こばさん

更新は終了しました。

皆様に感謝

2005-12-27 00:11:26 | ノンセクション
人生時計をご存知ですか。

人の一生を24時間として、自分の年齢が何時に当たるのかを示すのが、人生時計。自分の年齢を3で割ると、その人の人生時計が測れます。

例えば6歳は、午前2時。その日一日を元気に過ごすためには、たっぷり睡眠を取っておくとき。
60歳は午後8時。夕食が終わり、寝るまでの間何をしようかと考えるとき。

僕の年齢は35歳10ヶ月。時刻はもうすぐ12時。最初の12時間が終わり、これからの12時間が始まる折り返し地点。

――――――――――――――――――――――――

今年は自分にとって、人生の折り返しにふさわしい一年でした。もちろん10.15を見られたこともありますし、プライベートな面でもいろいろと変化がありました。良い方向へと向かう変化でした。そして、このブログを通してたくさんの方と知り合うことができたのも、大きな財産です。

このブログの最初の記事は10月16日、10.15の観戦記になっています。ですが、読んでもらえば分かりますが、初めての記事にしては写真を入れたりと手際良く、それもあいさつもなしに唐突に始まっている感じです。

実はこのブログを始めたのは、7月からでした。いくつか記事を書き、コメントもいただいたのですが、10月15日の時点で1ヶ月以上放置している状態でした。やめようかとも思っていたのですが、あの試合を見て感動し、その感動をたくさんの人と分かち合いたくて、すぐに記事を書きました。そしてそれまでに書いた記事が、そのときの自分の心境にはふさわしくなかったため、すべて削除しました。新しく生まれ変わったブログになりました。

結果的にはそれで良かったと思います。おかげで多くの方に訪れてもらえるようになりましたし。ですが、それまでにコメントをいただいていた方には大変申し訳ないことをしました。せっかくいただいたコメントだったのに、悪いことをしたと思っています。ただ、今のブログを見れば、削除したことも理解してもらえるのではないかと思います。それに、そのときいただいたコメントは、ずっと忘れずに覚えています。一生忘れません。

上に書いた人生時計の話は、削除した記事の中の一番最後に書いていたものでした。そのときは自分にとってある重大な行動をとった直後でした。「再出発」という意味合いを込めて、そのときは書きました。それも一緒に削除してしまったのですが、そのときに自分が感じていたことも忘れてはいけないと思い、またこうして書いてみました。

このブログ、始めた頃は更新しても誰にも読んでもらえずコメントももらえずという状態でしたが、最近ではアクセス数も伸び、更新した日で300PV、更新しない日でも200PV、今までの最高が453PV・・・立派に成長したものです。まあ、上には上がいますから、まだまだなんですけどね。年が変わっても精進あるのみです。

仕事の関係で、年内の更新はこれが最後になります。次の更新は1月4日の予定です。皆さん、今年は本当にありがとうございました。来年もまたよろしくお願いします。

そして来年こそ、



この方を胴上げしましょう!!

それでは皆さん、よいお年を・・・



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10.15の奇跡(終章)

2005-12-25 12:06:31 | 10.15の奇跡
そして、来季へ・・・



10月17日プレーオフ第5戦、結局私たちは敗れ去りました。どちらが勝ってもおかしくなかった試合、たった1球が勝敗を分けました。「優勝を逃した」という結果だけを見れば、第3戦に敗れていても同じことでした。しかし私たちは劇的な勝利を収めました。敗北を2日先に延ばしました。だからこそ思うのです。この試合の持つ意味は何なのかと。

この試合最大のポイントは、9回裏ツーアウト二三塁、3対4、バッター松中の場面でした。松中と勝負するか、それとも歩かせるか。このときホークスファンの誰もが、松中が打つ姿を想像していたはずです。それゆえマリーンズが勝負を避けたときに、ブーイングを浴びせました。物を投げ入れました。復活を遂げるチャンスを得たのをふいにされたことに怒りをぶつけました。

しかしそんな中で一人冷静だったのが、松中本人でした。第7章でも書きましたが、投げ込まれた物を拾いに行くときの松中の顔が見えました。勝つか負けるか究極の場面で、本当に落ち着き払った表情をしていました。もし勝負していれば絶対に打っていたと今でも確信しています。

ですが、あのとき松中の胸の内にあったのは、全く別のことだったと思います。それは、次のバッターであるズレータに対する信頼です。自分のバットで結着をつける必要はない、チームが勝つために自分がとるべき道―それは歩くこと、必ずズレータが打ってくれる・・・おそらく、そんなことを考えていたのだと思います。そして自らは静かに歩きました。それが、その後の押し出しフォアボールを生みました。翌第4戦でも松中は、ズレータの逆転ホームランを呼び込むフォアボールを選んでいます。自分が打つのではなくつなぎに徹した、そのことが二つの勝利に結びつきました。

第1戦、第2戦、そしてこの第3戦8回まで、チームはバラバラでした。チャンスはつくってもタイムリーが出ない、ソロホームランでしか得点できない・・・しかしこの試合は、1本のホームランもなく、しかも主砲ではない選手がつないで得点を上げました。最後の最後で、チームは一つにまとまったのです。もしこの試合あのまま負けていれば、単に優勝を逃すだけでなく、来年につながるものは何もない状態でした。来年のシーズン1位そして優勝はなかったでしょう。しかし奇跡の勝利によって、失いかけていたチームの結束力を再び取り戻すことができたのです。

ファンにとっても同様です。8回裏が終了したとき、多くの罵声が飛びました。多くの人が席を立ちました。そのまま終わっていれば、ホークスは多くのファンを失っていたことでしょう。しかしあの勝利によって、このチームを信じようという気持ちに再びなれたのです。

上の写真、クレーム覚悟で使用しているのですが、これを見ればよく分かります。この日の勝利は、誰か一人の力によるものではありません。殊勲打を放った川を中心に、選手とファンが一つになってつかんだ勝利でした。

「絶対にあきらめない」―これは第4戦のヒーローインタビューでズレータが私たちに送ってくれたメッセージです。あきらめない、よく使う言葉です。しかし私たちは簡単にあきらめてしまいます。だからこそ、あきらめない気持ちを形で見せてくれたホークスというチームに、感謝するばかりです。

