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とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る:大栗博司

2012年06月02日 01時12分41秒 | 物理学、数学
重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る:大栗博司」(Kindle版

内容
私たちを地球につなぎ止めている重力は、宇宙を支配する力でもある。重力の強さが少しでも違ったら、星も生命も生まれなかった。「弱い」「消せる」「どんなものにも等しく働く」など不思議な性質があり、まだその働きが解明されていない重力。重力の謎は、宇宙そのものの謎と深くつながっている。いま重力研究は、ニュートン、アインシュタインに続き、第三の黄金期を迎えている。時間と空間が伸び縮みする相対論の世界から、ホーキングを経て、宇宙は一〇次元だと考える超弦理論へ。重力をめぐる冒険の物語。
2012年5月刊行、289ページ

著者略歴詳細な経歴
大栗博司
カリフォルニア工科大学 カブリ冠教授 および 東京大学 カブリIPMU 主任研究員。京都大学卒業、東京大学理学博士(素粒子論専攻)。
東京大学助手、プリンストン高等研究所研究員、シカゴ大学助教授、京都大学助教授、カリフォルニア大学バークレイ校教授などを経て、現職。
超弦理論の研究に対し アメリカ数学会アイゼンバッド賞(2008年)、フンボルト賞(2009年)、仁科記念賞(2009年)、サイモンズ賞(2012年)などを受賞。アスペン物理学センター理事、アメリカ数学会フェロー。
ホームページ: http://ooguri.caltech.edu/japanese
ブログ: http://planck.exblog.jp/


本書は5月31日に届いたのだが読み始めてよいものか迷った。というのも6月2日の朝日カルチャーセンターの講座「重力をめぐる冒険」の内容に沿ったものだと思ったからだ。読んでしまったら受講する楽しみが減ってしまうのではないかと心配になった。

と言いつつ誘惑に勝てずに読みきってしまったのだが。。。ということで本日のレビュー記事となったわけだ。

読み始めて第1章から第4章までは2月に開催された「重力のふしぎ(朝日カルチャーセンター)」の内容そのものだということがすぐわかった。講座のために先生ご自身が描いたイラストが本書でも使われている。

ということで前半はアインシュタインを主役にした特殊相対論、一般相対論とその限界に至るまでを解説している。

第1章:重力の七不思議
第2章:伸び縮みする時間と空間 - 特殊相対論の世界
第3章:重力はなぜ生じるのか - 一般相対論の世界
第4章:ブラックホールと宇宙のはじまり - アインシュタイン理論の限界

一般読者の視点に立った大栗先生の卓越した解説力と出版社の文系読者の「素人チェック」を経ただけあって抜群に読みやすい本に仕上がっている。この調子なら中学生でも最後まで読めるだろうという安心感。先生の文章には読んで理解してもらうための細かい配慮がたくさん入れられていることがわかる。

物理学は難しいと思っている一般読者にとっても相対論やブラックホールの話題は不思議に満ちた魅力的なテーマだ。これだけを取り上げても何冊も本が書けるし、実際にさまざまな啓蒙書が出版されている。しかし第1章ではあえてニュートンの重力理論を取り上げ「七不思議」として紹介している。一見当たり前に見えることでも、よく考えると不思議だという「気付き」はとても大切なものだ。高校までで学ぶ物理の範囲の中に学校や教科書では教えられない深い意味が含まれているからだ。中学生、高校生には特にこのことを念頭において学習してほしいと思った。

特殊相対論、一般相対論の説明も数式なしでよくここまで解説できるものだと感心した。E=mc^2を取り上げる啓蒙書は多いが、特に本書での説明はエネルギー保存の法則、質量保存の法則、作用・反作用の原理を組み合わせて、式のもつ本質的な意味を伝えることに成功している。2月に開催された「重力のふしぎ(朝日カルチャーセンター)」でここは相撲の力士2人の立ち会いをたとえ話として使いながら説明した箇所だ。よりわかりやすくするためにしたものと思われる。

ブラックホール理論がどうしてアインシュタイン理論の限界になるのかについてもわかりやすい。それぞれ個別に説明している本はよく見かけるが、理論どうしを融合させてその先の世界を示しているところがユニークなのだ。

