とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

番組の感想:NHK-BS1「神の数式 完全版」

2013年12月25日 22時33分50秒 | 理科復活プロジェクト
4夜に渡って放送されたNHK-BS1「神の数式 完全版」の感想記事だ。

9月に放送された番組の感想はこちらの記事でお読みいただけるので、今回追加された箇所と変更された箇所について、それぞれ良かった点、不満に思った点を書き出してみた。

第1回 「この世は何からできているのか ~天才たちの100年の苦闘~
第2回 「宇宙はどこから来たのか ~最後の難問に挑む天才たち~
第3回 「宇宙はなぜ始まったのか ~残された“最後の難問”~
第4回 「異次元宇宙は存在するか ~超弦理論“革命”~

YouTube: 動画検索

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2022年12月に追記

NHKスペシャル 神の数式 第1回「この世は何からできているのか」
https://www.dailymotion.com/video/x4o1qhu

神の数式 完全版 #02 「“重さ”はどこから生まれるのか~自発的対称性の破れ 驚異の逆転劇~
https://www.dailymotion.com/video/x4e7woi

NHKスペシャル 神の数式完全版3「宇宙はなぜ始まったのか 残された最後の難問」
https://www.dailymotion.com/video/x4oahso

NHKスペシャル 神の数式完全版4「異次元宇宙は存在するか 超弦理論革命」
https://www.dailymotion.com/video/x4oai3k

神の数式 完全版 #01 「この世は何からできているのか~美しさの追求 その成功と挫折~」
https://www.dailymotion.com/video/x4e7sq4

神の数式 完全版 #02 「“重さ”はどこから生まれるのか~自発的対称性の破れ 驚異の逆転劇~」
https://www.dailymotion.com/video/x4e7woi

神の数式 完全版 #03 「宇宙はなぜ始まったのか~残された“最後の難問”~」
https://www.dailymotion.com/video/x4ecx8l

神の数式 完全版 #04 「異次元宇宙は存在するか~超弦理論“革命”~ 」
https://www.dailymotion.com/video/x4efihr

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第1回 「この世は何からできているのか~美しさの追求 その成功」

良かった点:

- ヒッグス粒子の発見、ヒッグス博士の紹介

番組冒頭でヒッグス粒子の発見、12月10日にノーベル物理学賞を受賞したヒッグス博士が映像で紹介されていた。

参考記事:速報:2013年ノーベル物理学賞はヒッグス博士とアングレール博士に決定!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e4c4d6d15d52e86a94caccd6da8edb5e

- 自発的対称性の破れの持つ意味

倒れる鉛筆が意味するところの自発的対称性の破れが南部陽一郎博士の発見であることは9月の番組でも紹介されていたが、それがヒッグス粒子の発見と素粒子の数式の扉を開けるきっかけになったことが明確に述べられていた。

ところでこの「鉛筆を立てる問題」は計算で解くことができる。以下の記事をお読みいただきたい。

鉛筆はどれくらいの時間立っていられるか?
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/448a4abf90b7f8991e4a3600f2f6535e

- 素粒子の数式の最初のLの意味

素粒子の数式の最初のLがこの世のすべての数式をあらわすという宣言であることが述べられていた。このLはラグランジアン密度と呼ばれる量であるが9月の放送では全く触れられていなかった。

- ポール・ディラックの娘さん

ディラックの娘さんが登場し、ディラックの几帳面な性格をうかがわせる逸話が紹介されていた。

晩年のディラック博士による量子力学の講義(Paul Dirac: 1902-1984) 動画は途中から安定します。



1982年、ゲッティンゲンでのインタビュー


- 反粒子、反物質について

ディラック方程式から反粒子(電子に対する陽電子)の存在も予言され、それが実験で確認されていたことが紹介されていた。

参考記事:ディラックによる陽電子の予言(1928年)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0764eaa33a765ffff27bccee3e35b4f3