このシリーズを書いている最中に、仰木彬さんが亡くなられました。西鉄の3連敗からの4連勝、10.19、ブライアントの4連発、野茂、イチロー、神戸・・・仰木さんの命が尽きても、仰木さんの残した遺産は、今も、そしてこれからも永遠に生き続けます。生き続けさせることが、仰木さんから感動をもらった私たちの義務でもあります。

そしてこの10.15。私たちがホークスから贈られたもの、これをしっかりと受け継いでいかなくてはなりません。それが、あのときあの場で感動をもらった者の責務です。10.15― 一生忘れません。

最後になりましたが、このシリーズを読んでくださった皆さん、ありがとうございました。本当は2,3回で終わらせるつもりでしたが、つい力が入り、このような長編ものになってしまいました。冗長な箇所や個人的な感情に走りすぎている箇所がありましたことをお詫びいたします。また、コメントをくださった皆さん、本当にありがとうございました。書き続ける励みになりました。こんなブログでよろしければ、これからも御愛好ください。

この拙文が、10.15を皆さんの記憶に留めるきっかけになれば、幸いです。



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10.15の奇跡(第9章)

2005-12-23 02:44:00 | 10.15の奇跡
「ここで打たないと男じゃない」



大村、川と左バッターが続く場面、マリーンズは小野から左の藤田にスイッチ。投手交代の間、少し心のゆとりが持てた。あせる気持ちを押さえられた。だが、勢いを切るわけではない。一度つかんだ流れは、勢いは、もう我々のもとからこぼれ落ちたりはしない。

前打席タイムリーを打った大村、左対左など関係ない。勝負あるのみ。初球!狙い撃つ。痛烈なライナーがセンター前へ。しかし当たりが良すぎた。バティスタは三塁に止まる。ワンアウト一三塁。

チャンスがさらに広がった。打席に向かうは、川。今日もここまで2安打。期待が持てる。僕はありったけの声で叫んだ。「かわさきー!」。周りからも声が飛ぶ。「むねのりー」「むねりん!」。もうここで決めてほしい。ここしかない。サヨナラの期待を、この男に託す。

1球目、大村がスタート。川が打つ。一塁線に切れるファウル。ダブルプレー阻止のためか、得点には関係ない大村が走った。どこまでも貪欲に攻める。

2球目、またも大村が走る。今度は川は見送った。ストライク。キャッチャーは投げない。盗塁成功。ランナー二三塁と変わった。これで、心置きなくバッティングに集中できる。思い切り振れる。ツーストライク、だが追い込まれてはいない。一球入魂。

3球目、振り抜いた。バックネットへのファウル。大丈夫だ。タイミングは合っている。シンでとらえれば、必ずいける。

もう迷いはない。すべてはこの勝負のため。新垣と俊介の好投、ズレータのミス、西岡の足、福浦のダメ押し、小林の焦り、大道の気迫、松中の貫禄、奇跡の同点。そして、最後のとき。4球目・・・

川が打つ!その瞬間、球場が静まる。すべての目が打球の行方を追う。低い弾道が右方向に進む。その行先に、内野手はいない。抜けた!一二塁間を抜けた!サヨナラだ!一気に球場が爆発する。誰もが叫ぶ。拳を突き上げる。涙を流す。「やった!」「サヨナラだ!」球場が歓喜の声につつまれる。スタンドの上段でも最前列でも。一塁側でもライトスタンドでも、三塁側でもレフトスタンドでも。「勝った!」「勝った!」

選手がベンチから飛び出してくる。カブレラが、ズレータが、新垣が。川が破った一二塁間に、誰も彼もが集まった。的場も、柴原も、そして松中も。川がカブレラに抱きかかえられる。そして右手を高々と突き上げる。右手で作る1の数字。そうだ。王者は俺たちなんだ。最後に見せた意地、底力。俺たちは王者の誇りを守ったのだ。

抱き合った。泣き合った。選手もファンも、誰もが感動を分かち合った。声がかれるまで、涙がかれるまで、いつまででもこの感動を味わっていたかった。興奮が冷めやらない中、さらに興奮させてくれるサヨナラのヒーローがお立ち台に上がった。

―ホークスの優勝を信じる大勢のホークスファンの皆さん、お待たせしました。川宗則選手です。
「ありがとうございました」
―ナイスバッティングでした。
「ありがとうございました!」
―月並みではありますが、どんな思いであの打席入りましたか。
「いやもう、まさか同点になってこんなチャンスで回ってこれて、ほんと幸せだと思って、ここで打たないと男じゃないと思って・・・すみません」(そう言って目頭を押さえる)
―見事に男になりました
「はい、本当にうれしかったです」
―それにしましても、この大勢のお客さんの大きな歓声、打席の中で耳に届いていましたか
「そうですね。もうその声しか届いてなくて、そのファンの皆さんの声援がヒットにさせてくれました」
―9回の攻撃は、見事な追い上げでしたね
「そうですね、皆つないで、何とか最後意地を見せようということで、つないでつないで来てくれたんで、同点になってほんとに良かったし、皆の気持ちが球場一体になって、それがこういう最高のゲームになったと思います」
―まさにソフトバンクホークスの底力を見たような攻撃になりました。
「はい」
―今日はもう後がないという中で始まったゲームでした。どういう思いで、川さん、そしてチームは、今日のゲーム、プレーボールを迎えたのでしょう。
「もう開き直って、やるしかないということで、やっぱり向こうもプレッシャーがあるだろうし、こっちもやっぱり、すごくプレッシャーあったんですけど、同じ土俵に立ってるから、やらないことには分からないし、とにかくこっちは最後強い気持ちで、向こうより負けない気持ちで、試合に臨もうということで、それが良かったです」
―今日勝って、明日そしてあさって、あと2勝です。
「はい、今日の試合でいい流れが来たと思うんで、まず明日、もう一回集中して、勝って、最後に皆さんと一緒に優勝を分かち合えるように、まず明日もう一回気を引き締めてやりたいと思いますので、皆さん明日からも応援してください。今日はありがとうございました!」

皆の気持ちを川が代弁してくれた。そう、この勝利は、誰か一人の力でつかんだわけではない。選手と、監督・コーチと、スタッフと、そしてここにいるファンと、どこかで観ている聴いているファンとでつかみ取ったのだ。そして明日、また勝つ。明日も勝たなければ今日の勝利も意味がない。気持ちは明日へと向こうとしている。だがもう少し、もう少しだけ、この感動をかみ締めていたい。



