「物理法則はいかにして発見されたか:R.P.ファインマン」
内容
物理法則とはどのような性格のもので、それはどのようなものの見方から発見に至ったのか。語りの名手ファインマンさんが、その心躍る展開を若者に熱っぽく語った。また、ノーベル賞受賞となった自身のアイデアと新理論完成までの曲折を,ユーモアを交え分かりやすく解説。物理の魅力あふれる世界に万人を誘う,楽しい入門書となった。
2001年3月刊行、336ページ。
著者について
リチャード・P.・ファインマン
1918‐88年。アメリカの物理学者。量子電磁力学のくりこみ理論で、1965年、シュウィンガー、朝永振一郎と共にノーベル物理学賞受賞。カリフォルニア工科大学などで教鞭をとる。『ご冗談でしょう、ファインマンさん』『困ります、ファインマンさん』などの著書はロングセラー。
先日読んだ「ファインマンさんの流儀:ローレンス M.クラウス」がきっかけで、評判の高い本書のほうも読んでみた。なるほど、ファインマン先生のことを知るには欠くことのできない1冊だと思った。330ページの文庫本。一気に読んでしまうともったいないので時間をかけて熟読した。
本書は2部から構成される。
第1部:物理法則とは何か(コーネル大学における講演)
第2部:量子電磁力学に対する時空全局的観点の発展(ノーベル賞受賞講演)
第1部:物理法則とは何か(コーネル大学における講演)
一般市民に対して行われた講演であるが、理数系好きな高校生から物理学を専門にする研究者まで知的刺激が十分に得られる内容だ。
1. 重力の法則 - 物理法則の一例として
第1章ではファインマン物理学の「第1巻:力学」の要点を一般市民向けに噛み砕い説明している。ファインマン先生のように最先端を行く物理学者がどのように一般市民の関心を惹きつけるかという観点で先日朝日カルチャーセンターで受講した大栗博司先生の「重力のふしぎ」のときと比べながら読んでみた。
2. 数学の物理学に対する関係
この章は特に興味深く読むことができた。公理を重んじ、一般性を追求する数学のもつ性質と物理現象と不可分な物理学のもつ性質をどのようにファインマンがとらえているのか、数学における推論と物理学における推論とは、どのように違うのかが明示されていて、自分が思っていることとの違いを知るのは新鮮だった。
3. 保存という名の大法則
この章のレベルは若干高めだ。エネルギーや運動量の保存則だけでなく、電荷や重粒子数、ストレンジネス、角運動量などの保存則がとりあげられ、力学、電磁気学から素粒子物理学にまたがる解説が行われている。
4. 物理法則のもつ対称性
第3章で紹介したそれぞれの保存則は物理学上の対称性に結びついていることが説明される。物理現象を支配する「法則」の存在を強く印象づけられる内容だ。
5. 過去と未来の区別
熱力学、統計力学の話。永久機関をつくるのがどうして無理なのか、時間の不可逆性はどのように理解すればよいのか、エントロピーについての話が紹介される。
6. 確率と不確定性 - 量子力学的の自然観
ファインマン物理学の第5巻「量子力学」の導入部分を一般向けに噛み砕いた内容である。二重スリットの問題や不確定性原理など、量子力学にはじめて触れる方には興味深く読めることだろう。
7. 新しい法則を求めて
僕にとってこの章はいちばん刺激的だった。核力についての法則は、当時は明らかになっておらず、新しい素粒子が次々と見つかっていた時代の物理学の難しさ、醍醐味に触れることができる。どのようなアプローチで新しい法則を発見していくか、ファインマン先生流のアプローチが他の研究者とどのように違っていたかを知ることができる。
第2部:量子電磁力学に対する時空全局的観点の発展(ノーベル賞受賞講演)
ノーベル賞受賞の記念講演として行われたものなので、一般市民向けではない。しかし会場には物理学以外の分野の先生もたくさんいらっしゃったことだろう。
内容は次にあげる項目である。
- 惚れたアイデア - 電磁場は存在しない!
