「ヒッグス粒子とみられる新粒子の発見」のタイミングと重なったこともあり、場の量子論を学ぶモチベーションが高まっている。
この新粒子の発見は、「単なる発見」以上の意味がある。素粒子の質量獲得のメカニズムをはじめ、電磁気力と弱い力を統一する「電弱統一理論(ワインバーグ=サラム理論)」やヒッグス粒子やクォークを含む17種類の素粒子の有り様を基礎づける「標準理論」の正しさ裏付けるものだからだ。ヒッグス粒子を発見すること自体がこのように極めて広く、重要な意味を持っている。そして「電弱統一理論」や「標準理論」を導く物理学の基礎が「場の量子論」である。
場の量子論への入門として最初の教科書を読み終え、次はどの本にしようか迷っていた。2~300ページの標準的な教科書は何冊か持っているので、順番に読んでブログ記事で紹介しようと思っていた。
場の量子論は膨大な理論体系を持っているので、最終的にはいくつもの教科書で知識を重ねることが必要だ。教科書ごとの内容重複も考えなければならない。
結局行き着いたのがワインバーグ先生の本だった。英語版は1995年から2000年にかけて出版された。(日本語版は1997年から2003年に出版。)英語版は新品で、日本語版は中古のものを購入した。
本書は何といってもカバーしている範囲が広い。1600ページという大著ではあるものの、僕は一般の会社員だというメリットがある。本業の仕事は多忙を極めているが、余暇の時間に期限というものがない。マイペースで読み続けることができるので学生や研究者の方々とは読書環境が違うのだ。
本書の第1~4巻(英語版の第1,2巻)は場の量子論の基礎、量子電磁力学から非可換ゲージ理論、繰り込み群、自発的対称性の破れまで、第5、6巻(英語版の第3巻)は標準理論を拡張した「超対称性」や「超対称標準模型」について解説している。ちなみにヒッグス粒子については英語版の第2巻の316ページ、日本語版の第4巻の88ページに書かれている。
本書の特徴は次のとおりだ。
- 場の量子論がなぜ現在の形をとり、またなぜその形が現実の世界をとてもうまく記述しているのかを明確に伝えている。
- 議論の展開が論理的で一歩一歩段階を踏んで進められている。
- 内容が明確でわかりやすく、自己完結的、つまり他の本を参照する必要がない。(ただし本書を読む前に物理学として量子力学、解析力学、特殊相対論を、数学としてはヒルベルト空間論、リー群とその表現論、テンソル、微分幾何学、位相幾何学などを学んでおく必要がある。)
アマゾンのレビューにも次のように紹介されている。
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なぜ場の量子論が今の形をとるのか?
なぜこの形で現実の世界をうまく記述できるのか?
なぜ正準量子化や経路積分を信じなければならないのか?
なぜ文献に書いてあるような場の方程式やラグランジアンを採用しなければならないのか?
なぜ場などを考えるのか?