見られるとは思わなかった。あのときには。本当に勝ったと実感できる瞬間だ。この花火がこれほど美しく見えたことはない。明日も試合がある。ここに来ることができる。夢はまだ終わらない。あきらめない。

来て良かった。本当に良かった。来なければ一生後悔していた。今ここにいることが、自分にとっての奇跡だ。今の僕なら何でもできる。新しい自分を始められる。生まれ変われる。人間は何でもできるということを教えてもらった。すべてを失いかけていた自分に、一からやり直す勇気を与えてくれた。明日からも生きていく希望をくれた。今日のことを、絶対一生忘れない。そして、明日またここに来る。今日とは違う何かが、また見つけられるはず。明日またここで新たな感動を得られる、そう期待しながら、僕は球場を後にした。



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10.15の奇跡(第8章)

2005-12-21 12:26:01 | 10.15の奇跡
マリーンズファンの声が消える。



9回裏の奇跡の余韻が、まだ球場内に残っている。だが思い出さなくてはならない。1年前のプレーオフ最終戦のことを。あの試合、9回裏に同点に追いつきながら10回表に簡単に得点を許し、涙をのんだ。優勝を逃した。あのときの悔しさは1年たっても忘れてはいない。あれから1年がたち、また同じような場面が巡ってきた。同じ過ちを繰り返してはならない。9回裏の奇跡を奇跡と呼ぶためには、絶対に抑えなくてはならない。絶対に勝たなければならない。

マウンドには引き続き三瀬が上がった。あの福浦の初球のインパクトが強いせいか調子が悪いような印象を持っていたが、冷静に見れば、それ以降はいいピッチングを見せていた。9回表を三人で抑えたのも、結果的には9回裏につながった。10回裏の攻撃につなげるためにも、ここも三人で抑えたい。

先頭は今江。「俺達の誇り」を熱唱したレストスタンドから声が飛ぶ。「今江!今江!」。同点に追いつかれても、いや同点に追いつかれたからこそ、マリーンズサポーターの声は一段と大きい。ひと時も声が途切れることがない。「かっとばせ、かっとばせ、今江!」。

しかし三瀬の技がそれを静めさせた。3球目を打たせて、セカンドゴロ。代走に出てこの回から守備についた鳥越が、ショートバウンドをがっちりつかむ。一塁へ送ってワンアウト。軽快だ。チーム全体が乗ってきた。

マリーンズベンチが動く。橋本に代えてピンチヒッター里崎。右の代打ということで、ホークスベンチも動いた。三番手は、馬原。延長が続く可能性もある中で、早くも守護神を使ってきた。何としても得点はやらないという指揮官の意気込みが見て取れる。

里崎は第1戦でホームランを打っている。1点勝負の延長戦、一発に注意しなくてはいけない。「里崎!里崎!」。馬原は力で押す。里崎もフルスイング。力と力の勝負。1球目ボールの後、2球目空振り、3球目見逃し、そして4球目空振り。三振に切って取った。その瞬間、ホークスファンの歓声が球場をつつむ。あとアウト一つ。

続くバッターは西岡。この試合、出塁した二回のうち二回とも得点に絡んでいる。このバッターだけは絶対に塁に出したくない。「かっとばせ西岡」。4球目、ライトポール際に大きなファウル。続く5球目はレフト側にファウル。粘りを見せる。6球目、馬原はうまくタイミングを外した。だが西岡は右手一本で打つ。飛びつく鳥越の左を抜ける。ライト前ヒット。またも出られた。そつのない、いい選手だ。

バッターボックスに堀が立つ。だがその前に、まず警戒しなくてはいけないのが西岡の足。「走れ走れ、西岡」。キャッチャーはこの回から領健に代わっている。今季1試合に出場しただけの新人。相手は盗塁王。勝負に挑む。初球、馬原が足を上げる。西岡がスタートを切る。領健が投げる。・・・間に合わない。盗塁成功。わきあがるレフトスタンド。ため息をつくホークスファン。

ツーアウトながらランナー二塁。レフトスタンドからマリーンズのチャンステーマが流れる。「マ・リ・ン・ズ・レッツゴー、幸一!」。ここで点を与えるわけにはいかない。我々の応援にも熱が入る。自然とおこる手拍子。それが球場全体に広がっていく。そして「馬原!馬原!」の大コール。3球目、4球目、1球ごとにその手拍子、その声は大きくなる。そして、マリーンズサポーターの声が聞こえなくなった。ホークスファンがかき消したのだ。圧倒的に上回る数の声が、球場を支配した。そして5球目、アウトコース、空振り!馬原がガッツポーズ。領健もガッツポーズ。ファンのすさまじい大歓声。チームとファン、すべてが一つになっている。一つになってこの回を抑えた。すべてがホークスに来ている。さあ行こう。ホークスの攻撃だ。

10回裏、マリーンズは小野をマウンドに送る。迎え撃つは、バティスタ。前回の打席の汚名返上の場面。初球は打つそぶりも見せずに見送ることが多いバティスタ。しかしここは1球目から積極果敢に打ちに出る。ファウル。いつにない姿勢だ。だがあせってはいない。ボールはしっかり見送る。ツーナッシングと追い込まれた後、ボールを3つ続けて選ぶ。よく見えている。フォアボールでも塁に出てやるという気持ち。1球ファウルをはさんで7球目、快心の当たりがレフト前に飛ぶ。出たぞ先頭バッター。ノーアウト一塁。

続く鳥越。狙いは一つしかない。皆が叫ぶ。「決めろ!」。決まった!ボールの勢いを殺したこれ以上ない絶妙なバント。バティスタを二塁に送る。ワンアウト二塁。いけるぞ。

チャンスは二回ある。その二回のうち一回でもものにできれば、「奇跡」が奇跡になる。伝説の目撃者になれる。なりたい!あと少し、あともう少し。望みを胸に膨らませながら、いよいよ試合はクライマックスを迎える。



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10.15の奇跡(第7章)

2005-12-19 00:17:18 | 10.15の奇跡
真の4番



松中信彦―レギュラーシーズン、打率.315、ホームラン46本、打点121、二冠王
松中信彦―プレーオフ、打率.000、ホームラン0本、打点0、12打席ノーヒット

二人の松中がいる。日本一の打撃力を持つバッターと、日本一打てない4番。一体どちらの松中が本物なのか。答えが出る時が来た。

ツーアウトランナー二三塁、マリーンズの選択肢は二つある。シーズン二冠王の松中を歩かせる。あるいは、プレーオフ絶不調の松中と勝負する。松中を選ぶか、次のズレータを選ぶか。どちらを選択すれば、あとアウト一つを取ることができるのか。優勝をつかむことができるのか。

