地球の裏からまじめな話~頑張れ日本

地球の裏から日本頑張れ!の応援BLOGです。
証券関係の話題について、証券マンとしての意見を述べていきます

J-COM、その後

2005-12-14 06:39:23 | マスコミ、企業
さてJ-COMの続きである。
結局伝家の宝刀である「強制決済」を持ち出すことになった訳であるが、確かにこんなのは私が証券界に入ってからは聞いたことが無かった。随分昔にあったようだが、それにしてもこんな方法もありかよ・・と言うのが私の第一印象であるね。
だってこのような例外を設けることを何よりも嫌う東証である。しかしながらまあそれしか方法が無いわなぁ、何たって実在株数の40倍だしね・・・

一応拙日記からの読者の方も居ると思うので、もう一度簡単に今回の出来事を例えるならどのような事だったのかをここに書いておく。

例えるならサッカーの観戦券を考えてみる。
今回の券、合計15000枚が売り出されることになった。15000人しか収容できないスタジアムでの好カードなのだ。
(但しもっと正確に言うならば、そのうち12000枚は既に来賓用に取ってあり、実際普通のお客さんに売られるべき枚数は3000枚であった・・)
買えなかった人たちはそれを持っている人に「ねえねえお願いだから私にその券を売ってよ、買値より高い値段を払うから」なんてやり取りが始まった最中、ある売り場の売り子さんが間違えてなんと60万枚のチケットを売ってしまった訳だ。
それでなくても買いたい人がわんさか居る所に60万枚が一気に売り出されたらしい、との噂は一瞬にしてサッカー観戦券市場に出回った。
「何だよあんなにプレミアムが付いていたのに、実は60万枚もあるのならそんなのは当初の売り出し値段より安くても買わないなぁ」と言う人が一瞬続出、これが公開後ストップ安した、と言う事であるね。
ところが冷静に考えてみれば、あのスタジアムは確か15000人しか入れないジャン、と言う事に気付いた人間が居た。彼らはこれはあの売り場の売り子さんのミスだと瞬時に判断し、その誰もが見向きもしない値段で売られているチケットを買い漁った。
さてその売り場の売り子さん「あれ、これってあたしの間違いジャン、まずいすぐに取り消さないと!」と慌てふためき、この売り子さんがチケット販売の元締め会社にすぐに取り消しのインプットをしたが、なぜかそれが上手くインプットされなかった。
あせった売り場主任は「それじゃあ仕方がない、とりあえず今売っちゃったチケットを買い戻せるだけ買い戻せ!」との指示を出した。
結果50万枚くらいは何とか買い戻せたけれど、残り10万枚くらいは買い戻せなかった。。ああかわいそう・・

さて、このサッカーの試合日はチケット売り出し日を含めて4日後。売り出し日に買った人は代金を4日後までに指定口座に振り込んで、同時にチケットが4日後に送られてきて、その日に試合が開かれる。。ところが元々15000席しか無い場所で差し引き(つまり慌てて買い戻した50万枚を除いた)10万枚のチケットが売られちゃっている訳で、今更席数を増やせず、スタジアムを変更出来ず、それじゃあどうしましょうか、と言う事で、10万枚買った人達に、強制的に現金を、しかもみんなの買値よりも高い金額で振り込み直して、「チャラ」にしてもらった。。(強制決済)
その後結果的に差っ引いてみれば、結局その売り場には約1000枚のチケットが残って居ることになった・・
それじゃああらためてこの残った1000枚のチケットを明日にでも売り出しましょう、(この例では試合の翌日、ってことになってしまうが、まあ夜行われる試合の直前を明日、と捉えてくださいな)と言う事になったのが、言われている「立会外分売(たちあいがいぶんばい)」の事である。
実際15000席あるものの、本来12000席は既に来賓等で占められており、一般の観客用チケットは3000枚しかなくて、一旦ほとんどをチャラにしちゃったので、あらためてその1/3の1000枚を一斉に売り出したらパニックになっちゃうでしょう、と言う配慮での行為であるね。

と言うのが事の真相である。
分ったかなぁ?誰がみずほで誰が東証で誰が与謝野大臣から『美しくない』と言われた人達か。

さて明日の立会外分売の結果どうなるかは私より皆さんの方が早く知れるわけで、興味津々で見てみてくださいな、と。

今回の件で気になることが2つばかりある。
1つは、東証が何だかすごく弱気なこと。
ある記事の抜粋はこうだ。
『今回の証券事故に対するみずほ証や東証のかかわり度合いなどに基づき、みずほ側の損失を東証が一部負担するのかなどが焦点となる。
東証は当初、取り消しができなかったのは、みずほ証が入力方法を間違えたためとしていたが、東証のシステムの不具合が原因だったことが判明した。東証の鶴島琢夫社長は12日、報告に訪れた金融庁で記者団に対し「損害がみずほに出た場合、取引所のシステム障害との関係はどうなるのかの解明が今後の問題だ」と述べた。』

個人的には私は東証のシステム障害なんて物が本当にあったのかどうか疑問だと思っている。世間の風向きを考えた場合、一見みずほの単純なミスで本来は済みそうな気がするが、やはり発行済み株数を大幅に上回る注文を簡単に東証のシステムがアクセプトしてしまった事は看過出来ない事態であるのは事実だ。これが本当だとすれば、やはり世界的な信頼を東証は失いかねないシステムにて今まで運営して来たことになり、そうなると将来的な上場を視野に入れている東証も洒落にならない。
ゆえにここは耐え難きを耐え、忍び難きを忍んで、あえてシステム障害と言う大義名分を作り上げ、損失の一部を負担する方が、長い目で見た場合得策と考えたのではあるまいか。

