地球の裏からまじめな話~頑張れ日本

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CBが世の中に産声をあげるまで

2005-08-11 03:56:14 | CB教室
簡単に、ある事業会社からCBなりMPOを引き受けるときのプロシージャー(まあ流れみたいな感じ)を書いておこう。

各総合証券会社には、事業法人部とか企業部とか呼ばれる部署があって、そこの面々(我々はRM=Risk Managerと呼んでいる)が、各事業会社を担当しており、証券会社によっては大阪やら福岡、名古屋、札幌などにもその部署を置いている所もある。
このRMの連中がある日、ある会社(仮にA社とする)が資金調達を検討しているとの情報をGETすると、その情報は引受部(我々はECM=Equity Capital Marketsと呼んでいる)に回される。
ECMではそのA社のニーズに一番合致した提案書を作成して、後日それをRMの人間がA社に持って行き、ディスカッションが開始される。
当然企業によっては何社かの証券会社から提案書を提出させて、この場合はA社にとってもっとも有利な条件を提出してきたところを選ぶこともある(我々はこれを美人コンテストになぞらえて、ビューティーコンテストと言っている)。
ただ、基本は普段A社が世話になっている株式主幹事証券が一歩リードする傾向にあるようだ。
全く関係ない証券会社が飛びぬけた条件を提示してきても、一応A社は主幹事にも「こんな条件も出てきたよ」程度の打診はするだろうが故である。

さて、結局A社は株式主幹事(株幹と言っている)に今回のCBの発行を頼むことにした。
これを証券側では「マンデートを取った」と言う。主幹事に指名された、って事だ。
こうしてマンデートが出ると、ECMが主体となってその条件を詰めていく。
発行総額はどれくらい行けるのか?期間は?PUTは?下方修正条項は??
が徐々に徐々に詰められていく。
ちなみにこの段階では、営業サイドならびにトレーディングサイドには一切この情報は漏れない。いわゆる「チャイニーズウォール」と言うのが存在する。
実際に壁がある訳ではないけれど、仮にこれが漏れてさらにその主幹事証券からA社株に対しておかしな注文等が出たりすれば、それは完全にインサイダーとなるので、ECMの人間は結構な精神的なプレッシャーを抱えることになる。

さて全てが完璧に整うと、後はA社の取締役会でその発行を決議してもらう。
その発行決議が終わるとプレスレリースとなり、この情報は公開される。
ちなみに営業サイドもトレーディングサイドもこの時初めてA社がCBを出すことを知ることになるので、そういった意味では投資家サイドとスタートラインは一緒である。

さて以降はスイス市場で、私の所属する会社が主幹事となった場合の流れを説明する。
たいていのCBの発行決議は日本時間午後3時を目処に行われる(つまりその日の取引所の取引が終了した時点で行われる)。
このレリースが出回った段階を我々は「ローンチ」と呼ぶ。
但しこの段階では最終条件が決定されていないことが多い。最終条件とは、当初転換価格であり、2年後3年後のPUT価格であり、下方修正条項に伴う下限価格である。
しかしこれらもこれから始まるセールス活動によって、その需要の強さ弱さをフロントサイドが見極め、それをECMに進言して、数時間後には決定される。

このローンチがなされると、一斉にグレーマーケットと呼ばれるものが立つ。
これはそれに興味ある投資家が「いくらなら買いたい」と言う値段を、ブローカーズブローカーと呼ばれる業者間を渡り歩く業者に提示し、それが基本となって、この値段なら売りたい買いたいのレンジが決まってくる。

しかし、仮にこのA社CBが我々主幹事証券の単独主幹事、つまり発行総額全てをここが引き受ける場合は、この段階ではまだ実際の玉は市場に出ない。
つまりグレーマーケットと言ってもそれは単にインディケーションに過ぎないわけだ。
但し、グレーのインディケーションはほぼ全て私の所に集まる。
つまりこのローンチの段階から私の仕事が始まる。
この引き受けたCBの玉は、各部署(RMやらECMやら)にそれぞれの手数料を少しずつ落としながら、最終的にまずはスイスの引受担当のところに届き、そこでさらなる手数料を引かれて(笑)、最後に私のところに来る。この段階で私のこのCBのコストが正式に決まるわけだ。

さて次に行うのが、販売である。
一斉にセールス部隊が、担当顧客にセールスを開始する。その際の顧客への販売値段であるが、これはもうケースバイケースであると言っておこう。
こうして大半の玉をセールス部隊に販売してもらい、同時に私はグレーマーケットに対峙するわけである。
良い値段があれば軽くヒット(売る)してみたり、あるいはグレーのインディケーションが安すぎてセールスが販売しにくい場面があったりすれば、リフト(買う)してみたりしながら、マーケットを調整するわけだ。
あまり価格が上昇しすぎると、これはこれで条件が甘すぎた、との批判を受けるし、逆に価格が弱すぎると、無理な引受をした、とマーケットに足元を見られるので、需給関係やセールスからの引き合いの強弱を見極めて、適当な居心地の良いプライスレンジに誘導することが求められるので、結構神経をすり減らす(笑)。

ちなみに最近は、例えばスイス時間午前8時(=東京時間午後3時)にローンチがなされ、その後の条件決定は、スイス時間午後4時ごろ(=東京時間午後11時ごろ)になされることが多い。
この間の投資家への販売は、例えば当初転換価格がxx円ならいくら、○○円ならいくら、と言うような販売方法になる。
最終条件が全て決定されて、正式な販売がDONEされる。

この間、MPOは別として、通常のCBであれば一斉に貸し株探しが始まる。
貸し株市場の当該銘柄は急速にモノ不足となり、一気にレートが上昇する。
前に書いたように、この辺は大手機関投資家にアクセスがある所、または早々に手当てする所が勝利を収める。

翌日以降は、全ての条件が決定しているため、基本株価に基づいて理論価格やら何やらがきちんと算定されるので、基本大きなことがなければしばらくは理論通りにCBの値段は動く。
ローンチ当日の投資家需要は、当然のことながら当該銘柄のボラティリティー、借株の難易度、既存株式へのダイリューション、その他もろもろが各投資家の持つモデルなりにより厳密に計算された結果であるので、翌日の株価がそのダイリューションを嫌気されて下がっても、その辺はあまりCB値段にダイレクトに響いてくることは無い。
こうして一般的なCBは世の中に産声をあげるわけだ。

このような流れを知ることはあまり意味が無いかも知れないが、知らないより知っていた方が今後の興味の度合いも違ってくるだろうと思ったので、とりあえず書いたので、何かご質問があればどうか遠慮されずにコメント欄なりメールなりを頂きたいと思う。