とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

ボクが逆さに生きる理由: 中島宏章

2017年12月28日 18時20分39秒 | 理科復活プロジェクト
ボクが逆さに生きる理由: 中島宏章」誤解だらけのこうもり

内容紹介:
こうもりの生態、生息地、飛び方から、謎に満ちた進化、免疫、長寿まで最新情報をたのしく解説!

◆日本の夜空はコウモリだらけ
◇人がいない洞窟や森、大き目な雑木林はもちろん、都心部の公園などにも、コウモリは生息しています。夕方、空を見上げて、大きさは小鳥ぐらいなのに、ちょっとヘンな飛び方をしているのは、たいてい、コウモリです。こうもりは、それほど身近にいるのです。

◆わかってきたこと、まだわからないこと
◇飛ぶ能力や超音波(エコーロケーション)については、かなりのことがわかりはじめており、本書でしっかり解説しています。しかし、どのように進化してきたのかは謎のままです。また、生態について、休眠状態(トーパー)など、面白いことが、たくさんわかりはじめています。これも本書でていねいに解説しています。

◆コウモリは人類を救う?!
◇哺乳類を比べると、小さい割に、コウモリはとびぬけて長生きなことがわかります。研究が進めば、長寿の薬ができるかもしれません。また、鳥よりも体が重いのに飛行できる能力も重要です。もし、はばたき飛行機ができれば、滑走路が不要になり、騒音もなくなります。人類の発展に大いに貢献する可能性があるコウモリについて、本書では、研究の最前線を、楽しい文章で解説しました。

2017年10月刊行、248ページ。

著者について:
中島宏章(なかじま ひろあき): ホームページ: http://hirofoto.com/
1976年札幌市生まれ。(株)野生生物総合研究所で野生動物の調査業務を9年経験。2007年、31歳でフリーとなり、調査業を続けながら、憧れだった動物写真家を目指す。2010年、コウモリを主人公にした20枚の組写真作品「BAT TRIP」で第3回 田淵行男賞を受賞。2012年には第37回 木村伊兵衛写真賞のファイナリストにも。著書に『BAT TRIP~ぼくはコウモリ』(北海道新聞社、2011年)、『たくさんのふしぎ~コテングコウモリを紹介しまい』(福音館書店、2012年)などがある。現在、北海道各地でコウモリ写真展・講演会を開催しながら、自身の写真活動や子育て経験を通じ、現代社会の子どもたちの「自然離れ」をなんとかしたいと模索中。北海道すべての市町村でコウモリ写真展・講演会・観察会を開催することを目標とする「あなたの街のコウモリの森」プロジェクトに取り組んでいる。


理数系書籍のレビュー記事は本書で352冊目。

生物学は完全に僕の守備範囲外だ。いや、生物学を専攻していてもコウモリに詳しい人はそうざらにいるものではない。爬虫類マニアのほうがコウモリマニアよりずっと多いことだろう。

本書は大学時代に生物学を専攻し、「身近な科学・学びを遊びに」というブログをお書きになっている「Kidoさん(@science_kido)」からお勧めいただいた。ブログ歴はまだ2か月あまりだが「科学ブログランキング」に登録され、科学全般にわたって精力的に良い記事をお書きになっている。

コウモリはなぜ逆さまで眠るのか?
コウモリとはいったい何者なのか?
コウモリは超音波でどのように周囲を把握するのか?

子供の頃に不思議に思うことがあったとしても、このような機会がなければ本書のような本を読むことはなかっただろう。ふだん見かけることはないし、どちらかというと汚らしいイメージの生き物である。

ところが本書を読むと、コウモリに対するイメージががらっと変わってしまった。こんなに愛らしい生き物だったのか。。。冒頭には著者が撮影したアルバムが数ページ挿入されている。これはネットで公開されている写真だ。

拡大


章立てはこのとおり。これだけ見ても僕はコウモリのことをほとんど知らなかったことがわかる。

第1章:コウモリのこと、どれくらい知っていますか?
第2章:進化の謎を探る
第3章:飛行メカニズムの謎に迫る
第4章:超能力ではない、超音波だよ
第5章:知りたい!長寿の秘密

そもそも解明されていないことが多いのである。大きいものから小さいものまで約1300種もいるそうだし、その数はますます増えつつある。何しろコウモリが哺乳類である。そしてDNA分析によって近年わかったのだが、系統樹上ではどちらかというと「ウマ(馬)」に近いそうなのだ。生物の進化の過程で、どのように誕生したか詳しいこと今も謎なのである。

私たちが羽だと思っている部位も、実はコウモリの手であり指がちゃんと5本ついている。羽の水かきのような部位は「皮膜」で、多少の傷を負っても元通りに回復するのだ。約1300種もいるコウモリには肉食のものもいるし、草食のものもいる。そしてあろうことか「血」を吸う種類のいるのだ。まさに吸血コウモリである。

本書は生物系の本でありながら、物理学ファンにも読み応えのある解説が含まれている。それは、第3章の「飛行メカニズムの謎に迫る」と第4章の「超能力ではない、超音波だよ」の部分。

「飛行機はなぜ飛ぶのか?」という疑問に正しく回答を与えてる物理の本は少ないと著者は書いている。つまり揚力はどのように生じるのかという疑問のことだ。

「飛行機がなぜ飛ぶか」分からないって本当?
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20140514/264597/

コウモリも飛行機も(そして鳥も)、揚力を得る仕組みということであれば同じである。著者は自分が理解できるまで、疑問をとことん追求しいていく。「ベルヌーイの定理」により、翼の上と下では大気の圧力に違いが生じるから、その圧力差が揚力となる、という説明では納得しない。では、なぜ翼の上下で圧力が異なる状況が生まれるのか?