- 並進対称性について

並進対称性の例として東京とテキサスでは物理法則が同じであることが紹介されていたこと。

- 戦時中の朝永博士のこと

9月の放送では戦時中に朝永博士が研究チームを率いて困難な状況の中で研究を続けていたという説明だったが、今回の放送では「軍から命じられた研究を行ないながらも、同僚たちと協力して密かに電磁気力の研究を進めていた。」と正確な説明がされていたこと。

- くりこみ理論について

朝永博士、ファインマン博士、シュウィンガー博士がそれぞれ独立して発見した「くりこみ理論」のことがきちんと「くりこみの手法」として説明されていたこと、3種類のくりこみの手法があることが紹介されていた。9月の放送では「特殊な計算方法」というあいまいな呼び方で紹介されていた。

- ミルズ博士

ヤン博士だけでなくミルズ博士も紹介され、非可換ゲージ理論がお二人の業績であることが説明されていた。9月の放送ではヤン博士だけ紹介されていた。

不満に思った点:

- シュレーディンガー方程式

ディラック方程式の元となったシュレーディンガー方程式が紹介されていたが、この方程式が量子力学というミクロの世界の基礎方程式であることに言及してほしかった。その意味を解説するには時間が足りないが、そのような紹介をするだけで素粒子の数式が量子力学という理論とつながりがあることが視聴者に伝わると思う。

- 非可換ゲージ対称性

9月の放送では非可換ゲージ対称性のことが全く解説されていなかったが、今回は陽子(P)と中性子(N)の例を紹介して説明を試みていたのが良かった。ただ、この説明だと「非可換」であることの意味合いが視聴者に伝わらない。ヤン-ミルズ理論を説明するにはワインバーグ-サラム理論(SU(2)×U(1)対称性)やクォークの理論(量子色力学=QCD、SU(3)対称性)を紹介すべきで、この番組で説明するのはとても無理だが、あと2~3分くらい時間をとれば「非可換な回転」という意味だけでもある程度伝えることができたと思う。

非可換な回転については、このページの説明がわかりやすい。

無限小回転1(物理のかぎしっぽ)
http://hooktail.sub.jp/mechanics/infinitesimalRot1/

その他:

- Q. E. D.

くりこみの方法を使って無限大の問題が解決され、電子の磁気(磁気モーメント)が精度10桁で計算できるようになったことが紹介された後、黒板に「Q. E. D.」と書かれているのをダイソン博士が見ているシーンが映る。この「Q. E. D.」は証明完了(Quod Erat Demonstrandum)ではなく「量子電磁力学(Quantum Electrodynamics)」という意味だ。ネット上で誤解されている方がいるのを見かけたのでここに書いておこう。

電磁気学+特殊相対性理論+くりこみ理論=量子電磁力学

である。


参考図書:第1回放送分の内容をより深く理解したい方には次の本をお勧めしたい。

強い力と弱い力:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177

ヒッグス粒子の発見:イアン・サンプル
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/46c46f676c631634b83fb9616161ec4d

物理法則はいかにして発見されたか:R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ab31086d3d97f72d800893033189592d

光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b34cd4e7d077d037022e62734d1ee76


第2回 「“重さ”はどこから生まれるのか~自発的対称性の破れ」

第2話は素晴らしかった。NHKはもちろん他局も含めて科学教養番組で、ここまで専門的な事柄を掘り下げて解説したのは初めてのことだと思う。第2話は9月の番組では放送されていなかた部分が7割くらいあった。

良かった点:

- 復習の時間があった

番組冒頭の8分間が復習にあてられていたのが良かった。第1回の放送を見れなかった人にはありがたかったと思う。

- アングレール博士が紹介されていた

ヒッグス博士だけでなく、同時にノーベル物理学賞を受賞したアングレール博士も紹介されていたこと。

- 重さの謎は2種類

力の粒子の重さの謎と物質の基本素粒子の質量の謎が別のものであることが明確に解説されていたこと。

- カイラル対称性にの破れよって導かれたこと

右巻きの電子と左巻きの電子では弱い力の「感じ方」が違うことが解説されていた。これをカイラル対称性という。この対称性より理論的には物質の基本素粒子の質量がゼロになってしまうことの説明がわかりやすかった。物質の基本素粒子とは電子、ニュートリノ、クォークとそれらの反粒子のことである。カイラル対称性が破れることにより物質の基本粒子のうちクォークに質量があることが説明できるようになった。

