Not doing,but being ~在宅緩和ケアの普及を目指して~

より良い在宅訪問診療、在宅緩和ケアを目指す医師のブログ

胃瘻の何が問題か

2012-03-06 15:21:56 | 認知症の看取り
胃瘻問題について、実によくまとまった資料があります。
これを読むだけでも何が問題なのかが分かると思います。

http://www.eth.med.osaka-u.ac.jp/OJ8/fujimoto.pdf

しかし、何の知識もなく全てを読む事は大変だと思いますので
以下に簡単ににまとめてみます。

現在主流の胃瘻造設法(PEG)が広まったのは1990年代頃から
です。PEGは内視鏡を用い、15~30分程度(消毒・麻酔の時間
は除く)で完成します。ある医師は大きめのピアスを開ける
ようなもの、と表現していましたが、まさにそんな感じかも
しれません。

胃瘻をしていても食事は出来ますし、チューブを抜けば速やかに
傷が塞がり、穴が閉じますので、この辺りもピアスに近い感覚
かもしれません。

しかし、PEGが拡がり四半世紀が過ぎた現在、
「胃瘻の開始は慎重にすべき」の声が強くなってきました。
それは、経管栄養を行なった結果、確かに栄養は補給出来る
のですが、栄養状態・QOL改善や褥瘡や拘縮、感染症などの
合併症の予防/治療には期待ほどの効果はなく、
ただ御本人の苦痛の時間を延ばしているだけ、という側面が
明らかになってきた為と考えられます。

また、介護負担もそれ程軽減していると言えず、老々介護等の
マンパワーのない家庭では介護者が疲労しきってしまう現状、
介護保険や医療保険を使っても家族の金銭面の負担も決して
少なくない事から、「こんなはずではなかった」という声が
とても多いからだと思います。

しかし一方で、そう簡単に「胃瘻をしない」という選択も
出来ない現実もあります。

まず、家族には色々な問題を聞いても、死に瀕する御本人
を前に治療中止を申し出る事は難しいと思います。

事前に胃瘻の欠点を挙げられても経験しない事にはピン
と来ないのも無理はなく、結局導入しないと分からない
ものだと思います。

また現在、急性期病院は肺炎などの治療はしてくれますが
「御飯が食べられない」という理由だけで何週間も入院は
出来ません。かと言って、すぐ退院しろと言われると介護力の
問題で看れない、施設も胃瘻がないと受け入れられない
等と言った、行き先がないという社会的な理由で胃瘻が
避けられない場合もあります。

胃瘻を断る家族の精神的な負担を理解し支えるという部分で
医療者側に十分なサポート力がなく胃瘻に疑問を感じつつも
導入となるケースも大いにあります。
医療者、特に医師は本来治療する仕事なのでやむを得ない
かもしれませんが「穏やかに看取る」手伝いは経験が少なく
苦手なのです。


また、医療者も家族も胃瘻を入れなかった事で後で訴訟に
なるのでは…という気持ちも働きます。
結局多くの場合、その場では「胃瘻という選択が、
皆にとっては楽」なのだと思います。

御本人も家族も苦しむ結果が安易に予想出来るのに
導入しない事が難しいというのが最大の問題なのでは
ないかと思います。

そして一度開始した経管栄養を中止する事は
導入しない事よりも更に難しい事になります。