- 電子の自己作用 - 先進ポテンシャル
- 電磁場なしの電気力学 - 最小作用の原理
- 時空の全局を見る巨人の観点
- 量子論への移行 - 径路積分
- 相対論的な量子電磁力学へ
- 実験との出会い - ラム・シフト
- 勘に頼った一般化
- 計算方式の完成 - 中間子論への応用
- ふりかえって明日を思う
量子力学や電磁気学を学び終えた学生、これから場の量子論を学ぼうとする学生にとっては非常にためになる内容だと思う。ファインマン先生が何を重視し、どのような過程を経て径路積分や量子電磁気学の発展に貢献し、繰り込み理論を完成させていったかが生き生きと語られている。
本書の第1部「物理法則とは何か」のもとになった講演の動画はネット上に無料で公開されている。(英語の字幕付き)ビル・ゲイツが権利を買い取り、マイクロソフト社のサイトで見ることができる。再生にはSilverlight(無料)のインストールが必要だ。
Project Tuva
http://research.microsoft.com/apps/tools/tuva/index.html
2021年9月に追記:その後、この講演はファインマン物理学の公式サイトの「Feynman's Messenger Lectures」というページから正式に公開された。こちらからご覧になるのがいちばんよい。詳細は「『ファインマン物理学』の名講義のオーディオが公開されている」という記事の後半を参照していただきたい。
Lecture 1: Laws of Gravitation - An Example of Physical Law(重力の法則-物理法則の一例として)
Lecture 2: The Relation of Mathematics and Physics(数学の物理学に対する関係)
Lecture 3: The Great Conservation Principles(保存という名の大法則)
Lecture 4: Symmetry in Physical Law(物理法則のもつ対称性)
Lecture 5: The Distinction of Past and Future(過去と未来の区別)
Lecture 6: Probability and Uncertainty - The Quantum Mechanical View of Nature(確率と不確定性 - 量子力学的な自然観)
Lecture 7: Seeking New Laws(新しい法則を求めて)
その後、YouTubeから同じ動画が公開された。(動画を検索)
Richard Feynman - The.Character of Physical Law(再生リスト)
動画を観るにあたっては原書の「The Character of Physical Law」(Kindle版)を参照するとよい。
本書を翻訳したのは物理学徒ならば誰でも知っている江沢洋先生だ。翻訳本とはまったく思えない自然な表現で、ファインマン先生のナマの声を生き生きと伝えている江沢先生の翻訳者としての力量、文章力に感心させられた。さすが数多くの著書をお持ちの先生だけのことがある。
余談:昨日、大栗先生もファインマン先生ネタで記事をお書きになりました。
ファインマンの壁(大栗博司のブログ)
http://planck.exblog.jp/17590248/
関連記事:
ファインマンさんの流儀:ローレンス M.クラウス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9ec9faa4bd78881bd1986bf7773cc390
ファインマン物理学
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dbcd1e1b02616ef1363ced99a912072
The Feynman Lectures on Physics: The New Millennium Edition
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cb58141ade509fb63952d49ef57c70c7
ファインマンの経路積分に入門しよう!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f47de5854daf4eb38339a73791544a8
光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b34cd4e7d077d037022e62734d1ee76
量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2b9d934a542cf04be54cbede8b16ecde
応援クリックをお願いします!このブログのランキングはこれらのサイトで確認できます。
「物理法則はいかにして発見されたか:R.P.ファインマン」
目次
岩波現代文庫版訳者はしがき
訳者はしがき
第1部:物理法則とは何か(コーネル大学における講演)
- 序
- 講演者の紹介
1. 重力の法則 - 物理法則の一例として
2. 数学の物理学に対する関係
3. 保存という名の大法則
4. 物理法則のもつ対称性
5. 過去と未来の区別
6. 確率と不確定性 - 量子力学的の自然観
7. 新しい法則を求めて
訳者追記(1983年)
訳者追記(2001年)
第2部:量子電磁力学に対する時空全局的観点の発展(ノーベル賞受賞講演)
- 惚れたアイデア - 電磁場は存在しない!