実はこの「システム障害」、我々もたまに使う手なのですな。
大きなミスはもちろんそんなのでは済まないけれど、でもちょいとした事にはこのシステム障害を理由にする事がある。
かつて私がやっていた転換社債のマーケットメイク。ポジションがどっさりあるCBの株が例えば暴落しちゃった場合、果てどうしようか、とりあえずオープニングは「システム障害により弊社の取引開始を30分遅らせます」的なアナウンスを他社にしておいて、その間に方策を考える、なんてのはたまに使った奥の手だ。
何らかの理由によって、本日のお客さんの株の注文の約定連絡が遅れたとき、「すみません、ちょっとしたシステムトラブルがございまして・・・」

要はシステム障害ってのは外部には全く分らないのである。ゆえに何か起こればとりあえずそのせいで、と言うことにしてしまうと、結局外部の人は文句を言えない。百歩譲って我々がマーケットメイクでやってた「障害」なんてのは、実は相手も百も承知の助なのであるが、そうやって面タン切られちゃうと「嘘つけ!」とは言えないのである。何せ彼らに我々のシステム障害を確かめる術が無いのだから。


次に私が許せないのが与謝野のおっさんの発言。これは前述の拙日記にて吼えさせて頂いた。

ふたを開けてみれば(つまり5%ルール報告を見てみれば)、
『米モルガン・スタンレー証券が4522株(31.19%)、野村証券は1000株(6.9%)、日興コーディアルグループが3455株(23.83%)、リーマン・ブラザーズ証券は3150株(21.72%)取得していた。』
さらに今日のスイス時間の夕刻、私も正直噴出してしまったが、あのUBS証券なんて、なんと3万8千株あまりも保有していることが分った訳である。

先ほどの例で言うと、あるチケット売り場で間違って売ってしまった大半のチケットを実は他のチケット売り場の連中がどっさり買っていた、って訳であるね。
実はこのチケット売り場同士では日頃熾烈な販売競争があったとすれば、結局その売り場の単純ミスである、と言う嗅覚は誰よりも他のチケット売り場の連中の方が優れている訳であるから、連中がそのミスに付けこんで利益を上げようとしたわけである。

さてこの行為、本当に責められますか?

与謝野さんは、
『誤発注ということを認識しながら、他の証券会社がその間隙をぬって、顧客の注文を取り次ぐのではなく、自己売買部門で株を取得するということは、美しい話ではない、証券会社も経営者は行動の美学を持つべきだろう』
とのたまったそうで。

???????

確かに美しい、友情に溢れ愛情に溢れる話ではないわな。がしかし、そんなことを金融相が言っちゃうことが何よりも美しくないのだよ。
人命救助とは訳が違うんだよ、大臣。ここは言ってみればアフリカのサバンナなのですよ、大臣。
食うか食われるか、それしかない。それが資本主義でしょう。
証券マンだって普通の人達と同じような心は持っていますよ。持っていますけれどもこの話、誉められこそすれ、グチャグチャ言われる筋合いの話ではないのである。
弱いところ、いや弱みを見せればありんこだってライオンを食い尽くすのですな。

野生動物で恐いことの一つは、その動物が虫歯になることである、と言う話を聞いたことがある。仮にライオンが虫歯になってしまったら、もう肉は食えない、そうなると待っていることはただ一つ。
虫歯になったライオンは結局他のライオンに食われてしまう訳であるね。
ライオン歯磨・・・なんて冗談はさておいて。。

スポーツだってそうでしょう。
あのタイガーウッズのお父さん、彼がタイガーにゴルフを教えるとき、例えばタイガーがパットをする瞬間にわざと音を立てたりしていたそうだけど、それでミスしちゃうのはタイガーの責任なのだね。その程度の事でミスをするようなことが無いように、との訓練でしょう。

もっと言えば日本のマスコミだって、結局はあらの探しあいで食ってる訳でしょう。それを何故にこの問題に限って「行動の美学」が求められるのか?
もちろん尋常ではない金額の金が動いてしまっている訳だから、一般常識とはちょっとかけ離れているよね、って感じはするだろう。
この業界に身を置くに当たって新人の頃に飽きるほど教えられることがある。それは「自分の財布と仕事はきっちり分けて考えろ」って事だ。
つまり我々はそういう天文学的な金額に、全うな意識で触れる訓練を受けているのであるよ。

パラシュート部隊やら消防レンジャーの方々のやっていることが我々には考えられないように、或いはお医者さんが毎日真っ赤な血と対峙していることが小心者の私には理解できないように、普通の人から見ればこの問題は別世界でのお金が動いているように見える、よって与謝野さんは行動の美学うんたらかんたら、と言っているのであろうが、我々から見れば片腹痛いね。
だって業界の内側から見れば千載一遇のチャンスだったもん。
正直UBSの約4万株に関しては、ちょっとやりすぎちゃうの?って気がしたけれど、それでも私は「アッパレ!」と叫びたいね。

皆様が、何だか小鬼ってのは実は血も涙も無い冷血動物なんじゃねーの?とお思いになるだろうことも想像出来る。
しかしながら、僭越ではあるが、もし私のこの記事を読んでそう思われている方がデイトレとかをやられているのなら、それはすぐにお止めになった方が良いですよ、と言っておこう。
株ってのは貴殿が買った値段で必ず売った人が居るから売買が成立しているのですからね。その逆もまた真なり、ですからね、念のため。
その意図するところがお分かりになりますよね??