Not doing,but being ~在宅緩和ケアの普及を目指して~

より良い在宅訪問診療、在宅緩和ケアを目指す医師のブログ

悩むこと

2012-02-15 13:28:06 | 日記
先日、りりーさんという方から、
「悩んでいます」というタイトルで私のブログにコメントを
下さいました。非常に共感出来る事でしたので、
本日はその話をさせて頂きます。

何度もお書きしているように、私が緩和ケアの領域で最も大切だと
思うことは寄り添うことではないかと思っています。
その一歩は、文字通り物理的に長い時間を患者様や御家族と過ごす
事だと思います。長い時間を過ごして初めて、患者様は少しずつ
本音を話して下さるようになりますし、具体的に何に苦しんでいるか
医療者側も理解出来るようになります。

痛みのスケールを用いて客観的に情報を具体化する、それはそれで
意味のある事ですが、患者様の苦しみはどうしても数値では表せない
部分があり、それは直接関わる事でしか分からないからです。

多くの、特に御高齢の患者様は、医師には遠慮して本当の事を言えず
「大丈夫です」と言ってしまいます。長く時間を過ごす中で、
「先生、あの薬は効かなかったよ」
とか、
「痛みはなくなったけど、下剤が増えて飲むのが大変だよ」
と話して下さるようになるのです。
医師の前で、患者様が必要以上に「頑張る」必要がなくなって
やっと緩和ケアが始まります。

「共にいるだけではダメ」とおっしゃる先生がいらっしゃいました。
否定はしませんし、医師・看護師であれば当然プロとして十分な
知識や技術は必要です。そうでなければ医療者である意味は
ありません。ただ、知識・技術は最低限、緩和ケアの入り口であって
ここで満足してしまってはいけないのではないか、と言いたいのです。

長い時間を患者様と過ごすと、現在の緩和ケアの知識や薬剤が
患者様の苦しみの一部しか緩和出来ていない事に気付くと思います。
何が出来るのか、これは本当に患者様のために良い事なのか、
悩みがたくさん出てきます。
悩みは、誠実に、患者様と向き合わないとあまり出てこないと思います。

悩むことは、何も緩和ケアに限ることではありません。
手術し、治癒するという性質の問題でない限り色々な場面で我々は悩みます。
最近よく話題になる、胃瘻の問題なども、その代表かもしれません。
我々に出来ることには非常に限られており
人間が生きる上での苦しみはとても多いのです。


悩みはきっと、一生懸命に患者様の苦しみに向き合おうとしている証です。