ヒマジンの独白録(美術、読書、写真、ときには錯覚)

田舎オジサンの書くブログです。様々な分野で目に付いた事柄を書いていこうと思っています。

奇妙な小説を読んでみた。

2018年05月26日 18時31分31秒 | 読書
パトリック・ジュースキントという作家がいる。その人が書いたもので原題は「Das Parfum – Die Geschichte eines Mörders(独語)」と言い、邦題では「香水 ある人殺しの物語」と訳されている。
なにやら物騒で怪しげな本である。
「ユピテルとアンテイオペ」という絵画の一部をカバーの絵として使っているのが目に留まる。そして表紙と裏表紙の見開きには次のような絵があります。


これはどうやらどこかの町の地図を表しているらしい。表紙のカバーと言いこの地図と言い、装丁も中々しゃれている。

さて、本題のこの小説についてなのだが、奇妙な小説と言うのがまず第一印象であった。
香りや匂いについて書かれているのだが主人公の奇才な嗅覚が生み出す香水が人々の感覚を狂わせてゆくのが、この小説のテーマである。

香水などというものが人々の意識を変化させるなどという発想は普通には思いつかないだろう。作者の目の付け所が優れている。

一般には形や色についての言葉は洋の東西を問わず多くあるのだが、香りや匂いについてそれを説明するのは、中々難しい。
私たちはそれらを表す言葉を多くは持っていない。
なにかの香りを表すには、それと近い香りを持つものを使う事があります。
例えば「キンモクセイの香り」のようだとかだとか「バラの品種の香り」というようにしか表現できません。

しかし、このような表現は「キンモクセイ」や「バラの品種」を見たことも匂いを嗅いだことのある人々にだけ通用する言葉であることを考えると、それらの植物がない世界に住む人たちには、その香りを説明する事は不可能に近い。
それはなぜだろうかと考えてみた。

物には色や形があります。
ですからそれらを表すことは比較的容易に出来ます。例えばバスケットのボールを表すには直径が何センチかの球体状の物であるという事が出来るのです。

さて、バラの品種に「芳純」というものがあります。かってはこのバラは香水を作り出すために栽培されたこともあったようです。実際に化粧品メーカーの資生堂には「バラの香りシリーズ」の中で「芳純」という香水もありました。我が家の庭にもその種が植えられております。このバラは香りが柔らかいのが特徴で日本人が品種改良をしたものです。
しかし、この「芳純」の香りを言葉で正確に表すことは出来ません。

香料が匂うのは、その物体から発せられる気体によって人の嗅覚を刺激するからですが、その刺激は人により異なっています。
匂いの強さを測る器具もあるようですが、その器具は匂いの「強度」を測定できるだけであり、におい成分の分析は別の機械を使う事で可能になるとの事を何かで読んだことがあります。
匂いや香りにはそれを感じる人々の感覚により異なっている事が、まず考えられます。匂いの実体は目には見えません。

私たちは色を表すのには様々な言葉を使っています。例えば青色の一種である「ターコイズ・ブルー」や緑色の一種である「エメラルド・グリーン」などです。これはターコイズという鉱物(トルコ石)の色に似ている事からその青色を表しているのです。同じようにエメラルドの鉱物に似ている緑色を私たちは、そのように表すことが出来るのです。

一方、、匂いや香りを記述する語彙を私たちは多くを持っていない事に、気がつきます。
「甘い香り」や「どぶ川の腐ったような匂い」とかいう事がありますね。これはそのようにしかいう言葉がないので、そのように言葉で表現しているのですが、さてそれをもっと正確に言い伝えることは難しいのです。
香りや匂いを定義する言葉を私たちは持っていない事に気がつきます。
人間が持つ感覚の中でも嗅覚は視覚や聴覚、触覚に比べれば特異な感覚であるのかも知れません。










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