我々の想いは、もちろん一つしかない。今まで打てなかったのは、このときのために取っておいたから。ここですべてを払拭できる。すべてが報われる。こんな場面でこそ、本来の力を発揮してくれる。打てないなんて思わない。同点、いや、逆転サヨナラのチャンス。もうここしかない。松中に復活の機会をくれ、何としても勝負してくれ、そう祈った。しかし・・・

キャッチャー橋本は座ろうとしない。立ち上がったままミットを構える。敬遠。マリーンズは松中との勝負を避けた。1球、2球と外す。球場内は怒号が飛び交う。だが、仕方がない。我々が知る松中が相手であれば、当然の策なのだから。あきらめるしかない、そう踏ん切るしかなかった。

小林が3球目を投げた。その瞬間のことだった。僕の斜め後ろからグラウンドに、トイレットペーパーが投げ込まれた。ホークスファンの怒りのメッセージだ。尾を引きながらマリーンズベンチ前に落ちたそれは、くるくると三塁線近くまで転がった。試合の進行には差し支えない存在だった。無視すれば無視できた。そっと誰かが取りに行けば、何の問題もなかった。

だが、松中がタイムをかけた。そして自らそれを拾いに行こうとした。二三歩進み出る。そして三塁側スタンドを見上げ、左手を上げてファンを制した。僕はそのとき、松中の目が見えた。その目は語っていた。「気持ちは分かる。だがここはズレータにまかせよう」。余裕のある目だった。落ち着きのある表情だった。この大一番で松中は、真の4番にしか持ち得ないオーラを放っていた。

試合終了後、あの場面で松中と勝負していたら結果はどうなっていたか、しきりに論じられた。僕は断言する。絶対に打っていた、と。あの目、あの顔、全身全霊が、グラウンドにいる選手の中で誰とも違う、特別な存在だった。松中だけの世界があった。その中では、誰も彼の相手にはなり得なかった。どのようなボールを投げようとも、必ずシンでとらえていた。今までの屈辱を晴らすその弾道は、野手の間を、あるいはスタンドのファンの間を切り裂いたに違いない。もう一度断言する。松中は絶対に打っていた。

松中は静かに歩いた。塁が埋まる。9回裏ツーアウト満塁。3対4。バッターはズレータ。我々の夢はズレータに託された。もう後はない。追いつくか、すべてが終わるか。我々はすべての願いを、このサムライに懸けた。

1球目、ボール!わきあがる歓声。僕の声は声にはならない。何を言っているのか、自分で分からない。

2球目、ボール!球場が揺れる。全身が震える。高鳴る鼓動を押さえられない。

3球目、ボール!もはや自分が自分ではない。あふれる涙を止められない。自分のすべてが、今この目の前のドラマに奪われる。あと一つ。あと一つ。

そして皆の想いをのせた運命の4球目。小林の指から離れる。橋本のミットにおさまる。ズレータは見送った。

ボール!!

フォアボール!押し出し!川が還る。同点!追いついた。ついに追いついた。4点差を追いついた。俺たちは奇跡を起こした。

球場内の至る所で、抱き合い、手を握り合い、お互いを褒めたたえ合った。知っている者知らない者、関係ない。皆が一つだ。皆が一つとなって奇跡を起こしたのだ。

感激にひたってばかりいられない。今度はサヨナラのチャンスだ。ここで決めてやる。だが同点に追いつかれて、小林は開き直った。力のあるボールを投げ込んでくる。そんなセーブ王には、もう太刀打ちできない。カブレラはショートゴロに打ち取られる。スリーアウト。同点でこの回を終えた。しかし球場は、選手への、自分自身への、我々が起こした奇跡への惜しみない拍手につつまれた。

スコアボードにともる「4」の数字。夢ではない。現実だ。本当に追いついたのだ。試合はまだ終わらない。終わらせない。王者の底力を見せつけるまで、終わらせられない。10回表が始まる。なおも試合が続く喜びを、誰とも知らないこの大勢の人たちとともに、誰もが噛み締めていた。



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10.15の奇跡(第6章)

2005-12-17 12:11:08 | 10.15の奇跡
唯一の汚点



王監督が就任して、今年で11年になる。この11年、いろいろなことがあった。勝てなかった就任当初、ファンの暴動、城島への鉄拳、99年の初優勝、ON対決、タイガースとの日本シリーズ、そして昨年のプレーオフ・・・こんなに強いチームになるとは思わなかった。10年前の弱かったホークスが、まるで冗談だったかのようだ。監督に就任したとき、エリートの王さんが負け癖のついたチームを生まれ変わらせてくれるとは、実は思ってはいなかった。

この11年で、真に「福岡のチーム」となった。おらが街の球団は誇りだ。福岡だからこそ強くなったのだと自負する。次第に強くなっていく姿は、自分自身とも照らし合わせる。だからこそ応援にも熱が入る。我々が地元球団を失う悔しさを味わうことは、もう二度とない。

ワンアウト一二塁。大道の代走となった鳥越が二塁に、タイムリーを打った大村が一塁に。そして打順は、川。このプレーオフ、ホークスのラッキーボーイ的存在だ。その初球、叩きつけた。ワンバウンドして大きく跳ねた打球は、サード今江の頭上を越える。レフト前ヒット。そのときである。ジャンプした今江と二塁走者の鳥越が接触。鳥越は三塁に止まったが、走塁妨害がとられた。ホームイン。1点追加。2対4。

それに対してバレンタインが抗議。間を置かずすぐにそれが認められた。球審が説明する。「走塁妨害だがホームまでは進塁できないと判断」。鳥越は三塁へ戻された。得点は認められない。球場内におこるホークスファンのブーイング。せっかくつかんだ1点を無にされたことに対する怒りの声。ライトスタンドからはグラウンドにメガホンが投げ込まれた。収拾がつかない。試合が一時中断される。ホークスベンチの動きによっては、このまま長時間中断されることも予期された。

しかしそんな中、王監督は冷静だった。判定が覆ったにもかかわらず、あえて抗議しない。審判のもとへ歩み出たが、代打荒金を告げるのみ。もうすでに次のバッターへと気持ちを切り替えていた。このとき試合の流れは完全にホークスに来ていた。何をやってもうまく行きそうな雰囲気があった。ついにつかんだこの流れを、抗議して時間を使うことで断ち切りたくなかったのだ。早く試合を再開させたい、それが王監督の考えだった。