- 電子の自己作用 - 先進ポテンシャル
- 電磁場なしの電気力学 - 最小作用の原理
- 時空の全局を見る巨人の観点
- 量子論への移行 - 径路積分
- 相対論的な量子電磁力学へ
- 実験との出会い - ラム・シフト
- 勘に頼った一般化
- 計算方式の完成 - 中間子論への応用
- ふりかえって明日を思う
人名索引
事項索引
内容
物理法則とはどのような性格のもので、それはどのようなものの見方から発見に至ったのか。語りの名手ファインマンさんが、その心躍る展開を若者に熱っぽく語った。また、ノーベル賞受賞となった自身のアイデアと新理論完成までの曲折を,ユーモアを交え分かりやすく解説。物理の魅力あふれる世界に万人を誘う,楽しい入門書となった。
2001年3月刊行、336ページ。
著者について
リチャード・P.・ファインマン
1918‐88年。アメリカの物理学者。量子電磁力学のくりこみ理論で、1965年、シュウィンガー、朝永振一郎と共にノーベル物理学賞受賞。カリフォルニア工科大学などで教鞭をとる。『ご冗談でしょう、ファインマンさん』『困ります、ファインマンさん』などの著書はロングセラー。
先日読んだ「ファインマンさんの流儀:ローレンス M.クラウス」がきっかけで、評判の高い本書のほうも読んでみた。なるほど、ファインマン先生のことを知るには欠くことのできない1冊だと思った。330ページの文庫本。一気に読んでしまうともったいないので時間をかけて熟読した。
本書は2部から構成される。
第1部:物理法則とは何か(コーネル大学における講演)
第2部:量子電磁力学に対する時空全局的観点の発展(ノーベル賞受賞講演)
第1部:物理法則とは何か(コーネル大学における講演)
一般市民に対して行われた講演であるが、理数系好きな高校生から物理学を専門にする研究者まで知的刺激が十分に得られる内容だ。
1. 重力の法則 - 物理法則の一例として
第1章ではファインマン物理学の「第1巻:力学」の要点を一般市民向けに噛み砕い説明している。ファインマン先生のように最先端を行く物理学者がどのように一般市民の関心を惹きつけるかという観点で先日朝日カルチャーセンターで受講した大栗博司先生の「重力のふしぎ」のときと比べながら読んでみた。
2. 数学の物理学に対する関係
この章は特に興味深く読むことができた。公理を重んじ、一般性を追求する数学のもつ性質と物理現象と不可分な物理学のもつ性質をどのようにファインマンがとらえているのか、数学における推論と物理学における推論とは、どのように違うのかが明示されていて、自分が思っていることとの違いを知るのは新鮮だった。
3. 保存という名の大法則
この章のレベルは若干高めだ。エネルギーや運動量の保存則だけでなく、電荷や重粒子数、ストレンジネス、角運動量などの保存則がとりあげられ、力学、電磁気学から素粒子物理学にまたがる解説が行われている。
4. 物理法則のもつ対称性
第3章で紹介したそれぞれの保存則は物理学上の対称性に結びついていることが説明される。物理現象を支配する「法則」の存在を強く印象づけられる内容だ。
5. 過去と未来の区別
熱力学、統計力学の話。永久機関をつくるのがどうして無理なのか、時間の不可逆性はどのように理解すればよいのか、エントロピーについての話が紹介される。
6. 確率と不確定性 - 量子力学的の自然観
ファインマン物理学の第5巻「量子力学」の導入部分を一般向けに噛み砕いた内容である。二重スリットの問題や不確定性原理など、量子力学にはじめて触れる方には興味深く読めることだろう。
7. 新しい法則を求めて
僕にとってこの章はいちばん刺激的だった。核力についての法則は、当時は明らかになっておらず、新しい素粒子が次々と見つかっていた時代の物理学の難しさ、醍醐味に触れることができる。どのようなアプローチで新しい法則を発見していくか、ファインマン先生流のアプローチが他の研究者とどのように違っていたかを知ることができる。
第2部:量子電磁力学に対する時空全局的観点の発展(ノーベル賞受賞講演)
ノーベル賞受賞の記念講演として行われたものなので、一般市民向けではない。しかし会場には物理学以外の分野の先生もたくさんいらっしゃったことだろう。
内容は次にあげる項目である。
- 惚れたアイデア - 電磁場は存在しない!