前に説明したことを引き合いに出しながら新たに生まれる矛盾や問題を示すことで、読者はぐいぐいと物理学の発展史に引きずり込まれていくのだ。「さすが!」としか言いようがない。理論どうしの論理的なつながりを重視したこのスタイルは本書全体を通じて採られているので、後の章に行くほど「なるほど!」が増えていくのである。


後半はおそらく6月2日の「重力をめぐる冒険」で予定されている内容だ。章立ては次のとおり。

第5章:猫は生きているのか死んでいるのか - 量子力学の世界
第6章:宇宙玉ねぎの芯に迫る - 超弦理論の登場
第7章:ブラックホールに投げ込まれた本の運命 - 重力のホログラフィー原理
第8章:この世界の最も奥深い真実 - 超弦理論の可能性

第5章だけで量子力学、相対論的量子力学、場の量子論の説明が完了している。普通ならそれぞれ本二冊ぶんくらいの内容なのに。。。特にどうしてその順番で理論が発展していったのかについての説明が素晴らしいと思った。粒子と反粒子の対生成、対消滅やファインマンの経路積分や量子電磁力学も平易な言葉で考え方を正確に伝えることに成功している。

そして第6章から読者がお待ちかねの「超弦理論」の話が始まる。先生はこの分野の一流の研究者でいらっしゃるだけに説得力に満ちている。理論が生まれた背景や発展史をその立役者たちのストーリーを盛り込みながら紹介している。超弦理論によって見つかった謎の粒子が実は重力子(グラビトン)だったという話もここで紹介される。「はじめての〈超ひも理論〉:川合光」では取り上げられなかった「トポロジカルな弦理論」や「重力のホログラフィー理論」は特に興味深かった。重力理論と量子力学の間の融合問題の解決やホーキング放射に関連する「ブラックホールの情報問題」の超弦理論による解決もこれらの理論のおかげである。またDブレーンやM理論についても「どうしてそういうものを考えるのか?」がよくわかる。

話のイメージを伝わりやすくするために引き合いに出した日常的な「たとえ話」もユーモアたっぷりで、センスのよいものばかりだ。不確定性原理、エネルギー保存則の破れ、エントロピー、そしてブラックホールの表面積にエントロピーが比例することについて紹介された「たとえ話」が特に良かった。

重力をめぐる「冒険」には果たして終着点があるのだろうか?本書の最後でこの冒険は意外な目的地にたどり着く。これは超弦理論の応用の中で明らかになった不思議な状況のひとつであるが、ここでは明かさず本書を読んでのお楽しみということにしておこう。

出版されたばかりの本だけに、リサ・ランドール博士の余剰次元理論の話や超光速ニュートリノや不確定性原理についての小澤の不等式、重力波望遠鏡、ループ量子重力理論、福島原発の放射線などごく最近の話題に対する大栗先生のお考えも述べられている。


一般向けの本としては「はじめての〈超ひも理論〉:川合光」と同じような本になってはしまいかと、読む前に気になっていたのだが、心配無用であることがわかった。本書と川合先生の本は相補的な部分が多いのだ。川合先生の本には本書には含まれていない内容で素粒子物理学、ゲージ場の理論、超対称性や対称性の自発的破れ、質量獲得のメカニズム、ホーキングの虚時間、インフレーション宇宙論、超弦理論のIKKT行列モデル、T-双対性(T-デュアリティ)などが詳しく書かれている。

僕は大学で数学を専攻していたので、多次元空間を取り扱うのは当たり前で、さらに無限次元空間での計算さえ受け入れて普通に学んでいた。でもそれはあくまで数学という仮想空間でのことだから、高次元空間でどんなに不思議な状況が生じていてもそれは実在しないのだから安心できていたわけだ。(参考:「エキゾチックな球面」、「キス数」)

けれども超弦理論で言うところの多次元のDブレーンや6次元のカラビ-ヤウ空間となると全く話は別である。量子力学を成り立たせている数学的なヒルベルト空間とはわけが違う。4次元までしか感知できない人間には見えないとしても、それらは物理的な実体として多次元の世界に存在するというのだから。。。超弦理論は多次元空間を扱う数学理論であると同時にれっきとした物理理論であることをしっかり肝に銘じておこう。

毎年暮れに「とね日記賞」というのを部門別に発表しているが、本書は間違いなく今年の啓蒙書部門の最有力候補である。

発売から4日経った6月3日現在、アマゾンで買えるすべての本の中でこの本のランキングは75位なのだ。すごい!




