
 単独の場合、とにかく引き際が肝心。その判断だけはミスらないようにしたい。後は成せば成るだ。
 
 夕方になると雲が広がり、明日の天気が少し心配になったが、その夜は風もなく静かに眠れた。

二日目
 天候:一時
 行程:テン場6:00-最初の岩峰-二つ目の岩峰-大源太山頂9:00~20-弥助尾根-林道徒渉点-旭原14:40
 
 朝、予定より少し寝坊して起床。
 外を見ると昨日の好天と打って変わってどんよりした曇り空。
 それでも雲の切れ間から朝陽が顔を出し、少し元気になる。

 
 
 簡単な朝食を済ませ、テントを畳んで出発。
 今日は朝一から核心部。メット、ハーネス、アイゼンを着け、気合を入れ臨む。
 
 まずは最初の岩峰へ。
 昨夜、テントの外で何やら気配がしたが、テントの周りにはやはり小動物の新しいトレースがあり、山頂の方へ続いていた。
 トレースは危うい雪庇ギリギリの所へ向かっており、それに騙されないよう安全ラインを取る。
 尾根は一部キノコ雪のようになっており、一見大丈夫そうなスノーリッジが実はフェイクで、なるべく右側のブッシュラインを目印に進んでいく。
 
 最初の岩峰は正面が灌木混じりの急なリッジで、それを避けるように右手の幅広いルンゼとのコンタクトラインを登っていく。
 幸い雪質も良くブッシュもホールドとして使えるのでそれほど不安はないが、上部に行くと傾斜は50度、足元はスッパリ数百mは切れ落ちており、絶対に落ちれないところだ。
 
 自分としては次の岩峰の方がより核心と思っていたが、多くのパーティーがロープを使った方が良いと言っているのはこの最初の岩峰のようだ。
 それでも先月の一ノ倉沢の一・二ノ沢中間稜の余韻が残っているため、自分なら大丈夫との思いがあった。

 
 
 最初の岩峰を越えると、距離は短いがまた不安定なスノーリッジとなる。
 ここまで来ると、退却も簡単にはできない。振り返りつつ覚悟を決めて最後の砦のような次の岩峰へ進む。
 こちらは遠くからでもはっきりわかる威圧的な壁だが、近づくほどにそれほど大きくはないことがわかる。
 ブッシュで手掛かり豊富そうだが、さすがに正面の壁に一人で突っ込むのはちょっとリスキー。ここは無理せず、セオリーどおり岩壁の裾を右に巻いていく。
 
 ここも落ちることは許されない傾斜だが、気を抜けないのはせいぜいワンポイント。案ずるより産むが易しで無事切り抜ける。
 最後は左手のコブ岩尾根と合流しドームをひと登りで頂上かと思ったら、ここから300mぐらい細いスノーリッジが続き、その先端が大源太の山頂だった。
 
 
 
 頂上は狭く、雪を切り崩してようやく休める程度。2016年に登ったボリビアのワイナポトシ(6,088m)もこんな感じだった。
 湯沢の町は近いが、それでも見渡す山々の中で今いるのはおそらく自分一人。どんよりした曇り空も相まってちょっと隔絶した雰囲気を味わった。
 写真など撮りながら20分ほど休み、下山開始。
 
 下りの弥助尾根もボリュームのある雪稜の連続で、こちらもけっこう傾斜があり油断できない。
 もしかしたらトレースあるかもと少し期待したが、やはり無く、雪庇や隠れたクレバス・トラップを慎重に判断しながら降りていく。
 それでも何回かハマリかけ、一回は落ちたら自力で上がれないような大穴を踏み抜き、ヒヤッとした。
 天気が悪くホワイトアウトになったりしたら弥助尾根もなかなか厳しく一人だと怖いと思う。
 
 下りは楽かと思ったが尾根は長く、重い雪と雪庇、隠れクレバスを回避しながらで時間がかかる。
 幸い視界は利き、地形もとてもはっきりしているので尾根通しに忠実に下り、沢沿いの林道に出る。
 林道に出た安心感からか最後に行く方向を間違え、少しタイムロスしたが、最後はところどころデブリに埋もれた林道を下ってようやく愛車の待つスタート地点へ。
 たった二日間、わずか1,600mの低山ながら、それなりの体力と緊張感を要し、やり切った感あり。
 念のため持参した30mロープは結局一度も使わずに済んだが、内容としてはなかなか濃かったと思う。
 
 最後は土樽の「岩の湯」で汗を流し、湯沢の「人参亭」でお約束のロースカツ定食。
 どちらも今は亡きタケちゃんとこっち方面の沢へ行った帰りはよく寄った思い出の場所。あの頃を想いながら山行を締め括った。

 
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