前記事の続きです
被控訴人である愛媛県警らは高松高裁の現場検証は必要ないとして、反対意見を提出した(前記事参照)。それに対する山本さん側の反対意見を掲載します。一部単語を書き変えています。
検証方法に関する意見書(3)
2010(平成22)年12月10日
高松高等裁判所 第2部 御中
控訴人訴訟代理人弁護士 水 口 晃
被控訴人国(注・愛媛県警達のこと)の平成22年12月9日付け検証申出等に対する意見書に対する反論は,次のとおりである。
1 同書面,2理由,(1)及び(2)について
被控訴人が,なぜ検証を拒否するのかが全く理解できない。交通事故の当事者であれば誰でも,交通事故の事故態様を理解してもらうために事故現場を直接確認してもらうことを強く希望することである。
検証を実施すれば,自己の主張をより明確に説明する良い機会が与えられることである。
本件では裁判所が事故の現場を見ましょうと言ってくれているのにもかかわらず,それを拒否するのは極めて異常である。
2 同書面,2理由,(3)アについて
被控訴人は,「裁判所が本件事故現場を直接見分する必要はない。」と主張する。しかし,「百聞は一見にしかず」というように,交通事故の現場を直接見分することがとても重要であることは明らかである。また,直接見分すれば,実況見分調書等の図面,写真,ビデオテープなどの理解がより一層深まることも明らかである。
問題は,被控訴人の主張するように,直接見分しなくても代替手段で足りているかということであるが,本件においては,直接見分する必要性があるし,とても重要なことである。
たとえば,被控訴人国も,「被控訴人兵頭運転車両が,本件事故直前に左端側を走行していたとは認められず」と主張しているが(4頁),本件交差点を通過するにあたって,なぜ,被控訴人兵頭の白バイが左端側を走行しなかったのか,あるいは,走行できなかったのかについては,交差点の形状を直接見分することで確認できる。
愛媛県警の白バイの直進方法は,本件事故の過失割合を認定するための重要な事実である。確かに,本件交差点の形状は,図面や写真などで示されているが,実際の運転者の感覚までを示すことはできない。交差点の形状を直接見分すれば,左端側を走行することが困難であることを検証できる。
また,白バイ隊員は,横断歩道上で初めて控訴人を発見したと供述しているが(隊員本人調書,61項),横断歩道付近の視認状況を検証することによって,その供述の信用性を判断することができる。
本件事故の事故態様を認定するにあたり,交差点の変形,白バイの直進方法,横断歩道付近までの視認状況,横断歩道上での視認状況などを検証することは必要不可欠である。
3 同書面,2理由,(3)イについて
被控訴人は,「本件交差点を右折する一般車両の停止位置等を明らかにしても,大型スクーターの右折方法が明らかにはならない。」と主張する。しかし,一般車両がどのように停止したり,通行するのかは重要な事実の
一つである。その事実を踏まえて,本件の事故との比較を検討することになる。事故の当事者の直進や右折方法のあり方や,当事者及び目撃者の証言の信用性にもかかわる事実である。
控訴人は,停止線の左端側に寄って停止していたと説明している(甲4(家裁の検証),写真⑭)。これが一般車両の右折方法と比較して,ありえない事実かどうかを確認できる。
ところで,被控訴人は,目撃者の安藤の証言などをもって,「本件事故の際に,大型スクーターが本件市道(本件交差点を南北に交差する道路)の中央寄りに位置していたことは」明らかであるとする。仮に「位置していた」
としても,どのような行動をしていたのか(停止していたか,右折進行していたか)までは明らかではない。
本件事故における「大型スクーターの右折方法」や愛媛県警白バイの直進方法を認定して初めて本件事故の過失割合が判断できるが,そのためにも一般車両の停止位置等が重要な事実であり,検証するべきである。
4 同書面,2理由,(3)ウについて
被控訴人は,「控訴人の右折進行中に発生したのであれば,その前提が失われるのであるから,検証結果を争点に対する判断に生かすこととはならない。」と主張する。しかし,まさに「控訴人の右折進行中に発生した」かが争点なのであって,この点は,いまだに確定していない。
