こばさん

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10.15の奇跡(第5章)

2005-12-15 12:27:08 | 10.15の奇跡
王者の意地



せめてもの願い・・・9回裏が始まるときに心の中で思っていたのは、もう一度松中が見たい、ということ。打順は程遠い。最低でも5人塁に出さなくてはならない。そこにたどり着くためには、越えなくてはならないハードルがいくつもある。だが、このまま終わりにはしたくなかった。もう一度だけチャンスを与えたかった。そのチャンスをものにできれば、明日明後日へとつながる。もしそのチャンスをものにできなくても、もう一度松中を見られたら、あきらめもつく。心置きなく東京に戻れる。松中と心中なら思い残すことは何もない。そんな気がしていた。

9回裏のマウンドには小林雅英が上がった。今季パリーグのセーブ王。第1ステージからこれで5試合連続登板。俊介-薮田-小林のリレーは、1週間前と同じ光景だ。ただ今までと違うのは、これが優勝を決めるマウンドであったこと。そのことが、これから起こるドラマの要因の一つでもあった。

ホークスの先頭バッターはカブレラ。カブレラはこのプレーオフ、2本のホームランを放つなど、打てないホークス打線の中にあって川と二人、気を吐いていた。だから周りがよく見えていた。プレイボールがかかっても、バッターボックスで正対しない。バントをするようなジェスチャーを見せながら揺さぶりをかけ、1球、2球と見送る。2球ともボール。ストライクが入らない。小林は緊張していた。優勝を決めるこの場面、平常心ではいられない。カブレラは小林の心情を見透かしていたのだ。挑発するように、なおもカブレラは構えない。3球目でようやくストライク、4球目大きくはずれるボール、5球目ストライク。ツーストライクと逆に追い込まれたが、今のカブレラには1球あれば十分だった。6球目、ようやく構える。そして難なくセンター前に弾き返した。ノーアウト一塁。4回以来のノーアウトのランナー。突破口は開いた。後が続くのを祈った。あと6人。

続くバッターは、代打バティスタ。開幕から3番を任されてきたバティスタも、この日はスタメン落ち。その悔しさを晴らす絶好の機会だった。だが気負ったのか、結果はセカンドフライに。ワンアウト。早くも追い込まれた。ダブルプレーを取られれば、すべてが終わってしまう。あと5人。

代打攻勢二番手は、大道。南海時代からホークス一筋のベテラン。強くなったホークスも弱かったホークスも知る数少ない選手。一打席で答えを出す職人技は、誰にも真似できない。その彼が見せる、チームが追い込まれた中での打席。3球目、止めたバットにボールが当たった。ボテボテのゴロが三塁線に転がる。小林は素手で取って一塁へ送球。必死の大道はファーストベースにスライディング!あせった小林の悪送球もあり、一塁はセーフ、カブレラは三塁に達した。

気迫あふれるプレーだった。その熱さが見る者に伝わってくる。決して恰好良くはない。だがこの試合、今までのホークスにはなかった姿だ。いつしかそのひたむきさを忘れていた。きれいに行き過ぎていた。今チームに必要なものを、ベテランの大道が見せてくれた。それが若い選手たちに伝わっていく。強いチームとはそういうものだ。若手とベテランが互いにないものを出し合いながら、一つにまとまっていく。今のプレーは、大道だからこそチームに浸透する。観客に伝わる。球場はこの試合初めての盛り上がりを見せた。ワンアウト一三塁。あと4人。

大村は第1,2戦に続き、この試合でも先発から外されていた。前の打席三振に抑えられたが、力の入ったスイングを見せていた。この打席でも、2球のファウル、いい振りをしている。そしてツーツーからの5球目、一二塁間を抜けるヒット。当たりは良くないがとんだコースが良かった。気持ちの入ったスイングならこんなことも起こるのだ。カブレラが還って1点。一つ返した。第1戦の的場以来、久しぶりのタイムリー。なおもランナー一二塁。あと3人。いける!

かすかに光が見えてきた。しかしそんなとき、事件は起きた。長く尾を引きそうな事件だった。だが指揮官の冷静さが、我々を窮地から救った。恥ずべきなのは我々の方だった。世界一のその人物に、我々はまたも救われることになった。



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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
興奮してきちゃった(笑) (国王)
2005-12-17 00:55:23
こばさん、こんばんは!10.15の力作もついに第5章、運命の9回裏に突入ですね♪ホント、こばさんの力作には恐れ入ります。読んでいると、2ヶ月前にスタンドで感じた9回裏の興奮が蘇って、眠気が吹っ飛んでしまいましたよ(笑)

そういえば、1死1塁で大道がボテボテのゴロを打った瞬間はドキッとしたなぁ~。

でも、あの時の大道が見せたヘッドスライディングは「熱いなぁ~、この男」ってカンジが、ひしひしと伝わりましたね♪
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国王さんへ (こば)
2005-12-17 01:13:11
国王さん、こんばんは。

国王さんにそう言っていただけると、書き甲斐があります。ちょっとクドイ書き方になってしまっていますが。。でもあのとき自分が何を考えていたのかを振り返っていると、自然に言葉が出てきます。(涙も出てきます。。)

確かに大道の内野ゴロにはドキッとしました。ああ終わっちゃう~~って思ってしまいました。大道世代の僕としては、彼の頑張りは励みになります。
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Unknown (behoimi)
2005-12-17 19:04:44
TBありがとうございました。

自分は、カブレラの後バティスタがアウトになった時に、決まりかなぁ・・・。と思いましたが、大道が必死の走塁で流れを呼び込みましたね。



本当は、最後まで読み終えてからコメントしようと思っていたんですが、我慢できませんでした。

もうすぐクライマックスですが、頑張ってください。でも、終わってしまうのも少し残念です。(勝手な意見でスイマセン)
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behoimiさんへ (こば)
2005-12-18 00:57:29
コメントありがとうございます。

大道のスライディングは流れを変えてくれましたね。下手くそなスライディングでしたけど。。でも、何とかしなくてはという気持ちが伝わってきました。



そう言っていただけるとうれしいです。こんなブログでよければ、もう少しお付き合いください。
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