我々もそうすべきだった。物を投げて試合を中断させるのは、自分で自分の首を絞めるのと同じことだ。ようやく築いたものを破壊する行為だ。グラウンドに物を投げても何も解決しない。自分のチームの誇りを汚してしまっている。我々はこんなことをするファンではないはずだ。我々は違うというところを見せなくてはならないのに、恥ずかしい。投げ込まれたメガホンをサブローが片付けている。申し訳ない気持ちだ。我々はまた反省すべき点を見つけた。

そのような間があった中で、僕の興奮も少し冷めていた。押せ押せのムードでいたのが、落ち着いてしまっていた。流れが変わらないかと心配した。ともかく数分の中断の後、ワンアウト満塁で試合再開となった。あと2人。

心配は杞憂だった。一度つかんだ流れはそう簡単には変わらない。2球目を荒金がセンター返し。快心の当たり。今度は文句なく鳥越がホームイン。続いて大村も還る。3対4。ついに1点差。試合の行方は本当に分からなくなった。ランナー一二塁。そしてあと1人だ。絶対に回せ!

続く宮地はファーストゴロ。ファーストのフランコは無理にダブルプレーを狙おうとしない。一塁ベースカバーに入った小林にトスする。助かった。その間にランナーはそれぞれ二三塁に進んだ。ツーアウト二三塁。そして・・・

来た!松中だ!本当に回ってきた。本当に回ってくるとは思ってなかった。よくここまでつないだ。よくあきらめかった。よく意地を見せてくれた。

このときには、僕の顔はもう人には見せられなくなっていた。ぬぐってもぬぐっても涙があふれ出た。人のいる中でこんなに泣いたことは今までなかった。不可能を可能にすることを、こんなにも強く感じたことはなかった。歓声と悲鳴がわきあがる中、球場内のボルテージは最高潮に達した。その中で一人、あふれる涙を押さえきれないでいた。



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仰木マジック

2005-12-16 01:32:04 | 野球好き
10.15を振り返っていますが、このことに触れないわけにはいきません。



前オリックス監督の仰木彬さん死去 (朝日新聞) - goo ニュース

思い出されるのは、何と言っても10.19。通常番組を中止しての中継に、一喜一憂した。10回表、羽田がダブルプレーに打ち取られ、優勝が消えた瞬間。崩れ落ちる選手・コーチ陣を尻目に、選手交代を告げるためベンチから出てきたときのさっそうとした姿、今でも目に焼きついている。男はあのようにありたいもの。

シーズン終了からまだ2ヶ月。野球人としての人生を全うされた。死ぬまで一つのものを追いかける生き方、これからの自分の人生の手本にしたい。

仰木さんからは多く感動と勇気をもらった。それを受け継いでいくことが、残された者の義務。

ご冥福をお祈りいたします。

10.15の奇跡(第5章)

2005-12-15 12:27:08 | 10.15の奇跡
王者の意地



せめてもの願い・・・9回裏が始まるときに心の中で思っていたのは、もう一度松中が見たい、ということ。打順は程遠い。最低でも5人塁に出さなくてはならない。そこにたどり着くためには、越えなくてはならないハードルがいくつもある。だが、このまま終わりにはしたくなかった。もう一度だけチャンスを与えたかった。そのチャンスをものにできれば、明日明後日へとつながる。もしそのチャンスをものにできなくても、もう一度松中を見られたら、あきらめもつく。心置きなく東京に戻れる。松中と心中なら思い残すことは何もない。そんな気がしていた。

9回裏のマウンドには小林雅英が上がった。今季パリーグのセーブ王。第1ステージからこれで5試合連続登板。俊介-薮田-小林のリレーは、1週間前と同じ光景だ。ただ今までと違うのは、これが優勝を決めるマウンドであったこと。そのことが、これから起こるドラマの要因の一つでもあった。

ホークスの先頭バッターはカブレラ。カブレラはこのプレーオフ、2本のホームランを放つなど、打てないホークス打線の中にあって川と二人、気を吐いていた。だから周りがよく見えていた。プレイボールがかかっても、バッターボックスで正対しない。バントをするようなジェスチャーを見せながら揺さぶりをかけ、1球、2球と見送る。2球ともボール。ストライクが入らない。小林は緊張していた。優勝を決めるこの場面、平常心ではいられない。カブレラは小林の心情を見透かしていたのだ。挑発するように、なおもカブレラは構えない。3球目でようやくストライク、4球目大きくはずれるボール、5球目ストライク。ツーストライクと逆に追い込まれたが、今のカブレラには1球あれば十分だった。6球目、ようやく構える。そして難なくセンター前に弾き返した。ノーアウト一塁。4回以来のノーアウトのランナー。突破口は開いた。後が続くのを祈った。あと6人。

続くバッターは、代打バティスタ。開幕から3番を任されてきたバティスタも、この日はスタメン落ち。その悔しさを晴らす絶好の機会だった。だが気負ったのか、結果はセカンドフライに。ワンアウト。早くも追い込まれた。ダブルプレーを取られれば、すべてが終わってしまう。あと5人。

代打攻勢二番手は、大道。南海時代からホークス一筋のベテラン。強くなったホークスも弱かったホークスも知る数少ない選手。一打席で答えを出す職人技は、誰にも真似できない。その彼が見せる、チームが追い込まれた中での打席。3球目、止めたバットにボールが当たった。ボテボテのゴロが三塁線に転がる。小林は素手で取って一塁へ送球。必死の大道はファーストベースにスライディング!あせった小林の悪送球もあり、一塁はセーフ、カブレラは三塁に達した。

気迫あふれるプレーだった。その熱さが見る者に伝わってくる。決して恰好良くはない。だがこの試合、今までのホークスにはなかった姿だ。いつしかそのひたむきさを忘れていた。きれいに行き過ぎていた。今チームに必要なものを、ベテランの大道が見せてくれた。それが若い選手たちに伝わっていく。強いチームとはそういうものだ。若手とベテランが互いにないものを出し合いながら、一つにまとまっていく。今のプレーは、大道だからこそチームに浸透する。観客に伝わる。球場はこの試合初めての盛り上がりを見せた。ワンアウト一三塁。あと4人。

大村は第1,2戦に続き、この試合でも先発から外されていた。前の打席三振に抑えられたが、力の入ったスイングを見せていた。この打席でも、2球のファウル、いい振りをしている。そしてツーツーからの5球目、一二塁間を抜けるヒット。当たりは良くないがとんだコースが良かった。気持ちの入ったスイングならこんなことも起こるのだ。カブレラが還って1点。一つ返した。第1戦の的場以来、久しぶりのタイムリー。なおもランナー一二塁。あと3人。いける!