- 真空の概念の大変革

強い力を感じるクォークと反クォークについて、カイラル対称性が自発的に破れることによっと右巻きのクォークと左巻きの反クォーク(または左巻きのクォークと右巻きの反クォーク)がペアになり、その異常なペアが無数に生じて空間を満たす。(クォークペアの沈殿)これが真空の正体であるということが解説されていた。私たちは真空を「何もない空間」だと思っているわけだが、そのような常識を覆えす偉大な発見だ。そしてクォークがその「真空」の中を移動するときに光速で進めないことが「質量の起源」であることが説明されていた。これが自発的対称性の破れという発見によってもたらされた1つの結論だということがよく理解できた。

- 完璧な美しさは崩れる運命にある(自発的対称性の破れ)

「完璧な美しさは崩れる運命にある」ということは9月の放送や今回の第1回の放送で何度も繰り返されていたが、いまひとつ理解しにくいものだった。第2回の放送ではクォークの質量の起源という具体的な例で理解できるようになった。(電子とニュートリノの質量の謎はまだこの段階では解決していない。)

- 質量という言葉

この番組で使われている「重さ」という言葉が「質量」と同じ意味であることがきちんと示されていた。

- 弱い核力の謎

弱い核力を伝える粒子(W+粒子、W-粒子、Z粒子)が理論的に予言される過程、CERNで検出される過程が紹介されていたこと。(グラショウ博士、ワインバーグ博士の功績)

- 電子や弱い核力を伝える粒子の質量の謎

電子やニュートリノの質量の謎はヒッグス粒子という「都合のよい粒子」を想定することから始まったこと、そしてヒッグス粒子が存在すれば自発的対称性の破れがおこり素粒子(電子、ニュートリノ、W+粒子、W-粒子、Z粒子)は重さを持つことができるというヒッグスの予言を使うことでワインバーグが提唱した理論によって解決されることが説明されていたこと。ヒッグス博士の功績とワインバーグ博士の功績がどのような関係にあるのかがはっきり理解できたこと。自発的対称性の破れは電子や弱い核力を伝える粒子の質量の謎を解明するためにも必要だった。

- CERNでの弱い核力を伝える粒子、ヒッグス粒子発見の報告の意義

上記のように順序立った説明がされることで、弱い核力を伝える粒子やヒッグス粒子の発見が素粒子物理学においてどれだけ重要なことだったか理解できるように構成されていた。標準理論の完成である。

参考図書:標準理論を学ぶための代表的な教科書(大学院生向け)はワインバーグ博士によって書かれた次の本だ。

大著に挑む (ワインバーグの「場の量子論」)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95ac4b64aa4eaf70608088006813cbf5

- 残された謎

クォークがそれぞれなぜ異なる質量を持つのかなど、まだ解明されていない謎が残されていること、重力の理論を取り入れないと完全な理論が完成できないことが述べられていたこと。

不満に思った点:

- クォークの発見について説明されていなかった

クォークの存在の予想がゲルマン博士によってなされたことを解説したほうがよいと思った。

- 原子核の質量のこと

陽子と中性子はそれぞれ3つのクォークでできているが、クォークの質量だけでは原子核の質量のうち1パーセントしか説明できないことが示されていなかった。残りの99パーセントの質量は強い核力のエネルギーによるもので、そのエネルギーがアインシュタインのE=mc^2という特殊相対論の式によって導かれる質量であることを解説してほしかった。

- クォークは単独で存在しないこと

真空(=クォークペアの沈殿)の中をクォークがたった1つだけ運動するイメージが映されていたが、クォークどうしは強い核力で閉じ込められているので単独では取り出すことができない。これを説明すると長くなってしまうから仕方がないのだが、本当の有り様とは若干違うイメージになってしまった。