記事を書いているうちに日がかわって講座の当日になってしまったが、大栗先生はどのような感じでお話してくださるのかとても楽しみにしている。


関連ページ:

大栗先生による「重力とは何か」の紹介記事。

素粒子物理学者が書いた重力の本(大栗博司のブログ)
http://planck.exblog.jp/18016697/

強い力と弱い力:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/06c3fdc3ed4e0908c75e3d7f20dd7177

大栗先生の超弦理論入門:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/75dfba6307d01a5d522d174ea3e13863

探究する精神 職業としての基礎科学:大栗博司
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6a8ed519784843aad20780a2811f5d2d


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重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る:大栗博司」(Kindle版


はじめに
「知りたい気持ち」は止められない
重力研究がなければGPSも生まれなかった
重力研究は宇宙の理解につながっている

第1章:重力の七不思議
- 重力は「力」である=第一の不思議
- 重力は「弱い」=第二の不思議
- 重力は離れていても働く=第三の不思議
- 重力はすべてのものに等しく働く=第四の不思議
- 重力は幻想である=第五の不思議
- 重力は「ちょうどいい」=第六の不思議
- 重力の理論は完成していない=第七の不思議

第2章:伸び縮みする時間と空間 - 特殊相対論の世界
- 物理学者は急進的な保守主義者
- 物理学の理論は「10億」のステップで広がってきた
- ナノレベルの世界のナノテクノロジー
- 電波も光も放射線もみな電磁波の一種
- どんなに足し算しても光の速さは変わらない
- 光速の不変性を実証した「マイケルソン=モーリーの実験」
- 同時に出したのになぜ後出しジャンケンになるのか
- 列車の中の一秒と外の一秒の長さが違う!
- 時間だけでなく距離も伸び縮みする!
- 「E=mc^2」とは固定相場の為替レート
- なぜエネルギーを質量に変換できるのか
- もし光より速い粒子があったらどうなるか

第3章:重力はなぜ生じるのか - 一般相対論の世界
- まずは「次元の低い」話をしよう
- 二次元空間に「球」が現れたらどう見えるか
- 円の中心にものを置いたら中心角が360度より減った!?
- 重力の正体は時間や空間の歪みだった
- アインシュタインの人生最高のひらめきとは?
- 消せる重力、消せない重力
- 回転する宇宙ステーションの中では何が起きるか
- 円周率=3.14...が成り立たない世界
- 数学者ヒルベルトとアインシュタインのデッドヒート
- 水星の軌道を説明できた - アインシュタインのり論のテストその一
- 重力レンズ効果が観測できた - アインシュタインのり論のテストその二
- 重力波をキャッチせよ - アインシュタインのり論のテストその三
- あてになるカーナビ - アインシュタインのり論のテストその四

第4章:ブラックホールと宇宙のはじまり - アインシュタイン理論の限界
- 地球も半径9ミリまで圧縮すればブラックホールに
- 超えたらもう二度と戻ってこられない「事象の地平線」
- 超巨大ブラックホール・クェーサー
- アインシュタイン理論が破綻する「特異点」
- 宇宙の膨張を明らかにしたハッブルの発見
- 宇宙の膨張を加速させる「暗黒エネルギー」とは?
- 宇宙が火の玉だった137億年前の「残り火」
- ビッグバン理論に強く抵抗した科学者たち
- アインシュタイン理論の破綻を証明し、ホーキングがデビュー

第5章:猫は生きているのか死んでいるのか - 量子力学の世界
- 「光の正体は波」で決着したはずが...
- 「光は波」で説明できない光電効果という現象
- 「光は粒」と考えたアインシュタインの「光量子仮説」
- 放射線障害のメカニズムにも「光は粒」で説明できる
- すべての粒子は「粒」であり「波」でもある
- 常識ではとても受け入れがたい量子力学の世界
- 「あったかもしれないことは、全部あった」と考える!?
- 「生きた猫」と「死んだ猫」が一対一で重なりあう!?
- 位置を決めると速度が測れない!? - 不確定性原理
- 量子力学と特殊相対論が融合して「反粒子」を予言
- なぜ未来から過去に戻る粒子がなければならないのか
- 粒子と反粒子が対消滅と対生成をくり返す
- 真空から粒子が無限に生まれてしまう「場の量子論」