かすかに光が見えてきた。しかしそんなとき、事件は起きた。長く尾を引きそうな事件だった。だが指揮官の冷静さが、我々を窮地から救った。恥ずべきなのは我々の方だった。世界一のその人物に、我々はまたも救われることになった。



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10.15の奇跡(第4章)

2005-12-13 00:26:28 | 10.15の奇跡
千葉の誇り



ちょうど1週間前の10月8日、僕は千葉マリンスタジアムにいた。プレーオフ第1ステージ第1戦を見るために。俊介と松坂の投げ合い、プレーボールホームラン、西岡の三連続ファインプレー、中継ぎ・抑えの踏んばり、実に見ごたえのある試合だった。

その日のマリンスタジアムは、白一色だった。レフトスタンドの一角を除いて、観客のほとんどがマリーンズサポーター。彼らにとってこのような大舞台は、おそらく初めてのことだろう。その喜びがスタジアム全体に広がっていた。だからその試合いきなりライオンズに先制されても、負けそうな雰囲気が全くなかった。1回から9回まで絶えず声援を送り続けた。それに選手も応えた。選手とファンが一体となってつかんだ勝利だった。

そして1週間後のこの日、その絆はより一層固く結ばれていた。レフトスタンドの一角にしかいないマリーンズサポーターの声は、マリーンズの選手の耳にははっきりと聞こえていた。力の限り声を出していた。いつものようにプレーしていた。この絆を断ち切ることは到底不可能なことのように思えた。

8回表、新垣が崩れた。先頭の橋本を三振にとったものの、西岡にはライト前に運ばれ、続く堀への3球目に盗塁を許し、堀にはフォアボール。ここでマウンドを三瀬に譲った。それでも、ここまで本当によく投げた。リードを許していても、ピンチを招いても、胸を張ってマウンドを降りることができる内容だった。

しかしその新垣の好投を、三瀬がわずか一球で崩壊させた。代わり端の初球を福浦に狙われた。ライト線へのツーベース。西岡が、堀が、手をたたきながらホームに還って来る。2点追加。これで4点差。ドーム全体に絶望感が漂った。あまりにも重すぎる4点。

それでもまだ一縷の望みをつなぐとすれば、8回裏、クリーンアップの攻撃。打順からすればこれが最後のチャンスだった。我々は想いのすべてをこのイニングに懸けた。3番宮地、2球目を打つ。力のないレフトフライ。4番松中、初球攻撃。これも平凡なレフトフライ。5番ズレータ、2球目を痛打。しかしこれも、レフトのベニーのグラブにおさまる。

もう終わった、と誰もが思った。途端に周りから罵声が飛んだ。

「お前らそれでもプロか」
「この1年何をやっていたんだ」
「もっと意地を見せろ」

そして誰からともなく席を立ち始めた。もうこれ以上見る必要はないとあきらめた。その流れは止まらなかった。2年続けて苦杯を嘗める姿を目の前で見る気にはなれなかった。

仕方のないことだった。反撃の機会をつくるはずが、わずか5球で終わってしまったのだから。今までの不調は、ここで一掃されるものだと確信していた。あのミスも、ここで帳消しにできると期待していた。それがこの結果。もはやこれ以上何かを望む方が無理だった。

9回表、三瀬は3人で抑えた。しかしマリーンズの優勝はすぐそこにあった。あとアウト3つで31年ぶりの優勝を手にすることができた。9回裏はバレンタインの胴上げのための回になるはずだった。

我々はこんなところから奇跡を起こしたのだ。何の期待も、希望も、可能性もないと思われた状況で、しかしその場を離れることができなかったただそれだけの理由で、これから目の前で起こる出来事に、歓喜し、涙し、感動を分かち合うことができたのである。こんな結末が待っているとは夢にも思わなかった。いや、夢には見ていた。いつの日かこんな試合を見てみたいといつも夢見ていた。ただそれが、今日この場で起こるとは思ってもみなかった。その夢がこれから果たされることを知らないまま、だが我々は今、奇跡への扉を開いた。



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10.15の奇跡(第3章)

2005-12-11 01:23:28 | 10.15の奇跡
王者の驕り



4回裏ホークスの攻撃は、5番ズレータから。松中同様ズレータも、プレーオフ初戦からここまで快音が聞かれない。8打席ノーヒット。この試合の第1打席では、一二塁のチャンスで真ん中高目を見逃し、三振に倒れた。第2戦終了後、不甲斐なさを感じたパナマのサムライは、自慢のドレッドヘアを切り落とし、坊主頭に丸めて今日の試合に臨んでいた。そこにズレータの意気込みが見て取れた。

結果はこの打席に出た。2球目をコンパクトに叩くと、右中間へ伸びる大きな当たり。好調なズレータが描く軌跡だ。あと数センチでホームランとなるフェンス直撃の長打コース。

ところがである。ズレータは全力疾走していなかった。打った瞬間ホームランと判断していたのだ。一塁手前でスタンドまで届かなかったことに気づき、慌てて加速した。クッションボールをうまく処理したサブローからすぐさま、セカンドベースに入った西岡へ送られる。ズレータは西岡のタッチをかいくぐって何とか二塁を陥れた。ぎりぎりで得た二塁打だった。

いつものホークスではない、王者らしからぬプレーだ。常に先の塁を狙うのがホークス野球の真髄だ。三塁まで行けたとは言わない。だがスタンディングダブルであれば、ホークスに勢いをつけられたはずだ。マリーンズに傾いている流れをホークスに引き寄せる絶好のチャンスだった。それが、危うくアウトになりそうな二塁打。これでは勢いなどつくはずもない。

続くカブレラは、簡単に打ち上げてセカンドフライ。ランナーを進めることさえできない。続く本間はレフト前に運ぶが、野手の真正面で、ホームに還って来ることができない。ランナー一三塁で、稲嶺はキャッチャーフライ、的場はライトフライ。またもチャンスを活かせなかった。我々ホークスファンは、天を見上げてため息をつくばかりだった。