参考図書:第2回放送分の内容をより深く理解したい方には次の本をお勧めしたい。

強い力と弱い力:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177

大栗先生の超弦理論入門:大栗博司(くりこみの方法はこの本の中で解説されている。)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75dfba6307d01a5d522d174ea3e13863

ヒッグス粒子の発見:イアン・サンプル
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/46c46f676c631634b83fb9616161ec4d

質量はどのように生まれるのか:橋本省二
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b0090a747cf0543c3b535fe175d76885

「標準模型」の宇宙:ブルース・シューム
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/25297abb5d996b0c1e90b623a475d1aa


第3回 「宇宙はなぜ始まったのか~残された“最後の難問”~」

第3回の放送は9月に放送された内容をより丁寧に、話の筋が自然につながるようにシーンを補足する形に改善された。冒頭の超弦理論の簡単な紹介に始まり、前半は一般相対性理論ではブラックホールの中心でおきていることが解決できないことと素粒子の数式と重力の数式を満たす数式を求めるロシアの物理学者ブロンスタイン博士の話で、後半は超弦理論が生まれた背景が紹介された。

良かった点:

- アインシュタインの一般相対性理論

9月の放送よりも一般相対性理論のことがより詳しく紹介されていた。

- ホーキング博士の研究内容

宇宙誕生の謎を解明するためにブラックホールの中心でおこる現象を一般相対性理論をあてはめて計算したのだが、無限大がでてきて計算不能となる。この説明が9月の放送よりも時間をかけて丁寧に解説されていた。

- ブロンスタイン博士の研究内容

ロシアの物理学者ブロンスタイン博士のことを知る人は物理学を専攻していてもかなり少ない。彼が目指していたのは一般相対性理論の数式と素粒子の数式の統合である。9月の放送では彼の研究内容が少ししか紹介されていなかったが、今回はたっぷり時間をとり彼が取り組んだ数式まで紹介されていた。またブロンスタインの時代は標準理論の完成よりも20~30年前のことであり、彼が導入しようとした素粒子の数式が標準理論の数式そのものではないことが正しく伝えられていた。

- 重力をミクロの世界に適用すると無限大が無限大個でてしまうこと

素粒子どうしの間で働く重力を計算しようとすると無限大が無限大個でてきてしまう理由がわかりやすい図と(少し難しいが)数式を使って説明されていた。その結果、無限大の問題はブラックホールの中心だけでなく身の回りの空間のあらゆる点にあることが導かれてしまった。

- 重力(重力子)がくりこみ不可能であること

重力は素粒子の数式を導くために発案された「くりこみの手法」を使っても無限大を解消できないことが紹介されていた。

- 弦理論に対する南部博士の功績

超弦理論の元となった弦理論の発案者のひとりが南部博士であることが紹介されていた。

- シュワルツ博士、ホーキング博士の日常生活

シュワルツ博士とホーキング博士がそれぞれご自宅で過ごす様子が映されていた。

- ファインマン博士

ファインマン博士がノーベル物理学賞を受賞したのは知っていたが、授賞式のシーンを動画で見たのは初めてのことだった。(余談:正しくは「授賞式」で「受賞式」ではない。)これはファインマン博士のファンのひとりとしてとてもうれしかった。ファインマン博士は1986年のスペースシャトルチャレンジャーの事故原因を究明した物理学者でとしても知られている。これについては「この記事」の中で動画や解説ページを紹介しておいた。

参考記事:

ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e94dd49d7d8cc395e29d37927e30173d


不満に思った点:

- 超弦理論の「超」の意味が説明されていなかった

9月の放送でも同じことなのだが、弦理論がどのように超弦理論になったのかが説明されていなかった。超弦理論は素粒子の「超対称性理論」が成り立つことを前提にした理論なのだ。

- ブラックホールの「奥底」

本当のブラックホールは放送されたイメージのような円盤型ではなく、球に近い形だ。だから宇宙のはじまりの謎が潜んでいる場所は「奥底」ではなく「中心」である。


参考図書:第3回放送分の内容をより深く理解したい方には次の本をお勧めしたい。

重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f63cdcd45ec542fa62d535b4cc715d69

