Not doing,but being ~在宅緩和ケアの普及を目指して~

より良い在宅訪問診療、在宅緩和ケアを目指す医師のブログ

皮膚の痒みに対する治療

2012-01-25 08:51:52 | その他
進行がんの患者様に限らず、高齢者では皮膚の痒みに悩む方が
少なくありません。対応としては抗ヒスタミン薬の内服や塗り薬
がよく処方されますが、十分な効果がなく、強い痒みを我慢
しなければいけない場合も多いと思います。医療者を含め
多くの人達も、「痛み」と聞くと一大事だと思いますが、「痒み」
と聞くとそこまで深刻に捉えない場合もあるようです。
しかし、実際は強い痒みは著しくQOLを下げる程辛いものです。

どの症状でも同じですが、まずは原因を検索し、原因に対して
治療を選択するのが基本になります。

最も多い原因は皮膚の乾燥によるものですが、
この原因では、きちんとしたケアをするだけで軽減する場合が
多いです。保湿剤はプロペト(白色ワセリン)がベストですが
ベタベタして嫌がられる方も多いと思います。そこで、
ヒルドイドソフト50g+プロペト25gという具合に2:1で混合すると
使用感・保湿力とも丁度良くなりますので試して下さい。
また、掻いて赤くなってしまった部分については、痒みを増すので
そこだけステロイドの軟膏をつけると数日で良くなります。
レスタミン等(抗ヒスタミン薬)の軟膏も良いですが効果が
長続きせず、乾くと新たな痒みの原因にもなるそうですので、
プロペトと混合したり、レスタミンの上から保湿剤を使うのが
良いそうです。

軟膏類の工夫でも痒みが十分に取れない場合は抗ヒスタミン薬の
内服を考えます。眠気が出るものが多いので、患者様がそれを
臨む時を除いてアレグラ等の眠気が出ず、薬物相互作用の少ない
ものが良いと思います。経験的にアレグラでも結構効きます。
亜鉛を含んだ薬が良いと知り、プロマックを使用したところ
割合に良い効果を経験します。しかし効果出現まで2週間程度は
かかる印象で、錠剤の内服が増えるのが辛い患者様には向かない
かもしれません。

黄疸による痒みについては、パキシルが著効する場合がある事を
以前記事に書きました。本来パキシルは重症の肝機能障害には
禁忌ですが、閉塞性黄疸や上記を理解した上で他の方法では緩和
出来ない強い痛みでは考慮しても良いのではないかと思います。
また、リファンピシンも黄疸による痒みに有効という報告も
あります。

過去記事
http://blog.livedoor.jp/kotaroworld/archives/50952092.html

黄疸の痒みに対するパキシルの使用についての論文
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jspm/1/2/317/_pdf/-char/ja/

モルヒネでも強い痒みが出ることがあります。
これも上記の記事に書きましたがゾフランやディプリバンが有効
な場合があるそうです。ホスピス以外では適応症の問題で使用
出来そうにありませんが…。
【追記】ただ、モルヒネの場合痒みには耐性が出来てくる
という報告も多いです。

ゾフランやディプリバンよりはもう少し現実的なアイディアと
して、私が期待しているのはレミッチという薬です。
痒みがオピオイド受容体の中のμ受容体に関係している事が
分かっていますが、これは完全なκ受容体の作動薬です。
何故κ受容体作動薬が痒みに効くの?という方は、下に
示したPDFファイルを読んでみて下さい。良く分かると思います。

2009年に既に発売になっていますが、適応症が
「血液透析患者の掻痒」となっているので一般低には使用
出来ない状況です。理屈からすれば他の痒みでも効果がある
はずで、現在肝機能障害とアトピー性皮膚炎に適応拡大を
検討しているところだと聞いています。
ホスピスでは使用出来ますね。

http://www.remitch.jp/material/file/di_rmt.pdf#search

痒みで本当に困っている人達の福音となる可能性がありますが
一方で薬の性質上オピオイドとの併用による効果・副作用の
問題などは(大丈夫だと思いますが)未知数です。