これらの疑問に答えてくれるすばらしい本だ。序文には次のような一節がある。
“理論物理学の目的は、つまるところ、世界を我々が見たまま記述するのではなく、なぜ世界がこうなっているのかをいくつかの基本原理から説明することにあるからだ。”
そしてこの本では実際に特殊相対論と量子論の基本原理から出発し、この2つの理論を調和させる唯一の理論が場の量子論である、という流れで議論が展開されている。このため、話の流れが自然で、シンプルで、後に疑問を残さない。
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分厚いからといって難解だというわけではない。既に第1巻の120ページ(英語版では第1巻の86ページ)まで読み進んでいるが、文章の部分が多いためだろうか、僕でも十分ついていけているし明快な記述に驚いている。他の巻も見たところ大丈夫そうだ。独学に向いている内容だと思った。
英語版と日本語版を併読しているが、英語版は大判なので家で読み、外出するときコンパクトな日本語版のほうを持ち歩いて読むことにした。
量子カフェさんの「オススメ本紹介(素粒子論を目指す学生へ~場の理論編~)」という記事によれば本書は次のような注意点があるそうだ。計算力をつけるのだったらペスキン先生の「場の量子論」のほうがよいだろう。(ワインバーグ先生のこの本は計算過程が詳しく示されているわけではないので計算力はあまりつかない。)
- あまりに一般的にやりすぎているので、所々で論理が複雑になり、何言っているかのかわからなくなる。だから自分の言葉で論理をまとめること。
- 知識としての内容はあるが、実践で使えるかは不明な内容は多い。つまり早めに理解したい人はわからないところは他によい本があると思って、無理してこの本を読む必要はない。少なくともはじめの一冊ではない。
- ワインバーグの記述は古い。とくにくりこみの捉え方が古いと思った。あまりその点ではこだわらないほうがよい。
ブログの記事は日本語版を1冊読み終えるたびに書く予定。積読状態の良書がたくさんあるので途中ほかの本に寄り道をすることがあるかもしれないが、基本的には本書を継続するつもりだ。
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関連記事:各巻のレビュー記事
ワインバーグ場の量子論(1巻):素粒子と量子場
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/70cf88639447bd012cc0a70b0ccb2229
ワインバーグ場の量子論(2巻):量子場の理論形式
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/14478454618adca65125f9d8c396759b
ワインバーグ場の量子論(3巻):非可換ゲージ理論
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2ceeca20c1b94abbce185357680e5df0
ワインバーグ場の量子論(4巻):量子論の現代的諸相
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c9dadcf634f1677ced36239571bcebbc
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日本語版:
「ワインバーグ場の量子論(1巻):素粒子と量子場」
「ワインバーグ場の量子論(2巻):量子場の理論形式」
「ワインバーグ場の量子論(3巻):非可換ゲージ理論」
「ワインバーグ場の量子論(4巻):量子論の現代的諸相」
「ワインバーグ場の量子論(5巻):超対称性:構成と超対称標準模型」
「ワインバーグ場の量子論(6巻):超対称性:非摂動論的効果と拡張」
日本語版の章立て
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第1巻:粒子と量子場
第1章:歴史的導入
第2章:相対論的量子力学
第3章:散乱理論
第4章:クラスター分解定理
第5章:量子場と反粒子
第6章:ファインマン則
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第2巻:量子場の理論形式
第7章:正準形式
第8章:量子電磁理論
第9章:経路積分法
第10章:非摂動論的方法
第11章:量子電磁理論の1ループ輻射補正
第12章:くりこみの一般論
第13章:赤外効果
第14章:外場による束縛状態
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第3巻:非可換ゲージ理論
第15章:非可換ゲージ理論
第16章:外場の方法
第17章:ゲージ理論のくりこみ
第18章:くりこみ群の方法
第19章:大域的対称性の自発的破れ
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第4巻:場の量子論の現代的諸相
第20章:演算子積展開
第21章:ゲージ対称性の自発的破れ
第22章:アノマリー
第23章:拡がりのある場の配位
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第5巻:超対称性:構成と超対称標準模型
第24章:歴史的導入
第25章:対称次数
第26章:超対称場の理論
第27章:超対称ゲージ理論
第28章:標準模型の超対称性版
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第6巻:超対称性:非摂動論的効果と拡張
第29章:摂動論を超えて
第30章:超ダイアグラム
第31章:超重力
第32章:高次元での超対称性代数
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僕は原子核実験の方に進むことに決めたので、Weinbergやその他QFT本を詳しく読むことは(おそらく)無いと思います。(これから読むべき本は、原子核系の入門書と放射線検出器についての本です)
ただ、WeinbergのこのQFT本に具体的にどういうことが述べられているのか大変気になるので、少しづつで良いので書いていっていただけたら、僕としても大変うれしいです。
本当によろしくお願いします。がんばってください。
進路を決断されたのですね。迷うことなく進んでください!
たった今、各巻の章立ても追記したので参考にしてください。それぞれ読み終わったら細かい目次もそれぞれの記事に書いておくことにしますね。