大栗先生の超弦理論入門:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75dfba6307d01a5d522d174ea3e13863


第4回 「異次元宇宙は存在するか~超弦理論“革命”~」

第4回の放送も9月に放送された内容をより丁寧に、話の筋が自然につながるようにシーンを補足する形に改善されていた。

良かった点:

- 重力子の質量はゼロ

重力の粒子(重力子)の質量がゼロであることが紹介されていた。重力子の存在は超対称性理論によって予言されている。これについては「不満に思った点」でも言及したい。

- カラビ-ヤウ多様体

ミクロの世界の巻き取られた異次元空間のことは9月の放送でも紹介されていたが、今回の放送でそれが「カラビ-ヤウ多様体」という名前の空間であることが紹介されていた。名前を示すのは大切だ。できればそれが6次元空間だということも紹介してほしかった。

- ブラックホールの謎の熱

ブラックホールの中心で熱が発生するということが既存の物理学ではなぜ説明できないのかがわかりやすく解説されていた。でもどうやってホーキング博士は謎の熱を計算することができたのだろう?

- ブラックホールの謎の熱の解明

ブラックホールの謎の熱のメカニズムD-ブレーンによる計算で解明された。9月の放送のときよりもずっと詳しく解説されていた。それがバファ博士と彼の同僚の業績であることが紹介されていた。

- D-ブレーン

10次元の世界にあるD-ブレーン(2次元の膜)は私たちの4次元の世界から見ると「点」に見えることに言及されていた。でも番組に示されていたように折りたたまれているわけではない。たとえばそれは平面(2次元空間)を突き抜ける線(1次元)を想定すると、平面の中の生き物からみるとその線は点に見えるということだ。

- ホーキング博士

ホーキング博士の功績や人生に対する前向きな姿勢が9月の放送よりもずっと詳しく紹介されていた。

- ウィッテン博士

M理論を提唱したウィッテン博士と彼の業績がきちんと紹介されていた。

- シャーク博士の功績

シュワルツ博士と超弦理論を発見したことだけでなく、シャーク博士の研究はM理論の発見にも活かされたことが紹介されていた。

不満に思った点:

- 開いた弦

輪ゴムのように閉じた弦だけ紹介されていた。弦には糸くずのように開いた弦もあることが説明されていなかった。

- 10次元の計算方法

超弦理論が要請する10次元を計算する式が提示されていたがシンプルすぎた。本当はもっと複雑な式から導かれる。詳しい計算方法は高校生にも理解できるレベルで「大栗先生の超弦理論入門」に書かれている。

大栗先生の本では弦理論の場合の空間の次元数25を求める方法が紹介されているが、以下の記事によると超弦理論のときの空間の次元数10は次のようにして求めるのだそうだ。

宇宙を支えていたのは、驚異のたし算だった 人はたすことをやめない~オイラーの超絶技法 | JBpress(日本ビジネスプレス)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46939



- 5つの超弦理論

超弦理論が5タイプの理論に分かれてしまったという問題が紹介されていなかった。そしてそれをまとめるのがM理論だということも紹介されていなかった。

- D-pブレーン

2次元のD-ブレーンのことが紹介されていたが、D-pブレーンのことが紹介されていなかった。pは0から26の値をとる。つまり0次元のD-0ブレーンから26次元のD-26ブレーンまである。26は弦理論の次元の数だ。私たちの住む世界は空間3次元のD-3ブレーンである。

- 異次元の探索

- 異次元の探索をするために重力波検出施設(LIGO)などが紹介されていたが、なぜ重力波を検出することが異次元の検出に結びつくかが解説されていなかった。そもそもこの番組で重力や重力の粒(重力子)は言及されていたが重力波のことは紹介されていない。重力が波であることや重力波の速度が光速に等しいことはアインシュタインの一般相対性理論によって予言された。だから重力子が存在すれば質量も光子と同じくゼロであると予想されている。