最終的に著者は揚力のしくみを理解するに至り、さらにコウモリや鳥がなぜ前に向かって飛べるのかも理解する。このあたりの説明は、本書が一般読者向けの本であるだけに、どなたでもわかるように書かれている。

さらに著者は飛行のからくりに関して、コウモリ特有の事がらも解説する。翼(実は手)のどの部分が揚力を得るのに使われ、どの部分が推進力を得るのに使われるかということだ。そして、翼をどのように動かしてエネルギー効率の良い飛び方をしているかということも詳しく解説している。


拡大




第4章の「超能力ではない、超音波だよ」に関しては、本書を紹介してくださったKidoさんが、ご自身のブログに解説記事をお書きになっているので、ぜひお読みいただきたい。

イルカやコウモリが使うエコーロケーションってなに?
https://www.science-kido.com/single-post/2017/12/19/イルカやコウモリが使うエコーロケーションってなに?


先日のサイエンスZERO「7つの地球を大発見!? “トラピスト1”惑星系」を見て、環境の違いによって予想もつかない生物が進化しうる可能性に想いをはせたばかりだが、私たちの地球にでさえとてつもない能力や機能を持つ生物がたくさんいること、解明されていない生物はたくさんいることを、本書を通じて思い知らされた。コウモリはこの意味で実によくできた生き物である。

著者の(行き過ぎといっていいほど)コウモリへの情熱と愛情に満ちた本だ。Kidoさん、面白い本を紹介していただき、ありがとうございました。


ところで、コウモリの発する超音波を聞くための「バットディテクター」という装置があるのだが、本書で紹介されている商品はこちらから購入することができる。

かっちゃんの・電子工房(バットディテクターの製作と販売)
バットディテクターはコウモリの出す声(超音波)を人の耳で聞こえる周波数帯(可聴音)に変換します
http://www.mb-labo.com/

Bat detecting with the Magenta Bat 5



ブログ執筆のはげみになりますので、1つずつ応援クリックをお願いします。
にほんブログ村 科学ブログ 物理学へ 人気ブログランキングへ 

「にほんブログ村」では、「科学ブログ 人気ランキング」と「注目記事ランキング(科学)」をくらべることでランキングを不正な手段を使って上げているブログがすぐわかるように作られている。不正行為はこのページのいちばん下に設置されたフォームから通報できる。(不正クリックの例

 

 


ボクが逆さに生きる理由: 中島宏章」誤解だらけのこうもり



はじめに

第1章:コウモリのこと、どれくらい知っていますか?
- コウモリってどんな生き物?
- コウモリは何のなかまか?
- 世界中にいろいろなコウモリがいる
- コウモリの衣食住【衣】
- コウモリの衣食住【食】
- コウモリの衣食住【住】

第2章:進化の謎を探る
- コウモリはどのように進化したか?
- コウモリの分類の変遷
- 知りたい!逆さまの理由
- 逆さまになってみた!
- 飛ぶようになった理由

第3章:飛行メカニズムの謎に迫る
- 飛行機がどうして飛べるのか、わかっていない?
- 要は揚力
- 空の飛び方、教えます
- コウモリの飛翔と体のつくり
- 鳥類との比較

第4章:超能力ではない、超音波だよ
- エコーロケーションを使って「音で見る」
- コウモリのエコーロケーション研究の歴史
- エコーロケーションの仕組み

第5章:知りたい!長寿の秘密
- 体のコンディションを自在に調節できる!
- 長生きの秘訣は?
- コウモリの天敵
- コウモリとウィルス

おまけ
おわりに
コメント (3)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 開平と開立(第34回):54,75... | トップ | 日経サイエンス 2018年2月号 ... »

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
飛行機が飛ぶ (hirota)
2017-12-30 12:22:53
そこの飛行機が飛ぶ説明って、相手に分からない言葉を出してるだけで説明になってないんじゃないか?
単純に気流を下に向けた反動で浮くと言った方が簡単でしょう。翼の後端が尖っているから気流が剥離せず翼に添って流れて下に向くわけだが。
別の分野でも思った事だが、専門家って結果を原因のように言う事があるけど、馴れすぎて結果を当然のように思うんかね?
返信する
Re: 飛行機が飛ぶ (とね)
2017-12-30 14:40:06
hirotaさんへ
飛行機が飛ぶ説明に関して、本書にはhirotaさんのご説明に近い形の解説も書いてありました。
ネット上にはいくつか異なる解説がありますが、本書での解説にいちばん近いものは次のページの解説でした。

飛行機はなぜ飛べるか-渦のはなし-
http://chemeng.in.coocan.jp/ice/pche09.html
返信する
ベルヌ-イの定理 (hirota)
2017-12-31 11:47:39
それもベルヌ-イの定理という天下りの言葉に押し付けてて感心しないな。
もっとも、僕の説明も気流の反動を翼に伝えてるのはベルヌ-イの定理だということを隠してるんだけどね。
分からない言葉を天下りに使うか、気付かないを利用するか、科学を無条件で信用するように押し付けるより自分で気付く余地を残す方が好みというだけですが。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

理科復活プロジェクト」カテゴリの最新記事