少年野球の基本は何か。それはゴロを打つこと。ボールを転がせば内野ゴロであっても、打者をアウトにするには3つの動作が必要になる。内野手が捕球し、ファーストへ正確に投げ、ファーストがそれを捕球する。しかしフライを上げると、アウトに必要な動作は一つだけだ。ゴロを打てば、それだけセーフになる確率が高くなる。そんなことは小学生でも知っている。

プレーオフが終了した後、ホークスの敗因はプレーオフ制度そのものに問題があると多くの人が言った。1位のチームは試合日程が空いてしまうと。第1ステージから勝ち上がると勢いがつくと。しかし今目の前で起きているのは、そんなこと以前の話だ。できて当たり前のプレーさえできない。試合に臨む姿勢そのものが敗因だ。もしこの試合に敗れていれば、我々は敗れるべくして敗れていたのだ。

攻撃陣の不甲斐なさを尻目に、新垣のピッチングは光っていた。5回、6回を三者凡退に、7回は先頭打者を塁に出したが、見逃し三振と併殺打で切り抜けた。完璧だった。にもかかわらず、攻撃陣は奮起しない。チャンスすらつくれない。そんな予感さえない。全く覇気がない。我々は何度も天を仰ぐしかなかった。

新垣は本当によく投げていた。3回表を除けば申し分なかった。きっと反撃してくれるからそれまで辛抱してくれ、という想いでファンは見守っていた。しかしその新垣にも、限界は近づいていた。



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10.15の奇跡(第2章)

2005-12-09 01:22:28 | 10.15の奇跡
「一人で背負うな」



3回表の新垣。先頭のイ・スンヨプ、詰まらせた当たりだったがセンター前に落ち、マリーンズ初ヒット。この試合初めてランナーを背負うと、急にコントロールを乱し今江にノースリー。一つストライクを取ったものの、次のボールを左中間に運ばれる。ノーアウト一三塁。続く橋本をセカンドゴロに抑えたが、その間に三塁ランナーがホームイン。マリーンズが1点先取。――あっという間の先制だった。1,2回の好投で流れを手繰り寄せられそうな期待があったが、第1,2戦の勢いは簡単には止められなかった。

続く西岡には快心のセンター前ヒット。またも一三塁。一人打ち取って、三番福浦。5年連続3割。ここぞというときの集中力はさすがだ。一二塁間を破られ、追加点を許した。2点目。ホークスにこそ必要だった先取点をマリーンズに取られ、早くも2点のビハインド。たちまちドーム内に重苦しい空気がたちこめた。

この試合、ホークスは打線を組み替えてきた。それまでの2戦で上げた得点は4点。そのうちタイムリーは第1戦の的場の1本のみ。あとはすべてソロホームラン。全くつながりがない。しかもクリーンアップ3人で打ったヒットがわずかに1本。これでは勝てるはずがない。そこでその一角であるバティスタを外し、宮地を3番に。本間と稲嶺を先発に入れ、左を6人並べた俊介対策。

その中で序盤は、2番に入った柴原が目立つ働きをしていた。3回裏川が倒れた後に、2打席連続となるセンター前ヒット。ワンアウトとは言えチャンスをつくった。しかし続く宮地はセンターフライ。そして打席に入るのは、主砲松中。

この日の試合前、観客席を映すスクリーンに、あるファンの持つ横断幕が映し出されていた。

一人で背負うな信彦 俺たちがついている

昨年のプレーオフ、三冠王の松中は不振にあえいだ。サヨナラのチャンスを逃がした。人目をはばからず泣いた。その悔し涙は必ず次の年につながると、我々は見守った。

そして今年、二冠王の松中は、1,2戦が終わって8打席ノーヒット。第2戦最後のバッターとして臨んだあの打席でも、本来の松中ならスタンドまで届かせているはずだった。苦悩しているのは誰の目にも明らかだった。城島のいないチームで、一人で重荷を背負っていた。

しかし、我々の想いは一つだった。2連敗は松中ひとりの責任ではない。レギュラーシーズンを1位で通過できたのは、他ならない、松中のおかげだ。プレーオフを福岡ドームで開催することができ、皆が愛するこの福岡で、パリーグ最終決戦の興奮を味わうことができるだけでも、我々は幸せなのだ。その感謝の気持ちを松中に伝えたかった。それがあの横断幕に凝縮されていた。

我々は一番大きな声援で松中を迎えた。試合はまだ始まったばかり、簡単に追いつける点差だ。松中のバットが火を噴けば、あとは波に乗れる。・・・そう目論んでいた。しかし結果は、平凡なファーストゴロ。初ヒットはこの打席もおあずけとなった。それでも、まだ2打席チャンスがある、と気持ちを切り替えた。強引に。

4回の新垣は見事に立ち直った。先頭のフランコにはヒットを打たれたが、続く外国人二者を連続三振。そして今江をレフトフライに抑えた。3回に起きたことがまるで嘘のようだった。嘘であってほしかった。ほんの一瞬隙を見せたところを相手につかれてしまった。その一瞬の隙が、ホークス打線に重く圧し掛かっていた。



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10.15の奇跡(第1章)

2005-12-07 13:47:04 | 10.15の奇跡
静かに幕が上がる。



12:55博多駅着。到着してすぐに思ったこと―「一体ここまで何をしに来たのだろう」。持っていたチケットは、第3戦と第4戦。第4戦までに決着がつくと読んでいた。もちろんホークスの優勝で。それが2連敗で始まり、ホークスが優勝するには第5戦まで持ち込まなければならなくなった。しかし第5戦が行われる朝には東京に戻らなくてはならない。一番の目的だった王監督の胴上げが見られない。

目の前で王監督の胴上げを見たかった。あの世界一美しい胴上げを。そのためだけに、2試合分のチケットと2日間の連休を取っていた。しかし2連敗した時点で、その願いは叶わなくなってしまった。気持ちに張りがなくなった。福岡に行く意味がない気がした。旅費を使うのが無駄なように思えた。行くのを止めようとも思った。だがチケットを見ながら、せっかくだから行くことにしよう、と体を起こした。それでも着いた瞬間は、やはり来るべきではなかった、と感じていた。

