国語屋稼業の戯言

国語の記事、多数あり。国語屋を営むこと三〇余年。趣味記事(手品)多し。

【掌編小説】コーヒー牛乳

2021-07-06 09:31:00 | 小説・企画

 私はコーヒー牛乳が好きだ。これはたまたま引っ越した地方のコーヒー牛乳が美味だったせいだ。昔はイチゴ牛乳が好きだった。これを書けば長いが端的に言うと、赤羽駅のミルクスタンドで母親に買ってもらったイチゴ牛乳限定の話である。さて、200円なにがしかでこの美味なるコーヒー牛乳が1リットル(1000mlという表記はなんとかならぬものか)買えるのである。この地方へ来て数少ないの良きことであった。

 ここでコーヒー牛乳ごときを「数少ない良きこと」というのは大げさだと思う者もいるだろう。しかし、何事にも理由はある。ここへ引っ越してまもなく私は大病を患い、療養生活に入ったのだ。美味いコーヒー牛乳にありつける。その一事をもって幸運と言うべきなのであった。

 しかも、美味く飲む方法があることに気づいた。ペットボトルに移したコーヒー牛乳を横たわったまま飲むのである。

 起き上がって飲んでも美味しいコーヒー牛乳だが、横たわったまま、本来牛乳パックで売っているものをペットボトルで飲むと非日常の力だからだろうか。妻の手をわずらわせるものの、とてもうまい。横たわったままペットボトルで飲むというのはなかなかの技がいる。嘘だと思うなら、やりなさるといい。そういえば、幼少のころ親の目を盗んでお椀で牛乳を飲んでいたこともあったが、あれも美味かった。普段と違う容器で飲む。それだけで同じものでも味が変わるものではないか。高級グラスなど、中の飲み物を味わうというより、容器を味わっているに違いない。いや、そうに決まっている。

 ここで私は未来の出来事に愕然とする。しかも近い未来やもしれないことだ。横たわった飲む、ペットボトルのコーヒー牛乳を日常に感じてしまうときである。

 その時は容器を替えてガラス製の吸い飲みで飲むことになろうか。いや、それこそ、病人の日常ではないか。


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