- 電子の自己作用 - 先進ポテンシャル
- 電磁場なしの電気力学 - 最小作用の原理
- 時空の全局を見る巨人の観点
- 量子論への移行 - 径路積分
- 相対論的な量子電磁力学へ
- 実験との出会い - ラム・シフト
- 勘に頼った一般化
- 計算方式の完成 - 中間子論への応用
- ふりかえって明日を思う
量子力学や電磁気学を学び終えた学生、これから場の量子論を学ぼうとする学生にとっては非常にためになる内容だと思う。ファインマン先生が何を重視し、どのような過程を経て径路積分や量子電磁気学の発展に貢献し、繰り込み理論を完成させていったかが生き生きと語られている。
本書の第1部「物理法則とは何か」のもとになった講演の動画はネット上に無料で公開されている。(英語の字幕付き)ビル・ゲイツが権利を買い取り、マイクロソフト社のサイトで見ることができる。再生にはSilverlight(無料)のインストールが必要だ。
Project Tuva
http://research.microsoft.com/apps/tools/tuva/index.html
2021年9月に追記:その後、この講演はファインマン物理学の公式サイトの「Feynman's Messenger Lectures」というページから正式に公開された。こちらからご覧になるのがいちばんよい。詳細は「『ファインマン物理学』の名講義のオーディオが公開されている」という記事の後半を参照していただきたい。
Lecture 1: Laws of Gravitation - An Example of Physical Law(重力の法則-物理法則の一例として)
Lecture 2: The Relation of Mathematics and Physics(数学の物理学に対する関係)
Lecture 3: The Great Conservation Principles(保存という名の大法則)
Lecture 4: Symmetry in Physical Law(物理法則のもつ対称性)
Lecture 5: The Distinction of Past and Future(過去と未来の区別)
Lecture 6: Probability and Uncertainty - The Quantum Mechanical View of Nature(確率と不確定性 - 量子力学的な自然観)
Lecture 7: Seeking New Laws(新しい法則を求めて)
その後、YouTubeから同じ動画が公開された。(動画を検索)
Richard Feynman - The.Character of Physical Law(再生リスト)
動画を観るにあたっては原書の「The Character of Physical Law」(Kindle版)を参照するとよい。
本書を翻訳したのは物理学徒ならば誰でも知っている江沢洋先生だ。翻訳本とはまったく思えない自然な表現で、ファインマン先生のナマの声を生き生きと伝えている江沢先生の翻訳者としての力量、文章力に感心させられた。さすが数多くの著書をお持ちの先生だけのことがある。
余談:昨日、大栗先生もファインマン先生ネタで記事をお書きになりました。
ファインマンの壁(大栗博司のブログ)
http://planck.exblog.jp/17590248/
関連記事:
ファインマンさんの流儀:ローレンス M.クラウス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9ec9faa4bd78881bd1986bf7773cc390
ファインマン物理学
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dbcd1e1b02616ef1363ced99a912072
The Feynman Lectures on Physics: The New Millennium Edition
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cb58141ade509fb63952d49ef57c70c7
ファインマンの経路積分に入門しよう!
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f47de5854daf4eb38339a73791544a8
光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b34cd4e7d077d037022e62734d1ee76
量子力学と経路積分:R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2b9d934a542cf04be54cbede8b16ecde
応援クリックをお願いします!このブログのランキングはこれらのサイトで確認できます。
「物理法則はいかにして発見されたか:R.P.ファインマン」
目次
岩波現代文庫版訳者はしがき
訳者はしがき
第1部:物理法則とは何か(コーネル大学における講演)
- 序
- 講演者の紹介
1. 重力の法則 - 物理法則の一例として
2. 数学の物理学に対する関係
3. 保存という名の大法則
4. 物理法則のもつ対称性
5. 過去と未来の区別
6. 確率と不確定性 - 量子力学的の自然観
7. 新しい法則を求めて
訳者追記(1983年)
訳者追記(2001年)
第2部:量子電磁力学に対する時空全局的観点の発展(ノーベル賞受賞講演)
- 惚れたアイデア - 電磁場は存在しない!
- 電子の自己作用 - 先進ポテンシャル
- 電磁場なしの電気力学 - 最小作用の原理
- 時空の全局を見る巨人の観点
- 量子論への移行 - 径路積分
- 相対論的な量子電磁力学へ
- 実験との出会い - ラム・シフト
- 勘に頼った一般化
- 計算方式の完成 - 中間子論への応用
- ふりかえって明日を思う
人名索引
事項索引
こんにちは。アマサイさんにとってもこの本は貴重な1冊でしたか。
僕も高校時代はブルーバックスなどで相対性理論の本を読んでいましたが、量子力学以降の物理学はほとんど知りませんでした。
もし、当時の僕がこの本を読んだとしても、その良さは理解できなかっただろうと思います。力学と電磁気学を少しばかかじっただけで、物理学のおおまかなことは理解したと過信していた時期ですので。それでも、自分にはその意味合いすらも理解できない物理学の世界がその先にあることを知ることができるだけで、大きなモチベーションとなっていたとは思えます。アマサイさんがそうであったようにです。
ある程度の知識がついてしまった今、一般の方や理数系の高校生がこの本を読んで、どれくらい深くまで理解できるかを想像することはできませんが、僕としても多くの方に読んでもらいたい本だと思いました。
恥ずかしながら僕がファインマン先生のお名前を知ったのは21世紀になってからのことです。
僕も中間子論を卒論で書いていたので、興味を引く本ですー(^^/
あべさんもこちら方面の人だったのですね!