どこへ行くともなく、博多を、天神をふらついた後、16:30福岡ドーム入り。あまり気持ちの入らないドーム着であったが、それでも地下鉄でドームに向かうというげんかつぎだけは忘れなかった(地下鉄利用=4戦全勝、バス利用=2敗1分)。ここに来るのは3月26日の開幕戦以来。ソフトバンクとしての記念すべき初戦。あのときは花火とループオープンショーも見られた。今回楽しみにできるのは、もうそれしかなかった。

三塁側内野席10列目。少し前過ぎる。もっと球場全体が見渡せる後ろの席の方が良かった。座席にさえ見放された。三塁側であっても、マリーンズファンはほとんど見当たらない。いるのはレフトスタンドのごく一部のみ。観客のほぼ全員がホークスファン。だが、勢いはマリーンズファンの方にあった。数えるほどしかいない黒軍団でも、いつものようにひとつとなって球場全体に響かせる声。オーバー・ザ・レインボーにのせて、18:00プレイボールの声がかかった。

ホークスの先発は新垣。9月24日ライオンズ戦での登板を見て以来。その日もそうだったが、味方が点を取れないときには抑え、味方が点を取り始めると相手に点を献上してしまう。一筋縄ではいかないピッチャー。あの試合も同じで、追加点を上げた直後に同点に追いつかれ、一時また引き離したものの、結局逆転サヨナラ負けを喫してしまった。あのときあの試合に勝っていればアドバンテージが得られていたものを、今となっては悔やんでも悔やみきれない。

先頭打者は西岡。先頭打者として迎えた西岡は、絶対に塁に出してはいけない。出せば必ずホームまで還ってくる。最も注意しなくてはいけないバッター。しかし今日の新垣は、最初の3球を見ただけでも調子の良いのが分かる。3球三振。続く堀も3球三振。福浦をセカンドゴロ。完璧な立ち上がり。

一方のマリーンズは渡辺俊介。言わずと知れたサブマリン。1週間前のプレーオフ第1ステージでも彼のピッチングを見た。プレーボールホームランを打たれ、直後にピンチを迎えたものの後続を断ち、その後も無難に抑えていた。この試合の初回も、ホークスが一二塁のチャンスを迎えたが、ズレータが見逃しの三振に終わり、チャンスの芽を摘まれた。

静かな幕開けだった。新垣は2回をいずれも三者凡退に、俊介はヒットを許すものの要所を締めた。このまま1点を争う投手戦になりそうな雰囲気があった。劇的な幕切れが訪れることになるとは、このときは誰も想像してはいなかった。



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10.15の奇跡(序章)

2005-12-05 01:56:57 | 10.15の奇跡
あの感動を、ずっと忘れない。



2005年10月15日、福岡Yahoo!JAPANドーム、福岡ソフトバンクホークス対千葉ロッテマリーンズ、プレーオフ第3戦、試合時間3時間48分、観客34,757人――僕はその中の一人でした。そしてあの試合は僕にとって、一生忘れることのできない試合になりました。ただのサヨナラゲームではなく、これから生きていくうえでの支えともなる試合でした。

最終回に4点差を追いつく試合はいくらでもありますが、あの試合が特別なのは、あとアウト3つで優勝を逃してしまう試合だったことにあります。しかもこの試合、9回表までホークスには全くいいところがなく、あっさりとマリーンズに優勝をさらわれてしまうところでした。それが、土壇場まで追いつめられてからの、奇跡の逆転劇。もしプレーオフを制し日本一にもなっていれば、今ごろあの試合は伝説として語り継がれたことになっていたはずです。しかし優勝を逃した今、あの試合のことを語る人はもう誰もいません。・・・それが残念でなりません。

あと0.5ゲームだけ差をつけることができなかったばかりに優勝を逃してしまった今年、あの試合の経験はきっと来年につながるはずです。何点離されていても絶対にあきらめない、逆に何点差をつけていても最後まで気を抜かない。当たり前のことなのですが、あの経験をしたからこそ、その重みが増しているはずです。

そのような「野球」としての意味合いはもちろんですが、僕個人のことを考えれば、自分の人生観にもつながるものでした。あの日の僕は精神的にはどん底の状態でした。しかしあの奇跡を見た後、胸に抱えていた苦しみから解放された気分でした(詳しくは試合直後に書いたこちらの記事をご覧ください)。幸い僕は第3戦と第4戦のテレビ中継を録画していたため、今でもあの興奮を味わうことができます。もう何度見たことか分かりません。ですが、今でも見る度に涙を流しています。また、次の試合でのズレータの「皆サン、明日ハ頑張リマス!」の言葉も、結局は敗れてしまいましたが、僕を奮い立たせてくれます。

そのような日々を送っているうちに、あの試合のことを語り継ぐことが、あのときあの場で感動をもらった者の責務だと思うようになりました。日本プロ野球史に刻まれることはなくなってしまいましたが、ホークスの歴史が続く限り、あの奇跡のことを風化させたくはありません。そのためにあの試合のことを、あのときに自分が見て感じ感動したことを、これから書き綴っていきたいと思います。あのときの感動を、どれだけ言葉にできるのか分かりません。稚拙な文章になってしまうかもしれません。それでも、まずは自分自身の記憶に一生留めるために書いていこうと思います。そしてこれから書く内容が、あの場にいなかった方に何かを感じ取ってもらえることになれば、幸いです。


追記:
たくさんの鷹ブロガーの方々、およびその他ファンの方々、および野球ファンではない方々にトラックバックをお送りさせていただきました。勝手ながら申し訳ありません。ですがあのときの感動を(一部の方には悔しさを)もう一度、たくさんの方と分かち合えたらと思います。コメントも残してもらえると、喜びます。


また追記です。:
12月6日に開かれた選手会のイベントLOVE BASEBALL FESTAで、この試合がベストゲームに選ばれたとのこと。やっぱり皆の記憶に残る試合だったんですね。



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ゆく人くる人

2005-12-03 01:59:32 | ホークス


ソフトBがバティスタ解雇 契約1年残し若返り図る (共同通信) - goo ニュース

案外早い決断で、少々驚き。5億払ってでもアンタはいらん、ということか。確かに金額からすればよく働いたとは言えないけれど、サヨナラヒットとかサヨナラホームランとか意外なところで活躍してくれたし、打率は低くても他の成績は他の選手に引けをとらない。まあ、そこそこに働く現役大リーガーより、未知数だけど新しい芽に期待をかけたいのだろう。

と言うことで、

ソフトBが松田と仮契約 1年目から勝負かける (共同通信) - goo ニュース




頑張れ!将来の4番!




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