ワンボックス車を配置して,控訴人からの視認状況,白バイからの視認状況,白バイがワンボックス車の横を通過できるのかを検証することによって,「控訴人の右折進行中」ではなかったことが認定できるのである。
この検証をもとにして,被控訴人兵頭が乙3号証の実況見分調書の見取り図のウからエまでの間に右折車がいなかったと供述していること(本人調書57項)がいかに事実に反しているかを理解できる。また,白バイ隊員が
横断歩道上(エ)で初めて控訴人を発見したと供述していること(同書,61項)がその時まで右折車が交差点にいたことを示すことであることも理解できる。
ワンボックス車を配置して検証することは必要不可欠である。
5 同書面,2理由,(3)エについて
被控訴人は,「本件事故は右折進行中の事故と考えられるから」と主張するが,第4項のとおり,この争点を立証するために検証が必要なのである。
ところで,被控訴人は,「控訴人指示説明に係る控訴人運転車両の停止位置に自動二輪車(スクーター)を配置し」と主張しているが,控訴人はスクーターの配置位置についてまで,「控訴人指示説明」に限定していない。乙
3号証の実況見分調書には,控訴人の指示説明と被控訴人兵頭の指示説明がある。
しかし,「ワンボックス車」だけは控訴人指示説明であるから,控訴人は,「控訴人が指示する『ワンボックス車』を同調書の現場見取り図のAの位置に配置し,その状況において」と意見を述べているのである。
白バイ隊員が指示説明する位置にも,スクーターを配置して検証することになる。
また,被控訴人は,「仮定の状況を再現しようとするものにすぎず,およそ必要性は認められない。」と主張する。しかし,仮定の状況を再現するといっても,本件事故を避ける具体的な手段があったかどうかは,事故の過失割合を判断する上で重要な事実である。その具体的な手段が実際にも可能かどうかを検証することも重要である。
6 同書面,2理由,(3)オについて
被控訴人は,「仮定の状況を再現しようとするものであって,不当である。」と主張する。しかし,なぜ,不当なのかが理解できない。
白バイが時速57キロメートルで走行した場合に道路の左端側に寄って通過できないことが明らかになるから,「不当」と反対したいと言っているとしか理解できない。白バイが時速57キロメートルで走行した場合に道路の左端側に寄って通過できない事実を検証することによって,「愛媛県警白バイの直進方法」が明らかになるのである。
交差点が変形であるため左端側の走行が困難である上に,ワンボックス車が右折のために交差点内で停止していたことから,そのままでは白バイがその横を通過できないために,先にワンボックス車を右折させたのである。そして,「右折車が右折した後,白バイが突っ込んで来ました。」(甲5,家裁での現場での安藤の証言調書,9項),白バイが「そのままのスピードで突っ込んできたと思います。」(同書,30項)という本件事故が生じたのである。
7 同書面,2理由,(4)について
被控訴人は,「本件事故現場周辺の交通を長時間にわたって遮断することが必要であり」と主張する。
しかし,すでに控訴人の検証方法に関する意見書(2)において,迂回路を提示している。迂回路を使用すれば,遮断することはない。
しかるに,「周辺の交通を長時間にわたって遮断する」と誇大に主張する意図は,検証によって真実が明らかになり,それが国側にとって都合が悪いと考えて,どうしても阻止したいからであろう。国の本件意見書によって,益々検証の必要性・重要性が明らかになったといえる。
以上
どちらの言っていることがまともであるのか?
高松高裁は当初の予定より、検証内容を大幅に縮小したと聞いたが、中止でないだけでもありがたい。裁判所は事実を解明するためにもこういった検証はどんどんするべきだ。
とくに 警察車両の事故で身内である警察が捜査をしている本件の場合はなおさらだろう。高知白バイ事件も現場検証を再審で申し出ている。とても他人ごとではない。
高松高裁の良心に期待する。