国語屋稼業の戯言

国語の記事、多数あり。国語屋を営むこと三〇余年。趣味記事(手品)多し。

注釈付自己推薦書の書き方

2022-10-25 11:02:47 | 国語

●自己推薦書などが苦手な生徒さんが多いので大学提出用の例を載せてみようと思う。中学生の方も少しは参考になるやもしれないと断言できなくはないとは言い切れない。





【課題】
自慢できることなど自己アピールしてください。たとえば、自分の性格について、学校生活で学んだり、体験したこと、現在の自分自身にとって関心の高い分野等について記述しながら、自己を推薦する文章にまとめてください。

(注)
●自慢するほどのことはないと考える高校生は多いのだろうなと推察できるほどのヒントの多い文章である。性格や学校生活を抽象化して自分の関心の高い分野にまとめると解釈できるね。アドミッションポリシー(入学者受け入れ方針)との対応にも注意しよう。


【解答例(でいいのか)】
 私の自慢できることをあげていくと、イベントをキーワードにして生きているということ(①)です。私は将来、イベントや観光について学び、それに関係する職業に就こうと考えているので、イベントは生涯のキーワードになるはずです。そのように、一つのキーワードを持って生きるというのは自慢できると思うのです。
 まず(②)、傷つくようなこと(③)があっても、そこから学び、成長してきました。ボランティアとして参加したイベントの子ども祭で子どもたちと触れ合ったことがあります。そのとき、「面白くねーよ」と言われたのです。練習をしたのに、さらに善意でしたのに言われてしまい、ショックでした。しかし、「ありがとう」を当然と思わずに、あったら、最高のご褒美で、なくてもボランティアはいろいろな経験ができる機会と思うようにしました。批判は成長の可能性のある証拠だとも考えました。なぜそう考えたかというと、同じように落ち込んだ後輩を励まそうと話したことがあったからです。それによって自分も気がつけました。人は人に話すことで、逆に自分で気がつくことがあると知りました。イベントのおかげで、私は前向きな人間になり、人に親身になり、後輩のために行動する人間になりました。
 次に、自分の経験の意味を自分の関心から捉えなおすことができます。学校の文化祭(⑤)で「千本桜」という曲をみんなが歌ったり、踊ったりしていることに気がつきました。ネット上で流行している曲で、ファミリーマートでもキャンペーンに用いられるほど、メジャーな存在だったようです。しかし、ネットの流行に疎い私には、クラスの半分が知っている曲であることに驚き、また、流行っているのに半分は知らないことにも驚きました。そこで、私はイベントの機能に気がつきました。参加するみんなが同じ経験をすることで知識を共有できるのです。さらに体育祭のクラスパフォーマンスの練習をしているときに、ダンスの練習をしたのですが、イベントは技能の向上になるとわかったのです。出雲などの遷宮というイベントにも、知識の共有、技術の向上などにつながっていることでしょう。
 さらに、イベントは仲間を増やす面があると知っています。私はあるアイドルのファン(⑥)なのですが、できるかぎりのコンサートに参加しました。すると、列車などの中で同じファンと目線を合わせただけで他人でなくなります。イベントは多種多様な人を集めるものもありますが、特定の人々を集めるものもあります。そのような特定の人々を集めるイベントも、他の地方から参加する人を友人にさせるような力があるのです。私はイベントのおかげで違う地方の友人がたくさんいます。
 そして、非日常であるイベントの背景には、日常も重要だと知っています。英語だけで過ごすイベント(⑦)に参加する際に、自分の日常の英語力が重要だとわかり、普段の英語の勉強に力を入れました。イベントを実行するために人は、日常の力がスタートになるのです。その意味でイベントは日常を向上させる原因になるのです。
 私はイベントに多くの可能性や力があることを知っています。その上で、その可能性や力で、過疎の〇〇の活性化のために、さらに他の地域の活性化のためになる方法(⑧)を探していこうと考えています。
 自分の実感で学んできたことを社会に活かそうとする。これが一番の自慢です(⑨)。




【注釈】

①出だしが実は志望理由書と内容が似ている。これは諸刃の剣で意外性がないという悪い面もあるし、一貫性があるという良い面もある。「生きているということ」は高校生としては強い文体であるところに個性があるかも。

②一つのキーワードだけで文章を書くのは大変であろう。しかし、多面的な見方を示す機会でもある。以下で「まず、次に。最後に」などの接続表現を活用して多面的にものが見られることを伝えることに成功している。

③マイナスのことを自己推薦で書く人は少ない。しかし、完璧な高校生を大学が求めていない以上、マイナスのこととのお付き合いをどうしたか(課題解決力のアピール)を書くのも相手は興味を持ってくれるはず。

④「ボランティア」にしても「後輩を励まそうとした」にしても、そこから自分が成長しているのが面白い。自己推薦のときに私、こんないいことができる人なんですアピールに後輩やボランティアを使う人がいるが、それによってどういう自分に気づけたか、どうなったかを書くと、問題発見力をアピールできる。

⑤学校の文化祭の話を聞くのが嫌だと告白している大学教授がいた。ほとんどは「はじめはまとまっていなかったクラスが最後は一つになれました♪」的な内容だそうな。以下の文を読んでどう君は感じたか。問題意識を持つきっかけに使われているのだ。しかも、ファミリーマートから出雲の遷宮にまで関連させる力の持ち主であることを示唆している。多くのことを関連させる力は偏差値がいい人間である以上に頭がいい人間である。ということは偏差値によらない入試=AO,推薦入試にふさわしいということだ。そのためには「知識の共有」などという抽象的な言葉を挟むといい。どんな抽象的な言葉を大学の人が好きかは、現代文や大学のHP(複数)の大学を見てみるといい。ちなみにいつ頃書かれた文章かわかってしまうな、これ。

⑥この文章を書いた人は全国大会出場などの目だった経歴のない生徒である。しかし、アイドルのファンであること自体を自分のアピールすべきことにもっていける生徒なのである。AO,推薦入試に向いている頭のよさをそろそろ理解できただろうか。これを読む君たちは、どう頭を使い、情報処理をすればいいのかを今回の記事から学ぶのである。自分に関係がない文章だと思った瞬間に才能はない。なぜって? 情報を結びつける力がないからである。

⑦実は国際的な人材を要求している大学なのである。その割には英語の話がないよねと指導中に言ってしまったのである。そこで足してきた情報がこれである。資格がなくても、何か書くといい。特にアドミッションポリシーに対応させるためには、何かネタを探すこと。

⑧キーワードは「イベント」だけだが、目の前だけでなく、「他の地域の活性化」までを考える幅広さを持っている。

⑨「一番の自慢」と書く勇気は君にはあるか。なければ、それを持つしかない。


※多少、日本語の乱れはあるが、一番大事なのは中身である。大学の先生(読者だ)に知的関心をもってもらう内容にすること。国語の先生に添削を頼むと日本語の乱れだけ気にする人がいる。むろん、少ないにこしたことはないのだけれど。

※これの志望理由書版も読みたい人っているんだろうか。

※この推薦書は某国公立大学(調べないでね)の合格者のものです。念のため。


↑上↑の記事に関連したものとしては
注釈式志望理由書の書き方


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 注釈式志望理由書の書き方 | トップ | 志望理由の書き方、自己推薦... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

国語」カテゴリの最新記事