Not doing,but being ~在宅緩和ケアの普及を目指して~

より良い在宅訪問診療、在宅緩和ケアを目指す医師のブログ

医師と一般人はなぜ選択が異なるのか

2012-03-01 08:20:07 | 日記
ウォールストリートジャーナルの2月27日の記事から。

http://jp.wsj.com/Life-Style/node_399574

要旨は、医師が治癒不能のがんになった場合、一般の人と比べて
治療は少なく、静かで穏やかな最期を迎える事が多いということ。

文中にもある通り、医師は医療の限界を知っていますし、
行き過ぎた治療、延命のもたらす結果を嫌という程経験している
からだと思います。私の親族にも、がんで亡くなった医師が
おりますが、納得した治療だけ受けて、家族と共に過ごす時間を
大切にし、あまり苦しむことなくこの世を去りました。

例えば、意識を失うような脳梗塞や重度の認知症では、御本人の
意思の確認は困難です。治療を決めるのは、家族や場合によって
は医療者です。
しかし、がんという病気は再発・転移し治癒が出来ないと分かった
時点でも、数ヶ月、場合によって数年の時間があります。
そしてこの間の生き方は御本人が決めることが出来るのです。
上記の記事の中にもあるように、とても幸せに自由に生きる
事が出来る場合もあるのです。

そうなると、病気や治療の知識を持っている方が、正確な意思
決定が可能となり、後悔が少なくなるのではないかと思います。
ただ、病気になった時は精神状態にも様々な変化があると思い
ますし、だんだんと病状が進行し体力を奪われた状態では、
病状を学んだり細かい意思決定をする気力もなくなって来るのが
普通です。

ですので、時間も体力もあるうちに色々な知識を持つことが
自分の望む生き方を送るために有利だと思うのです。
医師は、普段の仕事の中でそれが出来ている場合が多いのでは
ないかと思います。

誤解のないようにお話しておきますが、私が進行がんになった
場合も、延命治療を完全に受けないと言っている訳ではありません。
しかし、それが非常に限られた延命や症状緩和のエビデンスが
はっきりしない治療を続け、それによって消耗するのはまっぴらごめんです。
家族と共に過ごし、心ある医療者の力を借りて、緩和ケアを
実施して頂きたいと思います。

もちろん、延命を否定するつもりもありません。苦しまない
事が最善とは限らず、少しでも家族と共に生きるために
抗がん剤に賭けるという人生も素晴らしいと思います。
しかし、知識なく治ると信じて苦しい闘病を強いるというのは
個人的にはどうなのかと思ってしまいます。

治らないこと、命が限られている事を告げるのはかわいそうです。
しかし、それを告げないことで、もっとかわいそうな状況を
作り出したり、悔いのない時間を過ごす可能性を奪っているかも
しれません。