重力波:ウィキペディアの記事

- 重力の質量はゼロ

番組では「輪ゴムのように丸まった弦であらわされる重力の粒(重力子)の重さは実験によってゼロであることがわかっている。」と紹介されていたが、重力子は超対称性理論によって予言され、まだ実験によって検出されたことはない仮説上の素粒子だ。だから実験によって重力子の質量がゼロだと確認されたという表現はおかしいと思う。

重力子:ウィキペディアの記事

- 超対称性理論

超弦理論や重力子を説明するためには、そもそも超対称性理論が成り立っていなければならないのだが、超対称性理論の説明が省略されていた。重力子は超対称性粒子のひとつである。

超対称性:ウィキペディアの記事
超対称性粒子:ウィキペディアの記事
超対称性理論:ウィキペディアの記事

- 10の500乗個の宇宙

番組の最後で「10の500乗個の宇宙が今でも生まれたり消えたりしている。」という期待をもたせる(楽天的な)言い方がされていたが、これはちがう。カラビ-ヤウ多様体の種類が10の500乗個の自由度(可能性)があるため、それほどたくさんの種類の異なる物理法則をもつ宇宙の姿が得られてしまう問題があるというのが正しい説明。私たちの宇宙はそのうちの1つだ。9月の放送では「10の500乗個の宇宙が生まれるという新たな問題も生じた。」という表現がされていたので、今回の放送ではこの部分については「改善」ではなく「改悪」になってしまっていた。これについては「隠れていた宇宙(上):ブライアン・グリーン」という記事をお読みいただきたい。

参考図書:第4回放送分の内容をより深く理解したい方には次の本をお勧めしたい。

大栗先生の超弦理論入門:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75dfba6307d01a5d522d174ea3e13863

Dブレーン―超弦理論の高次元物体が描く世界像:橋本幸士
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e18ed1e00f1c877cf3e7926a564f01ae

エレガントな宇宙:ブライアン・グリーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/404c24b68f57609900bc3d7a030333d5

宇宙を織りなすもの(下):ブライアン・グリーン
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4794217013


★ 番組情報 ★
NHK-BS1「神の数式 完全版」全4回

12月24日(火)~27(金)午後7時00分~7時50分


人類の思索の歴史。それは、全宇宙の謎を解く唯一無二の“神の数式”を追い求めた歴史でもあった。ニュートン、アインシュタイン以来、科学者たちは「あらゆる自然現象は、最終的には一つの数式で説明できるはずだ」と信じてきたのだ。そしてノーベル賞を受賞したヒッグス粒子の発見によって、人類はその究極の数式の輪郭をつかもうとしている。9月に放送し大きな反響を得た番組を4回シリーズの「完全版」として届ける。
【出演】オジェル・ノザキ,【語り】小倉久寛

神の数式 完全版
12月24日(火)午後7:00~7:49 第1回 「この世は何からできているのか~美しさの追求 その成功」
12月25日(水)午後7:00~7:49 第2回 「“重さ”はどこから生まれるのか~自発的対称性の破れ」
12月26日(木)午後7:00~7:49 第3回 「宇宙はなぜ始まったのか~残された“最後の難問”~」
12月27日(金)午後7:00~7:49 第4回 「異次元宇宙は存在するか~超弦理論“革命”~」





関連記事:

番組告知:NHK-BS1「神の数式 完全版」全4回
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d763b4d8161efae445f37e05ab23f1e6

番組告知:NHKスペシャル「神の数式」(9月21日、22日)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1a809c46b31c32b3b3c84dc0be881ddc

NHKスペシャル「神の数式」の感想
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a2368bbcee58771d16dbcb4613dc077d

解説:NHKスペシャル「神の数式」第1回:この世は何からできているのか
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5f0430e3fed08f6947d5efbe9559fbbd

解説:NHKスペシャル「神の数式」第2回:宇宙はどこから来たのか
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7ddecf5c37c9ef0e467bb5be8f168898

鉛筆はどれくらいの時間立っていられるか?
(「神の数式」番組冒頭の鉛筆を立てる問題を計算してみよう。)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/448a4abf90b7f8991e4a3600f2f6535e
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