第6章:宇宙玉ねぎの芯に迫る - 超弦理論の登場
- 「宇宙という玉ねぎ」はどこまで皮がむけるか
- 加速器を巨大にすれば無限に小さなものが見えるのか
- 宇宙という玉ねぎの「芯」は「プランクの長さ」
- 宇宙の根源を説明する、究極の統一理論とは?
- 朝永=ファインマン=シュウィンガーの「くりこみ理論」
- 素粒子とはバイオリンの「弦」のようなもの!?
- 弦理論から素粒子全体を扱える超弦理論へ
- 立ちはだかる六つの余計な次元と謎の粒子
- シュワルツ、苦節の10年の末の革命的な発見
- 小さな空間に六つの余剰次元が丸めこまれている!?
- 標準模型の説明に必要な道具立てがすべて揃った
- 六次元空間の計算に使える「トポロジカルな弦理論」

第7章:ブラックホールに投げ込まれた本の運命 - 重力のホログラフィー原理
- 粒子のエネルギーが「負」になると何が困るのか
- ブラックホールの中ではエネルギーが「負」になってしまう
- ブラックホールが蒸発する「ホーキング放射」とは?
- ホーキング理論を裏付ける宇宙背景放射の「ゆらぎ」
- ブラックホールに投げ込んだ本の中身は再現できるのか
- 10の「10の78乗」乗もの状態は果たして可能か
- 「二次元の膜」、「三次元の立体」、を想定して突破口を開く
- ブラックホールの表面に張りつく「開いた弦」
- 大きなブラックホールは通常の物理法則で計算できた
- 小さなブラックホールの計算は「トポロジカルな弦理論」で!
- エントロピーが体積でなく表面積に比例する奇妙な現象
- すべての現象が二次元のスクリーンに映し出されている
- 量子力学だけの問題に翻訳されたブラックホールの情報問題
- そしてホーキングは勝者に百科事典を贈った

第8章:この世界の最も奥深い真実 - 超弦理論の可能性
- ホログラフィー原理の思いがけない応用
- 宇宙は一つだけでなく無数にある?
- この宇宙はたまたま人間に都合よくできている?
- 相対論と量子力学を融合する唯一の候補

あとがき
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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
面白かったです。 (N.Yokoyama)
2012-06-03 21:32:07
こんばんは。私もカルチャーセンターの講座受けて来ました。
その時この本を購入し、講座の復習のつもりで終わってから読みました。講座を聴いた後だったせいか、かなりスムーズに内容が頭に入ってきて、読んでいるのが非常に楽しかったです。
とねさんは中央左よりで二列目におられた方でしょうか。ご挨拶したかったのですが、どの方か迷っていたのと気後れして出来ませんでした。また機会があったら挨拶いたしたいと思います。
返信する
Re: 面白かったです。 (とね)
2012-06-03 21:40:23
N.Yokoyamaさんへ

実に楽しい講座でしたね。
N.Yokoyamaさんも同じ部屋にいらっしゃるのだろうなと講座が始まる前にきょろきょろしていました。
僕は大栗先生のすぐ前、最前列にいましたよ。

ネット上には現在の写真は置いていませんが、目を加工した写真は次のページでご覧いただけます。おそらく次回お会いする場合は僕を見つけるために役立つことでしょう。僕はこの写真のいちばん左、3人の中でいちばん頭髪が残っている人です。

28年ぶりの同窓会!(代々木ゼミナール1983年卒)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a550fb4388979df3390527c70c872e95
返信する
Re: 面白かったです (N.Yokoyama)
2012-06-05 22:20:24
こんばんは。とねさん、先生の真ん前におられたんですね。
了解しました、次にお会いしたときはよろしくお願いいたします。
返信する
Re: 面白かったです (とね)
2012-06-06 01:11:57
N.Yokoyamaさんへ

はい、出しゃばって最前列にいました。(笑)
こちらこそ、よろしくお願いします。
お時間がありましたら、次回はぜひオフ会にもいらっしゃってください。
返信する

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