国語屋稼業の戯言

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小論文問題と採点ポイントの例(というか雰囲気)

2018-09-16 09:55:30 | 国語
 以前、とある事情で作った問題です。諸事情で採点のポイントも粗いものになっています。
諸事情で中略したところも多いですが、高校生諸子は小論文の裏のイメージ(採点のポイントとか)を知っていただければ幸いです。なお、問題文の中略は実際の問題のものです。
 最近の小論文は自由に書けるものが減っていて、条件を満たせるかが増えています。客観的な採点ができるからですね。
 解答してから解説や採点のポイントを見ながらABCの三段階くらいで自己採点してみると良い練習になるでしょう。
 なお、生徒に解かせたい先生がぜひともご利用ください。そちらも望外の幸せってやつです。





次の文章を読んで後の問いに答えなさい。


 リスク社会のリスクに関して直ちに見出しうる、表層的な特徴をはっきりさせておかねばばらない。リスク社会のリスクには二つの顕著な特徴がある。第一に、予想され、危惧されているリスクは、しばしば、極めて大きく、破滅的な結果をもたらす。(中略)第二に、このようなリスクが生じうる確率は、一般に、非常に低いか、あるいは計算不能である。
                 大澤真幸『不可能性の時代』より


以下の要件を満たす400字~800字程度の小論文を書きなさい。
・ 上記の文章に合うリスクの具体例を書くこと。
・ そのリスクに対する対策はどのようなもの・ことがありますか、またはその対策の結果はどのようになるかについても論述しなさい。
※ なお、リスクの具体例が思いつかない場合は「温室効果ガスの排出問題」を使用すること。













【解説と採点のポイント】
 09年度の最多出題の大澤真幸『不可能性の時代』から出題をしました。
 本文の範囲から適当な例が思いつくことと、論理的な推測ができるかを試す内容になっています。知識不足の生徒さんのために「温室効果ガスの排出問題」というヒントもつけました。また、字数制限に幅を持たせることで、レベル及び時間の調整をはかったつもりです。採点のポイントは一応、つけておりますが、(中略)
 なお、参考文として(中略・参考文は本ブログではつけられません)また、解答例もつけましたので、双方とも採点などの参考にしていただければと思います。
 解答例は生徒さんに配布していただいてもかまいません。

●解答に想定されるリスクの具体例
・ 炭素排出による温暖化
・ 大規模なテロ
・ 新型インフルエンザなどの爆発的流行(パンデミック)

●解答に想定される対策の結果についての推測
・ 対策をしても意味がない可能性がある。(例)新型インフルエンザが発生しないかぎり、タミフルの備蓄に大した意味はない。
・ 前記は正しいことの根本(以下の参考文でいう「正義や真理の近似」など)が設定できないことを意味している。
・ 中庸や玉虫色の選択、折衷案に意味がない。(その場合、多数決が前提の民主主義はリスク対策を打ちにくい場合がある)
・ 対策が別のリスクを生む可能性がある。(例)タミフルの多用でタミフルの効かないウィルスが発生する可能性がある。
・   (中略)
●その他
・ 具体例が正しいことを論証(理由の説明を)していること。それは文中の二つの特徴を踏まえているはずである。
・ その二つのことを前提にするとリスク社会ではリスクを解決することが困難である、あるいはリスクがなくならないことが理解できている解答が望ましい。ちなみに本文のタイトルは『不可能性の時代』である。



【解答例】
 私はリスクの具体例として、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出問題がふさわしいと考える。なぜなら、その結果は自然の生態系全体に及び、人類だけでなく地球上の生物全般に大きなマイナスの影響を与えるとされているからだ。極端な説だと、人類を含め、全滅する生物種も多く出るとされている。これは本文の第一の特徴される「破滅的な結果をもたらす」ものとみなすことができるであろう。一方で、温室効果ガスによって、温暖化が進むという説に多くの異論も存在している。テレビなどでも紹介されているし、書籍にもあるようである。また、温暖化が進めば、植物が増え、結果として温室効果ガスは減り、元に戻るという説もある。さらに逆の立場として、地球は氷河期に向かっているので温室効果はむしろ好都合という説すらある。これは第二の特徴である「確率が非常に低いか、計算不能」ということになるであろう。
 このリスクを防ぐために多くの対策がなされている。炭素ガスの排出規制、(中略)、原子力発電の利用などの温室効果ガスを減らしていくという対策である。その結果、「エコ」という言葉は流行というより自明のことばになっている。
 しかし、温室効果ガスの対策は別のリスクを生みだしている面がある。炭素ガスの排出規制は消費の冷え込みを導き、(中略)厳しい財政状況の中で税収を減らしているのである。これは財政危機や経済危機というリスクを生むことになるだろう。特に原子力発電は明らかに先のリスクの定義にあてはまるものである。こう考えるとリスク対策は別のリスクを生みだすことになるようである。したがって、リスクは一つではなくなり増えていくので、リスクに覆われた「リスク社会」となるのである。




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